新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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十六話 新人とテロリスト

 

 どーも、新人です。

 私は今……高級リゾートホテルのロビーで、

 

「全員動くなよ! 動けば命の保証は出来んからなぁッ!!」

 

 絶賛、人質になっています。

 ……なんで?

 

 海を泳ぎ回って、良い感じの時間になったからシャワー浴びて私服に着替えて……そして自室に戻ろうとホテルに入ったらこれですよ。

 

 最新式の装備をした如何にも軍隊ですって感じのヘルメット集団が押し入ってきてアサルトライフルを乱射。

 

 警備員があっさり撃ち殺されてその場にいた人達……宿泊客、スタッフ合わせて三十九人が全員隅に押しやられて人質になった、というのが今の状況である。

 

 え? そんな事より私の私服の情報が知りたい?

 何を言ってるんだこの変態共は……全く。

 

 今回は別に普通のTシャツだよ? 変な文字とか入ってない。

 牛と豚がUFOにキャトルミューティレーションされてる柄が入ってる。下は何の変哲もないチノパンだ。

 

 っていうかアイツラの着てる軍服、あれって帝国軍のじゃない……? え、これまさか反乱……? 

 

 まじかー。私も加わるから部屋に帰してくんないかなー。いっぱい泳いで疲れたからポテチ食べてゆっくりしたいよ。

 

「ナ、ナナシちゃん……! だ、だ、大丈夫だよ、おお落ち着いて……! わ、私が守るから……ね? こ、こー見えても私! け、結構つつ、強いんだから……!」

「むぎゅ」

 

 私を庇う様に抱き締めるデカパイ。言ってる事はカッコいいんだけど手がぶるぶるで説得力ゼロだよ……。

 

 もう無理せず下がってれば?

 絶対私の方が強いんだから大人しく私の後ろで震えてればいいのに。

 

「つ、強くたって、子供のナナシちゃんを生身で前に出せる訳ないでしょ!? アークじゃないんだよ!?」

「お、おお……!?」

 

 え、映画で聞く良い奴の台詞だっ……!?

 

 ほ、本当にそんな事言う大人っていたんだ……これがカルチャーショックって奴なのだろうか。

 

 孤児院にいた大人達なんて、子供の事をハムスター位にしか思ってなかったからなー。

 

 いっつもガラスの向こうから覗いてきてなんかメモ取って……飽きたりしなかったんだろうか。

 

 今まであった大人なんてみんなそんな感じだったな……良くも悪くも、私を動物くらいにしか思っていないんだ。

 

 例外はボブニキ位だし、あれが超レアケースだと思ってたけど。

 

(ひょっとして大人って……意外と良い奴もいるのかな……?)

 

 どうしてか分からないけど、デカパイの今の言葉は、絶対に論理的に100%間違ってるのに……なんかちょっと嬉しかった、かも? よく分からないや……。

 

『一階の制圧、予定通り完了しました……他の階も順次……』

「よーし分かった。そのまま作戦通りに……」

 

 あの無線で会話してるもじゃもじゃ頭の髭もじゃがここのリーダーか? 確かに立派なもじゃ具合ではあるな。

 

「よし、全員手を頭の後ろに置いてうつ伏せに寝ろ!」

 

 反乱軍? テロリスト? まあテロリストでいいか……私たちの前に立っていたテロリストの一人が銃を人質に向けて叫んだ。

 

「こ、ここは大人しく従おっかナナシちゃん。だ、大丈夫だよ……みんなまだ外にいるから、きっとすぐ助けに来てくれるよ……!」

 

 デカパイはすぐに手を頭の後ろに置いて膝をつく。

 他の人も大人しく従うみたいだ。

 

 私? 私は当然従ってないよ。

 こんな所で横になりたくないし。

 

「ナ、ナナシちゃん……!? な、何してるの!? は、早く従わないとっ」

 

「……おいっ! そこのっ!」

 

 一人だけ伏せる事もなく突っ立ってると、ズカズカと下っ端テロリストが目の前までやってきた。

 

「とっとと床に伏せろっ!」

「やだけど」

 

「なにィ……? 貴様ァ!」

「うわ、うっさ……!」

 

 下っ端がデカい声だして恫喝してくる。

 うるせえし、ツバが飛んで汚ねえし、口臭えし最悪だよ!

