元男のTS転生魔法少女だけど、どうやら歴代最長記録を更新中らしい。   作:気分屋さんって何屋さん?

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#1 新人教育

 

 

 

「私よりも後から魔法少女になった子が、続々と卒業していくよ……」

 

 私こと、マジョルルアニマはついぼやく。

 そうして自分の姿を見下ろすと、成熟した躰に似つかわしくない衣服が身に纏われていた。

 黒色を基調としたキュートな意匠。フリフリのスカート。ヒラヒラなリボン。

 テレビの中で戦う魔法少女の格好そのものといった具合だった。

 

 そう、私は魔法少女だった。それもおそらくは一番の古株になってしまった魔法少女。

 

「アニマ、キミ何歳だっけ?」

 

 いつの間にやら傍らに現れた、その手の作品ではテンプレ存在であるマスコットキャラクター染みた精霊──名をシャケチといった──が私に問う。

 

「十八だよ。今年、高校卒業」

 

「そうだったね」

 

「なに? 嫌味かぁ〜?」

 

 自分で言って悲しくなる。周りは受験がなんだ、就職がなんだと騒いでいるのに対して、方や私は万年魔法少女だ。

 

「そもそも、十八でこの服はもうキツいでしょ……」

 

「魔法少女のコスチュームは装着者の身体的成長に応じて最適化するよう、日々変形しているはずだよ?」

 

「そういうんじゃなくてさぁ……、『うわ、キッツ!』ってやつだよ。うわキツ!」

 

 さすがにコレはねぇ……と嘆いたとて、私が魔法少女になった時からデザインは据え置き状態である。

 

「大丈夫だよ。最近ではOLが魔法少女になったり、元魔法少女の人妻が再び魔法少女となって活動する創作物もありふれているようじゃないか」

 

「どうして三十は超えてるようなのばかり羅列するのさ。やれってのか? アラサーまで魔法少女やれって言うのか?」

 

「ボクはアニマがお婆ちゃんになっても見捨てたりしないよ」

 

「卒業できなきゃ老骨に鞭打ってでもやれって? 鬼っ畜〜♪」

 

 シャケチの躰を肘で小突くと、ぽふんとした縫いぐるみのような感触が返ってくる。

 

「それで? 私のとこに来たって事は何か用があったんでしょ?」

 

 先程までのおちゃらけた雰囲気を正して、本題を訊き出す。

 正直言って、面倒事は好まない。

 彼方此方に首を突っ込んで止まない気質の輩もいるけれど、私は我関せずのスタンスの方が楽だと思う。ただでさえ、魔法少女などという厄ネタにどっぷりと浸かっているのに、わざわざそれ以上を被る気も無かった。

 私はそういう奴なのだ。ずっと、ずっと。

 

「あぁ、そうだった。またキミに新人教育をお願いしたいんだよね、頼むよアニマ」

 

「……ヤだよ。どーせ、その子も私より先に卒業していく事になるんでしょ?」

 

 自分が物を教えた少女達が、自分よりも早くいなくなっていく。それはまるで何年も留年してピカピカの新入生を卒業まで見届けていくみたいだった。

 

「まぁまぁ、そうは言わずにさ。キミの教え方は解りやすいって評判が良いし、なによりマジョルルアニマは皆の憧れの存在なんだよ」

 

「焦がれられても困る……」

 

 こんな『女の成り損ないのような歪な女』のどこが良いのか、と嘆息した。長く魔法少女をやっていると、こうした印象が一人歩きして、さも尊大な者であるかのようにイメージ作られる。

 マジョルルアニマは完全無欠だ〜、マジョルルアニマは十全十美の魔法少女である〜、とか。

 期待は時として重石と成り得るし、こんな事なら黒い衣装のイメージ通り、つっけんどんな魔法少女として振る舞えば良かっただろうかと思考する。

 

「ゲートを作ったよ。この先に待っているはずだから、そういうことで」

 

「はいはい」

 

 突如として世界に開かれた、場所と場所を繋ぐ穴。これを潜れば、一瞬で移動できる。新しい魔法少女の子の下へと。

 

「……まぁ、戦える魔法少女は多いに越した事はないか」

 

 ため息を一つ漏らして、そして、踏み入れた。

 

 

***

 

 

