新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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七話 新人とドルフィン

 

「みてみてナナシちゃん! じゃ~ん地球のお土産〜!」

 

 新人です。

 地球の勢力圏を抜けてから、すっかり元気になったデカパイにうざ絡みされてます。

 

 デカパイは昔地球で遊ばれてた玩具とかいってカラフルな箱? を取り出した。

 箱がデカパイの手を離れてゆっくり回りながらこっちに向かってくる。見た感じ箱は正立方体で、一面の中で更に5×5の正方形に分割されている。そして分割された部分それぞれに合計六色の色が付いていた。

 

「えっとね? この箱をぐるぐる回して、六面全て同じ色で揃えたらいいんだよ! ナナシちゃんもやってみて!」

 

 何で私が……?

 というか何だそのルール?

 

 ……簡単すぎない? 幼児用の知育玩具か?

 子供に見られてるとは思ってたけど、いくら何でも対象年齢低すぎじゃない? 私、13ぞ?

 

 ひょっとしてデカパイはロリコンじゃなくてペドフィリアなのでは? 満たされない欲求をせめて私で満たそうとしているのでは……?

 

「コレが結構難しいんだよ〜? 一面か二面くらいまでなら揃えられても中々先にいけないんだよね〜」

 

 いや違うか? 自分が幼児側なのか?

 私に解かせて自分は失敗して、赤ちゃんプレイしたいのか? ロリにバブみを求める可哀想なタイプか?

 

 デカパイはずっとこっちを見つめてニコニコと笑ってる。逃げられそうにないな……もういいとっとと終わらせよう。

 

 ふわふわ浮いてた箱をとってシャカシャカ回す。

 面の色なら分かってる。

 さっきこっちに向かってきた時に回っていたのをチラ見したから。一面だけよく見えなかったけど問題ない。色が揃う様に出来てるなら後は予想出来る。

 

 色が分かってるならもう揃えるだけ。何の難しさも面白さもない単調作業。三歳向けの幼児用玩具って感じだ。

 

「ん、出来た」

「ええ!? もう出来ちゃったの!? ナナシちゃんすご〜い!!」

 

 この女、最近「ナナシちゃんすごい」しか言ってなくないか? いつからこんなbotみたいになった?

 ひょっとして、私を褒めて頭を撫でられたらそれで良かったのか? それが目的?

 ロリの頭を撫でたがるってやっぱロリコンか……?

 

『ビー! ビー! ビー!』

 

 デカパイとわちゃわちゃしてると、警報が鳴り響いた。接近する機影がある事を告げるアラートだ。

 

「接近する艦影を確認! ケルマディ級の模様!」

 

 舵を取っていたボブニキが報告を上げ、隊長のオッサンが答える。

 

「識別は?」

「識別コード確認! 識別名:ドルフィン!」

 

「よし、迎えだな。打電しろ……『出迎エ感謝スル。乗艦許可求ム』」

「返信確認! 『乗艦ヲ許可スル』」

 

「よし、中に入れ」

「了解!」

 

 シャトルが舵を切ると、窓にも戦艦の様子が映った。

 

「おっきい……!」

 

 感慨深げにデカパイがつぶやく。

 確かに目の前の戦艦はかなりデカい。

 

 アークが積めるくらいデカいこのシャトルがサーモンだとすると向こうはクジラだ(名前はイルカだけど)。シャトルごと入るのだって余裕だろう。

 

 考えてみれば当たり前の事だ。

 戦艦なんて、アークを何機も積むんだからデカくなきゃいけない。とはいえ、こうして生の戦艦を間近で見ると迫力満点で結構面白い。

 

「ケルマディ級は中型艦だからな。地上のトレーラーに比べたら月とスッポンだろ」

 

 前にいた隊長のオッサンがこっちに戻ってきて答えた。何で戻ってきたんだろう……と不思議に思っていると、オッサンがこっちを睨みつける。

 

「おい、クソガキ」

 

 どうやらオッサンの目当ては私だったらしい。

 

「これから第四小隊は向こうの旗下に入る。ウチでの態度が通じると思うな。くれぐれも失礼のない様にしろよ、いいな?」

 

 なんだコイツ、失礼な奴だな。

 他人に「失礼するな」という事ほど失礼な事はないと思う。だってソイツが失礼すると思うからそう言ってる訳でしょ?

