新人です。エースパイロットやってます。 作:今井亜美(ハーメルンのすがた)
ロボアニメの上層部はね……真っ黒って相場が決まってるんだよ。
「ナ、ナナシちゃーん? そ、そろそろほどいて欲しいなー、なんて……」
新人です。
私は今、怒っています。
帰還して早々、ブリッジに乗り込みデカパイを自室まで拉致して来ました。そのまま簀巻きにして床に転がし、色々お仕置きをしたけど、それも飽きてきたので絶賛放置プレイ中です。
このバカのせいでこっちは死にかけたんだからある種当たり前、自業自得です。
「え……死にかけた? ナナシちゃんが?」
「あのポンコツが変な挙動するから攻撃食らうし、散々な目に遭った。幾ら安全を考慮した結果だっていっても脱出レバーまでロックするとかどうなってるの?」
「え脱出レバーがロック……? そんな機能私は────っ!?」
突然何かに気付いた様に目を丸くしてデカパイが驚く。その顔からはサッと血の気が引き、真っ青になったデカパイは顔を伏せて押し黙った。いつも能天気なこのバカにしては珍しい仕草だな。
「うっ……ううっ……グスッ……!」
ゲッ!? コイツ泣き始めた!?
汚えぞこのクソ野郎! お前が泣いてるとこっちがイジメてるみたいじゃん! サイテーだよサイテー! 泣けば被害者になって全部許されると思ってよぉ!
「ご……ごめん……なさ……い……」
「…………」
……ムカつく。
直感で分かってしまう。このバカは嘘をついてない。自分が悪い事をしたんだと理解して、真摯に謝っている。それが分かってしまうから、これ以上怒る気になれない……だからこそムカつく!
「っ〜!! とりあえずあのポンコツはすぐにデリートしろっ! あんなのともう二度と一緒に出撃したくないっ!」
「ごめん……で、出来ない……」
「はぁ!?」
「上から言われてるから……外せない……」
「上って……上層部から?」
なんか……一気に話が変わってきたな。
あのAIはデカパイが作って載せたものって話じゃなかったっけ?
「わ、私……アイリスが完成した時嬉しくて……これでやっと役に立てるって思って……すぐに上にデータを送ったの……そしたら、データが欲しいからナナシちゃんの機体に乗せるようにって指令と一緒に返ってきて……私、やっと自分が認められた様な気がして嬉しくって……そのまま、ナナシちゃんの機体にインストールしちゃった……」
……嘘はついてないな。
ということは、あのポンコツを付けたのは上層部からの指示ありきって事か。だから艦長もあんなポンコツを載せるのにすぐ許可を出したと。
データを向こうに送ってるなら、そっちで色々手を加えられた可能性もある。デカパイの反応をみるに機体のロックは意図してない動作っぽいな。って事は私が死にかけたのは向こうのエンジニアがバカだったからか……?
「ア、アイリスを外すのは命令だから出来ない……けど。アイリスの補助設定をオフにするのは出来る……と思う。それでも学習用データは取れるから……それで何とか話をつけてみる」
「オフにすれば、勝手に機体が動いたり機能がロックされたりしなくなるの?」
コクリ、と鼻水垂らしたデカパイが頷く。
……あのポンコツはムカつく、けど。
これ以上邪魔されずに済むのなら、まあそれで許してやらん事も……。
「ごめんね……ナナシちゃん。私のせいで……」
「……もういい、めんどいし」
次の停留地についたらポテチを奢れ。とりあえず、それでチャラにしてやるから。
「……違うの………………ごめんね」
デカパイが最後にそう呟いて、再び顔を伏せた。
暫く、部屋にはデカパイの啜り泣く声が響いていた。鼻水が床にこびりついて汚えから後で掃除しろ。
☆☆☆ ☆☆☆
『させるかぁ!!』
時間は少し巻き戻り……。
半壊したジャッコ目掛け、進む三本角のアーク。
リカルドはビームライフルを撃ち込み、その間を切り裂いた。
『曹長は退け! 三本角は俺が受け持つ!』
「一つ目……! あれも帝国軍!?」
ベルはジャッコの姿こそ知っていたものの、アンジーについての知識は皆無だった。しかし、アンジーがモノアイであった事から帝国軍のアーク=敵であると推察し、即座に戦闘態勢を取る。
壊れたジャッコの事は捨て置き、アンジーに向け突貫する。ライフルを先程の戦いで壊されてしまったコスモスは、接近戦を挑むしかない。
逆にアンジー側は、無理に近接攻撃に頼る必要がない。引き連れてきた二機のジャッコと連携し、遠隔で仕留めればよい。
『連合じゃないな、守備隊でもない……技研の新型か!?』
