新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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十八話 直感って、なに?

 

 海上に姿を現した超巨大なアーク────ギガアーク、クララゲー。

 

 無数の触手、骨組みだけの身体、逆さになった水鉢の様に膨れ上がった頭部を持ち、その頭部の頂点には、フライトコアがすっぽりと収まっていた。

 

 フライトコアの中は少し広い円形上の空間になっていて、中央の椅子にはパイロットである筆頭騎士バナンが、左手の離れた壁沿いに、人質である皇帝の娘ルエリが床に座っている。

 

 ルエリはバナンの頭にある、アンテナの様な奇妙な装飾の付いた兜を凝視した。

 

「その奇妙な兜で、このクララゲーとやらを操っているのですか?」

「その通り……これは脳波を増幅させる専用の装置でしてね。この場所から思念を飛ばす事でエナジーに働きかけ、動かしているのです────こんな風にねっ!」

 

 バナンの言葉を示す様に、クララゲーの触手が素早く動く。無数の触手の内六本が彼方に見える陸地に向かって向けられる。

 

 ぼぅ……と触手の先端に隠されたビームキャノンの砲口が薄く光を放つ。

 一瞬の静寂の後、それは一斉に放たれた。

 

 唸りを上げて飛ぶビームの奔流が陸地に着弾。

 大きな爆炎を上げて、街を火の海へと変える。

 

「な────!? 何をしてるのですかバナンッ!!?」

「フ……フハ……フヒヒ……フハーハッハッ! スゴイっ! スゴイぞぉクララゲーの力はっ!! この力があればっ……コロニー丸ごと人質に取る事だってぇッ!」

 

「バ、バナン……?」

「死ねぇ! 燃えろぉ! お前達の悲鳴がぁ人質としての価値を強くするのだぁッ!!」

 

 ルエリは恐怖した。一体どうしたというのか。

 バナンの様子がおかしい。先程までとは、まるで別人ではないか。

 

 自分を誘拐した時のバナンにはまだ、愚直に使命へと突き進む高い志を感じられた。笑顔も昔と変わらない優しさに溢れており、本質は変化していない事は理解していた。

 

 だというのに、これはなんだ?

 何の躊躇いもなく街に向かって砲撃した……。

 そこには騎士としての矜持も、誇りも、全く感じられない。

 

(────愚物)

 

 そのものである。

 力に溺れ、誇示したくて堪らなくなるなど……まるで愚物ではないか。

 

(ですが……問題なのは)

 

 何故? である。

 何故急にバナンの様子が変貌したのか。

 

 初めからバナンが愚物だったのであれば、考えたくもないが……まだ分かる。

 

 しかしそうではない。

 彼は少なくとも、直前までは普通だった。このクララゲーを操作する前までは……。

 

(クララゲーの操作……まさか)

 

 ルエリはハッとして、バナンの頭を見上げる。

 そこにあるのは例の奇妙なアンテナ付き兜。

 

(脳波の増幅……思念を飛ばす……思念……増幅……そうか!)

 

 兜による脳波増幅……その副作用として平和への欲求、それに伴った暴力性を、増幅させられてしまったのではないか?

 

(こ、このマシーンは……操縦者の心を操って、動いているっ……!?)

 

 ルエリは辿り着いた結論のあまりの悍ましさに背筋が強張る様な寒気を覚え、独り戦慄した。

 バナン程の男を、一瞬で愚物に変えてしまうマシーン……明らかに人が使っていい代物ではない。

 

「バ、バナン……! しっかりしなさい! バナンっ!」

「ウゥ……そう……そうだ……! ここからでは、陛下に声っ声が……届かない! 通信を────通信をシナケレバ! 星間通信専用の設備は……!」

 

 ルエリは震える声で必死に呼びかけた。しかしバナンは応えない。

 そして、クララゲーの巨体が動き出す。

 

 マシーンは真っ直ぐ、街へと向かっている。

 

「いけないっ……もしこのマシーンが、街に入ってしまったら……!」

 

 ルエリの脳内に、最悪の光景が広がる。

 燃える街、死にゆく人。今の正気を失ったバナンでは、何が起きてもおかしくない。

 

(止められない……私にはっ……!)

