新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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四話 新人と潜入任務 トスター基地攻略戦1

 

 真ん中にデフォルメされたネコちゃんの描かれた黒いTシャツとショートデニム。

 普段街に着ていく様な私服を着た私はくっちゃくっちゃとガムを噛みながら耳に入れたインカムを触る。

 

「クチャクチャ……こちらナナシ。配置についたオーバー……クチャクチャ」

『こちらリサ……あ、あのナナシちゃん? ガム噛むの一旦止めてくれる?』

 

 は? なんで?

 

『あの、ちょっと咀嚼音入るのは、あまりにも耳が幸せすぎる────じゃなくて通信としてね? 聞き取りミスがあると困るからね? うん』

 

 別にガム噛んでるくらいでそこまで滑舌変わらんと思うけど……まあもう大分噛んで味無くなってきたしいっか。

 ぷくっと膨らませてたガムを舌でくちゅくちゅっとまとめてペッと地面に吐き捨てる。

 

「これでいい?」

『あっはい幸せです』

 

 お前の幸福はどうでもいいんだけど……?

 

『ご、ゴメンね! すぐに始めるね! え、えっと、改めまして、オペレーターのリサです! ここから音声とハッキングでモブ曹長の潜入をサポートします。作戦の手順はもう記憶してるでいいかな?』

「問題ないですオーバー」

 

『はい、じゃあ作戦通り今から私がハッキングで監視カメラとセンサーに誤情報を流すから。その間に壁を乗り越えて中に潜入してね』

「ういういですオーバー」

 

『うん! じゃあ三十秒待ってね!』

 

 カタカタカタ……と静かにタイピングの音だけが耳に聞こえる。その間、私は手首と足首をぶらぶらさせて柔軟運動をする。

 信じられない事にデカパイは宣言から二秒遅れの三十二秒後に合図を出してきた。

 

『今だよ、ナナシちゃん!』

「────遅い」

 

『え?』

「二秒遅れた。遅い」

 

『あ……あ、ごめんね!? 遅くてごめんね!? 無能でごめ────』

 

 謝り続けるデカパイを無視して基地の外壁に向かってダッシュする。外壁は高いけど壁を蹴れば十分登れる高さだ。上部に有刺鉄線もついてるけど、問題ない。

 

 壁上の鉄線を避ける様に指を引っ掛ける。

 勢いのままグイッと身体を引き上げ逆立ちし、指で押し出してジャンプ。鉄線を背中スレスレで躱しつつ内部にスタリと着地する。

 

「こちらナナシ。潜入成功。ナビゲート求む……オーバー」

『ごめんね! ごめ……あ、はい! 物資保管庫までナビゲート開始しましゅっ!』

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

「拾って頂き、感謝する。司令」

「なあに、構いません。貴方ほどの男を死なせる方が損というものです、ガゼル・ドーラント大佐」

 

 トスター基地司令ブラン・ロドリゲスはガゼルに向かってにこりと微笑んだ。

 先日の同時多発攻撃作戦において、遊撃軍として参戦したガゼル隊は、友軍の支援中に全滅。

 一人生き残ったガゼルは近くにある連合の基地、トスターの輸送隊に拾われ、合流を果たしていた。

 

「しかし……一体どんな部隊だったのですか? 青い稲妻を堕とした奴らは?」

 

 青い稲妻……それはガゼルについた異名だった。

 愛用のフラット・カスタムを鮮やかに乗り回し敵を撃つ姿から、エースと称えられる程の実力があった。

 

 その実力を買われ、若くして大佐にまで上り詰めた彼だったが……しかし、先日の戦いを思い出すと、どうしても眉間が険しくならざるを得ない。

 

「ジャッコだ」

「は? ジャッコ」

 

 ブラン司令はオウム返しの様にただ繰り返した。

 

「ああ……それも、ただ一機」

「!? 馬鹿な……ありえません!」

 

「だが事実だ」

 

 俺も信じたくはない……その言葉を、ガゼルは何とか飲み込んだ。言ってしまえば、仲間の死が嘘になる気がした。

 

「後で戦闘データを見ればいい。真実だと分かるだろう」

「にわかには信じられませんな……パイロットは一体どんな化け物なんだ」

 

「……死神さ」

「……人の勝てる相手ではない、と?」

 

 ふっ……とガゼルはニヒルに笑った。

 

「それが認められなくてな……俺は奴を追おうと思っている」

 

 それから二、三、話をしてから、ガゼルはくるりと軍服を翻し司令室を去った。

 行き先は格納庫だ。そこでは、ガゼルと共に回収された彼の愛機が修復作業中だった。

 今日、修復が終わる見込みと聞いていたので、試運転をする腹づもりだ。

 

「あ、ガゼル大佐っ!」

 

 アークを見ていた技術員が一人、ガゼルの接近に気付き敬礼する。

 

「ああ。俺のフラットは出せるか?」

「テストですか? ええいつでもいけますよ! 注文通り、コックピット周りの装甲を大分厚くしておきました。あれなら、ジャッコマシンガンなんて敵じゃありません」

 

「そうか……助かる」

 

 ガゼルは、ポン、と技術員の肩を優しく叩き愛機に乗り込む。機体の調子を確かめつつ、演習場に出た。

 反応速度は上々だ。装甲を増した分、もっと重くなるかと思ったが、中々どうして悪くない。きっと技術員が良い素材を優先的に使ってくれたのだろう。

 

「これであの死神とも……対等に戦えるか……?」

 

 ガゼルが先日の戦いから死神の動きをシミュレートし始めた時、視界の端を横切るものがあった。

 

「ん?」

 

 それはほんの一瞬。

 演習場のすぐそば、物資保管庫から小さな何かが飛び出し、一瞬のうちに消え去った。

 気のせいか……だがその姿はガゼルには、

 

「……子供?」

 

 の、女に見えた。

 いや、しかしまさか……ありえないだろう、と彼は今自分が見たものを否定する。

 

 あの速度……下手したら車かバイクよりも速いのではないか? ただの少女がそんなスピードで走れる訳が無い。

 サイボーグや強化人間の類か? いやこの基地にそんな特殊な兵がいるとは聞いていない。

 

 きっと見間違いだろう。

 そう考え、何となく幻影の少女が走り去った方向を見る。

 

「あっちは……格納庫、か」

 

 何故だろう。

 それを認識した瞬間……ガゼルはあの死神と対峙した時のような、薄ら寒さをどこかで感じていた。

 

 

 

 

 

●ガゼル・ドーラント専用フラット・カスタム

 白を基調としたボディに青い稲妻の様なラインが走っているフラット特殊カスタム。

 改良されたジェネレーターと増設されたスラスターにより、機動性が大幅に上がっている。また、装甲も通常のフラットより上質なものを使用しており、耐久面も向上している。

 武装は殆ど通常のフラットと変わらない。それだけ、通常のフラットの完成度が高いとも言える。

 

 量産機の死神に敗北した事で、コックピット周りの装甲が厚くなり、更に盾を装備する様になった。

 これでコックピットを集中して狙ってくるあの死神とも互角に戦える! ……と、いいね。

 

 

 

●ナナシのTシャツ

 黒い生地の中央に灰色のデフォルメされた猫が描かれている。猫の下には以下の文字がある。

 

 『わがはい。』

 

 




 ロボアニメにありがちな若い大佐キャラ登場!
 赤色じゃなくて青色だぞ!
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