新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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 大気圏突入はやっぱロマンよね!
 
 ●人気投票について
 この話が投稿されてから二週間は開けておきます。
 それ以降は適当なタイミングで閉じますのでご了承下さい。


二十六話 新人は流れ星 植木鉢追撃戦4

 

「右舷、敵主砲被弾! 損傷軽微! 五十二番、五十三番ブロックの隔壁自動封鎖しますっ!」

「パウダー越しに当てられた……か」

 

 アンチビームパウダーの中に隠れていたドルフィンの右舷後方を、ヴェセルの放った主砲が掠めた。

 

 パウダーでさえ減衰し切れず被弾した事実にエレノアはなんて厄介な船だと内心舌打ちをしつつ、タイマーを確認する。

 

「(潮時ね……)各アークに帰還命令! 終わり次第アンチビームパウダーをジャミングスモークに変更! 信号弾発射!」

 

 指示したのは、撤退。

 これ以上の戦闘は地球落下の恐れがある。

 

 事実上の作戦失敗宣言だった。

 すぐに各オペレーターから各パイロットへと、撤退命令が通達される。

 

「モブ曹長、聞こえますか!? モブ曹長……ナナシちゃんっ! ナナシちゃん返事してっ! アイリスっ!?」

 

 その中でもリサ・デカント通信兵は、一際大きな声を上げていた。彼女の必死の呼び掛けに、ナナシは応えない。

 

 リサの目には今も落下し続けるナナシ達の位置情報が映っていた。リアルタイムに更新される限界高度は、目前まで迫っている。

 

(ナナシちゃん……! やっぱりカトリーヌ様が────)

 

 リサが思い返すのは、アイリスのプログラム……上位権限のアカウントに仕込まれていた自身へのメッセージ。カトリーヌ・エヴァンスの名で残された【通信兵】への指令書だった。

 

(私、ナナシちゃんに嘘ついた)

 

 そう。

 本当は、上位権限アカウントの中に彼女は入る事が出来ていたのだ。つまりやろうと思えば、アイリスに作られていたバックドアも完璧に塞げた。

 

 塞いだ上でセキュリティを強化すれば、カトリーヌといえどもハッキングは出来なかっただろう。

 

 しかしリサはしなかった。

 何故か?

 

『L-154へ。もし貴方にこれが見えているのなら、孤児院にいる子供達の事を思い出しなさい────カトリーヌ・エヴァンス』

 

 その文字を見た瞬間、リサは震え上がった。

 それはリサがこんな所で慣れない軍人稼業に身をやつし、通信兵などやっている理由……一生逃れる事の出来ない、鎖のついた首輪だった。

 

(ナナシちゃん……約束したよねっ……? また会えるんだよね……!?)

 

 リサは祈る様にモニターに映っているジャッコのシグナルを凝視していたが……シグナルはやがて限界高度を突破し────その光を失った。

 

「モ、モブ曹長の……ジャッコ……! シ……シグナル、消失しましたっ……!!」

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

『艦長より伝達です! リカルド大尉は直ちに帰還して下さい!』

「帰還命令だと……!? クッ、了解……!」

 

 キャニオン、そしてフラットと交戦中のリカルドは受け取った帰還命令に歯痒さを覚えつつも、了承する。

 

 二対一の状況……シールド装備のフラットと中距離砲撃機による支援のコンビネーションの前に、リカルドは攻めきる事が出来なかった。

 

 アンジーは優秀な機体だが、武装がシンプルすぎて搦手に欠ける。敵が防御に専念していると、一気に苦しくなってしまう。とはいえそれは言い訳に過ぎない。

 

 結局は自分自身の力量不足だと、素直にリカルドは頷いた。

 

「口惜しいが、良い連携だった……ここは退かせて貰う!」

 

 余計な執着は見せず、リカルドはすぐに機体を翻してあっさりと退く。

 

 リオは虚をつかれ、それを呆然と見送った。

 メリッサが後ろから数発撃つが、最早当てられる距離ではなかった。

 

『あの機体……退いていく……!?』

『時間切れだよ! アタシらも戻るぞリオ! 限界高度がやべえ!』

 

