--新エリー都 ルミナスクエア--
「ハァ…ハァ…!」
ルミナスクエアの雨の夜、一人のホロウレイダーが息を切らしながら怯えた目つきで走っていた。彼はホロウで手に入れた戦利品の入ったバッグを握っており、時折後ろを振り向き、背後から迫ってくる何かを気にしていた。
「い、一体なんなんだアイツは…⁉︎暗くてよく分からないけど、なんか、蜘蛛みたいな…‼︎」
キリッ…
「ひぃッ…⁉︎」
暗い路地の奥で不気味な金属音が響いたと思いきや次の瞬間…
ギラッ!
「う、うわァァァァッ‼︎⁉︎」
暗闇の中8個の赤い瞳が光り、ホロウレイダーの絶叫がルミナスクエアに木霊する。
「た、頼む!しばらく中に入れさせてくれ!よく分からない何かに追われてるんだ!」
ルミナスクエアのバー『命の灯』。店内には珍しく客が誰一人としておらず、静かな店内でジャズが流れている。
レイダーは店内に入るとまず、カウンターでグラスを磨いているバーテンダーに目を向けた。柔らかい銀髪をゆるく束ね、白と黒のバーテンダー制服を着こなしているが、何よりもその顔に目線が向く。まるで絶世の美女のような顔立ちと微笑に、ホロウレイダーは思わずドキっとしてしまった。
「いらっしゃい…まずは落ち着いて深呼吸を…夜の新エリー都は、静かであるべきですから」
「お、おう……」
「ご注文はいかがなさいますか?」
「え…あー、24トニックで…」
「かしこまりました」
するとそのバーテンダーは手慣れた手つきでカクテルを作り始める。
「……興味本位で聞きますが、その何かとはどんなやつですか?」
「ッ‼︎…な、なんでそんな事を…?」
「ハハ、失敬。昔から気になったものは知りたがる癖がありまして……こちら24トニックです」
「あ、ああ…」
するとレイダーはカクテルを飲みながら、追ってきた何かをゆっくり思い出す。
「お、俺はその、ホロウでとある仕事をしていたんだ…何も怪しいことじゃない。ただ、物資を運んでいたんだ……そしたら、奥から金属の音が聞こえて、調査員かと思って見に来たんだ。そしたら…」
レイダーは次第に額から汗が流れ、再び怯えた目つきになる。
「そいつは調査員でもなければ、治安局でもない、どこにでもいるただのシリオンだったんだ……でも、アイツははっきり言ってただの怪物だ……ホロウの闇の中で姿はよく分からなかったが、手に握ったアイスピックで、エーテリアスを滅多刺しにしてた……」
グラスを持つ手が震え、視界がぼやけ始める。
「そしたらアイツ、俺に気づいた瞬間しつこく追い回してきたんだ!走っても走っても…まるで罠を張っていたかのように待ち伏せしてて…!今この場にいても、アイツがいるんじゃないかって思うと…‼︎」
「気分が悪そうですね…大丈夫ですか?」
「ああ大丈夫…大丈夫だ…」
〜〜〜
「そろそろ撒けたか…あいつもここまで来てないと思うし、もう行くぜ…」
しばらくしてレイダーがカクテルを飲み終えると、ディニーが入った巾着をカウンターに置くと、バッグを持って立ち上がった。しかし……
「お待ちを。お客様」
「あ?」
バーテンダーがカウンターを回り込み、レイダーの前に立つ。
「お客様へのサービスがまだですので、そのサービスだけ受けていただいてもよろしいですか?」
「いや、いい…さっきも言っただろ?俺は追われて…ッ⁉︎」
よく見ると、バーテンダーの右手には銀色に輝くアイスピックが握られていた。バーテンダーは依然として微笑を崩さず、目の前のレイダーを見つめていた。
「実は治安局特務捜査班の方々から、ホロウで違法な取引をしているレイダーを捕まえてほしい…と、ご依頼を受けてまして……」
「ま、まさか……ホロウでずっと追っかけてきた、蜘蛛みたいなやつって…‼︎」
背中から生えた8本の蜘蛛足が姿を現し、先端がギラリと輝いて見えるようだった。
「それではお客様、続きは夢の中で」
「新エリー都の夜のもと、私テキーラが明るくしてみせます。さて次は…あなたのご注文をお聞きしましょう」
「会社の愚痴も聞いてくれて、テキーラちゃんはホント天使のようだよ……え、あいつ男なの⁉︎」
ーーバーの常連客
「あそこで飲むならちゃんと金は払った方がいいわ!ツケを払えって蜘蛛みたいにしつこいんだから!」
ーーとあるなんでも屋の女社長
「うちのアホ共と違って、こっちのバーは気品があって落ち着きますわ…」
ーー3匹の猪を連れたお嬢様