新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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 タイトルがごちゃついてきたんで手直しを考えています。具体的には各編を章管理システムで章にしてしまおうかと。

 整理に伴いしおりなどにズレが発生するかもしれません。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。



二十話 新人と嘘つき

 

 どーも、新人です。

 ようやく怪人クラゲマンの中に侵入出来ました。

 

 ここまで大変だったよ……三本角の視界に映らないようにスニーキングしながら登ってくるのはさ。

 よりによってコックピットが頭部にあるんだもん。お腹とかにあればもうちょい楽だったんだが。

 

 ぶっちゃけこれもう間に合わないかなー、って思ってたんだけど想像以上にポンコツが粘ってくれた。

 お陰でルエルエ様を背負って、岸まで泳ぐ事にはならずに済みそうだ。まじサンクス。

 

 でもぶっちゃけそんな事どうでもいい。

 問題は……だ。

 

 怪人クラゲマンのパイロットも、怪人クラゲマンだったって事だよ!

 

 何だあのクソダセェヘルメットは!?

 クラゲじゃん! ちょっとアンテナ付いてるだけで見た目クラゲじゃん! コイツもクラゲに食われたクラゲマンじゃん!

 

 思わずガン見しちゃったよ……何だよあのクラゲ。

 ホテルではつけてなかったよな……?

 

 クラゲマン専用のなりきりコスプレヘルメットかよ……コスプレしないと乗れないなんて、やっぱりこの機体には乗りたくないな。不思議だ……マッキガイが超良機体に見えてきた……。

 

「も……のの、け……ッ!」

 

 おっと、クラゲヘルメットがあまりに衝撃的すぎてつい当初の目的を忘れてしまっていたよ。

 ルエルエ様だ、ルエルエ様。助けに来たんだったそーだった。

 

 壁際で呆然とこっちを見つめているルエルエ様の方を向いて手を振ってみる。おーいもう大丈夫だぞー。私が助けに来たからなー。

 

「っ狙いはルエリ様かッ!? させぬッ!!」

「んあ?」

 

 怪人クラゲコスプレが急に動き出した。

 腰に帯びていた金属式の剣を抜き放って上段に構えるとそのままこっちに突進してくる。

 

「キエエエエエエエっ!!」

「うっさ!?」

 

 いきなり奇声を発するとかこいつ頭おかしいんじゃねえの!? 咄嗟に両手で耳を塞ぐと、逆さでぶら下がっていた私の身体は支えを失い重力に従って下に落ちる。

 

 頭から地面に落下する私に向かって剣が振り下ろされた。私は足で穴の上部……天井を蹴り飛ばし高速で落下してそれを回避する。

 

「うっ……さいんだよっ!!」

 

 回避後、地面に両手をついて身体を押し出し、クラゲコスプレの腹部にキックを放つ。

 

 クラゲコスプレはゴフ、だか、グハ、だか呻きながら吹っ飛んで壁にぶつかった。

 ふん、馬鹿め。私が怪人如きに負けるか……正義は必ず勝つんだよ!

 

 クラゲコスプレを撃退して邪魔者がいなくなったので、ルエルエ様に近づく。ルエルエ様は怯えた様にぷるぷる震えながらこっちを見た。

 

「生身でバナンに勝った……? あ、貴方は、一体何者なのですか……!?」

「帝国軍の兵士だけど」

 

「軍の? お父様……いや、早すぎる。そうなると考えられるのは……もしやこの反乱自体が────?」

 

 なんか考え事始めたんだけど……後にしてくんないかなあ。とっとと脱出しないと、ポンコツがいつ沈むか分からないんだが。

 

「ま、待てッ……! 貴様……!」

「お……?」

 

 あのクラゲ野郎……まだ立ち上がる元気があったのか。流石はテロリスト共の親玉怪人、といった所。もじゃ男みたいなワンパンで沈む雑魚とは一味違う。

 

「貴様の様な……どこの部隊とも知れぬ者にッ……ルエリ様は、死んでも渡せんッッッ!!」

「バナン……貴方は……」

 

 ルエルエ様がなんか言ってる。ひょっとして知り合いだったのか? まあ知り合いが襲ってくるなんてよくある事だよなー……大人なんてそんな奴らばっかりだし。

 

「ルエリ様から離れろっ物の怪ェ!!」

「やだけど」

 

 折角助けに来たのに離れてどうすんの? お馬鹿?

