新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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二十二話 新人による新人のための新人教育

 

 戦艦ドルフィンの訓練室。

 シミュレータールームに三人の女子。

 

 女三人寄れば姦しい……なんて言葉もあるが特にそんな事はなく。対してお喋りもないままに、廊下を歩いてきた。

 

 三人の服装は、ライアが飾り気のない緑の軍服。

 ルエリがナナシから借りたわがはい黒猫Tシャツ。

 ナナシが寝起きそのままの子供用パジャマで、まだナイトキャップすら被ったままである。

 

 チグハグな三人はチグハグなまま訓練室に辿り着き、シミュレーターを起動。ナナシとライアはそれぞれ簡易コックピットに乗り込み、模擬戦の準備に取り掛かる。

 

「機体はどうすんの?」

「同等スペックが望ましい……私と同じシュリンピーかアンジーを選択して」

 

「どっちも乗った事ないんだけど……分かった」

 

 ナナシは機体群の中からアンジーを自機に選択した。ぶっちゃけどっちでも良かったが、シュリンピーとかいう名前すら知らない機体よりも、一度は見た事のあるアンジーの方がまだ確実性があって良い。

 

「マップはオーソドックスな宇宙Aにする」

「りょーかい」

 

 お互いの準備が完了し、シミュレーターがバトルフィールドを形成。

 

 ナナシの前にカタパルトの道が出来上がった。

 

「ん。ナナシ・モブ、アンジー。行きます」

 

 ナナシの駆るアンジーが、宇宙の海に飛び出した。

 高揚感は無い。所詮、シミュレーターはシミュレーター。見た目には違いがない程精巧に出来てはいるが、やっぱり偽物の海である。ナナシの感性は全く惹かれなかった。

 

 宇宙に出てすぐ、ナナシはおもむろにアンジーのビームライフルを虚空に向けて────。

 

「ライア・ソシエ、シュリンピー……行くよ」

「えい」

 

 ピューン。

 チュドーン。

 ARK DESTROYED

 

「え」

「はい、私の勝ち〜。じゃ二戦目ね」

 

「待って……待って」

「ん?」

 

「リスキルは、良くないと思う」

「はぁ〜? 何で?? シミュレーターの機能として正常に動作してるんだから、アリに決まってんじゃん」

 

「最初に腕前を見たいって伝えたよね?」

「だから腕前を見せたんじゃん。0秒キル達成だよ? これ以上ないでしょ」

 

「直接戦わないと何も分からないよ……次は私が先に出撃するから。天然さんは、私より後に出撃して」

「めんどくさ……はいはい、後に出りゃいいんでしょ」

 

 

 

 二戦目。

 ナナシより先に出撃したライアは、出撃した瞬間。

 

(────攻撃ッ!?)

 

 何かを感じ取り咄嗟に前方へビームシールドを展開した……が。

 

 

 

 ARK DESTROYED

 

 

 

 攻撃が来たのは、シールドの無い後ろからであった。そのまま貫かれ、呆気なく撃墜判定が表示される。

 

「はい、また私の勝ち〜」

「待って……! 待って。さっき、私より後に出撃してって言ったよね?」

 

「だからちゃんと0.01秒後に出撃したんじゃん。おバカ?」

「…………私の、伝え方が悪かったのかもしれないね。リスキルされると正しい実力を測れないから、私の一分後くらいに出撃してくれる?」

 

「一分〜!? 長すぎでしょ!」

「ハンデになるのは申し訳ないけど、お願い。ポテチ欲しいでしょ?」

 

「欲しい。ハンデとか別にどうでもいいけど……仕方ねえなー……我慢して待つか」

「お願い、天然さん」

 

「ういー」

 

 

 

 三戦目。

 

 今度こそリスキルを逃れ出撃したライアは、急ぎマップ中央やや北東部のデブリ群を目指す。また開幕狙撃されてはたまらない。遮蔽のあるデブリに隠れようという魂胆だ。

 

 デブリに到着した時点で三十二秒が経過。

 ライアは再三の不意討ちに備え、周辺空間に神経を張り巡らせる。

 

 シミュレーターを形成しているのはエナジーだ。そして実際の宇宙にも、場所によって濃度の差はあれどシミュレーターと同様、エナジーが満ちている。

 

 バイオ機関の研究の結果、エクシードは周辺のエナジーと融和する事で、直感的に遠方の様子を感知する事が可能だと判明していた。

 この感知能力の精度や感度は、エクシードそれぞれの個人的資質に応じて変わるという。

 

