新人です。エースパイロットやってます。 作:今井亜美(ハーメルンのすがた)
幕間 研究日誌【MB-774】
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機関所有の孤児院パン・ドゥーラへ新たに13名の子供を補充予定。
これから個別にエクシード適性があるか実験する事になる。私の担当は、【MB-774】だ。
彼女のプロフィールに特筆すべき点はない。年は10歳。性別は女。小柄で少し痩せ気味。両親共に戦火に巻き込まれ、孤児となり、機関に引き取られる……よくあるケースだ。
事故のショックからか記憶が曖昧になっており、感情の発露に乏しい。病室で初めて会った時は、自分の名前さえ思い出せない様子だった。これもそこまで珍しい話じゃない。こういった子供は洗脳がしやすく、機関では寧ろ歓迎される。
名前が無いので「名無し」と呼ぶとそれが自分の名前だと勘違いしだした。どこの世界に子供に名無しと名付ける親がいる? 少し考えれば名前じゃない事くらい分かる筈だ……MB-774の知能は相当低いかもしれない。
それにしても名前が『名無し』とは……なら苗字はモブか? MBだし丁度いいか……とか考えていると、突然ベッドの上に立ち上がったMB-774に顔面を殴られた。
いきなり人を殴るとは……案の定知性が低いみたいだな! 流石に頭にきたので表の名前は本当に『ナナシ・モブ』で登録してやる事にする。
その後孤児院移送前に病院で軽く体力テスト、知能テストを行ったが、結果は共に0点。本人にやる気が欠片もなく公の場ではまともにデータを取る事さえ出来なかった。まあ知能テストはやるだけ無駄か。
私見だが、彼女が実験に耐えられる様には到底見えない。多分、すぐに死ぬんだろうな。
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と、とんでもない事が起きた……!
我々は遂に求めていた者に出会ってしまったのかもしれない。
事の発端は、テストを拒否したMB-774を強制的に動かす為、従わない者に電流を流す特殊な装置が埋め込まれた首輪を着けようとした時だ。
お洒落なチョーカーだと嘯き、ある職員が首輪を嵌める。MB-774は平然としている様に見えたが、内心ではかなり怒っていたらしい。
次の瞬間、首輪をあっさりと引き千切ると職員の腹を力強く殴った。職員は勢いよく吹き飛び、壁に激突。骨折に内臓破裂……後に死亡が確認された。
MB-774は顔色一つ変えない。倒れた相手をボーッと眺めた後、飽きたのか手に残った壊れた首輪を弄り始めた。
首輪は金属製で千切れる様なものじゃないし、パンチ一発で大人の男を吹き飛ばした。こんなの10歳の少女が持っていていいパワーじゃない……!
彼女がサイボーグでも、投薬を重ねた強化人間でもない事は事前調査で既に判明済み。
つまり、MB-774。
彼女は……エクス以来となる天然のエクシードかもしれないのだ!
すぐに個室に移動させ、特別待遇を与える事にする。万が一にも死なす様な事があってはならない。
というか今考えると、最初に殴られた時かなり危なかったって事か……なるべく怒らせない様にしないと。
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職員が死亡してから、MB-774に対する実験は暫く見合わせる事となった。
彼女が実験に非協力的な態度を取っていたからである。
どうしたら協力して貰えるのか……まずは彼女の事を観察し、その懐柔方法を探らねばならない。歯痒いが、時間はある。根気強くいこう。
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観察の結果、彼女の事が徐々に分かってきた。
彼女は基本的に怠惰で、意欲が全くない。
オモチャやゲーム(余計な情報を与えぬ様、ストーリーの無い単純なものに限定)などを与えてみたが、飽き性なのかすぐに興味を失ってしまった。これでは懐柔出来ないだろう。
他の子供と交流させたりもしてみたが、非社交的で、一人でいる事を好んだ。
最近は複数人でやる想定で与えたトランプを使って、一人黙々とタワーを作っては崩し、作っては崩している。それにしても器用だ……タワーを組むスピードがあまりにも速い。エクシードは手先も器用なのだろうか。そこら辺のデータも調べたい……テスト項目に追加しておこう。
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遂に懐柔出来そうなモノを見つけた!