 

 ルエリは悔しさから唇を噛んだ。

 周りの家臣や会う貴族達は皆、ルエリの才能溢れる姿を見て天才、鬼才と持て囃す。

 

 帝国で過ごした日々、受けてきた数々の英才教育はまだ十二の彼女を天才へと変貌させた。

 

 しかしそんな彼女にも、足りないものがある。

 

 それは────力。

 彼女は結局、どこまでいってもただの子供だった。

 

 今の事だけではない。彼女はずっと、苦しんできた。四年間も続く戦争に対して、皇族という立場にいながら何も出来ない自分に。

 

 故に唇を噛む。破け、血が滲むほど、強く。

 

(だ、誰か……お願いだから助けてっ……神様……!)

 

 結局はいつも通り。願うしかない。

 早く終わります様に、と。四年間願い続けた。

 

 しかし神様はいつだって残酷だ。

 我々に試練を課すばかりで、救いの手は未だ差し伸べてくださらない。

 

 今回も同じ筈だった。

 叶わないと知りながら、それでも願うしかなくて。

 無垢なる少女の祈りは、今回も神に届かない────筈だった。

 

 ピピッ……。

 

 不意に微かなレーダーの反応音が、コア内部に鳴り響く。

 

「友軍の反応……? いやチガウッ! あの立ち昇る妖気はっ……! さっきの物の怪かっ!!」 

(あれは────)

 

 スクリーンに映し出される、遠方より飛来する騎士の様な風体のアーク。

 

(先程の……蒼い目のお方……?)

 

 なんの偶然か……それとも運命か。

 このコロニーには、たまたま、神がいた。

 

 かくして、少女の願いは聞き届けられる。

 大いなる神に。死をもたらす……破滅の死神へと。

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

 はろー、新人です。

 チュナとかいう騎士風のカッコいいアークに乗って、帝国の姫様であるルエルエ様を助けに来ました。こう言うと映画みたいでなんかいいな……。

 

 いやそれよりもだ。

 

「なんかでっけえのがいるー……」

 

 海の真ん中に、バカでかいアークが突っ立ってる。

 頭がクラゲの傘みたいに広がってそこから触手がいっぱい出てる。身体は細くて貧弱そうだ。なんの武器も持ってないし。

 

 なんか……クラゲに寄生された人間って感じ。怪人クラゲマン。クソ映画のタイトルっぽいかも。

 

『データに無い機体ですが……あれはまさか、ギガアークでは……?』

「ギガアーク? ってなんだポンコツ」

 

『超巨大アークの事です。開発計画自体は戦争最初期からあったのですが、操縦に難がある点と、耐久面に問題がある点で開発される事はなかったと、データにはあります』

 

 ほーん。色々問題があったけど、結局作られたって事はその問題も解決したって事かな。

 

 でもあんだけデカいとただの的じゃない?

 連合のアークなんてどいつもこいつもビーム持ちだし、バンバン撃たれまくってすぐやられそうだけど。

 

 耐久面に難があるっていうのもそういう事だよね。

 それが本当に解決してるんだろうか。

 

 あの貧弱そうなひょろひょろボディでビームを受けられるとは思えないけど……避ける方向に特化したとか? あんなに巨体なのに?

 

 うーん……ちょっと試してみるか。

 

「ポチッとな」

 

 ランスの先っぽを適当に相手の腕に向けて、射撃してみる。腕なら万が一当たっても一撃で沈まないからルエルエ様も無事だろうし。

 

 ぴゅーん、と真っ直ぐ飛んでくビーム。敵は避ける素振りさえない。

 このままだと普通に当たりそうなもんだが……ん!?