 

 イライラするなコイツ……! もうぶっとばしていいか?

 

「……そんなに死にたいのかっ! 指示に従えないなら、この場で射殺してもいいんだぞっ────!?」

「ちょ、ちょっと待って! 待って下さい!」

「もが」

 

 デカパイが立ち上がって私を庇う様に抱き締める。

 前が見えねえからやめろ。

 

 あ、でも臭いは大分マシになったな……デカパイが無駄に垂れ流してた甘い匂いにこんな使い道があったとは。

 

「こ、この子はまだ子供です! 酷い事しないで……!」

「スンスン……ムフー」

 

 あー癒される……これから臭い奴が出てきたら一回抱き着くかあ。オッサンとか加齢臭ヤバいしなー。

 

「なら二人共、とっとと伏せんかァ!!」

「スウー……ンフゥー……だからヤダって言ってんじゃん。バカなの?」

 

 わざわざ見れば誰にでも分かる事を、一回言ってやったってのに理解出来ないって……w 

 あといちいち大きく口開くな、臭い息が漏れてんだよ。

 

 そう伝えると、下っ端の怒りは頂点に達した。

 自分が馬鹿なだけなのに他人にキレるって、もうどうしようもないなコイツ。

 

「き、貴様っ……! 子供だからと優しくしていればっ……! もういい! 見せしめに殺してやる!」

「ま、待って下さい! やめて────!」

 

「どけ女ァ!」

「あっ!」

 

 私を庇って前に出たデカパイに下っ端の拳が飛ぶのが見えた。

 なので私は後ろからデカパイのシャツをクイッと引っ張って転ばせてパンチを避けさせると同時に邪魔にならない様、横に放り投げる。

 

「ぬ!? このっ……ガキがっ!」

「だ、だめ! 待って! やめて! ナナシちゃん逃げてっ!」

 

 なんで逃げる必要があるんだ? 逃げたらコイツぶっ飛ばせないじゃん。

 

「死ね、クソガキっ!」

 

 

 

 ────パァン!

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

「乾杯」

 

 コロニー・サードの繁華街。 

 お洒落な西洋料理のレストランで、赤ワインの入ったグラスをぶつけ合う二人の男女がいた。

 

「昇進おめでとう……ドッグマン大尉」

「ありがとうございます……グレイス中佐」

 

 二人は微笑みあって、グラスを傾ける。

 エレノアに比べて、リカルドのグラスに注がれている量はそれ程多くない。あまり酒が得意ではないためだ。

 

 それでも自分の昇進祝いをわざわざ艦長がしてくれると言うのだから、エレノアが好んでいる赤ワインを飲む事に文句はなかった。

 

「大尉になった気分はどう?」

 

 からかうようにエレノアが言う。リカルドは苦笑した。

 

「正直言って、バーニス大尉に申し訳ないです」

「へえ?」

 

「自分の昇進がこれだけ早かったのは、バーニス大尉がいたからでしょう。ドルフィンのアーク部隊長は自分なのに、階級が上の大尉がいたのでは指揮系統が乱れてしまいますから」

 

「……やるじゃない。そういう事も分かる様になってきたなら、大人の男に一歩前進ね」

「あまりからかわないで下さい……」

 

 リカルドはもう一口、ワインを飲んで心の中で補足する。バーニス大尉への負い目はもう一つあった。

 

 それは彼の部下であるボブ・カウライド少尉が自分を庇い死んだ事だ。彼がああしてくれなければ、自分は死んでいた……。だからこそ、彼の為にも生きて、戦果を上げなければいけない。

 そういう覚悟を静かに胸に秘めて、また一口ワインを飲む。

 

「今日はやけにペースが早いわね?」

「そういう日もあります」

 

 リカルドの返答にクスリと笑い、エレノアもまた、ワインに口をつける。鼻から抜けるような芳醇な香りと口に溶けていくコク深き味わい……やっぱり赤ワインはいい、と彼女が味を楽しんでいると、リカルドが妙に神妙な顔つきになった。

 

「どうしたの? 何か言いたげだけど」

「艦長。今日は昇進祝いという話でしたが……他にも、話があるんじゃないですか?」

 

「どうして?」

「そんな気がしたんです。どうです?」

 

「……ふふ。正解よ」

 

 エレノアは鞄から何枚かの紙を取り出してリカルドに手渡した。

 

「今どき紙ですか?」

「セキュリティ対策はバッチリでしょう?」

 

(そんなに重要度の高い話をする気って事か……?)