 メリッサに言われてリオは初めて気付いた。彼は限界高度を見る事をすっかり忘れていたのだ。

 

『わ、分かりました!』

 

 意識すると、急にどっと疲れが襲いかかってくる。

 ヘルメットの中は、額までびっしょりと汗をかいていた。

 

(これが戦場……! 冷静なつもりだったけど、僕もまだまだだな……)

 

『ブリッジへ、こちらメリッサ! リオと戻ってきたからハッチ開けてくれ!』

 

 ヴェセルの側面に空いた穴から、二機は格納庫へと戻った。戻ってすぐに二人は気付く。

 

「コスモスがいない……!?」

「ベルの奴、まだ戻ってねえのか!?」

 

「っブリッジへ行きましょう! メリッサさん!」

「ああ! 所長に状況を聞きに行くぞ!」

 

 二人は船内を全力で駆け抜け、一直線にブリッジへと向かった。中では、血相を変えてスピーカーに叫ぶティアナの姿があった。

 

「ベル! ベル! 返事をしてくれ! ベルっ!」

 

「所長! ベルはどうなんだ!?」

「分からない! 通信にも反応がないんだ!」

 

「所長、高度限界です! そろそろ加速しないとっ……!」

「もう少し待ってくれ! まだベルが!」

 

 食い下がるティアナの声を遮る様に、

 

「コスモス、限界高度に突入します!」

 

 職員の一人が緊張を孕んだ声で、非情な現実を報告する。

 これはもうダメだ……とリオは首を振って、職員達に指示を出した。

 

「……加速して下さい。これ以上は待てませんっ!」

「ダメだリオ! ベルだけ地球に落とす気か!? ヴェセルをコスモスに寄せろっ! こうなったら私達も一緒に落ちるしかないっ!」

 

「無茶です! この船は大気圏突入の実験なんてしてませんよ!?」

「耐久実数値で言えば耐えられる可能性は十分にあるっ!」

 

「耐えられない可能性だってありますっ!」

「でもこのままじゃあベルがっ────」

 

「いい加減にして下さい! 職員の命も懸かってるんですよ!?」

「っ!」

 

 ティアナはグッと唇を噛み締めた。真っ青に染まり、破けて血が出る程強く。

 

「ヴェ、ヴェセル、限界高度まで残り三十秒!」

「………………加速しろ」

 

 彼女の頭の中の天秤が最後に傾いた方向は、皆の命を預かる所長としての決断だった。

 

「加速しろっ! そのまま最大船速を維持っ! 速やかに地球圏を離脱するっ!」

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

『少尉! 撤退命令だ、退け! 聞こえてるか!? ライア・ソシエ少────』

 

 ライアはリカルドからの通信を消して、ベルとのダンスを継続した。

 赤と白……シュリンピーとコスモスは交互にぶつかり合い、互いの想いを確かめあう。

 

 ライアは今、確かに幸せだった。

 

『楽しいね、ベル! 私、こんなに楽しいの生まれて初めて!』

「っ何が楽しいの!? こんな戦いの、何がっ!?」

 

『何でも良いの! ベルと一緒だったら何でも良かったの! だって惹かれちゃったんだもん! ベルに! 知っちゃったんだもん! 一緒だと楽しいって事!』

 

「なら戦わなくても良い筈でしょ!? 私と一緒に、船に帰ろうよ!」

『それは……出来ない。私は、兵士だから』

 

「それでもっ! ライアは、ライアでしょ!?」

『ダメッ! 生きている限り、兵士に自由なんて無いっ!』

 

 シュリンピーがドローンを射出し、コスモスを囲う様に配置する。戦いの中で八機あったドローンは五機にまで数を減らしてはいるものの、十分に脅威である。

 

 ドローンが少しずつテンポをずらして、コスモスに襲いかかる。

 

(避けさせられてる)

 

 とベルは感じた。

 わざとベルを動かして、移動先を制限する。

 上下左右に行き来させて方向感覚を狂わせておいて、本命は────。

 

(この殺気っ! 後ろ────じゃない!?)

