新人です。エースパイロットやってます。   作:今井亜美(ハーメルンのすがた)

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八話 新人と初めての艦隊戦

 

 格納庫に戻ってきた私は、そこら辺を忙しなく動いてる整備士のおっちゃんを一人捕まえて、尋ねものをする。

 

「私のジャッコどこ?」

「あん? 子供……? お嬢ちゃん、ここは危ないよ。すぐに戦闘になるからな。部屋に戻って、スペーススーツを着な!」

 

 コレである。

 話は終わりとばかりにおっちゃんは行ってしまった。

 

 流石に酷いと思う。

 パイロットに対する敬意ってものを1ミリも感じない。最低だよ、おっちゃん。

 

 この後同じ様に二、三人捕まえてみたが、まずそもそも話を聞いてくれたのがさっきのおっちゃんだけだった。みんな私をチラッと見て無視する。

 ごめんおっちゃん。最低じゃなかったわ。最低から二番目だったわ。

 

 何で誰もパイロットって分かってくれないんだ……。

 パイロットスーツを着てないからか? 軍服くらい着とけば良かったか? 

 でもシャトルの中暑かったんだもん。私服着たくなるじゃん!

 

 今の服装? 白い半袖Tシャツと赤いチェックのミニスカートだよ。Tシャツは所謂文字Tで「ごんべえ」ってやけにやる気のない字体で書いてある。意味不明でかなりのお気に入りだ。

 

 いやそれはいいでしょもう。

 問題なのは服装云々じゃなくてどいつもこいつもひとの話を聞かない事だよ。

 私、さっきからちゃんと「ジャッコどこ?」って聞いてんのにさあ……。

 

 さっきからイライラする事ばっかりだ、気に入らない。

 

 もういい、勝手に探す。

 勘に従えば分かる筈だ。ふむ……多分、第四小隊のアークはあっちの、端っこの方にあるとみた。

 

(……ん?)

 

 移動する途中、見覚えのない強そうな機体が目に入る。

 メタリックな黒と赤のカラーリングが施された機体で、線が細く、機動力の高そうな印象を受けた。

 

 背中に大きな実体剣をマウントしてるから近接戦闘特化機体なのだろうか。でもガンラックをみるに、あの機体、ビームライフルを装備するらしい。

 それだけで帝国軍の中では上澄みも上澄み。エース用アークだろう。

 

(あの頭のアンテナ……指揮官用だな。多分、最初に会った優男の機体か……)

 

「アンジーの整備、急げ!」

「中尉が来るまでに終わらせんだよ!」

 

 整備士の怒号が飛び交う中、機体名が聞こえてきた。【アンジー】というらしい。

 いいアークで、羨ましい事だ。まあ私みたいな新人には縁が無い機体だな。

 

 さて、格納庫の端についた私は整備士の隙を付いてジャッコに乗り込み、ブリッジに通信を入れる。

 戦艦は自由に出撃が出来なくて不便だ。扉を開けて貰わないと外に出られない。

 

「ブリッジへ。こちら第四小隊ナナシ。発進準備完了、許可求む」

『ナナシちゃん!? パイロットスーツも着ずに何やってるの!?』

 

 む。この声はデカパイか。

 何やってるの、はコチラの台詞だが。

 

 いつからブリッジのオペレーターになったんだ?

 まあデカパイは通信兵だし妥当なポジションか……。

 

『モブ曹長。今乗っているのは第四小隊のジャッコ、でしょうか?』

 

 こっちはデカパイじゃないな。

 年増艦長の声だ。

 

『そーです。許可求む』

『いけません。その機体のOSは地上用にチューンされています。宇宙に出る事は出来ても、移動も、照準も、全て重力下での運用が前提になっている。まともに動けませんよ』

 

『問題ない。許可求む』

『……照準の補正やパターン回避、制御アシストが全て機能しなくなってるんですよ? 全操縦をマニュアルで行うなら理論上出撃可能かもしれませんが……』

 

『何当たり前の話してんの? いいから早く。許可、求む』

 

 艦長が黙った。うーん……何をもたもたしてるの?

 敵来てるんだけど……あーもー……どいつもこいつもイライラするっ!

 

 そもそも制御アシストって、あれでしょ?

