新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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 今回は格納庫に向かって走ったメリッサさんの話。
 お昼にもう一本あげます。



十二話 キャニオンVSアンジー

 

 これはまだナナシとベルが戦闘をする前の話────。

 

 メリッサは研究所の通路をひた走り、格納庫へと急ぐ。そこには現在、彼女がテストパイロットをしていて、連合軍が受領する予定である新しい量産型アークの試作機があった。

 

 格納庫についたメリッサは、置かれていたヘルメットを走りながら乱雑に手に取り、一目散に機体に乗り込む。

 

 その機体は両肩から背中にかけて大きなキャノン砲が付いており、いかにも中距離砲撃型、といった様子だった。

 

 オレンジ色の装甲に、連合独自規格のツインアイ。四角い頭部の右側には一本無機質なアンテナが生えており、指揮官用にアセンブルされている。

 

 名を、【キャニオン】と言う。

 

「たくっ……どこの馬鹿か知んないけど……! ハッチ開けなぁ! アタシだ、キャニオンで出るよ!」

 

『メリッサ、聞こえる?』

「え、所長?」

 

 聞こえてきた声は管制官のものではなく、研究所の所長、ティアナ・アルグレイのものだった。

 

「何でそっちに所長が……」

『管制官は既に退避済みさ。私はキミを待っていたんだ』

 

「待ってた? アタシを?」

 

『ああ。これから我々は────ヴェセルを動かそうと思う』

「っ!? おいおい、いきなり何の話だ? アタシは」

 

『知ってるよね? 今更隠さなくていい、キミが嗅ぎ回ってたのは分かってるしだから敢えて流してた情報もある』

 

 ヴェセル、というのはこの研究所でCと並びトップシークレットとなっているものだ。メリッサは怠惰なスパイを演じつつ、その裏でしっかりと情報を探ってはいた。

 

 なのでヴェセルの名前も知っているし、それがどんなものかも分かってる。だからこそ、彼女は驚いた。

 

 別にその情報が『敢えて掴まされたもの』だったからじゃない。ヴェセルを動かすという事は即ち────。

 

「あんた、このコロニーを捨てるつもり……!?」

『私は、打てる手を打つだけさ。キミはどうする?』

 

「ふん、アタシはあんた程割り切っちゃいないんだよ……! キャニオンを表に出しな。時間くらいは稼いでやるよ、所長」

 

『協力に感謝する、メリッサ・ドーラント少尉』

 

 機体上部、天井のハッチが開放され、足場のリフトが上がっていく。メリッサは慣れた手つきで髪をまとめてヘルメットを被った。リフトが上がり切るとそこは地上。コロニーの内部である。

 

「まじかよ……!」

 

 空では、地面が燃えていた。

 

 円筒系であるコロニーは空に地面がある事も不思議じゃないのだが、そうやって遠くに見える街のあちこちから火の手が上がっているのは、中々に、堪えるものがあった。

 

 街を破壊しているのは、宙に浮いたジャッコ。

 肩のミサイルで、あるいは腕のバズーカで。

 吹き飛んでいく住宅地。子供を抱えて逃げる母親は、爆発に巻き込まれて死んだ。

 

 燃えている高層ビルの中には、まだ沢山人がいる様だ。煙から逃げようと無謀な落下した男性は、ピクリとも動かなくなる。

 

 別のビルは、完全に崩れてしまっている。

 瓦礫に潰されているスーツ姿の男性は、足と血だけを地面に残している。

 

 右を向いても、左を向いても、上も、下も、前も。

 どこを向いても、人が死んでいた。

 

「お前らっ……ふざけんじゃねえええ!!」

 

 メリッサは怒りのまま、アクセルを踏み込み一機のジャッコに突撃する。コロニーの中なので折角のキャノン砲も使えない。接近戦しかないのだ。

 

 爆撃に夢中になっていたジャッコは、敵の存在に気付くのに僅かに遅れた。それは致命的な差だった。少なくとも、パイロットの命を左右する程度には。

 

 キャニオンのビームソードは、ジャッコを一撃で切り飛ばし、あっさりとパイロットを葬った。

 

 仲間が死んだ事に、他の帝国兵達はすぐに気付いた。そばにいた三機のジャッコがこっちに向かってバズーカやミサイルを撃ってくる。

 

「うおおおおっ!」

 

 迫るバズーカ砲を気合で避けたメリッサだったが、ミサイルによる弾幕までは回避しきれない。だから敢えて避けようとはせず、そのまま突っ込んだ。

 

 下手に動き回るより、そちらの方が被害が少ないと踏んだのだ。

 

 腕のビームシールド発生装置から盾を生み出してミサイルの雨に突入し、ジャッコに接近。

 そのまま一機を堕とす。

 

「おらぁ! このまま全員やってやるよっ! 死にたい奴から前に出なっ!」

 

 残った二機は、こちらの出方を伺う様にバズーカを向けていたが、やがて背中を向けて逃走を図った。

 

「な!? おいコラ待て! 逃げんな!」

 

 慌てて追いかけようとするメリッサ。

 しかし、その瞬間。レーダーが高速で接近する機体を感知し、警告音を発する。

 

「何だぁ!?」

『二機もの撃墜……高くつくぞ! 警備兵!』

 

 メリッサは咄嗟に機体を捻り、飛来するビームライフルの一撃を回避する。やってきたのは黒と赤のカラーリングをした一つ目の機体で大剣を背中に背負っている。

 