 

 リカルドは身構えつつ、書かれている内容を確認する。そこに書いてあるのは次の補充要員の情報だった。

 

「ライア・ソシエ少尉、ですか」

「……問題なのは出身地よ」

 

「出身は……コロニー・ナイン。ナインというと、確かどこかの組織が丸々所有している技術コロニーだった様な……?」

「【バイオ機関】よ。名前ぐらいは聞いた事あるんじゃない?」

 

 バイオ機関……その名前は確かにリカルドにも聞き覚えがあった。表向きはエナジーを人体に転用して治療促進を行えないかを研究している医療系機関。

 

 しかし、裏では黒い噂も絶えない嫌な組織だ。国と繋がって何か後ろ暗い事をやっているとも聞いた事がある。

 

「そのバイオ機関の所属コロニー出身……確かにきな臭い話ですけど」

「そうねぇ……大尉は【エクシード】って知ってるかしら?」

 

「エクシード……? いえ、初めて聞きます」

「そう……事故当時は散々噂されたんだけどね。まあその後、国が情報封鎖したし若い子が知らないのも無理ないわね」

 

 事故? と聞き返したリカルドの言葉に頷いて、エレノアは語り始めた。

 

 五十年前……つまり、統一戦争が始まるよりずっと前の話。一件の不幸な事故が起きた。それが、全ての始まり。

 

 あるコロニーに設置されていた……非常用のエナジータンク。作業員の設定ミスにより圧力が狂ったタンクは……爆発。当時、偶然タンクのそばで点検作業を行なっていた別の作業員一名が爆発に巻き込まれた。

 

 人間なんて確実に消し飛んでしまう程のエナジー濃度。それに晒されたその作業員も、チリ一つ残らず確実に死亡する────はずなのだが。

 

 何故か彼は生きていた。

 瀕死の重傷を負っていたものの、一命を取り留めたのだ。これは奇跡と呼ばれ、多くの報道機関が集まった。彼の身体の節々はまだ、エナジーの影響を受けて青く光り輝いていた。

 

「この事故が有名になったのは、ここからよ」

 

 事故から数ヶ月後。

 怪我がある程度治り、身体の光もすっかり消えた彼は、リハビリテストを行うようになった。そして気付く。

 

 自身の身体能力が────事故の前より、遥かに増大しているという事を!

 パワー、スピード、スタミナ、反射神経!

 その全ての項目が以前までの自分……いや、通常の人間の枠組みを、遥かに凌駕した数値を叩き出していた。

 

 まるで、人とは別の種族……新たな人類とでも言う様に。

 

「新たな人類……新人……」

 

「人を超越した存在となる……その現象は、彼の名前であるエクスから取って────【エクシード】と名付けられた」

「なるほど……それが、エクシード」

 

「エクシードについては当時から色々憶測混じりの噂が出てね……身体以外にも感覚が強くなったとか」

「感覚?」

 

「そうね……例えば五感。目が良くなったとか、耳が良くなったとか。目が良くなれば動体視力も大幅に向上するでしょうし、耳が良くなれば私達常人には平常な音量でもエクシードにはうるさく感じるんじゃないかしら」

 

「便利なのか不便なのかよく分からないですね……」

 

「ふふ、確かに。でもこれならどう? エクシードは五感だけじゃなく第六感、超感覚を得るらしいわ。つまり勘や直感ね。何も見ずにトランプの柄を当てたり出来たそうよ」

 

「ははっ……それだけ聞くとマジシャンみたいですね」

 

「そうね、まさにマジック……種も仕掛けも無いんだから。直感が効きすぎて、『未来を見てる』なんて言われたりもしてた。実際、エクスはインタビューで幾つか予言を残している。その内の一つは、今の統一戦争について語っていた。まるでその目で見た様に事細かとね」

 

「にわかには信じられませんね……」

「まあ、所詮噂よ……それより本題は、バイオ機関ね」

 