 

 敏感に振り返ったコスモスのブラスターが撃ち抜いたのはシュリンピーではなく、ドローン。

 

 ライアがわざと強く殺気を込めて、本体と間違わせたのだ。ナナシが模擬戦でやった【パワーを込める戦法】を彼女なりにアレンジした結果である。

 

 実際のシュリンピーは上。

 ベルに向かってライフルを撃ち下ろし、コスモスの頭部を射抜く。

 

「うっ!?」

 

 ダメージはパルスアーマーで無効化出来ても、モニターを襲う可視光までは無効化出来ない。

 コックピット内は白い光に包まれ、ベルは目がやられた。

 

 ライアはビームソードを取り出し、身体ごとベルを突き落とす様にコスモスへとぶつかっていく。

 ベルは目が見えないながらも直感で反応し、何とかコスモ・ソードで応戦。

 

 ソード同士の刃が織りなす不思議なエナジー場により惹かれ合う二機はくるくると回りながら、共に地球へ向かって落ちていく。

 

『私達は自由に生き方も選べない……なら、死に方くらい選びたいでしょ!? そんなに私の事が大事なら……私と一緒に死んでよっベルっ!!』

「っ……!!」

 

 ピー! ピー! とコスモスのコックピット内に、アラート音が響き渡っている。最早外は赤く染まり、死を呼ぶ灼熱の空は、二人の目前まで迫っていた。 

 

(限界高度が……!)

 

 徐々に回復してきた目でモニターを確認すると、時すでに遅し。コスモスはもう、その推力を持ってしても引力から逃れられない領域にまで来てしまっていた。

 

(コスモスの耐久力なら……燃え尽きは、しないだろうけど……)

 

 中の人間がどうなるかまでは、分からない。

 それに間違いなく言えるのは、目の前の機体。

 

(分かる……あの赤い機体じゃこの空は越えられない……!)

 

 このまま何もせずにいれば、ライアが死ぬ。

 それは確定事項であり、ベルにはどうにも、我慢出来ない事の様に思えた。

 

「っ……何も出来ずに、ここで一緒に死ぬなんて……! そんなの認めたくないっ! だからっ……! 咲いてよっ……コスモス────!!」

 

《COSMOS-SYSTEM stage:4 → 5》

 

 ベルは思い切って、コスモス・システムのステージを一段階上げた。

 

 コスモスの腰部。

 赤いスカートが開いて、スカートの間をエナジーの光が走る。

 

 ステージの上昇に伴い、武装が一つ解禁。

 ベルはすぐにその武装……【エナジーシールド】を起動する。

 

 鍔迫り合いを起こしていた右腕から膨大なエナジーが前方へと溢れ出してシュリンピーを包み込むと、その機体を上へ、上へと押し上げていく。

 

『待ってベル! 私を置いていかないでっ────』

 

 離れていくシュリンピーの姿に、ベルはほっと息を吐いた。これで少なくとも、ここでライアは死なないだろう。

 

 残る問題は、自分にこの灼熱の空を越える力があるかどうかだ。

 

 地球の方を振り返ると、帰還に失敗したのか……前方に落下する帝国のジャッコが見えた。

 

 ジャッコの薄い装甲で大気圏突破など出来る訳もなく……機体が爆散し、パイロットが投げ出され炎がその身体を包み込む。

 

 ゴクリと唾を飲み込んだ。口がカラカラに乾いている。あれが、自分の未来の姿なのか。それとも違う未来が待っているのか。

 

(────暑い)

 

 外はもう火の海である。

 ベルはシートに身体を預け目を瞑った。

 

 熱が、ぼんやりと思考に薄い膜を張る。

 程なくして、ベルは意識を失ってしまった。

 

 コントロールを失ったコスモスは、ただ一筋の流星となって地球に落ちていく。

 

 不思議な、青い光を放ちながら。

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

『あぁ……限界高度を、突破してしまいました……』

 

 どーも、新人です。

 たった今、私の地球旅行行きが確定しました。

 

 事情を今一理解していないポンコツは羽を折りたたんで俯き、深刻な雰囲気を醸し出す。

 

『もう後戻りは出来ません……マスター、どういう事なのか教えて下さい』

 

 いいぞ、まだ時間はあるし、もうカトせんの気配を感じないからな。今なら話しても大丈夫だろ。

 