「こんにちは、貴女が新人ちゃん?」

 

 場面が切り替わり、視界も晴れる。

 

「えーッ!? 教えてくださるセンパイ魔法少女ってマジョルルアニマさんだったんですか!?」

 

 わぁ〜、わぁ〜と目をキラキラさせては、まるでアイドルにでも会ったかの如く視線を送る新米魔法少女ちゃん。

 ここまで喜んでもらえるのなら、悪い気はしない。

 けれど、浮かれていてはダメだ。今日の私は、あくまでも指導者。ビシバシ行くぞ、と褌を締めてかかる。

 

「ん、んんっ! 私が貴女の教育担当になったマジョルルアニマです。貴女が魔法少女として独り立ちできるよう努めますので、よろしくお願いします」

 

 咳払いをもって区切りを入れ、話し始める。相手もそれを察したのか、ワーキャー言っていた騒がしさは鳴りを潜めた。

 彼女が良い子でよかったと安心する。

 いつまでもミーハー感覚でいては、この先が危ういからだ。

 

「す、すみません! 自己紹介が遅くなりました! わたし、花咲(はなさき) 舞子(まこ)……じゃなくてマジョルルアミーキティアです!」

 

 マジョルルアミーキティア──新人の子はそう名乗る。

 全体的に桃色のカラーリングを押し出した姿。

 ツーサイドアップに結われたピンクの髪、ピンクのリボン。ノースリーブの白いワンピース型の魔法少女衣装。

 まさしく清純派といった印象を与えられる。これぞ魔法少女モノの主人公ですよ、といった具合であった。

 

「私の名前は如月(きさらぎ) 優零(ゆうれい)

 

「え?」

 

「貴女が本名を口にしてたから私も言わないと不公平かなって」

 

 リアルの自分と魔法少女の自分を結びつける行為。

 本当はあまり良くはないけれど、此方だけ一方的に知ってしまっている状態も望ましくはなかった。

 

「これはお節介な先輩からの助言だけど、初対面の魔法少女にそう軽々しくと本名は明かさない方が良いよ」

 

「そうなんですか!?」

 

 アミーキティアは一つひとつのリアクションが大きいので相手をしていると楽しい。

 良い意味で純粋な性格の子なのだと思う。

 

「単純に相手が信用に足る人物か判らないからっていうのも理由だけど……」

 

 私は、言葉を続ける。

 

「──魔法少女っていうのは人によっては一種のアバターのようなものなんだよ」

 

「アバター……?」

 

「裏垢とかでもいいか。要するに、リアルの自分と切り離す事が出来るから、魔法少女の間だけは理想の姿を演じられるってことだね」

 

「う、ウラアカ……?」

 

「SNSでもう一つのアカウントとか、持ってたりしない?」

 

「普通はそういうものなんですか!? そ、それなら作ってみます!」

 

「いや、必要が無いなら要らないと思うよ」

 

 眼前の少女は珍紛漢紛といった様子だった。

 そういう世界に触れずに今まで生きて来たということだろうか。

 

「つまりは、リアルの自分と魔法少女としての自分を別個にしたいって子もいるから気をつけた方が良いよって話」

 

「……そうなんですね」

 

「まぁ、仲良くなった相手となら素性を話し合う時も来るんじゃないかな。結局のところ、現実から目を背け続ける事は出来ないわけだしね」

 

 私とて、魔法少女をしていたからこそ結ばれた縁もある。

 アミーキティア、彼女にもそういう物を大事にしてほしいと思った。

 だって、魔法少女達は優しい子ばかりだから。

 

「貴女ならきっと、他の魔法少女ともすぐに仲良くなれるよ」

 

「魔法少女のお友達はいないので、そうなれば嬉しいです」

 

 アミーキティアははにかむように笑ってみせた。

 角煮みたいに解れた笑顔が、見ている此方を安堵させる。

 

「だからアミーキティア……ティアって呼んでも良いかな?」

 

「……!? 」

 

 突然の私の申し立てに、彼女は目を見開いて、そして──。

 

「はい! アニマさんにあだ名で呼んでもらえるなんて光栄です!」

 

 また屈託のない笑顔を向けた。

 どこまでも明るい、少女らしい笑顔だった。

 

 

***

 

 

「ティア、飛行訓練をするよ」

 