リカルドが慎重になったのは相手の機体が未知のものだったから、というのもある。
全体的なカラーリングに連合らしさが感じられない事と、コロニー・セブンスに技研の支部がある、と思い出した事で、目の前の機体を『技研の新型では?』と判断したものの、性能が未知数である以上、無理な行動は避けたかった。
こうして、奇妙なドッグファイトが成立する。
アンジーは退く。退いて、ライフルを撃つ。
かといってただ退く訳じゃない。時折大剣に手を当てて、近づく素振りも見せる。警戒させつつ、敵を引き付ける。
コスモスはアンジーにだけ、集中していた。
周りにはもう二機、ジャッコがいたが、先程の戦いを経てベルは少しだけ、落ち着きつつある。
『アイツはやらせねえ!』
『よせボブ! 突っ込みすぎるな! 連携で仕留めるぞ!』
(ジャッコの攻撃は、効かないんだから……!)
コスモスの圧倒的な耐久力に任せて、ある種、割り切る。そうする事でようやく、ベルはアンジーとの戦いを成立させた。
何せベルはこれが初陣。乗ってる機体が優秀でも、戦いの経験はまだまだ浅い。
コスモスがソードを振るい、アンジーが避ける。
そのタイミングを見計らってジャッコがバズーカを撃つ。爆炎の中に消える、コスモス。
『やったか……?』
「そんな攻撃なんかぁっ!」
『なにっ!?』
煙を払い急接近する機体。
リカルドは咄嗟に大剣を構えた。
実体剣だが、こういった時のために表面にエナジーを流してビームリフレクションを発生させる装置が、大剣には付いている。
反発し合う二つの刃。
互いに詰め切れず、押し出される様に両者離れる。
離れながら、不意打ち気味にアンジーはビームライフルを撃ち、コスモスの左肩に命中させた。
「あうぅっ!」
『これも耐える!? どんな装甲だっ……!』
コックピットに伝わる振動にベルは悲鳴を上げる。
コスモスの耐久力の秘密は、全身に纏ったパルス防壁にある。
コスモス・システムによって吸い上げたエナジーを転換させて生まれるその防壁は、自前の特殊装甲の硬さも相まって、凄まじい耐久力を実現させた。
だが、それもビームライフルの火力では三発が限度。後二発も受ければ防壁は壊れ、沈んでしまうだろう。
コスモスは衝撃に揺れる機体を縦に一回転させ、強引に制御を取り戻し、回避行動を続ける。再びドッグファイトが始まる。
しかし、状況は最悪だった。
「このままじゃ……!」
ベルは焦った。
時間が経てば経つ程、コロニー壊滅の未来が現実になっていく。ベルの直感は嫌なものばかりを彼女に想起させ、それが尚更焦りに繋がっていく。
『動きが鈍いか、三本角!』
「きゃあああ!?」
焦りがミスを生み、再び被弾。
装甲が危険領域まで削られる。
『そろそろ、か』
「あっ!? コロニー……が……!?」
突然、宇宙に大きな光が広がった。
光の中心はコロニー・セブンスだ。
戦闘が続く中、着々とコロニー外壁を攻撃していたドルフィンと、内部を攻撃していたアーク部隊。
所々に穴が空き、ボロボロになったコロニー・セブンスに対して、艦長エレノアの指示の下発射されたのは……核ミサイル。
この一撃が、コロニー崩壊の決定打となった。
光の中、バキバキと悲鳴を上げて崩れ落ちていく内部構造。
光が止み、残骸が宇宙に漂う。コロニー・セブンスは、大きく裂けてしまっていた。誰がどう見てももう……修復不可能である。
「な、何で……どうしてっ……!」
ベルは浮かぶ涙を抑えられない。
過ごした時間だけで言えば、そこまで長くはない。
それでも思い出がいっぱいあった。
ティアナやメリッサと過ごした時間が、あの場所には詰まっていた。
人も沢山いた。生きてる人が、沢山いた。
みんな、みんないい人達だった。
「……こんなのって。こんなのって……!」
コスモスの足が止まった。
敵はそれを見逃さない。
『いい加減堕ちろっ!』
「人の……人のやる事かぁぁぁッ!!」
《COSMOS-SYSTEM stage:3 → 4》
迫るビームの閃光に対し、コスモスは後ろから縦に回転して避けつつ、宇宙空間で逆さになる。
ゆっくりと回転するコスモスの肢体。その滑らかなボディを茎とするならば花弁に当たるのは七本の赤いスカート。側面と背中に生えたそれが、次々に開いていく。
花開く様に。
迸るエナジーの輝きをまき散らしながら。
コスモスの身体がくるりと回る。
それに合わせて、宇宙に咲いた花。
ツインアイが蒼く輝き迸らせる。
(な、なんだ……このっ……プレッシャー!?)