 

「キエエエエエッ!」

 

 げ、またそれかよ! うっさいんだよ!!

 ムカつく……! そっちが武器使うんならこっちも武器を使ってやる!

 

 私の武器、それは二本の指。

 チョキだ!

 

 剣の軌道に対して合わせる様にチョキを繰り出す。振り下ろされる刃を見切りチョキの形に開いていた指を閉じる。すると剣はピタリとその動きを止めた。

 

 手刀という言葉があるだろ? あれは手をパーの形にしてチョップする技だよな。って事は剣とは言わば、パーな訳だ。

 

 残念だったな。パーじゃチョキには勝てない。このジャンケン勝負は私の勝ちだ。

 

 掴んだ刃を横にへし折って武器を壊しつつ左手で顔面をグーパンチ。クラゲコスプレは後ろに吹っ飛んでいく……あれ? グーでも勝てたな? お前のパーざっこwww。

 

 言っとくけどこれで終わりじゃないぞ、私は学習をする女なんだ。アイツがしぶといのは分かったからな。やっぱり怪人の親玉は必殺技で倒さないとダメだよね。

 

「必殺────サメキック!!」

 

 ジャンプした後、空中でカッコよく一回転してから放つ飛び蹴り……サメキック! 

 

 こないだポンコツと見たクソ映画『サメンライダー』で鮫怪人シャークマンが使ってた必殺技だ。映画では残念ながら主人公の使う伝説の聖なる釘バットに敗けて死んだけど、どれだけピンチになっても諦めずに人間を殺していく勇姿には感動させられた。

 

 そんな思い出の必殺技だ! クラゲなんかに負けるか! こっちはサメだぞサメ! 強いんだぞ!

 

「死ねぇ!!」

「ガッ!? は……ぁ……」

 

「バナン……!? バナンっ!」

 

 倒れ伏した怪人クラゲコスプレの腹に見事ヒット! 怪人は床にめり込み白目を剥いて血を吐き出した。私の完全勝利だな。

 

 じゃあルエルエ様と一緒に脱出するぞっと。

 呆然としているルエルエ様に近寄って腹を掴み担ぎ上げる。

 

「きゃ!?」

 

 これでよし。後は脱出するだけ!

 

「ま……待……て……ぇ……!!」

 

 げ、まだ生きてんのかよ!?

 こっちは必殺技撃ったんだぞ? そこは死んどけよ〜超空気読めないじゃんコイツ〜。

 

 もういいや、無視無視。

 ルエルエ様は助けたし、後はしーらない。

 

「じゃあね〜」

「待っ!? ぐ……う……!?」

 

 最初に入ってきた穴から下に飛び降りる。

 ほらポンコツー! 帰ってきたぞー! 受け止めろーい!

 

『了解です、マスター』

 

 すぐにポンコツの操縦するチュナが飛んできて、海と水平になる様にお腹を上にした。そうすると丁度剥き出しのコックピットが私達の真下に来たので、そのまますぽりと中に入る事が出来た。

 

「ふぅ……ただいま〜」

『おかえりなさいませ、マスター』

 

 あー疲れたーポテチ食いてー。

 ぽいっとルエルエ様をシートに投げ捨てて「きゃあ!?」私もその上からもたれかかり「う!?」手足を投げ出して目を瞑る。

「な、な、なぁ……!?」

「うぃー私は寝るからポンコツ〜後よろしく〜」

『了解しました』

 クラゲマンはくたばったし、三本角は何か捕まってるし、近づいて来てる奴いるけどこっちに敵意ないっぽいし。

 

 とっとと離脱すれば堕ちる事もないだろ。操縦はポンコツに任せて私はゆっくり休むわ〜。

 

「ね、寝る!? わ、私は布団ではありません! どきなさい無礼者っ! ど、どいて────!」

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

「ル……ルエ……リ……様……」

 

 主君の名を口にしながら、バナンは己の限界を悟っていた。最早指先一つ満足に動かせない。

 

 あの物の怪の強さは、想像を遥かに超えていた。

 

 これでもバナンは帝国軍の最新式サイボーグにして、剣を取っては宇宙一と称えられた程の男である。

 

 強さには少しばかり自信があった。しかし奴には、全くもって歯が立たなかった。

 

(一体……あの物の怪は何だったのだろうか……?)