「そのサングラス、どこから取り出したんですか?」

 

 スチャッと華麗に黒眼鏡を着用し、腕を組む。

 

「今の私は鬼教官だからね。ビシバシ行くから覚悟して」

 

「なるほど……」

 

 鬼教官を表すためにドコドコとドラムを叩くような素振りをして見せる。

 アミーキティアは存在しないドラムスティックを眼で追って、頭を上下させた。

 

「アニマさんって実際に話してみると気さくな方なんですね!」

 

「私は割とこんな奴だよ。みんなが理想とするようには振る舞えない」

 

 “だからね──”と言葉を紡ぐ。

 

「ティア、貴女も魔法少女だからって他者の評価を気にして、自分以外の誰かの理想像に縛られる必要なんてないよ」

 

 私は、そうやって潰れてしまった人を知っていたから。

 みんなの事を考えて、自分の事は蔑ろにして。

 魔法少女は平和の象徴だとか、英雄だとかである必要はないのだ。

 年端もいかぬ少女が、誰かのために戦っている。それだけで偉いのだから。

 

「ごめん、辛気臭い話になっちゃったね」

 

「いえ! わたしは新参者で右も左も解らない状態なので、そういう意気込み? 心行き? のような部分から入りたいと思います!」

 

「キミは本当に良い子だね。私が血の繋がった姉とかなら、それはもう蝶よ花よと猫可愛がりでもしたもんだよ」

 

 アミーキティアの言葉には嫌味が感じられない。それどころか、彼女の一挙手一投足に育ちの良さが窺える。

 愛されて育ったのだな、としみじみ思う。

 魔法少女は変身によって自身の姿を変える。そのため、外見という情報は変貌するが、こうした所作や節々から本来の人間性が垣間見えたりするのだ。

 

「それはそうと……飛行訓練を始めようか」

 

 私はそう言うと、彼女の目の前で浮いて見せる。

 四、五メートル程上空で停止し、地上のアミーキティアを見下ろした。

 

「飛行魔法は魔法少女の必修科目。魔法少女なら共通して誰でも使える魔法の一つだよ。これができないと、お荷物と言っても過言ではないからね。まずはこれを覚えてもらう」

 

「す、すっ、す……」

 

 アミーキティアはこちらを見上げると、興奮した様子で目を見開いていた。

 人がいきなり飛んだら驚くよね、と私はくすりと笑う。

 それなりの人数の新人教育をしてきたけれど、手本として浮いて見せると皆一様に驚愕を浮かべるのだった。

 

「……すごいっ! 下着が見えません!」

 

「そっち!?」

 

「だって! スカートだから見えちゃうんじゃないかってハラハラドキドキしてたんですよ!? それなのに、な、なぞの……謎の光がちょうど下着だけを隠して……!」

 

 真っ赤な顔をして騒ぐアミーキティア。

 私は一度地上に戻ると、説明に入る。

 たしかに、飛行魔法などと言って下からスカートの中身が見えていてはお笑い種である。

 けれど、残念。そのような初歩的な問題はとうに解決されている。

 ラッキースケベなんて男子の夢は微塵も期待できないのだ。

 

「これは魔法少女の変身衣装に最初から備わっている機能だよ。変な輩に邪な目的でケツ追い回されたんじゃあ堪ったものではないからね、パンツだけに」

 

「け、ケツって……」

 

「おケツ。」

 

「そういう問題では……」

 

「冗談だよ。お尻ね、お尻。ごめん、年頃の女の子の前でするような言葉遣いではなかったね」

 

 私がくつくつと笑うと、アミーキティアは「もう!」と頬を膨らませた。

 彼女は実に揶揄いがいのある性格をしている。

 しかし、いつまでも揶揄っていては嫌われてしまうだろうなと思う。あくまでも私と彼女は初対面なのだし。

 よく考えると、自分は今日はじめましての相手とこのようなやり取りをしているのかと血の気が引いた。通報されたりしないかと不安になる。

 

「──ということは! えい!」

 

「……っ!?」

 

「どうですか? ふふんっ、こんな事をしても見えてないんですよね?」

 

「……白だね」

 

「えっ!? ええーッ!? 見えないって……見えないはずじゃあ!? な、なんでぇ!?」

 