リカルドは目の前の機体から、不思議な圧力の様な何かを感じていた。
身体の奥底が震えだす。全身に走る、寒気。それは恐怖かそれとも。
リカルドには、ハッキリとした事は分からなかった。分からないが、それに突き動かされるだけの『何か』が僅かにあった。
だから衝動的に、ライフルの引き金を引く。
しかし。
『速い!?』
静止していた筈のコスモスが、凄まじい初速で移動し光線を避ける。
宇宙に真っ直ぐと光る青い線が引かれた。
リカルドは驚愕した。
彼は確かに、実力でアンジーのパイロットにも選ばれた優秀な男だ。
そんな彼でさえ、今のコスモスのスピードは目で追うのがやっとだった。
『くそっ……! 俺だって、エースパイロットだっ!!』
リカルドは意を決してフットペダルを思いっきり踏み込み操縦桿を前に出す。指示を受けたアンジーが、フルスロットルで動く。
リカルドはGに潰されながらも何とかコスモスの後ろをついていく。赤く染まる視界の中、気合で指を動かし、ライフルの銃口を前方に向け発射する。
だが、当たらない。
背後からの攻撃の筈なのに。
まるでタイミングを分かっているかの様に、ひらりひらりとコスモスがビームを避ける。
「分かる……!」
操縦しているベルにも不思議な事に、今の彼女には戦場の空気が全て理解出来ていた。
相手の呼吸、敵意、殺気。
機体の動き、攻撃のタイミング。
(ここだっ!)
ベルは回避と同時に機体を反転。
スラスターを逆噴射させる。急速にのしかかるG。
彼女は歯を食いしばってそれに耐え、アンジーに正面から肉薄する。
再び互いの獲物をぶつけ合い、鍔迫り合いとなる二機。
『お、押されるっ……!? 何だこのパワー!?』
「貴方みたいな人達にっ……! 貴方みたいな人にはぁっ!」
しかし、先程とは違った。形成は互角とならず。
何故か大幅に出力の上昇しているコスモスが、アンジーを力で押し切った。剣が跳ね上がり、隙を晒す。
ベルはその隙を逃さず、アンジーの左腕を断ち切った。
『アンジーより上だってのか!?』
「負けるもんかぁっ!」
『やられる!?』
『この野郎ぉっ! 中尉はぁっ!』
一機のジャッコがバズーカを乱射しながら先行して、二機の間に割り込んだ。
被弾の衝撃で、コスモスは僅かに足を止める。
「コイツ! 邪魔をしてっ……!」
『もう俺の前で……仲間は死なせねえ!』
『待てボブ!? 突っ込みすぎるなっ!』
ジャッコは弾切れしたバズーカを投げ捨て、チェーンソードを抜く。ソードが唸りを上げて、コスモスに襲いかかる。
『うおおおおっ!』
「そんなに仲間が大事なら、どうして……簡単に人を殺すんだぁぁぁっ!!」
チェーンソードはコスモスの頭部に命中するも、装甲が硬すぎて、あっさり折れてしまう。返しのコスモソードが、ジャッコの腹部に突き刺さる。
『おわあああああ!?』
『ボブーッ!!』
ジャッコが派手に爆散し、乗っていたパイロットが死亡。そうなってからようやく、ベルの頭から怒りの感情が消え、彼女は冷静になった。
「やった……? やっちゃった……わ、私。人、こ、殺しちゃった……」
みるみるベルの顔が青ざめていく。
ベルは、普通の女の子だった。
一年前はアークとさえ無縁のただの女学生だったのだ。
それがいきなり人殺しとなった。
その途方もなく大きなショックは、彼女を暫し呆然とさせて余りあった。
静寂に包まれた戦場。
それを引き裂いたのは、再びの爆発。