 こっちが折角狙ってるのに勝手にエイムずらしてくるゴミ機能の事でしょ?

 

 あれ使ってる奴いるのか? 私はすぐにオフったが。

 

 回避のアシストもすぐオフった。こっちが回避しようとしてるのに勝手に動作が重くなったり変な動きしようとしたりするから。

 

 だから私は全部マニュアル操作でやってる。

 というかそうしないとジャッコなんてまともに戦えないし。

 

 だからOSが宇宙用だろうと地上用だろうとそこまで大きな問題はないのだ。 

 

『……分かりました。出撃を許可します』

 

 たっぷり八秒かかってから、年増は許可を出した。

 遅い、遅すぎる……判断が遅い……ムカつく……。

 

『但し、先行するのは許しません。リカルド中尉とタイミングを合わせる事』

 

 げえ、なんだその条件! 今すぐ行けないじゃん!

 早く来た意味ねえ〜!! 敵! 来てるんだっての! 分かんないの!? 優男がいつ来るかも分かんないのにさあっ!

 

「あ〜っっ!!」

 

 イライラの余り頭を掻きむしる。バサバサと銀色の髪が揺れる。髪が長くてムカついてきた。もう全部剃って坊主になってやろうか、ムカつくし。

 

 あー……今、敵意が増大したああ……。

 はい、先手取られたー攻撃が来まーす。クソがよ。

 

 ずずぅん……と戦艦が大きく揺れる。

 

『敵艦砲撃を開始しました! 被弾、損傷軽微!』

『パウダーから出るな! 主砲、射角回せ! アーク隊は準備出来次第発進!』

 

 アンチビームパウダーが効いてるから遠方の砲撃一発で堕ちるなんて事はまず無い。

 

 とはいえパウダーは完全に攻撃を防げる訳じゃない。それに向こうだってアークを出してくる。アークに接近されて取りつかれたら戦艦は終わりだ。パウダーなんて関係なく堕とされるだろう。

 

 だから早く出撃したいのに〜!

 うー……とりあえずアレだ。ジタバタしても状況は好転しない。時間を有効に使おう。

 

「誰かー! 整備員っ! レールガン持ってきてー! アレ欲しいっ!」

 

 外部スピーカーをオンにして呼びかけると整備士のおっちゃんが声を張り上げて回答してくれる。

 

「あんたらの持ち込み品なら修理中だぞーっ!」

 

 え? 修理?

 

「砲身が潰れてんだーっ! 今は使えーんっ!」

 

 はああ!? 誰だよそんな潰れる様な雑な使い方した奴っ!

 

 私だよっ! バカっ!

 くそ……ぜってー砲身で敵ぶっ叩いた時じゃん……ああああ……!

 

「な、ならせめてマシンガンをもう一丁おくれ……!」

「ジャッコマシンガン? まあ予備ならあるが……ちょっと待ってろーっ!」

 

 はあああ……もう最悪……。

 折角持ってきたのに……レールガン……。

 

『すまない、遅れた!』

 

 私が絶望していると、通信が入る。

 やーーーっと来た。待ち望んだ声、優男である。

 

『リカルド・ドッグマン、アンジー! 発進準備完了だ!』

『了解、アンジーをカタパルトへ移動します!』

 

 優男の機体、アンジーが沈んでいく。

 アイツが行ったって事は私も行っていいって事だよね? ね?

 

『モブ曹長! ジャッコをカタパルトへ移動します!』

「おーいっ! マシンガン持って来たぞぉ!」

 

 デカパイから通信が入り、クレーンに吊るされたまま床下に沈んでいく。その最中、腕を伸ばして持ってきてくれた二丁目のマシンガンを受け取った。

 

 暗く狭い穴の中、赤いランプに照らされて。下へ下へ向かっていく。

 やがて底について、機体が百八十度回転。カタパルトに足が乗せられた。

 

『カタパルトシステムとのエンゲージ、正常確認。ハッチ解放します』

 

 目の前の壁が次々に開いていく。狭かった穴は通路に。その先には、自由。

 青い、宇宙の海が広がっている。

 

『推力を規定値で固定、システムオールグリーン。スタンバイ完了! 進路クリア……ジャッコ、発進どうぞ!』

「ん……ナナシ・モブ、ジャッコ。発進します」

 