ポテチだ! MB-774はポテチを好む!
子供ならオヤツが好きなのでは? と考えた時は我ながら浅はかすぎると思ったが上手くいった! 初めて与えた時の目の輝かせようといったら!
更に観察の結果、ジュースもコークを好んで飲んでいる事が分かった。
この二つを餌にすれば、実験を行えるかもしれない……! 明日、彼女と直接交渉してみる予定だ。
上手くいけばいよいよエクシードの身体、知能データを取る実験を開始出来る。今から楽しみだ……!
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また失敗した。これで何度目だ?
MB-774は明らかに手を抜いている。
だというのに他の職員は全く気付かず、MB-774が叩き出す前代未聞のデータに喜んでいる。私とて、初めはそうだったとも。
しかし、専属として奴を長く見てきた私には分かってしまった。これまで我々が取ってきたデータは、奴の真の強さを欠片さえ反映していないだろう事に。
命の危険に晒されれば、とも思ったが、我々人間の想定する危険など、奴にとってちょっとした運動程度でしか無いようだ。いや、ひょっとすると運動とさえ思っていないのかもしれない……。
危険レベルは既に最上位を超えている。これ以上は……いや、もっと負荷を高めなければ……!
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やはり、どう考えてもおかしい。
幾らエクシードと言っても同じ人間から生まれている筈だ。ここまで予測不可能な事があるか?
エクスの残したデータとも明らかに差がある。
MB-774の能力は高すぎやしないか……?
コイツは、本当に我々の求めたエクシードなのだろうか……?
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奴は人の皮を被った化物だ。
一刻も早く処分しなくては。
このままでは帝国、いや人類全てが危ない……!
最近のMB-774は映像作品の視聴を要求してきている。これは、外の世界に興味を持っているという事。あまりに危険な兆候だ……!
誰が見ても面白くない映画をチョイスして渡せば諦めるか……? 処分の見通しがつくまでは、それで誤魔化そう。
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今日は毒殺を試したがダメだった。人間の致死量を遥かに超える量の無味無臭な猛毒をポテチとコークに混ぜて出したが、奴は目にした瞬間、察知したらしい。途端に機嫌が悪くなり、心底肝が冷えた。
結局食べだした時は驚いたが、糠喜びだった。奴は今日も体調一つ崩さず生きている。
毒が効かないならどうする?
奴を確実に処分する方法はなんだ?
最新式のレーザーガンなら流石に防げないだろうか……? クソッ人間用のビームライフルがあればっ!
アークパイロットとして前線にだし、死ぬ事を祈るか? いや時間がかかりすぎるし、何より機関が許さないだろう。
再三危険を訴えたが、上はまだこの化物を天然のエクシードと信じきり、データを欲しがっている。
私に言わせれば奴らは判断が遅すぎる。エクシードだとかそうでないとか、もうそういう次元の話ではないと何故分からないんだ。
奴がその気になれば、我々人間に勝ち目はないんだぞ!?
もういい。
上への報告は後でどうにでもなるだろう。
明日、ポテチに気を取られている所を強化ガラス越しに後ろからレーザーガンで撃つ。これでこの化物ともオサラバだ……!
そう覚悟を決めて奴の部屋の前から去ろうとした時、珍しく奴が口を開いた。
「おーいトランプくれー。明日必要になるっぽい」
何を言うかと思えば玩具の催促か……他の職員に渡してやる様に伝えた。
……トランプが明日必要になるって、どういう事だ?