 

 それって最低の発言だよ。

 今この瞬間、私のオッサンに対する好感度は地の底まで落ちたね。

 

 そもそもいつ私がそんな失礼な態度を取ったんだ?

 私は至って普通の常識人だぞ!

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

 ボブニキの安定した操縦により無事にドルフィンに着艦した私達の元を訪れたのは、サラリとした青い髪を短く切り揃えた爽やか風優男だった。

 

「初めましてトミー・バーニス大尉。本艦のアーク部隊隊長を務めています、リカルド・ドッグマンです。階級は中尉になります」

 

 優男はビシッとお手本の様に綺麗な敬礼をみせる。

 そんな優男にオッサンが慣れた様子で敬礼を返した。

 

「トミーだ、宜しく頼む……中尉は、随分若く見えるが」

「はい、今年で二十になります」

 

「それで隊長か。気を悪くしたらすまんが、新進気鋭の戦艦にしてもフレッシュ過ぎやしないか?」

「仰る気持ちは分かります。僕自身、辞令があった時はとても驚きました。でも、それだけ期待されているって事ですから」

 

「なるほど……若いな」

「お褒め頂き恐縮です……さあ、艦長がお待ちですよ。ブリッジまで、ご案内いたします」

 

 優男の案内に従い、艦内を進む。戦艦は大きいから移動は大変……という訳でもない。

 何故ならここは無重力。壁を蹴ればそれだけで廊下の端に行ける場所。移動用の動く取っ手もあるし、地上に比べれば大して辛くもない。

 

 

 

 ブリッジに到着して、優男が艦長に声をかける。

 ブリッジの中央で指揮を取っていた艦長がこちらを振り返り敬礼する。

 

「エレノア・グレイスと言います。階級はこれでも中佐になります」

 

 驚いた事に艦長は女性、しかもかなり若く見えた。

 ハーフアップで纏められた輝く金色の髪、穏やかそうな光を魅せるエメラルドグリーンの瞳。ぷるんと瑞々しい唇は薄くピンクに塗られている。

 

 これは……若作りか? 

 細胞再生によるアンチエイジング手術を受けてるなら、見た目から年が判断出来ないからなぁ。

 

 費用はお高いけど、戦艦の艦長やってれば余裕で払える額だろう。

 

「はっ! トミー・バーニス以下第四小隊、ただいま乗艦いたしました!」

 

 オッサンもそんな年増の気配を感じ取ったのか、妙に改まってビシッと敬礼を返す。

 

「四人……随分、少ないのですね」

「ゼロじゃなかっただけ、運が良かったです」

 

 はえー……オッサンのこんな改まったとこ初めて見たー。意外と長い物には巻かれろタイプってコトか? 

 ダッサw……。

 

「ナ、ナナシちゃん……!? 敬礼! 敬礼!」

「ん?」

 

 ふと横にいたデカパイが何か小声で話しかけてくる。

 デカパイは何故か敬礼の姿勢を取っていた。というかよく見たらボブニキも敬礼してるじゃん。

 そして何か視線が妙に私に集まってきた……何で?