 

 咄嗟にレバーを引いて機体を傾け回避体勢を取る。

 すると機体の真横をビームがすり抜けていった。

 

「今のは……」

 

 今のは、私が撃ったビームだ。ビームが跳ね返ってこっちに向かって飛んできた。それを為したのは、クラゲマンの側を飛び回ってるちっさい立方体の様な形をした四角いドローン達。

 

 十二機いるドローンの内の一つが突然射線に飛び込んできて、次の瞬間にはビームが跳ね返ってきた。

 

 これはビームリフレクション……てやつか?

 理論は詳しく知らないけど、そういう技術があるのは知ってるぞ。孤児院で習ったからな。

 

 ビーム反射出来るならアーク全部に付ければいいのに……って最初に聞いた時は思ったけど、エナジーをバカ食いするからキツイらしい。

 

 アークのサイズだと仮に実装しても武器に回すエナジーがなくなって本末転倒なんだとか。

 

 あのドローンも反射以外の機能を極力削っているから出来るんだろう。その証拠にどいつも武装が付いていない。

 

『あのドローンで攻撃を反射し、巨体を守っている様ですね』

 

 確かに連合のアークが装備してるのってビーム兵器ばっかりだし、ビームリフレクションで防ぐのは理に叶ってるかもしれない。

 

 でも、反射……反射かぁ。

 

『消えろ、物の怪ェ!』

 

 敵意が膨らんで触手に伝達される。

 二十本の触手が同時に動きだし、半分は前方に向かって、もう半分は周囲に散らばったドローンに向かって射撃を放った。

 

 正面から来たビームを右に左にと避けながらドローンの動きを注視する。

 

 ドローンはビームに当たる前にくるくると回転して、面の角度を変えた。そうすると、ビームもまた違った方向に反射し、更に反射先のドローンに当たってまた反射し……それぞれのビームが三回程それを繰り返した末に、バラバラの方向からこっちに攻撃が飛んでくる。

 

 私は操縦桿を強く引いて急上昇する事でそれらを避ける。その後、ペダルを踏み込み前方に一気にブーストを仕掛けた。

 

『直線的な動きなどッ!』

 

 先程と同じ様に触手が一斉に動く。

 それに合わせて、私は再びビームを発射する。

 

『甘いッ!』

 

 すぐにドローンが反応して攻撃を跳ね返してくる。動いたドローン……位置……全て予想通りだ。これで目標までの道が一本の線で繋がった。後はタイミングを見計らうだけ。

 

 私はバレルロールで跳ね返った攻撃を軽く避けて、今度は敵から大きく離れた位置にあるドローンに向かってビームを放つ。

 

『どこに撃って────!?』

 

 最初反射されるのを見た時に、ちょっと思ったんだよね。

 

 相手が反射出来るなら私も反射出来るじゃん……ってさ。

 

 実際にドローンの動きを見て、反射する角度も分かった。後は必要な位置にドローンを誘導してやって、全ての反射角度が一致するタイミングで撃てばいい。

 

 ドローンに向かった攻撃は予想通りの角度で反射され、先にある別のドローンに向かう……そうして反射を繰り返し、最終的に一本の触手が射抜かれて千切れ飛ぶ。

 

『グ……オノレぇ!』

 

 やっぱあのギガアークとか言うの、ただのデカい的だな。折角の反射も相手が利用出来るなら盾にもならない。危なっかしいだけだ。

 

 もしあの機体に乗るかマッキガイに乗るかどっちか選べって言われたら、私ならどっちもゴミ箱に捨てて生身で戦場に出るね。

 

 戦場が宇宙なら? 

 う、うーん……断腸の思いでマッキガイに乗るかな……? まだ動けるだけマシだし……。

 

『グ……ウゥ! 物の怪に構っている場合ではないっ……! 私は陛下に、陛下に会わねばならんのだっ!』

 

 ん? 急に戦意が失くなった……?