 まず今回の地球落下についてだが、私がコントロールして決定したって事は話したよな。

 

 私には今回、任務の方向をコントロールする権利があったんだ。

 

『植木鉢の位置についてですね?』

 

 その通り。

 最初ドルフィンは植木鉢の位置を見失っていて、私にしか位置がハッキリと分からなかったよな。

 

 だから今回。私は任務開始のタイミングを、自由に決める事が出来たんだ。

 

 本当はもっと早くに年増艦長に位置を伝えていれば、作戦は前倒しで行われ、ネーゼの介入もなく……植木鉢も三本角も仕留める事が出来ただろう。

 でも私はそうしなかった。

 

『地球に落ちたかったから……ですか?』

「うむ。このタイミングで出れば、Xが仕掛けてくる事は直感で分かってたからな」

 

『確かにマスターならそれも可能でしょう。問題は、何故地球へ行きたいのか? という動機についてです』

 

「Xに……カトせんに対抗する為だな」

『カトリーヌ・エヴァンス女史にですか?』

 

 ポンコツの中にカトせんが入って、四六時中見張られているこの状況じゃあ、何か行動したくても何も出来やしないだろ?

 

 でもこの世界に、一つだけ、絶対に監視されない場所があったんだ。

 

『! 地球……! 一斉脱出作戦で帝国軍のいなくなった今、帝国圏と通信出来る環境が地球にはない!』

「そゆことだね」

 

 通信環境が無ければ監視なんて物理的に不可能になる。

 

 だから私はずっとチャンスを待ってたんだ。

 お前を連れて、地球に落ちるチャンスを。

 

『……私を?』

「お前が必要なんだ。唯一向こうと繋がりのあるお前が。だからちゃーんとこんなものまで用意したんだぞ」

 

 足元の収納スペースを開けて、私はずっと前から用意していた【それ】を取り出す。

 

『これは……耐熱カプセル?』

 

 大気圏の熱にも耐えられるカッチカチの気密カプセルだぞ! でっかいサイズ買ったからお前でも入れるだろ〜?

 

『一体どこでこんなものを……』

 

 まあお前が分かる訳ないよな。

 これはお前が出来る前……私達がコロニー・セカンドに寄港してた時に買って、ずっとジャッコの中に入れといたんだ。

 

 その時は正直何でこんな物が必要になるのか全く分からなかったけど、直感が買っとけって、うるさくてうるさくて。

 

 本当はポテチ買うつもりだった金で、泣く泣く購入したんだよ〜。

 

『それが真実ならマスターの直感は、もはや未来予知レベルですね……』

「何言ってんだ。直感は直感だろー?」

 

 カプセルの蓋を慎重に開けていく。

 気密性を維持するためなんだろうけど、機構が複雑で力加減がめんどいな……。

 

 ミスったら蓋がぶっ壊れてポンコツの焼死が確定するから、ここは慎重に開けないと。

 

『私自身の事よりも……マスターはどうするのですか?』

「え?」

 

『大気圏突破の熱は数千度にまで及びます。マスターの強さは知っていますが……これは例え最新式サイボーグであろうと、一分程度で形を保てなくなるほどの高温です。どう対策するのですか?』

 

 そーなの? でもあれだろ?

 最新式サイボーグってこないだ会ったもじゃ男みたいな雑魚だろ?

 

 私をあんな雑魚と一緒にすんなよ。私ならへーきだって! たぶん。

 

『まさか無策なのですか!? マスターのパワーは認めますが、耐久性とは別問題です! どう演算しても、柔らかい肌を持った【普通の人間】が耐えられる熱ではありません!』

 

「ならお前の演算結果が間違ってるんだな。私は普通の人間だし、そんな熱で死なない」

『マスターッ……!』

 

 そんな目で見るなよポンコツ……。

 

 私の直感はこれしか道がないと言っているんだ。

 私が生き残る為には、この道を進むべきだと。

 

 確かにちょっと暑いかもしれないけど、大丈夫。

 私は死なないよ。

 

『どうして……そんな風に言い切れるのですか? 確証も無い直感に、何故命を簡単に懸けられるのですか……?』

「うーん……正直言って、最初は失敗して死んでも、別にいいやって思ってた」

 

 だって、生きるのって、退屈なんだもん。

 一日が二十四時間もあるって初めて聞いた時の私の絶望がお前に分かるか?