「ああ、そうでした。結局バイオ機関がそのエクシードとどう関係するんです?」

 

「エクシード現象には謎が多い……何故発生したのか、未だに原因も分かっていない……」

 

 様々な説が提唱されたが、有力なのは二つ。

 一つは、単純に命の危険に晒された事で覚醒したとする説。

 もう一つは、高濃度のエナジーに晒された事で覚醒したとする説。

 

 どちらの説が正しいのか、或いは両方間違ってるのかは不明だが、重要なのはどちらも十分、人為的に試す事が可能だという事。

 

「特に機関が目を付けたのは、後者の説ね。人体にエナジーを用いる事については、彼らに一日の長がある」

 

 そうしてバイオ機関は、自身の持つ医療用エナジー技術を転用し、人工エクシード作成に着手し始めた。

 

 それこそ、【人工エクシード計画】。

 

 コロニー・ナインはその為の実験施設。人体を改造した強化人間を生産する工場。

 

「十中八九、彼女はその一人……強化人間よ」

「強化人間……改造された兵士だなんて、そんな────ん?」

 

 ここでリカルドは気付く。渡された紙が一枚ではなかったという事に。ぱらり、とめくり二枚目を確認する。そこに書かれていたのは……。

 

「……モブ曹長?」

 

 ナナシ・モブの情報だった。

 

「思う所があって調べてみたの」

「それって」

 

 リカルドはナナシの出身地欄を見る。

 そこに書かれていたのはある孤児院の名前。

 

「パン・ドゥーラ孤児院……? 聞いたことないな……」

「その孤児院、調べると分かるけどね……施設がコロニー・ナインにあるのよ」

 

「なっ!? では、彼女も強化人間だったのですか……!?」

 

「さあ、そこまでは分からないわ。彼女がバイオ機関によって強化された人間なのか、それとも……始まりの男エクスの様に天然のエクシードなのか……」

 

 或いは、もっと別の何かなのかも……。

 

「いずれにせよ目を付けられているのは確かね……その証拠に彼女は一切昇進していない」

「昇進……確かにあれ程の腕と戦果なら、曹長というのは低すぎる気がします」

 

 リカルドは思い返す。ネーゼの艦隊に追撃され、彼女と出撃した時の事を。彼にとって、ナナシと共に戦ったのはその一回のみ。しかし、それだけでもはっきりと分かる実力の差……。

 

 ジャッコに乗っていながら戦艦四隻、アーク六機を鮮やかに堕としきった。被弾一つする事なく。

 

 先日の三本角との戦いもそうだ。自分が到着するまでに彼女は何分戦った? 攻撃もろくに通らないジャッコで……。自分に同じ事が出来るか? アンジーに乗っていても堕とす事すら出来なかった自分に。

 

 無理だ。ハッキリと言い切れる。

 それほどリカルドとナナシには実力の差がある。帝国の誇るエースパイロットである筈のリカルドとナナシの間に、である。それが悔しくて、シミュレータに籠もって訓練する時間を増やしたりもしたが……。

 

 腕前の差はどうあれ、出世し優秀な機体を与えられているのはリカルドの方。年功序列といえばそれまでだが……厚遇する気があるのなら、大きな任務が終わった今など、絶好のタイミングではないか。

 

 何故上はそれをしない?

 艦長エレノアは、バイオ機関に目を付けられているから……だと言う。

 

「バイオ機関のパイプはかなり太い様ね……未来の大エースを簡単に切り捨てられるくらいだもの」

「……曹長に伝えますか? これはあんまりですよ。彼女だって、命を懸けて戦っているのに……!」

 

「やめた方がいいわ。彼女は死神……下手に触れたら貴方も死ぬわよ」

「っですが!」

 

「まあ落ち着きなさい。言ったでしょう? 死神だと。バイオ機関は触れてしまったのよ……触れちゃいけない死神に」

 

 エレノアは楽しそうに笑って、ワイングラスを揺する。深紅の液体がグラスの中で踊っている。

 

(さあ、どうするのナナシ・モブ?)