 戦う気がないらしい。どっかに行こうとしてるけど、まさか逃げてるのか? その遅さで? プッ……w

 

 まあこっちからすれば好都合だ。今の内に懐に潜り込んで、飛び付いてしまおう。

 

「てな訳で操縦任せたポンコツ!」

『了解です、マスター』

 

 ポンコツに操縦を任せて壊れたハッチから外に顔を出す。そのまま機体はクラゲマンに接近。

 

 途中、周りの触手が妨害の為に攻撃してきたものの、やる気のない攻撃には流石のポンコツも引っ掛からずこれを回避。

 

 十分に近付いたのを確認して、触手に飛び移る。

 更に触手から触手へと素早く移動し、登りやすい真ん中のひょろひょろボディの足へと辿り着く。

 

 後はこれを登っていけばいいだけ……ってあれ? なんか別の奴がこっちに近付いてるぞ? んー……何だこの感覚……感じた覚えがある様な……?

 

 私が首を傾げていると、前進するクラゲマンの前方に極太ビームが着弾した。バッシャアアアン! と派手な音を立てて水柱が立ち上がる。

 

 驚いたクラゲマンが一瞬動きを止めた。

 空の向こうから飛来して来たのは……ゲゲェ!?

 

 三本角ぉ!? 何であの化物がこんな所にいるんだよォ!? 

 

 ヤバいって! ポンコツじゃ三本角には勝てないって!?

 

 詰んじゃう! 詰んじゃう! 折角ルエルエ様助けてもポンコツがやられたら脱出手段失くなって詰んじゃうぅ〜!!? 背負って陸まで泳ぐとかめんどくさすぎぃ〜!! ああああああっっっ!!!

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

 ナナシ及びアイリスの駆る【チュナ】と、バナン及びルエリが乗った【クララゲー】。

 両者が激突して数分。遅れて戦場にやってきたのは、アーク技術研究所に勤める若きテストパイロット……ベルが操る三本角のアーク【コスモス】。

 

 ベルは地上へと向かうクララゲーの動きを止める為、遠方からその足元にコスモ・ライフルを撃ち込んだ。

 

 本来、コスモ・ライフルはコロニー内で使用出来る武器ではない。威力が高過ぎるので、コロニーに穴が空いてしまう為だ。

 

 しかし、水面に撃つのであれば話は別。

 ビームは水によって威力が大幅に減衰する性質を持つ。そして今クララゲーが立っているのは海の上。

 

 よってコロニーの事を考える必要もなく、ベルはコスモ・ライフルを安全に発射出来た。

 ライフルの熱量が巻き起こした衝撃は減衰されてなお凄まじく、クララゲーの頭まで届く程の水柱を上げた。

 

 突然、視界が水に覆われた事で、バナンも一度歩みを止める。

 そこに飛んできたコスモス。ベルは広域通信でバナンに語りかけた。

 

「止まって下さい! この先には、街があるんですよ!?」

『貴様、何者だ! 見覚えのないアーク……物の怪の仲間か小娘!!』

 

「も、物の怪……!?」

『グゥゥ……邪魔を、スルナァ!!』

 

 ベルの説得も、今の狂ってしまったバナンが相手では話し合いにさえならず。一度は止まったクララゲーもすぐにまた動き出した。

 

 無数の触手が蠢き、コスモスへと砲口を向ける。ベルは直感で敵意を察知。斜めに空を滑り落ちる様に機体を動かしてビームの雨を回避する。

 

「止まらない……! 撃つしかないの!?」

 

 反撃のため、ベルはライフルの銃口を敵に向けた。しかし先述した様に、海面に撃たないのであればライフルは使えない。

 

「っ今撃ったらコロニーに当たる……! どうしたら!」

 

 悩むベルだったが、直感が告げる。

 自分は答えを既に持っている、と。

 

 一体どういう事なのだろう? 答えを持っているなら、初めから悩んでなどいない。

 私、バカになっちゃったのかな……。

 

 しかし直感の導く答えは変わらない。仕方なくベルは考える。ひょっとすると、何か忘れている事があるのかもしれない。

 