 バイオ機関屈指の人工エクシード……ライアの感知範囲は5キロを優に超え、最大限に集中さえすればおよそ10キロ先にも及ぶ。

 

 彼女は操縦桿を握りながら、一度深く息を吸って、大きく吐いた。

 きっと今度こそ、まともな戦いになるだろう。

 

(エクシード同士の戦いは私も未体験だけど……恐らくお互いの索敵範囲の差が、勝敗に大きな影響を与える)

 

 互いに遠方の敵を感じられるとすれば、より遠くの敵を感じられる方が有利になるのは、明らかである。

 その分でいけば、ライアは自分の索敵能力に絶対の自信を持っていた。

 

 天然のエクシードの能力レベルがどの程度かは知らないが……己の最長感知範囲である10キロを超える事は、まずあり得ないだろう。

 

(それでも食らいついては来る筈……そこからの撃ち合いが本当の勝負。天然のエクシードの力……ベルの実力を計る試金石にする)

 

 ライアはこの後の戦いに向けて思考を巡らせつつ、集中してナナシが出撃するその時を待った。

 時計の針が一周し、一分が経過する────。

 

 

 

 ────刹那。

 

「ほい、一分」

「え」

 

 ARK DESTROYED

 

「え……?」

 

 無情にも画面に表示された撃墜通知を、ライアは呆然と眺めていた。出撃からピッタリ一分後の事である。

 

 ライアには訳が分からなかった。

 ナナシはまさにライアが撃墜されるその瞬間にまで、シミュレーター内に存在していない筈である。

 

「ど、どうやって……?」

 

 撃墜したというのか。

 困惑するライアの問いに、あっけらかんとナナシは答えた。

 

「そっちのコックピットに腕がめり込む様に出撃したんだよ」

「……?? 出撃位置は、ランダムの設定で……?」

 

「んなもん、メニューガチャガチャやって乱数調整したに決まってんじゃん」

 

「??…………?????」

 

 ライアの脳内に宇宙が広がった。

 返答が意味不明すぎたのだ。

 

 一体何を言ってるのだろう? 

 ……乱数調整? そんな事は不可能だ。

 

 シミュレーターによって形成されるバトルフィールドは直径100kmにも及ぶ球形の広大な三次元空間。そして出撃地点は完全にランダムの設定となっている。

 

 もし設定のまま自然に出撃したならば、ライアの近くにスポーンするだけでも天文学的な確率と言えるだろう。

 

 仮にナナシの言う様に、コックピットと出撃位置が被った為に即撃墜されたと言うのであれば、それが偶然起こる可能性は著しく低い。

 

 しかし。

 

(乱数調整する……というのは、もっと不可能)

 

 表示されてもいないフレーム単位で移り変わる無数の乱数。それらをメニュー操作だけで完全に操り、ピッタリ一分後に、どこかも分からないだろう相手の機体の位相と全く同じ出撃位置に設定する……。

 

(そんな事、私にだって出来ない……けど)

 

 それが『出来てしまう』というのが、天然のエクシードなのだとしたら。

 

(だとしたら……私は。人工エクシードなどという存在自体が────人の思い上がりに過ぎなかった……?)

 

 よくよく考えてみると。

 先の二度のリスキルについても、そうだ。

 

 出現位置と出現タイミングを完全に見切らねばリスキルは不可能……常人からすれば、それだけで神業に等しいが────正直言ってこれだけならば、ライアにも可能だ。

 

 しかし肝心なのは、その後。

 位置とタイミングを把握した後の、狙撃部分。

 

 目隠しをしたまま狙撃が出来る人間がいないのと同じ様に。

 

 自分の感知出来る範囲の外がスポーン地点だったならば、狙撃なんて出来やしないだろう。

 

(あの二度のリスキルは偶然、天然さんの近くにスポーンしてしまったから起こったのだと思ってた……けど)

 

 そうでなかったとしたら。

 

 ライアはすぐにシミュレーターを操作し、先の戦闘のログを確認する。

 

(────これは……!)

 

 映し出された位置情報によると互いの距離は、一戦目、二戦目共に、10キロから僅かに離れた位置となっていた。

 

(私の感知範囲外ギリギリっ! こ、これは、偶然じゃ、ない……!?)

 

 もし、彼女が本当に乱数調整で出現位置を変えられるなら。

 

 もし、先の二戦も。

 位置を意図的に、工夫していたとしたら。

 

(彼女は、私の感知範囲を完璧に理解して……? いやそれよりも! 私の感知範囲の外から攻撃する力量を持っていたッ……!?)

