モンスターハンター カシワの書   作:77493

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モンハンクロス発売年にリプレイもかねて書いていた作品を、加筆したり推敲したりなどして再公開へ。あ、粗が凄かったので… )`ν゚)・;'



プロローグ

 

 

数多の飛竜を駆遂せし時

伝説はよみがえらん

数多の肉を裂き 骨を砕き 血を啜った時

彼の者はあらわれん

土を焼く者

鉄【くろがね】を溶かす者

水を煮立たす者

風を起こす者

木を薙ぐ者

炎を生み出す者

その者の名は……

 

(モンスターハンター公式 『黒龍伝説』より)

 

 

 

 

「……つまり、世界はこわ~い黒龍にまるごと食べられちゃうんだぞー。ガァオオー!!」

「うわぁああああ!」

 

眠りに落ちる前、あまり肌触りのよくない毛布にくるまりながら、母からおとぎ話を聞くのが好きだった。

趣味が悪いもので、まだ子供だったこちらがおとぎ話に出てくる「黒い龍」に怯えるのを楽しそうに見ていたように思う。

広く世界に伝わる伝説、「黒龍伝説」。

人間と世界に恐怖と絶望に下すという古の龍の伝説はしかし、想像上のおとぎ話に過ぎなかった。

 

「なあ、母さん、あんまガオーっていうの止めてくれよー」

「あらやだ、怖いのー? 六歳にもなって!」

「ち、違うし。夜中なのに声がデカすぎるからだし……って、本当だからな! 怖くなんか、」

「ガオォー! 食べちゃうぞー!!」

「うわーっ!!」

 

生まれは過疎の進んだ小さな農村で、母がいくら恐ろしい龍の真似をしても近所から苦情が来たこともない。

それほど暮らしは平穏だったし、田畑の作物を荒らされることはあっても村に大型モンスターの影が落とされるようなことはなかった。

大きな街に続く道の片隅にある村だったから人の行き来こそはあれど、父母ともども生活するのに苦労した覚えはない。

五歳を過ぎた頃には畑仕事や林の手入れをするようになっていたから、体力にだって自信があった。

思えば、当時からずいぶん自信家だったような気もする。

 

「なんだ、また黒い龍のお話か」

「スギ様。見回り、お疲れ様でした。疲れたでしょう」

「父さん、おかえり!」

「ただいま。はっはー、こいつ、またキキョウさんに泣かされたのか!」

「ち、違うし! 泣いてなんかないし!」

 

父は村付きのハンターだった。

村付きといってもやることはファンゴやケルビの害獣対策がほとんどで、大型に出くわした、勲章を授かった、なんて話は全く聞かない。

「俺は草食種しか狩れない臆病者だからなあ」なんて言って、よく笑っていた。

たまに気まぐれに剣や体術の稽古を習ったこともあったけど、そのたび、なんでか父は苦い顔をしていたように思う。

日中、俺が薪を拾い、母が畑仕事に勤しむ間、父は村のハンター仲間と近隣をパトロールしていた。

土産として食べた草食獣の肉は、なんとも言えない特別なうまさがあった気がする。

 

「なあ、カシワ。モンスターなんて怖がらなくていいんだぞ。まして黒い龍なんて、おとぎ話なんだから」

「でも」

「そうよ。それに、何かあったらスギ様が追い払ってくれるわ。安心なさい」

 

モンスターは脅威であり、恵みであり、人間と同じ世界の一部。大切にしなさい、思いやりなさい……父母は俺にそう言い聞かせた。

頭を撫でられ、睡魔に招かれ、俺は続けようとした言葉を吐けずに終わる。

世界を揺るがす、恐るべき黒い龍……「      」。

その名を呟くとき、俺は確かに、恐怖と絶望を覚えた。それと同時に、まるで逆の考えだって思い描いていた。

その考えが如何なるものか、俺は、ずっと後になってから自覚することになる――

 

「――だから、黒い龍はほんっとーにいるんだって!」

 

……村のはずれ、使われなくなった古井戸の周りは子供らにとってかっこうの遊び場だった。

特にハンターを親に持つわんぱくなガキなんかは、こぞってそこに集まった。

小えだや葉っぱ、木の実なんかで作った自慢の得物を腰に提げ、大人たちが狩りや畑に熱中している間ずっと下らないことを話す。

 