 

 貴方はまだ気付いていない……貴方の相手はこの国の軍部、それも相当深くまで入り込んでいる組織よ。それはつまり、貴方の敵はこの国、帝国そのものだと言っていい。帝国は今でこそ戦争に負けている……が。

 

 エレノアの読みでは、まだ帝国は秘策を隠している。ここまでの戦況をひっくり返すほどの大きな秘策を。

 

(私に見せて、エクシード)

 

 個人が国に勝つ……。

 本来絶対にあり得ない、あり得てはならない構図。

 

 エクシードになら……それが出来るのか。それとも彼らの様な超人でさえ、国という分厚い壁の前には押し潰されるだけなのか。或いは体の良いように操られて、そのまま帝国の為に戦い続けるのか……。

 

 結末がどうなろうと面白い。長く生き娯楽に飢えたエレノアにとっては、最高のエンターテインメントに思える。帝国中の劇場を周っても、これより面白い劇はやっていないだろう。

 

 これから彼女がどんな道を選択するのか……それを肴に、エレノアはワインを呷った。

 

「死神に触れたら破滅する……眺めてるくらいが丁度いいわ」

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

「死ね、クソガキっ!」

 

 敵意が膨れ上がって、銃口が火を吹く。

 

 私は潜り込む様にそれを回避し、下っ端の股間を蹴り上げて金玉を潰す。

 

 ────パァン!

 

 と激しく何か汚い物が潰れた音がした。

 

「ぉ゙う!?」

 

 醜いうめき声を漏らして膝から下っ端が崩れ落ちた。下っ端の腰から素早くコンバットナイフを抜き取りつつ、丁度いい高さに落ちた首に肘鉄をかまして骨をへし折る。

 

「ピギ」

 

 ドサリ、と下っ端の死体が地面に落ちた。股間から血だの何だのがいっぱい出てる。生きてても死んでても汚えなコイツ。

 

 なるべく見ない様にしつつ、くるくると奪ったナイフを回し重さや材質を確かめる。

 

 うん、思った通りこれかなり良いナイフじゃん!

 装備が最新式だったからもしかしてと思ったんだよ〜。

 

 そしたらビンゴ! アークの装甲に使う様な特殊合金製の軍用ナイフだ。こんなの軍でも特殊部隊にしか配備されないよ。こんな所で手に入るなんてラッキー!

 

「お、おおお前……! い、今何をやったァ!?」

 

 そばにいた、また別の下っ端テロリスト……真面目そうな七三の真面目くんは、仲間が死んだ事実を受け止めるのに五秒もかかったらしい。慌ててこっちに銃向けてきたけど遅すぎ。もう何もかもが遅い。

 

 あのね? こっちはアーク乗り、それもエースパイロットだよ?

 

 フラットの使うビームライフルがどんだけ速いと思ってんの。それを向こうはビュンビュン飛び回りながら撃ってくるんだよ?

 

 それに比べりゃ普通の銃弾なんてこっちには止まって見えるんだよ。

 

 発射された銃弾を、ナイフというラケットで撃ち返す。そうすると弾は全部相手に向かって跳ね返って真面目くんの顔を蜂の巣に変えた。エースパイロットならこれくらい出来て当たり前だよね。

 

 それにしてもなんか懐かしいな……孤児院でやったよ、このスポーツ。テニス? って言うらしい。

 

 天井に吊り下がったタレットから発射される弾を跳ね返して向こうのコートを移動してる的に当てるとポテチが貰えるんだ! 的に当てるのなんて超簡単だから、全弾真ん中にぶち当てて沢山ポテチ貰ったよ。

 

 だから結構好きだったんだけどあんまりやらせてくれなかったな……景品のポテチを仕入れるのが中々大変らしい。景品なしでもいいなら是非やりたいって言われたけどポテチないならやる訳ないよね〜。

 

「!? こ、コイツッ!!」

 

 私が久しぶりのテニスを懐かしんでいると、他のテロリスト達が騒ぎに気付いたのか、一斉にこっちに銃口を向けた。

 

「このクソガキ……! どうしますか、隊長」

 

 テロリストの一人がさっきのもじゃ男に尋ねる。

 もじゃ男はわざとらしくため息を吐いて前髪をかき上げた。

 

「参ったな……こんな所に『お仲間』がいたとはね……しかもこんな可愛らしいお嬢ちゃんとは」

「……お仲間?」

 

 ってなんだ? 私、お前みたいなもじゃもじゃ頭じゃないんだが……。

 

「とぼけなさんな。さっきの動き────お前も、【サイボーグ】なんだろ?」

 

 私がサイボーグだって?

