新人です。エースパイロットやってます。 作:今井亜美(ハーメルンのすがた)
初めまして。私の名前はナナシ。
ナナシ・モブ。
冗談みたいな名前だって?
まあ分かってるけど、実際そういう名前なんだからしょうがない。
宇宙に根差す帝国軍と、地球に暮らす連合軍との統一戦争が始まって四年。
その戦火に巻き込まれて戦災孤児となった私は、孤児院で平和に暮らしてた。
そこにやってきた帝国軍のオッサンども。
孤児を徴兵して軍学校に入れてるらしい。私はたまたまそれに選ばれた。
十三歳。
周りより一回り年下で軍学校にやってきた私は十日目に乗らされたアーク・シミュレーターの適性試験で、現役軍人含む全記録を大幅に上回るスコアを叩き出し、結果……丁度行われる予定だった実機での訓練合宿に急遽送り込まれた。
それが大体────今から二か月前の話。
合宿初日。
コロニーから地球の基地まで遥々やってきた私は初日の訓練をサボって惰眠を貪った。
つーか訓練の時間が早すぎなんだよ。こっちは疲れてるんだから、寝るのなんて当たり前でしょ。
教官?とかいう禿げたオッサンがブチギレて起こしに来たけど、眠かったからキレ返してボコボコにぶん殴って外に放り出してやった。
するともう何も言ってこなくなったので、私は安心して自室でどっかの部屋から盗んできたポテチをキメてサボり生活を満喫し、初日が終わった。
「……うっさ」
合宿二日目。
初日同様気持ちよく眠っていた私は、何かが爆発する様な音で叩き起こされた。
折角気持ちよく人が眠ってたっていうのに、一体何なの?
初日みたいに教官? とか言ってた禿がまた嫌がらせしにきたなら、またボコボコにしてやる。
そう思って目を開いた。
飛び込んできたのは青い空。はて? 私は自室で眠ってた筈なんだけど……?
いや違うな、これ壁が吹き飛んでるだけだわ。
隙間からちらりと見えた青い機体。ありゃフラットだなぁ、シミュレーターで見たザコだ。
って事は……この基地は絶賛襲撃され中?
いやいや、守備隊は何やってんのさ?
ひょっこりと壁から顔を出してみると、丁度フラットがジャッコを爆発させてる所だった。動きが素人すぎるから、あれは私と同じ訓練生だな。そーいえばカリキュラムでは今日は実機訓練だったっけ。
守備隊と合わせたら十機以上は外にいた筈なのに、目で見える範囲にはもう後三機しか残ってない。この様子じゃあいつらも死ぬな。
敵の残骸が何処にも見当たらないって事は偉ぶってた教官は結局一機も堕とせずに死んだらしい。ダッサ……w。
まあ、そんな事はどうでもいい。
それよりも問題なのは……私の安眠が、あの連合軍に妨害されたって事だ。
安眠妨害許すまじ。死で以て償わせなければならない。
私は即座に壁から向こうに飛んだ。
十メートルくらい落ちる事になるが、五点接地すれば平気だ。
五点接地のやり方は訓練で習った。高さは訓練よりもちょっと高いけど、まあこれくらいならね。
軍人なら誰だって出来るはず。
地面に着地した私は、真っ直ぐ格納庫を目指す。
まずは機体の確保が先決だ。まだジャッコが余ってるかもしれないからね。
本気でダッシュすれば格納庫なんて一瞬で着いた。
良かった、まだ一機残ってる!
ただパイロットスーツを着た知らないオッサンが乗り込もうとしてやがった。
横からタックルして、勢い任せに放り投げる。
「ぐあっ!?」
「これは私の機体だ泥棒っ!」
醜い呻き声をあげるオッサンを無視して、横倒れのジャッコをよじ登りコックピットに入る。
起動はこのボタンだな。
シミュレーター通り動けよ……え、パスワード? ロック掛かってる。何それ、シミュレーターと違うじゃん……。
「おっさーん、パスワードなにー?」
「何しやがるこのクソガキぃ!? 降りてこいぶっ殺してやるっ!」
駄目だ……なんかブチギレてる……。
おっさんは当てになんないし、適当に入力してみるか。
コンソールをジッと見つめると、妙に汚れた幾つかのキーがある。
これらの文字をアナグラムして生まれるワードは……ああ、これだな。
確信をもって入力すると、ロックはあっさり外れた。
「じゃ、行きますか」
脇にある操縦レバーを引くと、機体の左足が稼働して地面を叩いた。下でさっきのオッサンが慌ただしく避難しているのが見えてウケる。
上体を起こし、システムを戦闘モードに切り替えるとモノアイに赤く光が灯る。
「さて、敵さんはーっと」
勘に任せて移動する。帝国軍のレーダーはポンコツだ。コイツに頼るくらいなら、私は自分の勘を信じて飛ぶ。
ああ、見えた。
躊躇わずマシンガンに火を付ける。こっちに背中を向けていたフラットのスラスターにヒット。行き場をなくしたエネルギーが詰まって、派手に爆発した。
「まず一機」
『なんだ!? 敵!?』
そいつと組んでいたであろう敵が気付いてビームライフルを連射してくるけど、下手だな〜コイツ。
棒立ちで撃ったら的になるだけですよー?