 アミーキティアは羞恥に顔を紅くさせて、しゃがみ込む。「うぅ……」という唸り声が聞いていて居た堪れない。

 

 これは……。

 

「……どうぞ。覚悟は出来ています。煮るなり焼くなり警察に突き出すなり、好きにしてください」

 

 私は観念して、ワッパを掛けやすいように両の手を揃えて突き出した。

 今やこの身は大罪を犯せし不浄の身。年端もいかぬ少女の下着を見たとあっては実刑も免れないだろう。

 

「そんなことしません! 見せたのはわたしですし……でも、なんで見えちゃったんでしょう……」

 

「うーん、まだ魔法使えないからかもね」

 

 とは言っても、真相は謎のままである。シャケチから訊き出しても構わないが、先程の件が綺麗さっぱり真っ新と無くなるわけではない。白だけに。

 

「だからさ、ほら────!」

 

 私はアミーキティアの手を取ると、飛行魔法を行使する。

 その小さく華奢な手をしっかりと握って、二人で空の旅を。

 

「急にごめんね。でも感覚で掴むのも大事かなって。こうやると案外すぐにビュンビュン飛び始めれちゃう子もいるんだよ?」

 

「……飛んでる。わたし飛んでますよ!」

 

「ふふっ、優雅でしょ?」

 

 向き合ったアミーキティアの瞳は、歓喜でキラキラと輝いていた。

 それはまるで未来への希望を信じて止まない童のように光って見えた。

 

「手、離すね?」

 

「そんな自転車の練習みたいに!?」

 

「大丈夫、最初は片手から行こう」

 

 アミーキティアの強張って離そうとしなかった手が、解けていく。

 彼女自身にも何となく自信があるのだろう。離しても構わないのだ、補助輪はとうに必要ないのだと。

 

「わかる? 普通なら片手を離したらぶら下がる感じになるはずだよね?」

 

「……でも、浮いてます。まるで水の中みたいに。足がついてるわけじゃないのに、落ちるわけでもない」

 

「うんうん、ティアは筋が良いよ」

 

 私が初めて飛行魔法を体験した時も、こんな感じだったなと想いを馳せる。

 もはや遠い日の思い出。

 けれど、最初の一ページはきっと胸が高鳴る程に輝かしい物であったはずなのだ。

 だから私はせめて、これから魔法少女になる彼女たちには始まりが苦々しい物とならないようにと思っている。いつだって始まりは楽しいものではなくてはいけないから。

 

「もう一個も離すよ? 仮に飛べなかったとしても私が絶対に落としたりしないから」

 

 そっと繋がれていた温もりが離れていく。

 そして──。

 

「……やったね。魔法少女の第一関門クリアだ」

 

 アミーキティアは確かに、誰の力も借りず自分自身の力で飛んでいた。

 それは未だ拙いものだったけれど、ごく僅かな時間にしては本当に上々と言える出来であった。

 これならいつかは飛行魔法競争でも良い成績が出せる逸材と成り得るかもしれない。そう期待せずにはいられなかった。

 

「すごい! これが飛行魔法!」

 

 アミーキティアはものの数分で移動、上昇、下降までして見せた。

 いくらなんでも飲み込みが早すぎるのではないかと驚愕する。

 

 ──ウォン!ウォン!ウォン!ウォン!

 

「これって……」

 

「……近いね。()()()だよ、マジョルルアミーキティア」

 

 喜びも束の間、その警報は鳴り響く。

 魔法少女が存在する理由を、魔法少女の御役目を果たせとばかりにそれは騒ぎ立てる。

 

「──怪獣退治だ」

 

 ごくりと喉が鳴っても、サイレンは鳴り止まない。

 誰かが倒さなくては先までの平穏は帰っては来ない。

 

 空は快晴。まだらに浮かぶ白い雲はアクセントであり、なんて事ない清々しさすら感じさせる。

 

 

 

 

 それなのに、世界はいつだって魔法少女を求めていたのだった。

 

 

 

 





 飛行魔法のくだりはすんなりと、パンツのくだりなんて当初は無かったはずなのにいつの間にか興が乗りました。これがキャラが動き始めるということ……?

 なので、長くなっちゃいそうだったから戦闘は持ち越しになりました。

 好評だったら続きます。


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