 

 余りの事実に呆然としていると、いつまで経ってもシミュレーションを開始しないライアに苛立ったナナシが声をかけてきた。

 

「おい早くしろ! 四戦目やるんじゃないのか? やらないならとっととポテチよこせ!」

 

「……ごめん、少し考え事してた。四戦目は、また違うルールにしていいかな?」

「は〜!? お前、いい加減にしろよ……? 条件変えすぎっ! もう嫌だ! 変えるなら次で最後にしろ!」

 

「……分かった。次を最後の試合にするね」

「……ちっ! 早くやるぞ。ポテチ食って二度寝するんだ、私は」

 

 ライアは考える。

 天然のエクシードの力……どうやら見誤っていた。

 上から聞いていたよりも、遥かに高い。

 

(何が『いざという時はお前が抑止力になれ』、よ……あのクズ共)

 

 心の中で機関の研究者達に悪態をつく。

 

(こうなると問題は二つ。一つ目はナナシ・モブが特別強いだけなのかそれとも天然のエクシード自体が特別なのかって事……そして二つ目は)

 

 ライア自身とこの化け物の差が、一体どこまで離れているのか……という所だろう。

 

「天然さん……最後の条件は────」

「────はァ!?」

 

 そうしてライアの告げた条件に、ナナシはまた、ブチギレる事となった。

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

 どーも、新人です。

 私は今、後輩に付き合ってシミュレーターで対戦しています……が。

 

 聞いて下さい。

 ────めっっっちゃ。

 

 

 

 暇です。

 

 

 

「っ! これも避けられるっ……!?」

「……ねむい。暇だし……」

 

 四戦目に後輩が出してきた条件は以下の二つ。

 ・後輩の側、有視界内にスポーンする事

 ・三分間、後輩に一切攻撃しない事

 

 一つ目は簡単だからいいんだよ。

 相手に重なるのと違って側にスポーンするだけならそこまで細かい調整しなくてすむからな。

 

 問題は二つ目だよ。

 

 シミュレーターで攻撃を禁止されたら私は一体何してればいいの!?

 

 しかも三分だよ!? 三分っ!

 長すぎでしょ!? 十秒でも長いよ!

 

 ポテチをくれるって話じゃなかったら、絶対に承諾してないよこんなの。

 

 今も後輩が私に攻撃してくるのをただ眺めてるだけだ。アンジーの機動力が優秀すぎて目を瞑っても当たる気がしない。正直暇すぎて半分寝てる気さえしてくる。

 

 あ〜……攻撃出来たらとっくに終わってるのになぁ。

 戦意が直線的すぎるんだよ……もっと隠したり、捻じ曲げたり、太くしたりすればいいのに。

 

 何でみんな、こんなに使い方下手なんだろ……? 普通に使えてる奴見た事ないよ。適当に真っ直ぐ撃ったって当たる訳ないのに……何で分からないんだ……?

 

「くっ……エナジードローン!」

 

 ん? なんだ、戦意が増えた?

 シュリンピーとかいう向こうの機体が止まったと思ったら、尻尾からドンドンちっちゃいエビみたいなマシンが出てきた。

 

 小エビは八機。それぞれ八方に散らばり、こっちに砲門を向けてくる。

 戦意の増幅に合わせてブースト。ひょいひょいとビームの合間を縫って適当に避けていく。

 

 うーん……まあ数が八足して九機に増えたのはいいと思うよ? でもさぁ。

 

「これでも、当たらないっ……!?」

 

 それで気を分散させて、九分の一になったら意味ないじゃん。

 

 九機いるなら気力は九倍にしなきゃ! 

 どんな強い武装でもパワーが無いなら怖くないよ。

 

 武器ならせめて怖がられないと。

 そうして初めて攻撃も当てられるんだろうに。

 

「っどうして!? 何で当たらないっ!!」

「パワーが足りてないんだよ〜」

 

「マシンの出力なら、同等の筈でしょ!?」

「マシンの問題じゃない。パイロットの問題」

 

「っ! 私だって! エクシードの筈だっ!!」

「そのエクステ? は知らんけど……」

 

 仕方ないから後輩に一つ手ほどきしてやる。

 いいか? パワーっていうのはこういう事だ。

 

「何を────!?」

 