 何だコイツ、いきなり失礼な奴だな……私は至って普通の人間だぞ。身体にマシーンなんて入れた記憶ない。

 

 というか……お前『も』と言ったなコイツ。

 

 このもじゃ男、サイボーグなのか。道理で他のテロリストと違ってヘルメットをしてない訳だ。頭も改造してるなら、下手なヘルメットより頑丈だもんな。

 

「目と筋組織……後、神経系ってとこか? 随分金をかけたなぁ」

 

 当たりだろ? って顔でドヤ顔してるけど、的外れにも程がある。頭も弄ってるのかと思ったけど違った。だってバカだもん。

 

「どうだお嬢ちゃん。そっちもバトルタイプだろ……ここは一丁タイマンで勝負しようや」

「やだけど」

 

「ハハハなんだ今更。負けるのが怖いか! 同じサイボーグがいるなんて思わなかったってか? まあ今降参するなら、苦しませずに殺してやるよ」

 

 さっきから何言ってんだ、このバカは……。

 

「普通に全員殺すからに決まってるでしょ。なんか目付きがムカつくし。抵抗するならとっととかかってこい」

 

「フー……!! お嬢ちゃん……大方、どっかの金持ちの娘が趣味で身体改造に手を出してみたって所だろうが……余りにも身の程知らずすぎる」

 

 そういうと、もじゃ男はそばの柱に手をついて力強く握る。すると手をついた箇所の柱が、バキバキと音を立てて崩れた。器物損壊罪って知ってるか?

 

「帝国のサイボーグ技術は地球より遥かに発展している……その最新式が、俺だ。つまり……俺は宇宙最強のサイボーグと言える。

 

 1トンを超えるパワー! 

 

 銃弾どころか戦車の砲撃さえ耐えうる鋼鉄の肉体!

 

 ハイスピードカメラにも匹敵する動体視力!

 

 究極のバトルタイプサイボーグの力は、白兵戦において右に出るものはいないと言われでィ゙み゙ゃ」

 

「話が長えよ」

 

 人がムカついてる時にペラペラ喋んな。

 聞いてる義理も無いからフツーに近付いてパンチすると、上半身がバラバラに弾け飛んで死んじゃった。

 

 ワンパンで沈む雑魚の癖に、何で粋がってたんだコイツ……? お前の為に消費した時間を返して欲しい。

 

「は……? た、隊長……?」

 

 呆けた顔をしてる部下の男達。

 

 その一人、一番近かった奴に、てこてこと近付く。

 そいつは直前になってようやくヤバさに気付いたらしい。

 

 顔色を変えて銃を向けようとしたので、銃身を掴んで握り潰す。これで撃っても暴発するから撃てないでしょ。

 

 腰元のポーチにグレネードを入れてる事は何となく分かるので二つほどピンだけを抜き取ってテロリスト共の密集地帯に蹴り飛ばすと、良い感じに爆発して四人くらい一気に死んだ。ウケる。

 

 抜き取った二本のピンを、それぞれ別のテロリストの目に向かって放り投げる。

 

 高速で飛んだピンは人体にとって剥き出しの弱点である目玉を軽く突き抜け、その奥にある脳まで達した。二人の兵士は即死して床に転がる。

 

 残る兵士は三人だけど、学習しないのかなこの人達。三方向から一斉にアサルトライフルで攻撃してきたけど……弾の遅さは変わらないし、殺気もシンプル。

 

 回りながらナイフで適当に跳ね返してやると、すぐに三人とも死んじゃった。バイバーイ。

 

「これでこの階は全滅かな?」

「ナ、ナナシちゃんっ! 大丈夫!?」

「わぶ」

 

 戦いが終わった瞬間、駆け寄ってきたデカパイが抱き着いてくる。

 

「け、怪我はないよねっ……ねっ!?」

「んむ……別に平気」

 

 あんな豆鉄砲(ジャッコマシンガン)より弱いザコ鉄砲に当たらないし、当たった所で多分効かないし。当たった事ないから分かんないけど。

 