「まーた始まったぜ、カシワのおとぎ話、与太話ー」

「なあカシワ。俺らもう十歳だぞ。いい加減お子ちゃまな夢見るの、やめとけよ」

「黒龍なんているわけないだろー」

 

うぬぬともぐぬぬとも、なんとも口にしがたい文句がのど奥に溜まる。

当時も「今も」、俺はずっとおとぎ話の黒龍の実在を信じていた。理由なんて分からない。

それでも妙に自信があった。周りが反対すればするほど、伝説の龍はいるのだと主張したくて仕方がなかった。

夢で見たなら、まだよかったかもしれない。

しかし、黒い龍についての情報は狭い村だからか、子供だったからか、まるで手に入らなかった。それはムキになったものだった。

 

「いる! ぜったいにいるって! でなかったら、おとぎ話なんかにされるもんか!!」

「バカだなー。ビビらせて早く寝かせる為の作り話に決まってんじゃん」

「なー。カシワのばーか。おっこちゃまー」

「……っ、でぇいっ!!」

「うわ、何すんだこいつー!!」

 

言葉で適わないなら暴力だ、なんて、当時は本当にガキだった。

八つ当たりにしても、子供のしたこととはいえ犯罪すれすれの行為だったと思う。

夜遅くなる前に、ハンター仲間の家を一軒ずつまわり、息子の代わりに頭を下げる父の背を今でも覚えている。

とにかく、俺は昔から無鉄砲で考え知らずで、あまり頭のいいガキじゃなかった。要領だって悪かった。

なおかつ、今でも気質はさほど変わらなくて「同胞」には鼻で笑われることもある……でも、それとこれとは別の話だ――

 

 

 

 

 

 

「……ん、お兄さん」

「!」

 

――呼ばれて手元の手帳から目を離した男は、小さく光の漏れる先、荷車の小窓から首を伸ばした。

吹き抜けるさわやかな高原の風が、頬と、少しばかり伸びた髪を揺する。

視線の先、行きの方角。もふもふと豊かな毛並みを持つ草食モンスター二頭に挟まれた貨車の上から声はしていた。

 

「もうじきベルナ村だよ、ハンターさん。ずいぶん退屈だったろう」

 

身をにわかに乗り出し、手を伸ばす。貨車には二つの人影があった。

片方はモンスターの手綱を引く初老の女。

歩く毛玉にしか見えない草食種――この地方で親しまれるムーファという生き物の飼い主で、目的地近くまで運んでくれている。

渡した代金はごく僅か。交渉の折男が「ハンターになったばかりだ」と話したところ、何故か進んで乗るように促してくれた。

 

「ねえねえ、ハンターさん! ハンターさんはどうしてハンターになったの?」

 

小窓から手を伸ばし、ムーファの毛の感触を楽しんでいたところを妨害される。ぐい、と手を強く引っぱられる。

犯人は貨車に座るもう一人、女の孫であるという少女だった。ムーファの毛と似たような、柔らかな髪をしている。

 

「うーん、なんだったかな」

「え、何それ!? 気になっちゃうんだけど」

「これ、そのくらいにおし。誰にだって話したいことも、そうでないこともあるものよ」

「だって……このへんじゃ、なりたてのハンターさんって珍しいから」

 

祖母にたしなめられたところで、好奇心には適うまい。少女はいよいよ頬を膨らませ、全力で抗議し始めた。

男は苦笑。後退し、荷車の中に背を無理やり収める。ガタゴトと軽快に体が跳ねるたび、これからのことを思って心が躍った。

 

「黒龍伝説、って知ってるか」

「え? あのおとぎ話の? 知ってるよ、おばあちゃんによく聞いたもん!」

「そんなこともあったっけねえ。すっかり大きくなって」

 

老婆は思い出に浸っているような顔をした。短い嘆息が鼓膜に届く。

男は再び小窓に頭を近づけた。覗いた先、少女の方はこちらにしっかり体を向け、話の続きを今か今かと待っている。

 

「俺は、その黒龍を探しに来たんだ」

「……え?」

「……ん?」

 

一瞬の間があった。

刹那、男の鼓膜に叩きつけられたのは二つ分の笑い声。あまりに激しく笑いすぎて、祖母の方は咳き込んでいる。

 