 操縦桿を前に倒すのと同時にカタパルトが素早く動き、前方に機体が発射。宇宙の海に投げ出される。

 

 スラスターを吹かせてないのに、どこまでも飛んでいきそうな、ふわふわとした無重力の感覚。360度、永遠に続く宙。きらきらと輝く満天の星々。

 

「これが……宇宙……」

 

 気付けばさっきまでのイライラはどっかに飛んでいた。自然と口角が上がってニンマリとする。

 

 やっぱり私、宇宙が好きだ。

 

 ああ、この海で泳ぐ為だったんだ。私がアークに乗っていたのは、この為だったんだ。

 

 ────楽園は宇宙にあった。我々は箱舟【アーク】に導かれて、そこに辿り着くだろう────

 

 宇宙開拓期に言われた、有名な演説の一節を、私はふと思い出していた。

 

『モブ曹長、動けないのか?』

「ん?」

 

 良い気分だった所に通信が入り、一気に水を差された。

 

 急速に感情が冷えていく。忘れていたイライラを思い出してきた。

 

 通信してきたのは優男、リカルド・ドッグマンだ。

 

『君をよろしく頼むと艦長から聞いている。動けないなら救助が来るまで待っていろ』

 

 どうやら私が微動だにしなかった為に、溺れていると勘違いしているらしい。

 

 それにしても、年増の奴……私に優男と組めだって? お守りをしながら戦艦とやり合うなんてゴメンだよ。

 

 私は優男の問いかけを無視してスラスターを吹かす。機体がクルクルと宇宙を回りながら、敵船の方へ進みだす。

  

『おい、無茶をするな! 溺れてるならその場で待機だ! 聞こえないのか!?』

 

 ふむ……敵意が分散してるな。相手のアークも、もう出てきている。とはいえ最重要なのは、奴らの出てくる巣を叩く事。

 

 艦隊戦は、どっちのアークが早く相手の船を堕とせるか。これで決まる。

 

 よって一度アークは無視し、まず船を叩く。これがセオリーだ。

 

『曹長! 迂闊だぞ! 深入りしすぎている! 何とか戻れないのか!?』

 

 どんどん、前へと進んでいく。途中砲撃が飛んでくるが気にしない。パウダーの中に居てくれれば、戦艦はそうそう堕ちはしない。

 

 相手のアークが近寄ってきてライフルを撃ってきたが、避けて無視。殺気を垂れ流した攻撃なんて、当たる訳が無い。

 

 スラスターを全開にしてどんどん加速する。宇宙は動けば動くほど速くなるから楽でいい。途中、なるべくぐねぐねと蛇行をかまして距離を稼ぐのを忘れない。

 

『な、何であの速度で曲がれるんだよ!?』

『このジャッコ、無人機か!?』

 

 周りに敵が寄ってきた。

 母艦に近づく敵を堕としたいらしい。

 

 私は高まったスピードを駆使してそいつらを躱す。

 あ、おい! コースを塞ぐな! 死ねっ(射撃)!

 

『うわあああああ!?』

『ひ、一人殺られたっ! 射撃が正確すぎる! やっぱり人間じゃない!』

 

『冗談だろ……帝国の奴ら、本物の殺人マシンを作りやがった!!?』

 

 全く……! 後でちゃんと殺してやるんだから大人しく待ってればいいのに。

 

『囲め! 囲むんだ! 全員で堕とすぞ!』

 

 意地でも離さない気か? めんどくさいな……。

 正面に二、側面に二、背後に一。結構スピードをだしてる筈なのによくついてくる。フラットは加速力も優秀な名機だなぁ。羨ましい……。

 

『……曹長! 援護するから退けっ!』

 

 優男が追いついてきたか。

 正面の二機がアンジーにライフルで堕とされ、側面の一機も剣で真っ二つにされてる。

 

 優男のあの動き……言っちゃ悪いけどなんか、普通のエースって感じだな。めっっっちゃ平凡。

 

 可もなく不可もない。見るとこなし!