 

 ひょっとして……私にも敬礼して挨拶しろって事か? いやいやまさかそんな。それはありえないでしょ。

 

 だって、私が前に第四小隊に配属された時は、敬礼までしてしっかり挨拶したのに、ブチギレられたもん。

 

 私はバカじゃない、学習する女なのだ。

 私が挨拶をしたら相手は怒る。だから私は挨拶をしないのが正解の筈だ。

 

「すみません中佐。コイツは見ての通りのクソガキでして。躾が足りず申し訳ない」

「い、いえ。個性的な子ですね……この子も、パイロットなのですか?」

 

「後入りの補充要員ですがね……ナナシ・モブ曹長です」

 

 ぼすっ! と無遠慮に頭に手が乗せられる。

 セクハラって知ってるかオッサン? いい歳した男が女の子の頭に手を乗せるとか犯罪だぞ。

 ムカつく……イライラしてきた。

 

「ナナシ・モブ……ではその子があの、シミュレータートップスコア保持者……」

「そうだけど?」

 

 だったら何なんだよ。ムカつくなこの年増も。

 オッサンもいつまでも頭触ってんじゃねえよ!

 

 ベシッ! とオッサンの腕を弾いてムカつく奴らに背を向ける。

 

「? どこへ行くのですか?」

「格納庫」

 

「え……? 格納庫……?」

 

 年増を無視してブリッジを出る。

 そもそもこんな下らない話、呑気にしてる場合じゃない。

 

 どう感じても敵が来てる。

 私の直感がまず間違いないと告げている。

 

 宇宙は地球と違って邪魔な物がないから敵意も感じやすいんだ。だからハッキリと分かる。

 

 どーせ出撃命令が出る筈だから先に格納庫に行っておく。じゃないとまたあのマッキガイとかいうクソ機体で出ることになる。

 もうあれは嫌だ……せめてジャッコに乗せてくれ……あ、レールガンだけは返してくれ。あれは使えるから。

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

「? どこへ行くのですか?」

「格納庫」

 

 にべもなくそう告げたナナシが退出して数十秒後。

 ブリッジ中に警報が鳴り響く。

 

「何事か!?」

 

 艦長のエレノアは先程までの穏やかな様子とはうってかわり、瞬時に鋭く瞳を、抜身の刃の如く光らせる。

 

「接近する艦影を確認! 識別コードは……っ!? コロニー・ネーゼですっ!」

「追手か……! 総員第一種戦闘配置! アンチビームパウダーの散布、急げ!」

 

「はっ! 総員第一種戦闘配置! アンチビームパウダー散布!」

「散布開始しますっ、パウダー散布っ!」

 

 一気に空気が張り詰める。

 エレノアは険しい表情のまま、トミーに振り返った。

 

「来て早々申し訳ないが、大尉にも出てもらいたい」

「はっ! 承知しました! しかし、機体のOSがまだ地上用になります」

 

「問題ない。予備の機体がある」

 

「あっ! わ、私、オペレーターに入ります!」

「助かる。今はブリッジ要員も貴重だから……」

 

 言いながら、エレノアの思考は別にあった。

 

(先程のモブ曹長……まるで敵の接近を事前に理解していた様な……?)

 

「もしかして……彼女は……」

 

 エレノアのその呟きは、誰にも拾われず戦場の空気に埋もれて消えた。

 

 

 

●ケルマディ級戦艦ドルフィン

 ケルマディ級は簡単に説明すると、帝国軍所属の中型艦の事。

 

 ドルフィンは新造された中型艦で、クルーの平均年齢がかなり若い(人材不足のため)。

 

 戦艦としての性能は帝国軍の中ではトップクラスで、ビーム兵器もしっかり搭載されている。

 つまり連合軍の戦艦と同じ位の性能って事です。

 強いね!

 

●アンチビームパウダー

 その名の通りビームを防げる不思議な粉。

 

 事前に塗っておけって思うかもしれないが、残念な事に時間が経つと宇宙に溶けてしまう。地上でも同じで気付いたら溶けて消える不思議な粉。

 

 その特性から気体に反応して溶けるとされており、真空状態にすればある程度長期的に保管出来る事が分かっている(絶対真空でない限り僅かでも気体があるので時間が経てば消えてしまう)。

 

 戦闘時にこれを散布して遠方からのビーム兵器を防ぐのが現在の宇宙戦の基本になる。

 

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