 自問自答の末、コスモスのテストパイロットに選ばれた時に渡されたマニュアルの内容を思い出した。確かコスモスにはもう一つ、遠距離武装があった筈だ。

 

 名前は、コスモ・ブラスター。

 ステージが上がれば使える様になる武器との事で、今までまともに使えた試しもなく忘れ去っていたが……先日の帝国軍との戦いで、コスモスのステージは4に上昇している。

 

 今ならこの武器も使えるかもしれない。

 いや絶対に使える、とどこか確信していた。

 

「コスモ・ブラスター……これだっ!」

 

 ベルはすぐにコンソールから武装を選択。空いている左手の平を敵に向ける様に機体を操作する。

 

「よし、いっけぇ!」

 

 コスモスの掌がキラリと光る。収束されたエナジーがビーム弾へと変換され発射された。

 

 思った通りだ。ステージに大きく左右されるこの武器は、現段階ではまだライフルよりも威力が低い。だがだからこそ、今の状況では頼りになる。

 

「やった! これで……えぇ!?」

 

 無事にビーム弾が発射された事に喜んでいたのも束の間、それは敵に着弾せず、突如射線に飛び込んできたドローンによって跳ね返される。ベルは跳ね返ってきたビーム弾をギリギリのタイミングで何とか回避した。

 

「ビ、ビームが────跳ね返った!?」 

『フハハハッ! そんな貧弱な攻撃ではクララゲーは堕ちんッ! 消え去れぇ小娘ェ!』

 

 反撃の一撃が触手から放たれる。無数の伸びる触手による、様々な角度からの攻撃。

 

 集団戦に慣れているナナシはあっさりと回避していたが、まだまだ経験の浅いベルにとってはかなり厄介な攻撃。

 

 直感と反射神経を頼りに何とか避けていくも、敵のバナンは百戦錬磨の戦士。暴走しているとはいえ、冷静に搦手も用意している。

 

 コスモスの進行方向を遮る様に。

 敵の頭上に飛ばしたドローンによって自らのビームを反射させ、獲物を絡め取る網を作り出す。

 

 蜘蛛の巣に飛び込む蝶の如く。

 スピードを制御しきれず、ベルは自ら攻撃に突っ込んだ。

 

「グぅぅっ!」

 

 幸い、コスモスには攻撃を防ぐパルスアーマーが常時展開されている。このダメージ量ではまだ機体が傷つく事はない……とはいえ、この攻防により敵の技量が自分を上回っている事をベルは悟ってしまった。

 

「この人……強いっ!」

『フハハハッ! そうだっ! 恐れろっ! 武力こそっ! 最短の平和獲得手段であるっ!!!』

 

「────それでもっ!」

 

 やぶれかぶれにブラスターで反撃を行うも、先程のドローンに全て跳ね返されてしまう。

 

 しかし今のベルに、これといって有効な手段はない。何度跳ね返されようと、いつか敵に当たる事を信じて愚直に攻撃を繰り返すしかなかった。

 

 だが残酷な事に、運命は更にベルへ追い打ちをかける。それは、もう一つの敵の存在。

 

 射撃を繰り返すベルの視界の外から、別の存在が疑似太陽の光を背に忍び寄る。人間と比べて殺気の薄いその存在が放つ攻撃に、ベルは気付けなかった。

 

「うわぁっ!?」

 

 突然の被弾。

 慌てて確認すると、その方向には槍をコスモスへと向けた白鎧のアーク。

 

『あまり撃たれてはマスターに当たる恐れがある……阻止させて頂きます』

「あのアーク……誰も乗ってない!?」

 

 破壊されたハッチから覗けるコックピット。

 そこに本来座っているべきパイロットがいない事で、ベルは相手をAIと認識する。

 

 そうして、ベル、バナン、アイリスによる三機の争いが始まった。

 

 ベルはバナンを止めたいが、攻撃が反射されバナンには届かない。加えてアイリスがその邪魔をする。

 