『当、当たらない!? ビームが!? ビームなのにィ!?』
二、三回避けてやった後、そいつにマシンガンを撃ち込んで殺しつつ後ろに下がる。その直後、上空からミサイルが先ほどいた場所に着弾して爆風が舞い上がる。
「鳥さんがいるな……」
『シゲルっ! クソッ! シゲルが殺られた! 生き残りがいるぞ!』
大空を舞う様に旋回する戦闘機っぽい銀色のアーク。
あれは変形機構を持った空戦用アーク【ハイグランド】だ。見た目もカッコいいエース用の機体で、翼があってどことなく鳥っぽいから私は鳥さんって呼んでる。
鳥さんはミサイルを出した後、後退して遠巻きにこっちを見ているだけになった。
あいつ……仲間を集めてるのか。
ラッキー! 移動する手間が省ける! 馬鹿がいて助かった〜お礼に殺すのは最後にしてあげる。
『いたぞ、撃て!』
情報を受け取ったであろう敵のフラットが二機やってきて、建物の影と屋上からそれぞれ射撃してきた。
同時にハイグランドも反転してこっちに突っ込んでくる。
踏み台が来てくれて丁度いい。
こっちに来たハイグランドは空中変形してビームソードを抜いた。
それに合わせて私は飛び上がり、頭を踏んづけて空に上がる。屋上の奴を撃つのに射角が足りなかったんだよね。
という訳でまず屋上の奴を撃ち殺す。その後建物の影に隠れてた奴もそのまま殺す。
コイツらずっと棒立ちって……舐めてんの?
やる気ないでしょコレ。そんなに死にたかったの?
『トムソン! フレッド! くそ! なんなんだコイツは!? ジャッコの発するプレッシャーじゃないッ!』
地面に堕ちた鳥さんがようやく立ち上がって、こっちに向けてライフルを連射する。こっちは流石にエース用機体貰ってるだけあってちゃんと動いてるな。
とはいえ殺気が見え見えだ。狙いも素直すぎて撃つ前からコースもタイミングもまる分かり。
こんなの避けられない方がおかしいって。
『当てられない……!? ジャッコでハイグランドに付いてくるのか、コイツは!?』
鳥さんは機動力はあるけどそんなに硬くない。堕とすのは楽勝だ。但しエース用機体なのでコックピットは頑丈。だから狙うのは頭。メインカメラをぶっ壊す。
『ぐ……おあぁ!?』
マシンガンで頭部を破壊してやると、ちょこまか飛び回ってた鳥さんはようやく鳴くのをやめて沈黙した。
後はコイツを餌にキャンプして助けに来た奴を叩くだけの簡単な作業ですよ。
目論見通り、次々に三機フラットがやってきた。
よしよしいい子だね〜みんなおんなじ所に送ってあげるからね〜。
三人サクッと殺した後、役目を終えた鳥さんのコックピットにも追加で撃ってとどめを刺す。
「うん、これで七機! 全滅全滅〜」
確か同期の馬鹿が言ってたな。
五機も堕とせば立派なエースだって。
つまり、私はこの日、エースパイロットになった訳だね。
それから地球を脱出して本国に帰った私は、今回の功績を認められて軍学校を飛び級で卒業。前線の部隊に配属させられて、再び地上に逆戻り。
行ったり来たりでもう疲れたけど……まあ、挨拶はちゃんとしないといけない。
上司のオッサンに敬礼しつつ、言う。
「はじめまして。本日付けで第四小隊に配属された新人です。エースパイロットやってます」
なんか生意気だ、とかで上司のオッサンキレ始めたな……いきなりキレるとかドン引きなんだけど……私ここでやっていけるかなあ?
とりあえず怒られるしもう挨拶すんのやめとこ……。
●ハイグランド / HIGH-GROUND
連合軍の万能可変機。
機動性はピカイチなエース用機体。
背部に翼の様な大型スラスターがあり、変形すると戦闘機の様な見た目になって高速飛行が可能になる。
機動性を重視しており、装甲は比較的軽量。
とはいえジャッコのマシンガンで倒すのは至難の業だろう。
コストが高く余り生産されていないので、エースでも乗れない場合がある。
その場合、代替品としてフラット・カスタムが支給される。
●ナナシの生身での喧嘩の強さ
パイロットとしての腕前同様、めっちゃ強い。
倫理観が終わってるので、相手の急所を躊躇なく狙える。
それだけでなく何故か十三歳の女の子とは思えないぐらい力が強い。
合宿の教官役をしていた軍人さんは何の前触れもなく突然股間を強打された後、顔が腫れ上がる位ボコボコに殴られてドアの前に捨てられた。
かわいそう。