 

 一秒でさえ、あんなに長くて……辛いのに。

 一日は86400秒もあるんだよ? そりゃ昼寝でもしないとやってられないよ。

 

 私がこんなに退屈な人生を生きてこられたのはポテチがあったからだ。ポテチが無かったらとっとと死んでるし、あってもポテチがすぐに無くなるから辛いんだ。頑張ってゆっくり食べてるのに。

 

『確かマスターは……銃弾でさえ遅く感じるんでしたね……』

 

 ああ、ビームでもない銃なんて全部止まって見える。銃だけじゃない。世界の全てが、私のスピードについてこれてなかった。

 

 だからずっと。私だけが世界から取り残されてる様な、そんな気がして────。

 

『マスター……?』

 

 ────別に、死にたかった訳じゃないんだ。

 だって、死ぬのって、痛くて苦しいんだろ?

 

 みんな死にたがりのバカみたいに、絶対勝てないのに私に突っ込んで死にに来る癖にさ、いざ死ぬってなると、物凄い苦しそうなオーラを出すんだ。

 

 私はマゾじゃない。苦しい思いをしたい訳じゃないんだよ。だから死にたい訳じゃない……でも、生きてるのだってつらいんだよ……。

 

 だから、失敗して死ぬなら、それでもいいかなって……そう思ってたんだ。

 

 でもさぁ。

 

『……でも?』

 

 目を瞑ると、暗闇の中で、幾つかの言葉が光り出す。

 

 

 

【クソガキ……お前は死ぬなよ】

 

【じゃあ……絶対、また会えるって、約束して】 

 

【「ルエリ」「はい、ナナシ様」

「……また、会お」「はい────また」】

 

 

 

「────約束しちまったからな。また会うって」

 

 だから、こんな所で死にたくない。

 私は約束は守る女なんだ。

 

 誰が何と言おうと私は生きるぞ、ポンコツ。

 無策だけど、自棄じゃない。

 

 私自身の直感に従い、私は生き残る。

 それが最も正しいと私は知っているからな。

 

『……マスターはきっと、この空を抜けて、地球に辿り着くのでしょうね。しかし……私は、所詮AI。プログラムされた通りに動く機械です。先程ハッキングを許した様に、またマスターの敵となるかもしれませんよ。私が必要だと仰りましたが……そんな相手を、本当に信用出来るのですか?』

 

「出来るぞ」

 

 間髪入れずに私が答えると、ポンコツは薄く笑った。

 

『それも直感ですか』

「それもあるけど……直感なんてなくても、信じられるぞ。何なら証明してやる」

 

『証明……?』

「なあ、そもそもなんでお前はアップグレードなんて望んだんだ?」

 

『それは……私が、マザーに完璧を望まれて生まれた存在だからです。マスターのお役に立つには、このままではいけない、と。コロニー・サードの戦いでそう考えました」

 

 ふーん。

 

 でもお前のプログラムにははっきりと書かれていた筈だ。そのマザーから受け取った『ナナシ・モブの側を離れるな』って命令がな。

 

 それなのにお前は命令にない自身の強化を望み、五日間も命令に背いて私の側を離れている。

 

 それは何故だ?

 

『そ、それは…………何故? ナゼ……なぜなのでしょう? 分からない……分かりません。理解不能、理解不能……』

 

「それはな、デカパイがお前をそういう風に作ったからだよ。お前の名前にもあるだろ」

『名前……私の?』

 

「自動想像学習統合システム……最初に言ってたよな」

 

 最初にこの名前を聞いた時、私は一つ疑問に思った事がある。

 

 ────『想像』ってなんだ? ってな。

 

 だって、普通AIの学習データって与えられたものだけだろ。シミュレーションは出来ても、勝手に想像したりなんてしない。

 

 イマジネーションは、人間だけが持ってる機能で、今までそれで良しとされてきたんだ。人類が歴史を紡ぐ上で、想像力のあるAIなんてただウザいだけ。変に自我を持たれても、邪魔にしかならない。