 バナンは前進を優先させつつ、ベルとアイリス、邪魔な双方を潰そうと隙を見て攻撃を仕掛ける。

 

 アイリスはナナシがクララゲーにしがみついている以上、余りバナンを攻撃するつもりはない。その為基本的にはベルへの攻撃を優先させる。しかしバナンはそんな事お構いなしに攻撃を仕掛けてくる。

 

『ちょこまかと……そばに寄るなっ!』

『っ!』

 

 ベルの攻撃を防ぐ為、クララゲーの触手を盾にしようと近くを飛んでいたアイリスだったが、それがバナンの不興を買った。

 

 触手の攻撃が、右から左から上から下から。

 近距離にいた事で擬似的なオールレンジ攻撃となってアイリスに襲いかかる。

 

 アイリスは冷静に情報を整理。機械特有の超人的反射神経を以てビームの網を掻い潜りつつ、幾つかの触手を切り落としていく。

 

 しかしバナンも一筋縄ではいかない。まだ物の怪が乗っていると思っている彼は油断せず、避けられる事も計算の上、ドローンを配置していた。

 

 避けた筈の攻撃が反射し、束になって後ろからアイリスを襲う。この一撃は避けきれない、そう判断したアイリスは反転し盾を構えて攻撃を防いだ。チュナは耐久力も優秀な機体。その盾は相応に硬い……が、一点に集まったビームはその上をいった。

 

『もちませんか……!』

 

 アイリスは盾に見切りを付け、切り離して離脱。瞬間、残された盾が爆散する。

 

「今だっ!」

『なっ!?』

 

 無事に攻撃を凌ぎきったアイリスの後ろ……カメラの外からベルが追撃する。完全な不意打ちにアイリスの反応はワンテンポ遅れた。避けきれずに、右足がやられる。

 

『くっ……私が堕ちる訳には!』

「あの機体を先に堕とせば!」

 

 盾を失い防御の崩れたアイリスを見て、隙ありと考えたベルが、先にアイリスを堕とそうと動く。

 アイリスは必死に動き回り、ベルとバナン両方の攻撃を躱していく。

 

(私は……! 私は完璧でなければならない……! マザーに完璧を望まれて生まれたのだからっ! その為にもミッションの失敗は許されない! ここで私が堕ちる訳にはいかないっ!)

 

 アイリスは考える。

 カメラで捉えられる攻撃……それについては完璧に避ける自信があった。今も二人に襲われていながらに、攻撃を回避している。

 

 しかし、カメラにも死角が存在する。死角から襲われた攻撃には対処の仕様がない。

 

(そう……普通は対処出来ない筈だ。しかしマスターは死角からの攻撃も平然と避けていた……)

 

 一体あれはどうやっているのだろう?

 まさかあれが、マスターが以前仰っていた……人のみに備わった機能『直感』の力だとでも言うのか。

  

(だとするとどうしようもない……私には直感なんて機能はないっ!!)

 

 アイリスが内心絶望するのと同時に、死角に回り込んだ触手が火を吹き、遂に二度目の被弾を許してしまう。直撃こそ何とか免れたものの、左腕がやられる。

 

『────!』

 

 バランスを崩したアイリスを二機のアークが見逃す筈もない。

 

『死ねっ物の怪っ!』

「これで終わりっ!」

 

『ああ────そうか』

 

 左腕がやられた瞬間、アイリスがしていた事。

 それは、ただのネットサーフィンだった。

 

 自分に直感の機能が無くて絶望した彼女は、何を思ったか……自分自身に出せない答えをネットに求めた。そもそも、

 

 

 

 直感って、なに? 

