新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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 果たして新人ちゃんは生き延びる事が出来るか……。


プロローグ
一話 ナナシはエースパイロット


 

 青い閃光が、戦場となった市街地廃墟を駆け抜ける。

 向き合うは、立ち並ぶビルと同じ位巨大な人型ロボット『アーク』。

 

 蒼く塗られた装甲にツインアイを隠すよう覆いかぶさった赤いバイザー。

 手に持った強力なビームライフルとくれば、片方はネーゼ・地球連合軍の主力機体【フラット】に他ならない。

 

 対するのはイルーワ帝国軍。

 煤けた剥き出しの灰色ボディの丸い装甲、特徴的なモノアイ。

 そしてチャチな100mmフルオートマシンガンを持った帝国軍主力機【ジャッコ】である。

 

 フラットの有するビームライフルがその火力によってジャッコを爆散させていく。

 

 対するジャッコも数の有利を活かして弾幕を形成し抵抗する。

 一機のフラットが火線を集中され沈黙。

 他のフラットは戦場に乱立している崩れた高層ビルの後ろへと即座に逃げ込んだ。

 

『隊長! これじゃあ前に出れません!』

 

 悲痛な部下の叫びに連合軍小隊長マーカスは歯噛みして指示を返す。

 

『……今は耐えろ! 待つんだ!』

 

 性能の地球連合、数の帝国軍。

 戦況は全くの互角だった。

 

 故に彼は待ったのだ。救世主の到着を。

 しかして、それは現れる。

 

『こちらガゼル隊。これより支援行動を開始する……待たせたな、マーカス』 

「ようやく援軍が来たか! ったく、遅いんだよ────みんな聞け! やっとこさ援軍のお出ましだ! 攻勢を仕掛けるぞ!」

 

 連合に援軍が到着。

 特殊輸送ヘリから次々と戦場に降り立つ鋼の戦士達。その数は四。

 

 敵軍のジャッコが二十機と聞けば少なく感じるかもしれないが、ガゼル隊は少数精鋭による特殊遊撃部隊。

 この戦場において、この四機の精鋭の追加は……均衡を崩すのに十分過ぎた。

 

 ビームの火線が、次々と帝国軍を射抜き、爆散させていく。

 

 戦場に広がる阿鼻叫喚。

 ネーゼ・地球連合と、イルーワ帝国。

 

 同じ戦闘用人型巨大ロボット……【アーク】を開発していても、その差は明確だった。

 

 連合の倍近い数がいた帝国軍は次々と数を減らし、遂にはゼロとなる。戦場に残ったのは十機のフラット。連合の勝利である。

 

『片付いたようだな』

『らしい……ふう! 助かったぜ、ガゼル』

 

『それが仕事だ』

『相変わらずクールな奴……まあいい! 久々にこの後一杯どうだ? 今日も俺達に死神が訪れなかった幸運に、乾杯と洒落込もう』

 

『ああ、付き合おう────ッ!? 待て、レーダーに敵影!』

『数は────1機、だと……?』

 

 戦いの終わった戦場。

 そこにふらふらとやってきた一機のアーク。

 

 ぱっと見で帝国軍だと分かる飾り気のない安上がりのモノアイ。

 指揮官用アンテナさえ付いてないとくれば、何の変哲もないただのジャッコだ。

 

 そのコックピットに座っている少女は、呑気にあくびをしながら戦場を見渡す。

 

「ふわああ……ねむ……んー? あれ、なんかもう終わっちゃった感じ?」

 

 少女は鬱陶しそうに被っていたヘルメットを外して後ろに放り投げる。左に流れる様に結んだ腰まで届く銀色の髪が気怠げに揺れる。

 

「なんだよもー……スクランブルだって言うから来てやったのにさあ……全滅早すぎない?」

 

『おい、ナナシ! 聞こえるか!?』

「うっさ……」

 

 銀髪の少女、ナナシは顔をしかめて通信の音量を極小に設定した。

 

「はい、こちらナナシ」

『お前、さっきうるさいって言ったか?』

 

「言ってません、どうぞ」

『チッ……現場はどうなってる? 状況を報告しろ!』

 

「状況〜?」

 

 ナナシはチラリと横目で戦場を見渡しつつ、機体を右に滑らせた。

 メインカメラの横を、アラートもなしに飛んできたビームが掠める。

 

 同時に次々とジャッコのレーダーが敵機を捉える。

 ナナシは周囲に赤い点ばかり映し出すレーダーを一瞥すらせず、機体を動かした。

 

「あー……助ける予定だった味方は全滅してた。もう帰っていい?」

『全滅だと……!? 間に合わなかったのか……分かった。負傷者や要救護者がいないか探してくれ』

 

