新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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三話 新人と会議とサボタージュ

 

 スクランブルを終えて基地に帰ってきた私はハンガーに機体を預けた。

 

「ただいまー」

 

 ハッチを開けてコックピットから外に出る。

 昇降機に乗って降りると遠くから走ってくる赤毛の女が見える。

 

「ナナシちゃんおかえりー! スクランブルお疲れ様っ!」

「んむむ……」

 

 私の頭を撫で回して揉みくちゃにしてきたこの女の名前は、リサ・デカント。

 長い赤毛を後ろで三つ編みに編み込み、いつもバニラみたいな甘い匂いを垂れ流してる胸のデカい女。

 

 私はリサ・デカントパイセン、略してデカパイと呼んでいる。決して乳がデカいからじゃない。

 

「敵に会ったんだって? 大丈夫だった? 怪我はない? 心配してたんだよぉ……?」

 

 私が若いせいなのか、第四小隊唯一の女子仲間だからなのか分かんないけど、やたらこっちに構ってくるんだよなあ……。

 

 スキンシップが過剰で大体抱きついてくる。

 そうすると身長差的に、丁度胸にすっぽり収まる形になる。これがマジで勘弁して欲しい。暑苦しいことこの上ない。

 

 とりあえず鬱陶しいので撫でてくる手を払い、とっとと自室に帰るとする。

 

「あ、ナナシちゃん! これから会議なんだけど────」

 

 デカパイがなんか言ってたけど知らん。

 こっちは睡眠の途中でスクランブルやらされたんだ。帰って寝るに限るってもんよ。

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

「ってな訳でナナシちゃん、欠席でーす……あはは」

 

 通信兵、リサ・デカントの乾いた笑いが会議室に鳴り響く。

 

 第四小隊の隊長、トミー・バーニスは頭痛のする頭を抑えてため息をついた。

 

「あー……クソガキはいい。もうほっとけ……これで全員か? 始めんぞ」

 

 隊長の言葉にナナシと隊長本人を除く第四小隊総勢六名が頷く。

 

 隊長がリサにアイコンタクトを出す。リサは軽く頷いて持っていたパッドを操作しだした。

 

「分かってると思うが状況は芳しくない。昨日の多方面同時攻撃で我が軍は完全に後れをとった…南北戦線は近く崩壊するだろう」

 

 リサの白く細い指がパッドをタッチすると、机から3Dマップが出現する。マップには『トスター基地』と書かれている。

 

「上から指令だ。このジメハ基地を放棄し宇宙に上がる。使うのはここ、トスターのマスドライバーだ」

「そこって……!?」

 

 小隊の古参、ボブは驚いた。

 何故って、トスターは連合の基地。つまり敵軍の拠点な訳で。それが意味する所は一つである。

 

「マスドライバーは前線を支える足……連合の輸送の要だ。上はこの足を一本切り落として自分につけろと仰ってる」

 

 隊長の言葉にみな愕然とする。

 たまらずにボブは叫んだ。

 

「無茶苦茶だ! この戦力でやれるわけないですぜ!」

 

 小隊が今、保有するアークはたったのジャッコ七機。

 その内の一機は昨日のスクランブルで右腕をやられて中破している。

 例え完全な状態だったとしても基地一つを襲撃するには全く足りない戦力だろう。

 

「上は俺達に死ねっつってるのかよ……!」

「泣き言を言っても指令は変わらん」

 

 怒りを滲ませる小隊メンバーにトミーは努めて冷静に接した。彼自身、指令を受け取った際は他のメンバー同様憤りを覚えたが、隊長として皆に道を示さなくてはならないと何とか飲み込んだのだ。

 

「ボブの言う様に正面からじゃ無理だ。策を考えねばならん」

「何か考えがあるんですかい?」

 

「リサがハッキングで入手した情報によると、丁度この位置に弾薬庫がある」

 

 マップのある一点、倉庫らしき建物が光る。

 

「作戦はこうだ。敵軍の輸送物資に紛れ込ませ時限爆弾を中に入れる。誰か一人が基地に潜入し、この爆弾を回収……弾薬庫で起爆。混乱に乗じてアーク部隊が襲撃する」

 