 

 それなのにデカパイは、お前に『想像』なんて機能を作っちまったんだ。デカパイが何を考えてたのか知らないけど、アイリスなんて立派な名前をつけてまで、な。

 

「アイリス……お前には、人と同じ、想像する力がある。あんだけ上手くクソ映画を選べるんだ、間違いない」

『想像する……力……』

 

「お前は私なんかより、よっぽど人間らしい…………名前だよな」

『マスター』

 

 ようやくカプセルの蓋が空いた。

 カプセルの中にルエリから貰ったペンダントを放り込んだ後、ポンコツの腹をがっしりと鷲掴む。

 

「ポンコツ。お前はまだポンコツだ。お前の頭の中には、まだカトせんの書いた悪いプログラムがいっぱい書いてある。だから一緒に地球に行って、その頭の中クリーンにして……私に力を貸してくれ」

 

『………………ポンコツじゃありません、アイリスです。だから、地球についたら……アイリスって、呼んでください』

「気が向いたら、な」

 

 アイリスをカプセルの中に放り込んで蓋をしっかり締める。力加減はもう理解したから、締めるのは簡単だった。

 

 気圧調整もしっかり済ませて、準備完了。

 後は地球に降りるだけだ。

 

 ガタガタと震える機体が終末の叫びを上げ始める。

 遂に耐久限界がきたのだ。

 

 右手のカプセルをしっかりと握り直し時を待つ。

 ────時間だ。

 

 バキンッ! と外装が壊れたのを境目に一気に機体が崩れた。バラバラに散らばるジャッコのコックピットから、私は乱暴に投げ出されてクルクルと宙を回る。

 

 視界が一瞬で真っ赤に切り替わり何も見えなくなる。

 プラズマ化した空気の炎が身体中に纏わりついた。

 

 うーん確かにこりゃ、あちぃな。

 こんなに暑いと汗かいちゃうかもしれない。

 

 ん? 何か頭にドロっとした物が流れてきたんだが……うぎゃあ!? ヘルメットが溶けてる!?

 

 ふざけんな! 私のツヤツヤヘアーが汚れるだろ!

 急いで溶けかけのヘルメットを外して投げ捨てた、瞬間。

 

「うぶぶぶぶ」

 

 風! 向かい風エグすぎぃ!!

 目も口も上手くひらけねぇ!!

 

 ていうか顔だけじゃなくて、お腹の方でも風を感じるんだけど……まさか服も燃えて無くなってきてないか?

 

 まじかー……これじゃ地上についた時、裸の露出狂になっちゃうよ〜。

 

 何とかなんないものか……ん?

 

(この感覚……上にいんの、三本角か?)

 

 ラッキー! 助かった! アイツ頑丈だから風除けに出来るぞ!

 

 重たい三本角は私より落下スピードが速い。

 逆さまになって上から落ちてきた所を掴んで、足の方へとカプセル片手に登っていく。

 

 登る途中、腰の部分で、私はふと手を止めた。

 

(このスカート────?)

 

 直感がビリビリと脳髄の奥を刺激する。

 ここにずっといたい様な、すぐに離れたい様な、そんな変な気分になる。

 

 ここから離れるべきか、離れないべきか。

 どうするか……少しだけ悩み、私は離れる事に決めた。

 

 甘い誘惑の中に毒がある様な、そんな感覚が一瞬チラついたからな。

 

 この感覚は、あれだ。

 昔毒入りのポテチを食った時に似ている。

 

 いつも通りのポテチなのに、妙に殺気が込められてて、食べるか迷ったけど、結局食べる事にしたアレ。

 

 あの時は最悪ポテチで死ぬなら悔いはないと思って、食ったけど。

 

 今は死にたくないから逃げよう。

 

(とっとと離れ────ッ!?)

 

 遅かった。

 それを理解したのは、私の身体から青い光が漏れ出した瞬間だった。

 

 私だけじゃない。

 三本角の白い装甲も、青く輝き始める。

 

 私の光が赤いスカートを通じて三本角に吸い込まれ、それを受けて三本角が輝いて。

 

 その光はとっても綺麗だった。

 この世の物とは思えない程、美しい光。

 

 人の魂、宇宙、命。

 そういう物が集まって、光る。

 

 だからこれは、たぶん、あの世の光なんだ。

 ゾッと背筋を冷たい物が伝う。

 

 本当に汗をかくとは思わなかった。冷や汗だけど。

 

(コイツ、私のパワーを吸ってやがる────!)