 フットペダルを思いっきり踏み込み前に突き進む。

 突然の加速に、私の周囲に展開していた小エビ達が置き去りになった。

 

 グングン近づく、私と後輩との距離。

 後輩はビームライフルをこっちに向けて連射する。

 

 そこらの雑魚よりは遥かにいい狙いだけど……やっぱり小エビに意識割きすぎ。小エビがなかった時の方が狙いは正確だった……まあ、逆に正確すぎて避けるの楽勝だったけど。

 

 左右にジグザグとブースト入れつつ更に近づいていく。もう一息で詰められる距離だ。

 

 後輩は近接戦闘に備えビームソードに火を灯した。

 私は左手のライフルを後輩に向ける。

 

「な!? (三分の間攻撃は────!?)」

 

 ライフルの引き金を引く指を意識して、後輩に思念をぶつける。すると、私のプレッシャーに屈した後輩は攻撃が来ると幻視したのか、咄嗟に回避行動を取った。

 

 無茶な回避は体勢を崩す。

 体勢が崩れれば後は楽勝。

  

「────三分だぞ」

「っ!?」

 

 三分経過と同時に、アンジーの実体剣を背中から抜いて、すれ違いざまにシュリンピーをぶった斬った。

 

 

 

 ARK DESTROYED

 

 

 

 右下に表示された撃墜ログを横目でチラリと確認して操縦桿を手放す。暫く放置してると自動的にシミュレーションが終了。

 

 あー長かった! やっと終わったよ〜。

 シミュレーターの擬似コックピットを飛び出して隣にいる後輩の元へ向かう。後輩は放心して画面をボーっとただ眺めていたので、ベシベシと頭を叩いて正気に戻す。

 

 おらおら、後輩さんよ! 散々付き合ってやったんだ、とっととポテチよこせやぁ!

 

「渡す……けど。その前に教えてくれない? さっきの幻はなに?」

「知らん。幻は幻だろ」

 

「そう……あれが、貴方の言うパワーなんだ。膨大な生の殺気……本当に死ぬかと思った。見て? まだ手が震えてる」

 

「知らんしどーでもいい。はよポテチよこせ」

「……ありがとう天然さん。貴重な体験だった」

 

 やっっと後輩がポテチを寄越してきた。

 すぐに開けてパリつく。うまうま……ピザ味か。

 

 中々珍しい一品を買ってきたじゃないか。

 よろしい。ポテチに貴賤なし。当然、美味しく頂きます。

 

「感情を相手にぶつける……こんなやり方があったなんて。まあ、相手も感じる心を持ってないと無意味だろうけど……」

 

 後輩は何か言いたげに私を見てきたけど、私からこれ以上話す様な事はない。ここにいても無駄と悟ったのか、ルエルエ様に敬礼をして後輩は出ていった。

 

 パリパリとポテチを食っていると、

 

「ナナシ様」

 

 と、ルエルエ様が声をかけてくる。

 

「先程の試合、お見事でした」

「ん……あんなの別に普通」

 

「そうでしょうか? 私には……ナナシ様が、特別な御方に見えました」

「それは……お前の目が腐ってんだろ」

 

「そうかもしれません。ですが、自らの気持ちに従えと教えてくれたのは貴方です。私も、自分の感覚を信じてみたい」

「む……」

 

 パリ……パリパリ……。

 シミュレータールームにポテチの割れる音が響く中、ルエルエ様が私の目を真っ直ぐ覗き込んで告げた。

 

「ナナシ様。お願いがあります」

「いやだ」

 

「どうか私の騎士に────【月光騎士】に、なって頂けませんか?」

 

 いやだって言ったのにガン無視されたんだが?

 コイツ気持ち悪くなくなったのはいいけど、その分めんどくさくなったな……。

 

「……月光騎士って、なに?」

「代々イルーワ皇家の者は、自らの見出した専属の騎士に名を冠し、無二の守護者とする……そういう習わしなのです。兄は太陽の名を騎士に与えました。故に私は月の名を、貴方に与えたい」

 

 ふーん。

 太陽だか月だかどーでもいいけど。

 

 騎士ねぇ……色々めんどくさそうではあるが……。

 

「ナナシ様は私の側にいて、私を守ってくれるだけで良いのです。面倒な事は全て私がやりましょう。貴方の大好きなポテチも、好きなだけ食べられますよ」

 

 パリパリ……ポテチを好きなだけ食えるのは、魅力的すぎる提案だな……パリパリ。

 