「えーめんどくさ……」

『いいからやれっ! クソガキっ!』

 

 再びビームが走る。先ほどまでナナシのいた場所に着弾し、アスファルトを溶解させた。

 

『なんだコイツ!? ビームを避けた!? っガゼル!』

『エースか……! 各機散開! 連携して挟み込むぞ!』

 

 それは異様な光景だった。

 十のフラットが、性能の劣るジャッコ……それもたった一機を囲み、火線を集中させている。

 

 ビーム兵器の威力は強力で、まともに当たればジャッコなど一撃で粉砕出来る。盾で受けてもこの数では焼け石に水だろう。

 

 そんな状態にも関わらず、そのジャッコは……平然と、反撃すらせず戦場を移動していた。スラスターを一瞬だけブーストさせて上下左右に踊るように、攻撃を躱している。

 

 敵に囲まれている事を気にしてすらいない。

 悠々自適、天衣無縫、唯我独尊。

 無人の野を行くが如く。

 

「生存者はいないっすね。みんな死んでるわ〜さすがジャッコ、動く棺桶!」

『言ってる場合かっ! もっとよく探せっ!』

 

「えー? ダル……じゃせめてその前に掃除させて」

『掃除だぁ?』

 

「うん、連合軍がね。さっきから鬱陶しい」

 

 ガゼルはライフルの照準を合わせながら、背中に薄ら寒いものが通り過ぎて行くのを感じていた。

 あまりにも不気味すぎるのだ。

 

(なんだコイツは……? 何故反撃してこない? それに……何故こうも攻撃を避けられる……!?)

 

 今だってそうだ。

 ガゼルが狙っているのは敵の背中。

 

 ジャッコのメインカメラでは絶対に捉えられない死角である。

 絶対の自信を持って引き金を引く。

 

『はあああ!!?? 敵がいるならもっと早く言えよっ!』

「いやうっさ……もう通信切っていい?」

 

『駄目に決まってるだろ!? てか大丈夫なのか!?』

「何が?」

『敵だよっ!? それ以外に何があんの!?』

 

「ああ、ヘーキヘーキ! たった十機だからさ」

『十機だとぉ!?』

 

 ビームの速さを考えれば、避けるのは不可能だ。

 しかし避ける。引き金を引こうとした瞬間にはもう回避していて、まるで当たり前の様に避けていくのだ。

 

(────遊ばれている?)

 

 いや、遊びにさえなっていない。

 もしコイツがその気になったら、俺達は全員───!

 

「ねえ、撃っていい?」

『いや寧ろ何でまだ撃ってないの!?』

 

「命令に無かったし……」

『変な所で律儀だな!? いや良いよ撃てよ! 撃って何とか活路を開け! ってか開こう!?』

 

 長く戦場の中で生きてきたエースパイロットとしての本能が警鐘を鳴らしている。

 寒気が極限に高まる。

 ガゼルはそれに突き動かされるまま、回線を開き、全員に叫ぶ。

 

『全機退けっ! コイツは危険だ───!?』

 

 しかし。

 それは遅かった。

 

「────りょーかーい」

 

 背中を向けていたジャッコが反転。無機質な赤いモノアイが妖しく輝く。

 ガゼルは即座に脱出レバーに手をかけ、躊躇わずに引いた。

 

 瞬間、ジャッコの握っていたマシンガンが火を吹き恐ろしい程正確な狙いでコックピットブロックにヒットする。

 

 衝撃でモニターがヒビ割れ配線が弾け飛び、ヘルメット越しにガゼルの顔に直撃した。

 そうなってからようやく、脱出レバーが効いて、コックピットブロックが機体から外れ後方に射出される。

 

 が、射出されてなお狙われているのか、衝撃が止まない。ガゼルは自分の死に場所はここなのかと本気で思った。

 

 しかし、天は彼を生かした。

 マーカスら残りのフラットが、ビームを乱射したのである。

 

 ナナシは側面から不意討ち気味に放たれたそれらをあっさりと避けながら左手でスモークグレネードを投下して射線を切る。

 

「あ〜……惜しい」

 

 エース用のカスタム機は装甲厚いんだよな〜……と彼女は無邪気に悔しがりながら煙の中リロードを済ませる。

 

 煙越しに撃たれるビームもスラスターすら吹かせずに回避して、お返しとばかりに引き金を引く。

 

 再び火の灯ったマシンガンが、綺麗にフラットのコックピットを射抜き、次々と三機、沈黙させられた。

 

『な、何で位置が分かるんだ!? 煙の中だぞ!?』

『特殊カスタムだろ!? 隠れろっ! 狙い撃ちにされるっ!』

 

 マーカスの指示に従い、フラット達は遮蔽に隠れる。

 勿論実際は特殊カスタムでも何でもない。

 

 ナナシに言わせてみれば煙越しだろうと何だろうと銃は当てるのが当たり前である。

 当てられないのであれば、それはソイツが下手なだけだ。

 

 何故敵の位置を理解しているか?