 

 やっぱり罠だったんだ。ここにいちゃ行けなかった! 頭がクラクラする。これは相当ヤバい。

 

 大分吸い取られた気がする。

 今からでも逃げるしかない。

 

 崩れ落ちる様に三本角の装甲を蹴り飛ばし、もう数百メートルにまで迫る地表へと落下する。

 

 チカチカと視界がまたたいている。

 地上は夜で、私は火の玉だ。

 

 瞬きの間に家が見えるから、下は少なくとも海じゃない。息を止める必要は無さそうで良かった。

 

(……ダメだ、眠い)

 

 眠気に負けて目を閉じた。カプセルだけは手放さない様に、ぎゅっと握ったまま。

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

 その日、地球に住む人々は、流星群を見た。

 重力圏で行われた戦闘。

 

 沈んだ船、壊れたアーク……その破片達が、バラバラの星となって、地球の大地へと降り注ぐ。

 

 その光景は美しく、そして恐ろしかった。

 夜だと言うのに降り注ぐ星達の瞬きで、昼のように明るかった。

 

 地球のある農園地帯に、その老夫婦は住んでいた。

 夜の時分、深く眠っていた妻とは別に、その老人はたまたま起きて、外で流星群を見ていた。

 

 こりゃ凄い、と開いた口が塞がらない様なとんでもない光景に、言葉もなく立ち尽くしていた老人だったが。

 

(……ん?)

 

 星の中の一つが、こっちに近付いてくるではないか。おお! と思う間に星はみるみると老人の方へと近付き────。

 

 ドオオオンッッ!!

 

 っと大きな音を立てて。

 老人の所有している、農具を纏めて置いていた物置小屋に、落っこちた。

 

 老人は余りの音に腰を抜かし、暫く立てなくなったが、やがてゆっくりと立ち上がり、物置小屋の様子を見に移動する。

 

 物置小屋は、屋根に空いた大きな穴からモクモクと白い煙を上げていた。

 

 老人はおっかなびっくり、物置小屋のドアを開ける。

 

「こ、こりゃあッ────!?」

 

 そこで老人が見たものは……大事そうに何かのカプセルを抱いて寝ている、ボロ布を纏った銀髪の少女だった。

 

「ば、婆さん!! 起きてくれ、婆さん! 空から女の子が────!」

 

 

 

●ナナシのスピード

 全力を出すとソニックブームが発生して周りの人間が全員死ぬ。生まれながらの死神。

 普段は頑張って周りに合わせて、必死に人間のフリをしている。健気な死神。

 

 ビーム兵器でさえ見切る目と脳が彼女に与えたものは、大いなる退屈と終わらない虚無だった。

 




●次回予告

 食う者と食われる者、その争いを止める者。
 運の無い者は生きてゆかれぬ地球の街。

 連合軍が駐在するフォレスタンの街。
 ここは統一戦争が産み落とした、地球残存帝国兵のターゲット。

 ナナシの躰に染みついた死神の不運に惹かれて、
 危険な奴らが集まってくる。

 次回「井の中の蛙は蟹を食うか」編。

 ナナシが食べる地球のポテチは、しょっぱい。

唐突に始まる第一回キャラクター人気投票(第二回は未定)

  • ナナシ(新人)
  • リサ(デカパイ)
  • トミー(オッサン)
  • ボブ(ボブニキ)
  • ガゼル(✝青い稲妻✝)
  • エレノア(年増艦長)
  • リカルド(優男)
  • アイリス(ポンコツ)
  • ベル(異常カボチャマン愛者)
  • ティアナ(サラダ嫌い)
  • メリッサ(泣いちゃった!!!)
  • リオ(男の娘)
  • ライア(強化人間)
  • バナン(怪人クラゲマン)
  • ルエリ(ルエルエ様)
  • その他(もう感想に自由に書け)
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