 ルエルエ様の言う様に面倒な事もなくポテチが食い放題なら、こんな美味しい話はない。少なくとも一兵士や孤児やってるよりは待遇良いだろうし。受けないメリットの方が少なく感じるレベルだ。

 

「如何でしょう? 私の騎士として正式に発表すれば、Xなる者も手出しが難しくなると思いますが」

 

 うん。それは私も考えた。

 皇族の後ろ盾があれば、私の謀殺も難しくなるのでは? と。

 

「それなら────!」

「────悪いけど、断る」

 

 でもダメなんだ。Xの事を考えれば考える程、この話は断らなきゃいけない。

 直感が囁くんだよ。「今はダメだ」ってな。

 

 Xの政治☆パワーは私達の想像以上に高いらしい。

 今ルエルエ様の誘いに乗っても、二人纏めて叩き潰される。そんな気がするんだよね。

 

 だから悪いけど、今はダメだ。

 

「今は……という事は、いずれ道が重なる時が来ると、そう考えてもよろしいのでしょうか?」 

「うん。多分次に会う時だなー」

 

「……分かりました。残念ですが、今この話をするのはやめておきましょう」

 

 話が終わりルエルエ様が黙ったので、私はゆっくりとポテチを食べ進める事にした。

 

 ピザ味のポテチはチーズのアクセントが最高だ。

 ポテチの油っ気と絶妙にマッチしていて実に良きだ。私の食欲を大いに揺さぶってくれる。

 

 パリパリとポテチに夢中になっていると、ふと、側のシミュレーター(後輩が使ってた方)からガチャガチャとレバーを操作する音が聞こえてくる。

 

 そちらに顔を向けると、ルエルエ様が擬似コックピットの中に入って何やら操作をしていた。

 

「えっと……確か、ここをこうして────」

 

 モニターの中でアンジーがくるくると踊っている。どうもさっきの模擬戦の時の私の動きを真似したい? らしい。やっぱアーク好きなのかなぁ……?

 

 ただドヘタだ。そもそも基本的な操縦方法すら分かってない。フットペダルの存在を知らないから前に飛べず、その場でジッと突っ立ってるだけになってる。

 

「あ、あれ? 上手く動かないですね……?」

 

 がちゃがちゃとレバーを前に倒してるけど、レバーはメインカメラや照準の操作であって前進じゃないんだよなぁ……。

 

「うぅ……ど、どのボタンを押せばいいのでしょう……?」

 

 パリ……パリ、パリ…………うーん。

 ダメだコイツ。見てられねーな。

 

「ちょっと詰めろ」

「っ! ナナシ様?」

 

 私も擬似コックピットの中に入る。

 これは当然一人乗り用だけど……私達小さいから詰めれば二人位乗れるだろ。

 

 中に入ってすぐにシートを下へ動かす。

 後輩が使ってたシートの高さだとフットペダルまで足が届かん。

 

「ほら。これでペダル踏めるだろ」

「ペダル? あ! これですね!」

 

 やっとこさルエルエ様は前進の仕方を学んだらしい……が、勢いよく踏みすぎ。アクセル全開、フルスロットルで前にぶっ飛んでる。

 

「きゃああ!? 早い、早いです!」

「踏みすぎだよバカ。力抜け」

 

「そ、そう言われましても……きゃあ岩が!?」

 

 スピード出しすぎて前にあるデブリにぶつかりそうになる。ルエルエ様は咄嗟にレバーを傾けたらしい。危なっかしい事この上ないが、何とか衝突事故だけは避けられた。が、機体はまだまだ動き続けてる。

 

「ペ、ペダルは踏んでないですよ!?」

「宇宙だぞ? 慣性考えろよ……前にスラスター吹かすんだ」

 

「……そ、そうですよね。えっと前、前にスラスターを……ど、どうやるのですか!?」

「左足」

 

「あ、成程……止まりました! アークはこうやって動くのですね……」

(……ふーむ)

 

 段々冷静になってきたのか。

 ちょっとずつだけど普通に動ける様になってきたみたいだ。でもまだまだだね。一番肝心な事が分かってない。

 

「ど、どうですかナナシ様!? 私上手くやれてますか!?」

「全然ダメ。アークは便利な移動の道具じゃないんだぞ。お前周り見てないだろ?」

 

「え? あっ!!」

 

 ピューン。

 チュドーン。

 ARK DESTROYED

 