 

 こちらの事情などまるで意に介さず、ただただ、バナンに死を運びに来た絶対強者。まるで……死神の様だ、と思考に過った瞬間バナンは笑う。

 

(何を考えているのやら……物の怪だの、死神だのと)

 

 死の間際にそんなファンタジックな事を考えているのが不意に馬鹿らしくなった。きっとあの少女も格闘技を学んだ特殊任務用のサイボーグか何かだったのだろう。私の反乱を事前に知った何者かが、ルエリ様を救出する為に遣わしたと考えれば辻褄も合う。

 

 自分は純粋に、戦いに敗れたのだ。であれば、潔くここで果てるのみか。最早目蓋も重い。このまま眠って────。

 

『……ねえ、聞こえる?』

「む……?」

 

 死にかけのバナンの耳に、女の声が届いた。

 ヘルメットを介しての通信である。

 この回線を知っている者は少ない。故にバナンは、すぐに通信相手の見切りをつける。

 

「ライア・ソシエ少尉……か……!? お主、今まで何をしていた……!」

 

 今回の作戦の為に宰相のダルソンから送られてきた強化人間……ライア・ソシエ少尉。作戦の開始前に街に飛び出して以降消息を経っており仕方なく彼女抜きで作戦に踏み切ったのだが、このタイミングでかけてくるとは、一体どうしたというのか。

 

『遅くなったけど、任務を遂行させて貰う』

「なに……!?」

 

 バナンは顔を上げ、モニターを見る。

 そこには空の向こうから飛翔する、一機のアークの姿があった。

 

 カラーリングはワインレッド。

 帝国軍らしいモノアイに、どこか女性的な細身で流線型のデザイン。触覚の様に細く後ろに伸びるツインアンテナ。特徴的なのはお尻から生えている鎖が幾重にも重なり合っている様な長い尻尾だろう。

 

「あれは────【シュリンピー】!」

 

 ライア・ソシエの専用機シュリンピーの姿であった。シュリンピーは颯爽と戦場に降り立つと……尻尾をなめらかに振るわせる。

 

 尻尾に秘められた機構が動き、内部から三日月状の飛行物体が幾つも飛び出してきた。

 

『いって────エナジー・ドローン』

 

 エナジーによって自律飛行するドローン。

 それらが空中を飛び回り、未だ縛り付けられたままのコスモスに近寄る。

 

 そして三日月の弦となるべき部分に備え付けられた、ビームキャノンの矛先をコスモスに向けた。

 

『ああ……!?』

 

 ベルは一瞬、死を覚悟した。

 しかしベルの予想に反してドローンが攻撃したのはコスモスを拘束している触手の方。ベルは死ぬどころか窮地を脱し自由となる。

 

『助けてくれたの……!? ううん、今はあの大きい奴を!』

 

 それだけではない。

 戦場に散らばったドローン達が、一斉にクララゲーの身体を攻撃し始めた。崩壊していくギガアーク……中に残ったバナンが突然裏切ったライアへと叫ぶ。

 

「何をするライア・ソシエ!? 血迷ったか!?」

『……ダルソン様から伝言。【助かった。君のお陰で反乱勢力を炙り出せたし、その主力を討つ事が出来る。君は実に良き友だったよ】……だって』

 

「な、何……!? 何だと……それは……バカなっ……!? ダルソン……お前は、お前はァッ!! 裏切ったのかァァァダルソォォォンッ!!」

 

 慟哭するバナンの事などつゆと知らず。

 ただ街を守ろうと無心にベルは上空へと飛び、クララゲーへライフルの銃口を向けた。上からならば、虎の子のライフルも使用出来る。

 

『ごめんなさい、撃ちたくないけどっ────撃ちますっ!』

『さようなら、バナン近衛騎士長殿』

 

「こんなっ……こんなバカなぁぁぁぁ!!」

 

 コスモ・ライフルから放たれる強力なビームの奔流がクララゲーの頭部を射抜いた。衝撃で大きな身体が海へと倒れていく。

 

 水柱と共に沈みゆく機体。

 それを背景に、コスモスとシュリンピー。二機が相対する。

 

 ベルは警戒して、動けずにいた。

 助けてくれた事には感謝しているものの、シュリンピーはモノアイ……即ち帝国軍の可能性が非常に高いのである。

 

 よって本来はお礼などするべきなのだろうが……何も言えずにいた。すると、意外にも向こうから、通信が入ってきた。

 

