『命の灯』
ルミナスクエアにあるそのバーは、毎日癖揃いの客が来店する。それ故に、看板バーテンダーのテキーラは異常なまでに広い人脈を持っている。
邪兎屋に治安局、対ホロウ6課。さらに巷では新エリー都の歌姫、アストラ・ヤオも変装して来店するという噂も…
さて、今夜は一体、どのような客がやってくるのだろうか……
〜『トワイライト・セーフティ』 -朱鳶- 〜
チリン…
「こんばんわ。テキーラさん」
夜のルミナスクエア。いつも通りカウンターでテキーラがグラスを磨いていると、バーの入り口のドアが開き、治安局の制服姿の女性が来店してきた。
彼女の名前は朱鳶。黒髪ロングに赤毛のメッシュが入っており、ワイシャツをロングパンツにタックインし、その上から治安局のベストを羽織る彼女は、治安局特務捜査班の班長だ。
市街で起きる事件調査や事故処理が主な業務で、ホロウレイダーなどの犯罪者の取り締まりも行う。特に彼女、朱鳶が関わった事件で未解決のものは0件。24という若さで班長という責務を全うしている彼女は、まさに治安局の鑑的存在である。
「この間はホロウレイダーの確保にご協力いただきありがとうございます。おかげさまで、無事に任務は完了いたしました」
「協力だなんてそんな…たまたま目的が一致していただけですよ。ですが、治安局の方々のお役に立てたのなら、幸いです」
テキーラは背中から生えた蜘蛛足を揺らし、微笑みながら朱鳶にそう言った。
「せっかくですから、何か飲んでいかれますか?その様子ですと、今日の仕事は終わったようですし」
「よく気づきましたね…では、お言葉に甘えて」
そう言うと、朱鳶はカウンターに腰掛け、テキーラはカクテルを作り始めた。現在、店内にはテキーラと朱鳶のみ。二人だけの時間が流れていた。
「長年バーで仕事をしていると、顔を見ただけでその人の様子がよく分かるんです。まぁでも、実はハエトリグモって視力があまり良くないんですけどね」
テキーラはクスクスと笑いながらカクテルシェイカーを振る。
「…それで、今日はどういった任務だったんですか?」
「以前テキーラさんが捕まえた犯人の仲間がホロウにいると知り、その調査を…ただ、調査中にホロウレイダーの攻撃により、部下が一人軽傷を…」
朱鳶は下を向きながら、暗い表情でそう言った。
「日々市民のために任務に取り組んでいるんですけど、時々思うんです……私が班長を務めていいのかなんて…」
テキーラは黙って耳を傾きながら、出来たカクテルをグラスに注いだ。
「…これは?」
「『トワイライト・セーフティ』…朱鳶さんをイメージして作ったカクテルです」
朱鳶はグラスを手に持ち、注がれた琥珀色のカクテルを一口飲む。すると先ほどまで彼女が浮かべていた暗い表情がふっと緩んだ。
「…なんだか、肩の力が緩んだような気がします」
「ええ。悩みを抱えるお客様に美味しいお酒を与える。それがバーテンダーとしての責務ですから」
するとテキーラは、真剣な顔つきでこう言った。
「…朱鳶さん。あなたが新エリー都の市民のため、班長として日々頑張っているのは、皆よく知っています。私自身、班長でありながら、アンケート配りなどの雑務も真剣にこなす姿をよく見かけますから」
「テキーラさん…」
「モフモフしたものが苦手でも、犬や猫などの捜索依頼もこなしているのもね」
「……それ、誰から聞いたんですか…」
「青衣さんからです。彼女もたまにこの店にやってくるんですよ。まぁ白湯しか飲んでないんですけど」
朱鳶の顔はほのかに赤くなっているのを見て、テキーラはまたクスッと笑う。
「私が思うに朱鳶さん。あなたは少し肩に力を入れ過ぎている傾向があります。ビデオ屋の店長さん方に聞いたのですが、あなたは代休を2ヶ月半程貯めているとか…」
「え……もしかして、リンちゃんとアキラ君からですか⁉︎」
「ビデオ屋と聞いて、他に誰が思いつくんですか…とにかく、たまには肩の力を抜くのも大事です」
「で、ですが…山程ある業務を同僚に丸投げして、自分だけ休むわけには…」
「いつか疲労で倒れたりしたら、仕事もできませんよ」
「うぅ…」
至極真っ当な正論を返され、朱鳶は何も言えなくなってしまう。
「あなたは一人じゃありません。青衣さんの他にも、セスさんやジェーンさん。皆、新エリー都のために動いている治安官です。たまには仲間に頼ってみてください」
「テキーラさん…」
「…とにかく、たまには自分を休ませる事。それがあなたが今するべき任務です。分かりましたか?」
「はい…」
「返事は大きく!」
「は、はい!」
「フフッ…」
〜〜〜
「今日はありがとうございます、テキーラさん。あなたのおかげで、少しは心が軽くなったような気がします」
しばらくしてカクテルを飲み終えると、朱鳶は立ち上がりそう言った。
「特務捜査班の班長様からお褒めの言葉をいただけて光栄です。またいつでも来てくださいね、朱鳶さん」
「はい。では…」
朱鳶が去り際にテキーラに微笑むと、ドアを開けてバーを去った。テキーラは彼女の使ったグラスを手に取り、磨き始める。
「朱鳶さん。あなた方治安局がいるお陰で、私もこうして新エリー都の夜を過ごせるんです。どうか、無理だけはしないようにしてくださいね」
To be continued →
朱鳶さんってお酒弱いイメージあるの俺だけですかね…