 ほらな。移動に夢中になって、何も気を張ってないからデブリの裏に隠れてた敵に撃たれてすぐ死んだ。初心者の雑魚はよくこれで死ぬ。敵からしたらいい的だな。

 

「あぁ……そんな」

「現実ならこれで終わり。お前の人生終了だよ」

 

「終わり……パイロットとはこんなアッサリと……あっけなく、死ぬのですね」

「当たり前だろ、パイロットなんだから。コックピットで気を抜いてる方が悪い」

 

「常在戦場……その心意気が大事という事ですか」

 

 もう一度やります! とルエルエ様は宣言して、リトライを選択。私は横に座ってポテチを食いながら、奮闘する様を見ていた。気分はクソ映画鑑賞の時のそれだ。

 

 ただクソ映画と違って途中で口を挟む事が出来るのは中々面白い。時折、あーしろこーしろと操作方法を教えてやる。

 

 そうして気付けばポテチもなくなり、二時間後。

 

「や、やりました……! ナナシ様っ! 私やりましたよっ!」

 

 ルエルエ様は、ようやく敵のフラットを一機、撃墜した。

 

 最初はドヘタすぎてどうなるかと思ったが……二時間経ってやっと【まあ戦場に出ても端っこで目立たなければ死なずに済むかもね?】位のレベルにまで成長した。ここまで長かったな……。

 

「ふふふ……ご指導ありがとうございました、ナナシ様」

 

 ルエルエ様は画面から目を離し、ニコリと微笑みを向けてくる。それは良いけど大丈夫かー? 敵は一機だけじゃないんだぞ?

 

「大丈夫です」

 

 そう言って、ルエルエ様は素早く左右のレバーを操作する。くるりとアークが周り、撃ち込まれたビームを最小の動きで回避。そのまま反撃の一撃で、二機目を沈黙させた。

 

「常在戦場……忘れません」

 

 へえ……さっきの動き、私が後輩相手にやってた動きに似てるな。中々らしくなって来たじゃないか。

 でもまだ上にもう一機いるけど、そっちは大丈夫そ?

 

「え……あっ!?」

 

 ピューン。

 チュドーン。

 ARK DESTROYED

 

「あぁ……き、気付きませんでした……」

「目だけで見るからそーなるんだよ。敵なんて感じれば一発なのにー」

 

「それは……ナナシ様が特別な御方だからです。私には感じる力などありません」

 

 何だそりゃ。さっきから人を特別、特別って……変な見方しやがって。私は至って普通の人間だぞ!

 

 敵を感じるくらい誰だって出来るだろ!

 それなのにお前達はいっつもいっつもそうやって!

 

 そもそも自分が感じようとした事も無い癖に、私の事変な目で見やがって!

 

 やってみても出来なかったって? そんなのソイツが下手くそなだけだろ!

 

「私は普通だ! 特別なんかじゃないっ! 名前だってモブだぞ、モブ!」

「……そう、ですね。すみません、ナナシ様」

 

 ふん。分かればいいんだ、分かれば。

 ……何か微妙な空気になったな。もういいや、帰ろ。

 帰って昼寝すんぞ。抱いて寝るからお前も来い。

 

「あ、はい…………え!?」

「何びっくりしてんの?」

 

「いえ、その……てっきり、夜、なのかと……」

「昼もするし夜もするぞ。もうお前の身体は私の物だし。好きに使わせてもらうからな」

 

「あ……その……せ、せめて優しくして下さい……」

 

 何当たり前の事言ってんの?

 優しくしないとお前弱すぎてすぐ死ぬだろ。

 

 私がちょっと強く抱き締めたら、上半身と下半身がサヨナラするぞ。もっと強くなれ。

 





ナナシ「後ろにも目をつけるんだ!」
ルエリ「無理です……」

2025/10/4 追記
アンケートを初めて入れてみました。
ぜひ投票してみて下さい

唐突に始まる第一回キャラクター人気投票(第二回は未定)

  • ナナシ(新人)
  • リサ(デカパイ)
  • トミー(オッサン)
  • ボブ(ボブニキ)
  • ガゼル(✝青い稲妻✝)
  • エレノア(年増艦長)
  • リカルド(優男)
  • アイリス(ポンコツ)
  • ベル(異常カボチャマン愛者)
  • ティアナ(サラダ嫌い)
  • メリッサ(泣いちゃった!!!)
  • リオ(男の娘)
  • ライア(強化人間)
  • バナン(怪人クラゲマン)
  • ルエリ(ルエルエ様)
  • その他(もう感想に自由に書け)
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