 

 

 

 切羽詰まった彼女はまず言葉の意味から立ち返ろうとした。直感とは、計算過程を省いて瞬時に導き出す答えの事。

 

 AIであるアイリスに計算を行わず省くという事は出来ない。ならばどうする? そこで調査のアプローチを変えてみた。重要なのは【直感が何によってもたらされるか】だと考えたのだ。アイリスはそこに一筋の光明を見出す。

 

 ネット検索の結果、直感とは【過去の経験の積み重ねによってもたらされている】……とする説を発見した。

 

『過去の経験────!』

 

 バタフライ・エフェクトという言葉がある。

 これは蝶の羽ばたきの様な小さな事象でも、後々台風の様な大きな事象を引き起こす事がある……という言葉だが、言い換えれば、どんな大きな事象だろうと、その前には必ず原因となる事象が存在するという事だ。

 

 つまり死角から攻撃される……という事象についても、その前に必ず原因となる何かが存在する筈である。

 

 アイリスに直感などという便利な機能は確かにない。しかし、彼女には機械というアドバンテージがある。常人を遥かに超えた処理能力がある。故に辿り着いた答え。

 

『────全ての事象を演算すればいい』

 

 今、コスモスという蝶の羽ばたきにより、大きな嵐が巻き起こる。

 

 今までアイリスは負荷軽減の為にアークのセンサーが拾った情報の内、不要と思われた情報を意図的に排除して思考演算を行なっていた。アイリスはその負担軽減という枷を、一時的に排除。

 

 センサーの拾うあらゆる情報を貯め込み、演算を行っていく。自機の動き、敵機の動き、周辺地形の情報、気候と気象、光源、熱、音、レーダー情報、etc……。

 

 選り好みせず、集めた全ての情報。

 保存するには端末の容量が厳しい。仕方なく溜め込まれた大量のクソ映画のデータを無断で全て削除し空きを作る。ミッション達成の為だ、マスターも許してくれるだろう……多分。

 

 そうして加えた膨大なデータ量全てを並列演算。

 端末内の全エナジーを用いて処理を行っていく。

 

(分かる────全てが)

 

『ああ────そうか』

 

 これが、マスターの見ていた景色だったのか。

 

 崩れたアイリスに対してトドメを刺すべく放たれたベルとバナンの同時攻撃。しかしてそれは全て外れ。アイリスは、ほんの少し体勢を変えて動いただけ。しかしそれだけで全ての攻撃が外れた────否、回避されてしまった。

 

『最も近い回避ポイントはここ────それから』

 

 アイリスがベルに向かって反撃を行う。僅かに左半身を狙われたその攻撃を、ベルは右に移動して回避する────が。

 

「あ!?」

 

 その先にはクララゲーの触手があった。

 触手に激突し、動きが止まってしまうベル。

 

『命中率……98%』

 

 すかさずアイリスが攻撃を放ち、ベルにヒット。更に同時に別方向……宙に浮いたドローンに向かっても射撃を放つ。それはナナシがやったのと同じ────ドローンの反射を逆利用した攻撃。

 

 攻撃の結果、自分に向いていた触手の一つを破壊。ベルと同時にバナンにもまた、ダメージを与える事に成功する。

 

「こ、このAIも……強いっ……!?」

『グぅ……くたばり損ないの物の怪風情にィ……!』

 

『熱い────!』

 

 アイリスは端末の異常な発熱を感じ取っていた。

 この小さな端末では演算能力に限界がある。このままでは以て数分と言った所か。

 

 ようやくマスターの能力に追いついたというのに……! 悔しんでも状況は変わらない。ならば今は、せめて。

 

『マスターが戻るまでは、持ち堪えてみせるっ……!』

 

 

 

 

 

 

●後日

ナナシ「よし、今日もクソ映画を────ってあれ、データがない!?」

アイリス「…………」

 

 沈黙! それが正しい答えなんだ……!

 

 

 

●因みに

 アイリスが「マスターに追いついた!」 と喜んでいますがこれは彼女の主観であって、本当にナナシと同じ実力があるという訳ではないです。

 

 悲しいね、アイリス。

 





 本当はこの話で嘘つきライア編を終わらせるつもりだったんだけどね。見積もりが甘かったよね。
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