コイツの考える事は最期まで分からなかったな。
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前任者が死亡したため、今日からMB-774の研究記録を取る事になりました。彼はMB-774の観察中に突然殺害されたらしいです。死体からは最新式のレーザーガンが発見されましたから、MB-774の暗殺でもしようとしたんでしょう。
今回の事件でMB-774にとって防弾強化ガラスなど壁にもならない事が判明。あっさり壊されてしまいました。幸い、餌を盾にする事で脱走は防げましたが。今は部屋で大人しくトランプ遊びをしていますね。
壁は新調しないといけませんが損失は軽微と言えます。むしろデータが増えた事を喜ぶべきか。次の壁は戦艦やアーク用のクリア装甲で作りましょう。流石に壊せない筈です。
それまではMB-774と接触する時は気を付けなくてはなりませんね。
アークといえば……MB-774の、ひいては天然のエクシードのパイロット適性はどうなのでしょうか?
気になる……試験項目に追加しましょう。まずは前提となる基礎知識から教えねばなりませんね。
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MB-774は思った以上に賢いですね。
教えた事をまるでスポンジの様に吸収する。
質問も的確で、鋭く、革新的。
基礎知識だけ教えるつもりでしたが、ついちょっとした専門知識まで教えてしまいました。
猿に芸を仕込む調教師はきっとこんな気分なのでしょう。
ですがそれも今日まで。
そろそろお勉強は切り上げて、パイロットデータを取りましょうか。
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前任者は正しかった。
奴は人間じゃない。ただの化物です。
こんなスコア……アークパイロットの適正があるどころではない。勝てない……人間の歴史がどれだけ続いても、決して辿り着かない遥か先にいる。
私は、今までMB-774の事を、少し賢いだけの猿だと思っていました。
猿の身体能力が人より高くても許されている理由は、彼らが猿だからです。知能が我々人間より劣っているからです。もし猿に人と同じ知能があったら。人の世界など簡単にひっくり返ってしまう。
MB-774はただの猿ではない。
人より遥かに強い身体能力を持ち、人並み以上の知能を有し、人では決して勝てない程アーク操縦技能に優れたスペシャルな猿。
人より上等の猿など、生きていていい筈がない。
MB-774の存在は、決して許してはならない。
我々人類の為にも。
奴を殺さなければ……!
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遂に上層部から許可が降りました……!
上も奴の異常性がやっと理解出来た様です。
機関との繋がりを明るみにしてしまうと余計な忖度をされる可能性がありますからね……一般徴兵という形で軍学校に送りましょう。とはいえ配属先は既に最前線……それも敗北濃厚な地球の南北戦線と決まってますがね……。
生身の人間に殺せないのならアークに乗せてしまえば良い。如何にMB-774と言えど一般パイロットになれば、乗るのは本物の動く棺桶。
シミュレーターの腕前がどれほど高くとも、所詮はシミュレーション。本物とは全く違います。きっとギャップに苦しめられ、すぐに死ぬ筈。
これでさよならです、MB-774。
いや、敢えてこう呼びましょう……【ナナシ・モブ】。
貴方の遺したデータは機関の……ひいては私の研究に大いに役立ってくれるでしょう。
研究員「ナナシ? 何だモブか……」
ナナシ「!」バキィ!
もしもあの病室の中で名無しなんて呼ばれなければ、戦場も知らず幸せに生きていた……かも?
唐突に始まる第一回キャラクター人気投票(第二回は未定)
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ナナシ(新人)
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リサ(デカパイ)
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トミー(オッサン)
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ボブ(ボブニキ)
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ガゼル(✝青い稲妻✝)
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エレノア(年増艦長)
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リカルド(優男)
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アイリス(ポンコツ)
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ベル(異常カボチャマン愛者)
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ティアナ(サラダ嫌い)
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メリッサ(泣いちゃった!!!)
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リオ(男の娘)
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ライア(強化人間)
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バナン(怪人クラゲマン)
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ルエリ(ルエルエ様)
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その他(もう感想に自由に書け)