「なっ……アンジーだと!?」

 

 データだけだが、メリッサはその機体を知っていた。アンジー……帝国の誇る絶対的エースの象徴。こうして直接見ることになるとは夢にも思っていなかった。

 

「クソッ何でこんな奴がここにいんだよ!?」

 

 最早躊躇してられる敵ではなくなった。

 メリッサはすぐにライフルの銃口をアンジーに向けビームを放つ。

 

 アンジーは素早く左右に動いて攻撃を避ける。すぐに反撃が飛んできた。メリッサはたまらず後退。下に降りて建物を盾にしつつ、上手く逃げていく。

 

 とはいえ、機動力では負けている。いずれは追いつかれてしまう。それにあまり敵にばかり撃たせると、コロニーのダメージが無駄に蓄積していく……。

 

「無遠慮にバカスカ撃ちやがって……!」

 

 早いとこ勝負を決めるしかねえ!

 

 そう考えたメリッサは背中に下ろしていたキャノンを肩に移動して発射準備を済ませる。

 

 威力は50パーセント程度に落とした。それがコロニー内で使えるギリギリの威力と彼女は判断した。

 

(それでも当てりゃあ一撃で持ってける筈だっ!)

 

 反転してバック走行。空に狙いを取りつつ、意を決して建物の影から飛び込む。

 

「食らえ────!?」

 

 画面一杯に広がる一つ目。

 肩のキャノン砲は虚しくも外れ、コロニーの外壁に当たる。

 

 少し目を離した隙に急速接近されていたのだ。

 懐に入られ、絶体絶命。アンジーが大剣を振るう。

 メリッサは何とか初撃で死ぬ事は免れた。しかしビームソードを持つ手を切り飛ばされる。

 

 崩されながらもライフルで応戦。しかし敵は冷静に攻撃を回避。切り上げにより足が飛ばされる。

 

 いよいよ立てなくなったキャニオンは地に崩れる。

 再びライフルを構えるも、敵の方が早く、あっさりと壊された。最早対抗手段なし。死を待つのみである。

 

「やられるっ!? お兄ちゃん────!」

 

 メリッサは恐怖から目を瞑った。

 アンジーの目が赤く光る。大剣を、振り上げた。

 

『ドッグマン中尉! 応答して下さいっ!』

『っどうした!?』

 

『すくに宇宙に出て下さい! そちらに敵のエースがいて……!』

『エース……!? 分かった、すぐに向かう!』

 

 リカルドはボロボロになった相手のアークを改めて見つめた。最早肩のキャノン砲以外にまともな武器さえないその機体に戦闘が出来るようにも思えなかった。

 

『職務を全うしただけの警備兵……か』

 

 アンジーの振り下ろした大剣は、コックピット……ではなく、肩のキャノン砲を切り飛ばす。

 

『これでもう戦えないだろ……運が良ければ、生き残れるかもな』

 

 アンジーはすぐに宙に浮かび、飛び去る。

 飛び去ってから数秒が経ち、ようやくメリッサは状況を把握して息を吸った。胸を押さえ荒れ狂う心臓の鼓動を抑えつける。

 

「た、助かった……? う、ううう……ううぅ〜っ!!」

 

 安堵とか、悔しさとか、情けなさとか、怒りとか、よく分からない感情でメリッサの頭の中は一杯だった。彼女は狭いコックピットの中で、ただひたすらに泣いた。

 

 

 

 一方、飛び去ったリカルドは出口を探しながら思考をまとめていた。

 

(既に殆ど全滅させたとはいえ……守備隊の動きがやけに早い。計画が漏れていたのか?)

 

 それにエース、というのは一体どういう事だろう?

 たかだか一コロニーの守備隊風情にそんな強力なアーク、ましてや兵士がいるとは到底思えないが……?

 

『ドッグマン中尉、ここにいたか!』

 

 通信が入り、思考に沈んでいたリカルドの意識が急浮上する。通信は目の前にいる二機のジャッコが飛ばしているらしい。チカチカと点滅するモノアイが、通信中である旨を告げている。

 

「その声は、バーニス大尉?」

『ああ、その様子だと中尉もあのクソガキを助けに行くんだな』

 

「クソガキ……そうか、今エースと戦っているのは曹長だったか」

『リサから通信が入ってな。俺とボブも向かう所だ。こっちにデケェ穴が空いてる……そこから出るのが一番早いハズだ』

 

「では急ぎましょう!」

 

 そうして三機は連れ立って飛び、コロニーに空いた穴から、宇宙空間へと飛び出した。

 

 

 

●キャニオン(指揮官用試作機) / CANYON

 両肩のキャノン砲が特徴的なアーク。

 なお使わない時は背中にマウントされている。

 四角い頭部にオレンジ色の装甲。

 

 連合軍の新しい量産機として技研が委託開発していた。コンセプトの分かりやすい中距離砲撃機。ビーム兵器の火力を活かして敵が接近する前に沈める。

 

 ジェネレーター出力がフラットよりも高いが、エナジーを火力に回しており、機動性は低め。とはいえ最低限は確保されており別に遅い訳じゃない。

 

 このテスト機は指揮官用にアセンブルされており、レーダー性能や通信性能が他の量産機より高い。

 

 次世代の防御機構として腕にビームシールド発生装置が付いている。

 

 マニピュレータは他のフラットと同じなので、色んな武装が持てる。但しバックパックはキャノン砲が邪魔して使えないので、カスタマイズ性はフラットに劣る。

 

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