『未確認機のパイロットへ告げる』

「え……その声、ライア!?」

 

『先程貴君が撃墜せしめたあれは、我が帝国軍の裏切り者である』

 

「待って! ライア……ライアだよね!? 帝国軍!? な、なんで……!?」

『…………貴君がどこのどなたかは存じ上げない。よって、ただの民間協力者であるとし、帝国軍を代表してお礼を申し上げる』

 

「存じ上げない……って」

『本来、我が軍の領域で無断に飛行するアークは撃墜しても良い事になっている。しかし反乱鎮圧に協力して頂いた点を考慮し攻撃は控える事にする……今は、まだ。正式な指令を貰っていないから────』

 

「────っ!」

 

 ベルはようやくライアの意図に気付いた。

 それは、見逃してやるからすぐにこの場を立ち去れという言外の警告に他ならなかった。

 

「……さっきは助けてくれて、ありがとう。それじゃあ────」

 

 ベルはそれだけを告げて、戦闘空域を離脱。

 すぐに通信をティアナに入れる。

 

『ベル! 無事か!? 首尾はどうだ!?』

「私は大丈夫……それよりすぐに出港の準備をして! 急いで逃げないと……!」

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

 どーも新人です。

 さっきから隣の奴がうるさすぎて眠れません。

 

「貴方も帝国軍の兵士ならば、私が誰か知ってますよね!? こんな態度許されるものではありませんよっ!? 今あらためれば許してあげますっ! 直ちにこの無礼行為をやめ、在るべきをなさい!」

 

 まじうっさい……!

 これじゃ寝るどころかノイローゼになっちゃうよ〜。

 

「聞こえているのですかっ!? ねえっ!」

「あーもーうっさい!! そもそもキモいんだよお前さっきからっ!!」

 

「んな……!? お、お前!? キモっ!?」

「心で思ってる事と言ってる事が全然違っててキモい! 泣きたきゃ泣けばいいだろ! 私に八つ当たりして逃げんのやめろ!」

 

「わ、私は泣きたくなどなっていませんっ!」

 

 んな事言っても直感で分かるんだよこっちは。

 ホテルで見た時から心の中では泣きそうだった癖に、外面が全然違うんだもん。気持ち悪いったらありゃしない。

 

「っ……貴方は……! 私の心が読めるとでも言うのですか?」

「読める訳ないじゃん。おバカ?」

 

「なっ……あ、貴方が言ったんじゃないですか!?」

「私は自分の直感に従ってるだけ。自分は他人と違って嘘つかないもん」

 

「嘘を……?」

「他人……特に大人は嘘ばっかつくからな。信じられるのは自分だけだ。でもお前は自分にも嘘ついてる。それが気持ち悪い。自分が自分の味方しないでどうすんの?」

 

「っ!? し……仕方ないのです。私は……皇帝の娘、ですから……気丈にあらねば、ならなくて。だから……」

「ふーん。だから?」

 

「え……」

「ここはコックピットだよ? 皇帝の娘だったら敵は撃つのをやめてくれるの?」

 

 関係ないんだよ。

 皇族だか何だか知らないけど、【ここ】じゃ関係ないんだ。

 

 立場とかそんなもん、誰も気にしちゃくれない。相手が何だろうと、戦場で止まる奴はただの馬鹿。

 

 何があろうと立ち止まらず、振り返らず。戦わなきゃいけないんだよ。

 

「たた……かう」

「その時頼りになるのは自分だけ。だから、自分は疑っちゃいけない。自分に嘘をついちゃいけない。自分の思う通りに、自由にやる」

 

 それがパイロットだ。

 エースパイロットの私が言うんだから間違いない。

 

「……パイロットとは、随分と自分勝手なのですね」

「まあね。そんなんだから私は、アークに乗る事自体は嫌いじゃないんだ。戦うのは色々とめんどいし、なんか疲れるから嫌だけど」

 

「【ここ】に座っている間は……私も、自分勝手で、いいのでしょうか……」

「やりたいようにすれば〜? うっさくなければ別にどうでもいいし」

 

 ルエルエ様は暫く黙って俯いていたけど、その内肩を震わせて、少しづつ泣き始めた。

 

「私は────本当は、初めからずっと。怖かった……怖かったよぉっ…………!」

 

 とりあえずめっちゃうるさいのは止まったけど、しくしく泣いてるのもそれはそれでウザいな。

 ……まあ、さっきよりはずっといい、か。眠いし、私は寝るだけだ。

 