崩壊したコロニー・セブンスの残骸、その一角が突然大きく爆発する。
『な、なんだ────!?』
「なに……あれ!?」
爆煙の中から姿を現したのは、巨大な戦艦だった。
戦艦はその砲口を帝国軍のアークに向けると、ハイパービーム砲を発射する。当たったアークこそいなかったものの、威嚇には十分だった。
『ちっ……全機撤退! 撤退だっ! 作戦は成功した! 退け!』
リカルドの号令により、帝国軍はその場を離れ母艦へと帰投していった。
一人残されたベルは、この状況をよく飲み込めていない。
「な、何が起こって……?」
『……無事かい、ベル?』
「その声……ティア?」
突然飛び込んできた通信。
それは、ティアナからの物だった。
『ベル、まずヴェセルに着艦してくれるかい? これからの事を話したい』
「ヴェセル……?」
『そうだ、戦艦ヴェセル……技研が極秘裏に開発を進めていた、外宇宙探査船さ』
「……分かった。合流するね」
コスモスのスラスターが光り、戦艦ヴェセルへと進路を取る。
ベルは到着までの間、割れたコロニー・セブンスをただジッと見つめていた。
●ボブ・カウライド
帝国軍少尉。
浅黒い肌にスキンヘッド。筋肉ムキムキでいかつい顔だが、根は優しい。
貧しい家の出で、身体の弱い弟がいた。
軍に入ったのは兵役もあるが、一番は弟に楽をさせたいから。
統一戦争四年目、作戦行動中に味方の援護に向かい死亡。享年25歳。
●新人体験記その1 負けイベント編
三本角とは性能差がありすぎて絶対に勝てません!
頑張ってアンジー到着まで持ち堪えましょう!
まず最初のビームを回避しないと死にます。ここは絶対に直角旋回を選択してください。しないと余波で死にます。常人なら確実に気絶するGがかかりますが耐えましょう。
何とか直角旋回してもエナジー混線が起きるので焦らず手動でリチューンしてください。しないと死にます。
リチューン出来ても予めスモークグレネードを投げてないと追撃で死にます。当然、先読みして投げてますよね?
スモークグレネードを投げていれば何とか生き残れます。が、ここで逃げちゃいけません。逃げると相手がすぐに混乱から立ち直って直感で撃ってくるので当たって死にます。煙越しに弾を当てて動揺させましょう。当てても1ダメージにもなりませんが当てないと死にます。
その後は置きバズーカを使ってライフルを壊します。これで接近戦に持ち込めるようになるので……え、置きバズーカなんて出来ない?
あ、じゃあダメです。死にます。お疲れ様でした……。
リカルド「また死んだ!? か、艦長! このクソゲーは一体!?」
エレノア「モブ曹長の戦闘データと証言をもとにアイリスが作成したシミュレーション……らしいわね?」
リカルド「曹長の? なら負けられないな……もう一回だ、アイリス!」
アイリス『了解。シミュレータ起動……………………死亡確認。生存時間32秒』
リカルド「グッ……もう一度だっ!」
エレノア「若いっていいわね〜」
●次回予告
負けイベントを攻略した新人を待っていたのは、また地獄だった。
破壊の後に住み着いた欲望と暴食。
宇宙開拓期が生み出した楽園の街。
正義感と疑念、反乱と謀略とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、
ここは、コロニー・サードのリゾート。
次回「嘘つきライア」編。
来週も、ナナシと地獄に付き合ってもらう。