 そこらの雑魚よりはましだけど、機体スペックと腕が見合ってるかと言われると……うーん。

 

 ぶっちゃけた話、アンジーが強すぎる。

 だから優男でもフラットを撃墜出来てるけど、あの腕じゃあ、ジャッコに乗ったらフラットに勝てないだろうな。良くて、相討ち……くらい? 知らんけど。

 

『後ろからならば! くたばれっ帝国の殺人兵器────がアぁ!?』

 

 最後に残っていた背後の敵がバカ正直にも真っ直ぐ近寄って来てくれたので、腕だけぐるりと真後ろに向けてそのまま撃ち殺す。

 

 これで障害はなくなった。後は突き進むのみである。

 

『グ……! これ以上のッ、加速、はッ……!? モブ曹長ッ……止ま、れ……! Gに潰されるぞッ……!!』

 

 なんで止まる必要があるんだ? 折角ここまで速くなったのに。ここで止めたら台無しじゃん、おバカ?

 

「そろそろかな〜」

 

 私の勘がそろそろイケると告げている。

 それに従って私はぐるぐると回転しながらマシンガンを敵戦艦の方へ向ける。

 

 物体の衝撃力は速さの二乗に比例するらしい。

 つまり、速ければ速いほど攻撃力が増すという事。

 

 私が持ってる武器、ジャッコマシンガンとかいう豆鉄砲は兵器としての欠陥品なので、何発撃とうが戦艦の装甲を抜けないだろう。

 

 しかしそれは止まって撃った場合の話だ。

 動きながら撃った場合は、また変わる。とはいえ、多少速度をつけた位じゃあダメだ。

 

 ある一定速度……多分ここまで速く、加速してから射撃すれば────メイン装甲は無理でも、ブリッジ正面のクリア装甲ぐらいなら、ジャッコマシンガンでも貫ける様になる……たぶん。

 

 回っているのは何だって? それは気分だ。

 いつもの三倍の速度で回ればパワーが増すって聞いた事あるし何か効果あるだろ!

 

「いっけー! ハイパー豆鉄砲!」

 

 ガガガガガッッッ! と両手のマシンガンを次々に四方向に速射する。

 ネーゼ艦隊の数は小型艦二、中型艦二、の合計四隻。勘が正しければこれで相手は堕ちる。

 もう速度は要らないので、逆方向にブーストして急制動。

 

 敵艦に背を向け、その場を後にする。

 撃った瞬間に分かる。もうあいつらは死んでる。

 

 ブリッジに当たっただけなので派手な爆発とかはないのがちょっと不満。どうせならドカンと派手に逝ってくれた方が見応えがあるのに。

 

 まあいいや。

 後は残ったアークを堕とすだけの簡単な作業だ。

 

 

 

●アンジー / ANN-g

 メタリックな黒と赤のカラーリング。

 線が細く、スラッとした見た目。

 機動性の高い近接寄り万能機。

 

 最新のエース用機体であり、まだ四機しか生産されてない。帝国にしては珍しくビーム兵器を装備している。特徴的なのは背中にマウントされた大型の実体剣。今後の連合軍機体に装備されるであろうビームシールド、ビームバリア技術に対抗する為に先んじて実体剣となった。

 

 ジャッコとは違うのだよ、ジャッコとは!

 

 

●ナナシのTシャツ2号

 文字T。

 やけにやる気のない字体で書かれた「ごんべえ」。

 ナナシは余り意味を感じない、よく分からない服が好みの様子。

 

 

●ハイパー豆鉄砲

 ナナシwithジャッコの必殺技。

 宇宙限定。

 めっちゃ加速&回転しながら突っ込んでマシンガンを弱点に向かって撃つ。

 これを使わないとジャッコは戦艦を堕とせないのでパイロットの必須技能(と、ナナシは思ってる)。

 

 両手にマシンガンを持って100万パワー+100万パワーで200万パワー!!

 いつもの2倍の速度が加わり、200万×2の400万パワー!!

 そして、いつもの3倍の回転を加えれば、400万×3の

戦艦! お前のブリッジのクリア装甲をうわまわる1200万パワーだーっ!!

 

 ※片手でも出来ます。

 ※速度は二倍以上の加速が必要です。

 ※回転は気分です。

 




 ロボアニメでありがちなカッコいい発進シーン登場! 発進はロマン!

 ……あ、次回からありがちロボアニメ本編がやっと始まるらしいっすよ。長いプロローグだったな……。
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