 さっきと同じ様に手足をシートに投げ出して目を瞑る。とはいえ隣のルエルエ様が邪魔すぎて上手く手を広げられない。仕方ないので手をルエルエ様の身体に回して抱き締める。

 

「あ……」

 

 抱き締めるとあったかいから、布団みたいで丁度いいかも。ルエルエ様は初め身体を固くしてたけど、段々力を抜いて頭を私の胸に委ねた。

 

 向こうも寝るのかな……陸まではまだまだかかりそうだ。壊れたハッチの向こうから、人工太陽の作り出す夕焼けが煌めいている。眩しいから角度変えろポンコツ。

 

『承知しました』

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

 コロニー・サードのとある、帝国軍専用軍港。

 ベルを見逃したライアはそこに停泊している戦艦ドルフィンへと静かに着艦した。

 

 甲板には整備員達の他に、艦長であるエレノア・グレイス中佐とアーク部隊の隊長を務めるリカルド・ドッグマン大尉の姿があった。

 

 機体から降りたライアはエレノアに向かって敬礼をする。

 

「バイオ機関から来た強化人間……ライア・ソシエです。これからお世話になります」

「ええこちらこそよろしくお願いします、ライア・ソシエ少尉」

 

 エレノアはライアに敬礼を返し微笑んだ。

 その笑顔の裏では人工エクシードであるライアを値踏みする様に素早く視線が動いている。

 

 その視線を受けて、ライアも薄く微笑んだ。

 こういった自分の価値を測ろうとする他人の視線にはもう慣れた。大人というものは、いつも他人を測ろうとする。みんな同じだ。故に対処方法も同じ。

 

 自分は有能であると、価値を分からせてやればいいのだ。そうやって、ライアは生き延びてきた。

 

 故に笑顔を作る。本心を裏に隠す。

 好きなだけ見るといい。私は余裕だ。

 何を望もうと応えてみせよう……と。

 

(とまあ、そんな所かしらね。人工エクシード……意外に可愛い所もあるわ。ナナシ・モブよりも扱いやすくていい)

 

 互いに交わす笑顔の中で、様々な思惑を胸に秘めながら会話を続ける二人。

 

「宰相閣下からの指示通り、我々は今回のテロに不干渉を貫きました。これで良かったのよね?」

「うん……艦長さんの協力のお陰で、今回のミッションは無事に終了した。ダルソン様より後続の指令を預かってる……これを」

 

 ライアはデータチップを取り出してエレノアに渡す。エレノアは受け取ったデータを端末で読み込み中身を確認した。

 

「……これは」

 

 一瞬、顔が険しくなる。

 そこに描かれていた次の指令の内容は……所属不明艦の追跡。

 

 先日のコロニー・セブンス襲撃の際に現れた謎の船と三本角の機体。これらを追跡し、可能な限り傷つけず鹵獲。最悪の場合、技術がネーゼ・地球連合に渡る前に撃墜する事……と書かれている。

 

 三本角……ナナシとリカルドの交戦記録は、エレノアも確認している。

 

 ここでナナシの記録について触れておく。

 彼女の残す戦闘記録は、とても人間が目視で確認出来る映像になっていない。

 これはナナシがカメラで視認せずとも直感だけで判断して色々機体を動かす為である。

 

 なのでナナシの交戦記録はどれも映像上だと、無関係な場所をぼーっと見つめて飛び回っていると思ったら、いつの間にか戦闘が終わっていたり、ぐるぐると高速に回転していて最早訳が分からなかったりする映像だらけになってしまう。

 

 エレノアはそんな映像達を興味本位で色々解析していた。だから三本角との戦いでナナシがどう戦っていたのかもまあ大体は把握しているのである。

 

(三本角か……上が目を付けるのも頷けるわね)

 

 ナナシ・モブを退けた実績のある機体。

 いざという時の抑止力として是非とも欲しい筈だ。

 

 更にエレノアとしては、気になるのは機体だけではなく。そのパイロットもまた、実に気になる存在であった。

 

 交戦記録を見るに、三本角のパイロットは後ろからの攻撃を何度も回避している。こういった不可解な動きはナナシ・モブもよく見せていた。

 

 つまり三本角のパイロットは……天然のエクシードの可能性があるのだ。

 

(それを知ってか知らずか……指令にパイロットの捕獲については書かれていない)