「そ、そう? とりあえずナナシちゃんに怪我がなくて良かった〜……ナナシちゃんって、生身でもあんなに強かったんだね」

「…………別に、こんなの普通でしょ」

 

 そんな事より早く部屋に戻ろう。テロリストに私のポテチが奪われてないか確認しないといけない。

 

「え? へ、部屋って……な、何言ってるの!? ダメに決まってるでしょ!?」

「なんで?」

 

「上の階には、まださっきの人達の仲間が沢山いるよっ!? 今のうちに早くここから逃げよ!?」

「そんな奴倒せばいいじゃん」

 

 なんでテロリストが来たくらいで私が宿を変えないといけないんだ? 後から来たのあいつらだろ、あいつらが宿を変えろ。そしたらみんな幸せになる。

 

「そ、外でポテチいっぱい買ってあげるからっ! 今ならなんとコークもつけ────

 

「何やってんのデカパイ、ここは危険だよっ! 他の人質共と一緒に早くずらかるぞっ!!」

 

 ────てあげ、る、あ、うん。はい」

 

 丁度外にコンビニがあるからそこまで走るぞっ!

 お財布の準備を忘れるなよっ! 急げっ!

 

『お待ち下さい、マスター』

「あん?」

 

 誰かと思ったらポンコツか。

 ここまで黙ってた癖にいきなり喋ってどうした?

 言っとくけどお前の分のポテチはまだないぞ?

 

『たった今、指令が届きました。ミッション、要人救出。どうも当ホテルの最上階……スイートルームにルエリ・エル・イルーワ様がご宿泊なされている様です』

 

 ルエルエ……誰ソイツ? 変な名前……。

 

 そんな奴どうでもいいから早くコンビニに行こう。ポテチが売り切れちゃう。

 

『ルエリ様は皇帝陛下の娘……皇女殿下にあらせられます。モブ曹長は直ちにスイートルームへ向かい、ルエリ様を救出せよとの事です』

 

 端末の画面が切り替わり、小難しい事が書かれた指令書が表示される。

 

 準備良過ぎない? 今急いで作りました! って感じのクオリティじゃないんだが。

 

 おまけにこのタイミング……ちょっと完璧すぎる。

 どう感じてもこれは、Xの仕業だろう。

 

 恐らくこの反乱自体がどこか作為的なものなんだ。

 うーん例えば、Xが首謀者で下っ端には本当の目的を隠してるけど実際はまた別の目的がある……とか?

 

 いやあんまりしっくりこないな。それなら私に反乱鎮圧の指令を出す訳ないし。

 

 反乱の鎮圧……つまりこの反乱がXにとっては邪魔で、私を利用して反乱軍を潰そうとしてる、とか。

 

 おお、かなりしっくりくる! つまりあれか、この反乱軍は……Xの手のひらで踊らされた可哀想な人達って感じか! 

 

 反乱計画を事前に察知してるって事は、反乱軍ともある程度繋がってないといけないからな。Xに裏切られたんだ、コイツら。ざまぁ!

 

『帝国軍において指令は絶対です。従わない場合、軍規に則り銃殺刑となります。行きましょう、マスター』

 

 めんどくさいな……でも正式な指令書まで用意されたんじゃ行くしかないか。

 

「ナナシちゃん行くの? や、やめた方がいいんじゃ……」

「ん、まあヘーキでしょ。嫌な気はしないから」

 

 本当にヤバかったらもっと嫌な予感がする……筈。

 今回はそんなに嫌な気はしてないから、多分酷い事にはならないだろ。Xもここで私を殺そうとは考えてないっぽいし。

 

「そ、そうだといいけど……」

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

 

 デカパイは先にコンビニに行ってポテチ買っといてくれ。帰ってきたら食べるから。あ、今日の気分はちょっと酸っぱいやつだからヨロシク!

 

 

 

●ナナシのTシャツ3号

 牛と豚がUFOにキャトルミューティレーションされてる柄。きっと彼らは泣いている。

 

 モー、ブー、と。

 





 ここ最近、ロボアニメやってなくてごめんね……。
 白兵戦まともに書くのここくらいだし、次回からアーク戦バンバン出るから許して!
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