 マップから赤い光が周囲を包む。

 推定される爆発の範囲だ。弾薬の量が量なのでその範囲は広い。しかし……。

 

「爆風は格納庫には届かない」

 

 また、別の箇所が光った。

 爆発範囲の外、この位置が格納庫になる。

 

「機体が無事なら爆発の後、すぐにアークが出てくる。だから、タイムロスなく突撃しなければ奇襲に失敗する」

 

「じゃあ、万が一爆発させられなかったら……」

「そうなったら正面きって戦う羽目になるな」

 

 つまり、爆破に失敗したら万に一つも勝ち目がない、という事だ。

 長い沈黙が場を支配した後、ボブが口を開く。

 

「で、誰が潜入するんです?」

 

 潜入は作戦の肝だ。失敗すれば全員が死ぬ作戦の命綱。ここを誤れば容易く破滅する。

 

「唯でさえ戦力が少ないんだ。アークの数は減らしたくねえ……普通に考えれば、パイロットは除外」

「って事は────」

 

 全員の視線が、リサに集まった。

 

「え、ええ!? 私ですかぁ!? む、むりむりっ! 無理です! 私ただの通信兵ですよぉ!?」

 

 まあだろうな……っと全員顔を逸らした。

 リサはかなり鈍臭いし、演技も苦手だ。

 

 潜入には全く向かない人員である事は誰の目から見ても明白だった。

 

 それにリサは優秀なバックアップ要員だ。

 トミーとて、初めからリサを潜入させる気はさらさらない。

 

「だがそうなると残るのは……」

「補充要員のクソガキですねえ」

 

 ナナシ・モブ。

 つい最近部隊に来たばかりの問題児。

 

 シミュレーターで前代未聞の結果を残し飛び級で軍学校を卒業した天才……と言えば聞こえはいい。

 が、実態は絶対にただの厄介払いだろう、というのがトミーの出した結論だった。

 

 あのクソガキ……まず朝は絶対に起きてこない。

 生意気で、上官にため口は基本。

 

 命令違反の常習犯で、訓練は必ずサボる。

 食料を盗んで勝手に食いまくる。

 

 それらに注意すると逆ギレし、平気で手が出る。

 なまじ喧嘩が鬼の様に強いので、誰も手を付けられない。

 

 一度ブチギレた隊員が一人、銃まで持ち出してクソガキを締めると息巻いたが、翌日には顔を腫れ上がらせて医務室にいた。

 

 ナナシがまともに仕事をしたのは、昨日のスクランブルくらいだ。

 

 早朝に叩き起こし、他のパイロットが出撃してもうお前しかいないというと、ようやく重い腰を上げて出撃してくれた。

 

 ……いや『くれた』ってなんだ、俺が上官だぞ頭おかしいだろアイツ。

 

「あのクソガキに潜入とか絶対無理だろ〜ッ……!!」

「まあ、ガキだから警戒は薄れるかもしれませんがね」

 

「えっとナナシちゃんもパイロットですよね? ならナナシちゃんをアーク部隊に入れて他の方に行ってもらえばいいんじゃ?」

 

「訓練もまともにしねえガキをパイロットとは呼ばねえ……そもそも、アーク戦は連携が基本だ。それが出来ねえ奴に背中は預けられん」

 

「じゃあ決定ですかい?」

「はぁ〜……リサ、お前がバックアップしろ。潜入に失敗したらすぐに全体に連携してくれ」

 

「あ、はい! 了解ですっ! 後方支援なら任せて下さいっ!」

 

 トミーはきりきりと痛む頭を揉みながら何とか決断を下した。

 ナナシを最も重要な潜入要員にする……大きな不安の残る采配だが、他に人員がいない以上どうしようもない。

 

 そもそもこの作戦自体、駄目で元々、無いよりはマシレベルの作戦だ。

 それを考えれば、少なくとも最良の選択をしてはいる……筈だ……。

 

 

 

 なお当のナナシはというと、周りの苦悩なんて知る由もなく……自室で鼻提灯を膨らませながら呑気に寝ている。

 

 ふがっ! と一つ。

 大きないびきが部屋に響き渡った。

 

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