 

 ナナシ・モブを切り捨てようとしている事と言い、上は余り天然のエクシードに価値を感じていない様だ。それが何を表すかまでは、まだエレノアには分からない。

 

 しかし、面白い。やっぱりエクシードは最高の役者である、とエレノアは再認識した。

 

「ドルフィン艦長として、指令を受諾します。貴方にも働いて貰うわよ、ライア少尉」

「……了解」

 

 

 

 艦長らとの会話を終えたライアは、リカルドに案内され戦艦内の私室に入る。

 一人になったライアはベッドに腰掛け、ポケットからカボチャマンのキーホルダーを取り出して何の気なしに眺めていた。

 

「ごめんねベル……私、嘘つきだから」

 

 ライアの呟きに、応える者はいなかった。

 

 

 

 

 

●サメキック

 ナナシの必殺技。

 空中で無駄にくるっと回ってサメの牙の様に鋭い飛び蹴りを放つ。

 カッコいいけど動きに無駄が多すぎるので普通に蹴った方が遥かに威力が高い。

 

 

 

●シュリンピー / Xuelin-p

 人工エクシードの完成形であるライア・ソシエ専用アーク。

 ワインレッドのカラーリング、どこか女性的な流線型のシルエット、後方に細く伸びたツインアンテナ、鎖が重なり合っている様な尻尾を持つ。

 

 武装はアンジー等のエース用機体に見られるオーソドックスなビームライフルとビームソードに加え、帝国軍の中では先駆けてビームシールド発生装置を持つ。

 

 最も特徴的なのは、尻尾の中に隠した三日月状のエナジー・ドローン。ドローンは合計で八機存在し、全て脳波で操作可能。

 

 常人には難しい脳波操作も、エナジーとの融和性が高いエクシードならば補助器無しで脳波を伝達出来る。その為、本機の真価はエクシードにしか発揮出来ない。

 

 

 

●バナン・コンナー卿

 ルエリ・エル・イルーワ様の近衛を務める筆頭騎士で、その長。帝国最新鋭のサイボーグ手術を受けており、生身での実力は帝国一とも言われている。多分、もじゃ男の三倍は強い。

 

 ナナシのチョキの前に敗れ去った一撃も、常人からしてみれば一瞬で九回位斬られる超必殺剣だったのだが、チョキには勝てなかった。無念。

 

 当然アークの操縦技術も一流で、隙がない。

 

 仏頂面で愛想のない男だが平和を愛していた。長く続く戦に心を痛めていた所を、帝国宰相ダルソンに利用される。

 

 彼は賢く、強い男だったが、政治の素養は無かった。ひとえに、人を信じすぎたのだ。

 

 

 

●ルエリ・エル・イルーワ

 皇帝の娘。上に二人の兄がいる。

 今年で十二歳になったばかり。

 才気煥発で精神性も大人。人の裏を読む力や幼いながらも持つカリスマなど、この年から強い政治の素養を感じさせる。

 

 彼女にとって賢さとは、即ち生きる為に必要な手段だった。

 

 人は、温かい。名前も知らぬ兵士に抱き締められ、彼女は初めてそれに気付いた。

 

 

 

●新人体験記その2 人質救出編

 高級ホテルに突如現れたテロリストを薙ぎ倒し人質となったルエリ様を救いましょう!

 

 スタート地点は一階のロビーから。装備一切無しの状態で人質になっている所からです。

 

 相手のテロリストは最新式の装備で全身を固めている上に隊長は戦車より強力な新型サイボーグとなっていますが……まあエースパイロットならここは余裕でしょう!

 

 なので特に言う事は無いです。適当に倒してから最上階に行きましょう。そこでイベントが発生して戦闘機から機銃で撃たれます。軽く避けたら、そのまま一階まで飛び降りて相手のアークを奪いましょう。ここからが本番で────。

 

リカルド「な、何度やってもアークにさえ乗れない……!?」

 





●次回予告
 プログラムという電子の海に、見え隠れする陰謀という氷塊。
 どうやら、バイオ機関の謎の根は深く重い。

 兵士の運命は、上層部が遊ぶ双六だとしても、
 出た目でどう動くかは駒達次第。

 鬼と出るか、蛇と出るか、謎に挑む重力井戸の端。

 次回「灼熱の空を越えて」編。
 ナナシ、敢えて火中の栗を拾うか。
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