 そこに、大層な技術や理由なんてものはない。

 

 強いて言うのであればただの、勘、になるのだろう。

 

 さて隠れて安心しているフラット達だが、彼らはまだ理解出来ていなかった。

 戦場に安全な場所など無いという事を。

 

 突然、彼らの目の前で大爆発が起こる。

 一機のフラットが大破、二機は衝撃で中破する。

 

 やられた彼らは何が起こったのか全く分からなかっただろうが、正体はグレネードである。

 

 山なりに投げられたグレネードが的確なコントロールでもって遮蔽の裏に回り、一秒のロスすらなく爆発したのである。

 

 再びグレネードが投げられ、爆発。

 混乱しきったフラット二機が破壊。

 

 そしてその混乱に紛れ、ナナシはフラット達が遮蔽にしていた瓦礫の上に移動した。

 

「逃さないよ~」

『う、うわああああっ!?』

 

 撃ち下ろされるマシンガンによって次々に沈黙させられていく、連合の蒼い機体達。

 

 地獄の様な光景、部下達が織りなす阿鼻叫喚の中、マーカスは呆然と、目の前のジャッコに叫んだ。

 

 

『お、お前は……お前は、何なんだァッ!!?』

 

 マーカスは衝動のままビームソードを抜き放ち、近接格闘を仕掛ける。

 上段の振り下ろしはあっさりと躱された。

 

 ナナシは身を捻りながら腰部にマウントされた折り畳み式のチェーンソードを構え、スイッチを入れる。

 

 チュィィィイイイン……! と嫌な音を立てて起動した回転刃が、遠心力と共に容赦なくコックピットに叩きつけられた。ガリガリと削り取られる装甲。

 

『し……死神っ……うわぁあ!!?』

 

 それが、脱出したガゼルが通信で聞いた、マーカスの最期の言葉だった。

 

 

 

「よし、死んだね」

 

 コックピット半ば程に突き刺さったチェーンソードを抜き取り、ナナシは満足げに頷く。

 

『ナナシ! おい、無事か!? どうなった、おい!?』

「いやうっさ……こちらナナシ。無事、片付きましたどうぞ」

 

『そうか、逃げ切ったのか……よし、もういい帰ってこい』

「え? いいの? 生存者がどうとか……」

 

『馬鹿野郎! それで死んだら元も子も無いだろ!? もういいから帰ってこい!』

「まあ、それでいいならいいけどさ。んじゃ、帰りますどうぞー」

 

 ピッ、と通信をぶち消したナナシは、先程やり損ねたエース機の脱出した方角を見る。

 

「絶対アイツ殺っといた方がいいと思うんだけどな~」

 

 おっさんの考える事はよく分からん、とナナシはまた、呑気に欠伸をした。

 

 

 

 

●主人公

 銀髪蒼眼サイドテールの女の子。十三歳。

 名前は『ナナシ・モブ』。

 

 ある事件をきっかけに軍学校を一か月で卒業して前線配備。

 その際、敵機を七機撃墜し、新人にしてエースパイロットになる。

 

 ナナシが人の名前で悪いかっ! 私はモブだよっ!

 

●アーク / Ark

 この世界の巨大ロボットの事。

 元はコロニー建設用の作業機械だった。

 細かい作業をする為に人型のマニピュレータを持つ。

 コロニー発祥の帝国軍が地球との統一戦争時、軍用に改造した事で兵器として使われ始めた。

 

●ジャッコ / JACK-o

 帝国軍の主力アーク。

 大量生産の粗悪品であり、一般兵の物はカラーリングさえされていない。

 鈍重な性能と貧弱な武装。主流のビーム兵器は一切持たない。

 動く棺桶の異名を持ち、乗る兵士はほぼ間違いなく死ぬ。つまり、帝国軍パイロットの七割は雑多に死ぬ運命にある。

 

 相手がジャッコなら、人間じゃないんだ!

 

●フラット / FLAT

 地球連合の主力アーク。

 強力なビーム兵器に質の良いジェネレーター。

 ジャッコのマシンガンでは余程集中砲火を受けなければ落とされない装甲と、総じて優秀な性能を誇る良機体。

 ナナシがあっさり落としていたのは驚異的なリコイルコントロールでマシンガンの反動を打ち消し、コックピット前面だけ綺麗に打ち抜いたから。

 他のジャッコが真似しても、弾が散らばって倒せないだろう。

 




 とりあえずストックが尽きるまで週一くらいで投げる予定。
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