「ちょっと、おばあちゃんったら! ごめんね、ハンターさん」

「いや、だってお前さん、そんな、そんな……黒龍なんて……そんな、」

「ちょっとぉ、あたしだって笑うの我慢してるのにー!」

 

荷車が前後左右に大きく揺れるものだから、ムーファは慌てたように立ち止まり、きょろきょろ周囲を警戒しはじめた。

男は小さく嘆息する。背中を荷車の内壁に預け、小窓の外、高く澄み渡る空へ視線を滑らせた。

 

(自分でもバカだと思うさ)

 

おとぎ話という形で遺される、古の龍の伝説。世界を恐怖と絶望に陥れる、災厄のモンスター。

それはどんな姿をしているのか。どれだけ巨大で、どんな翼ではためき、どんな眼でこちらを睥睨するのか。

興味と好奇心は尽きなかった。男にとって、それは過去幼い頃からの不変であった。

 

(でもなー。モンスターに通じるには学も金も必要だし、かといってそんなものどこにも無かったしなあ)

 

学院や王立古生物書士隊への進路を目指したこともあった。

結果は惨敗、どころではなく、目指そうとした時点で自分の学のなさに打ちひしがれる結果となった。

おまけに金もかかる。余裕のない自給自足の村での平穏な暮らしでは、とても行けるだけの力など捻出出来ない。

それでも、たとえ周りに夢追い人と笑われようとも男はしぶとく夢を諦めなかった。

金がない、学もない。だが男には、暮らしの中で身につけた強靱な肉体と、父親仕込みの体術、剣術がある。

村のハンターを遠目で、あるいは近くでじっくり観察し、自力で手段を探した。そうして十数年後に、自力で望みを叶えてみせた。

即ち、ハンターズギルドにじかに足を運びモンスターを相手取る天職……ハンターそのものになったのである。

 

(そういえば、ギルドマスターが妙なことを言ってたな)

 

黒龍を探したい、その為に資金が欲しい、だから難易度の高いクエストをやらせてくれ。

就任するや否や、男は矢継ぎ早にギルドを統括する老婆にまくし立て、交渉を重ねた。

最初は鼻で笑われた。しかし、無言のままその場でにらみ合いを続けていると、ふとした瞬間に向こうが折れた。

曰く、商売の邪魔をされたらたまったもんじゃない、と。老婆は口端を釣り上げながらそう言った。

『あんたにピッタリの仕事がある』、不敵に笑い、ギルドマスターたる彼女が提示した受注書にはこうあった。

「とある村に向かい、ハンターとして相応しいかどうか見極める為の試験を受けよ」。

とある村、ベルナ村。どういう場所かと問えども、現地に向かい全てを自分で体感せよ、と軽くあしらわれるばかりだった。

手続き待ちの他のハンターに押される形で、半ば追い出されるような形で男はギルドをあとにした。

……あの日、ベルナ特産の織物を売る荷車に提げられた「ベルナ村行き」の文字に手招かれ、男は故郷の地を黙って離れたのだ。

まるで見えない糸に引かれているかのように、端から全ての道筋が用意されているかのように、身も心も流されていった。

 

「……っと、ほら、ハンターさん」

 

いつの間にか、再び荷車は動き出していたらしい。一度大きな跳ねを感じた後、動きが止まった。

促され、狭い荷台から降りる。ムーファの毛ですっぽり覆われた荷台の外で、青々とした草木が眩く輝いていた。

思わず目をつむる。再度呼ばれ振り向くと、腰のあたりに柔らかな感触がぶつかった……荷車を引いてくれた、あのムーファだった。

 

「おや、懐かれたみたいだねえ」

「お兄さんって、ほんとにハンターなんだ。ほら、ハンターさんって、皆モンスターに敬意を払うっていうから」

 

ムウムウ、何度もそうして鳴きながら頭をこすりつけてくるのを甘んじて受け入れる。つまり、ひたすら撫で回した。

ほんのり汗ばんできたところで手を離すと、やはりムーファは名残惜しそうに身をよじらせる。

少しばかり罪悪感のようなものを感じて立ち止まりかけた男だが、少女が朗らかな声で男を呼んだ。

今更、後戻りなどできるはずもない。自らも名残惜しさを抱きながら、男は高原に続く小道の途中で彼女たちと別れた。

 

長きに渡る、冒険へのはじまりだった。

 

 





サイト掲載開始:2020/01/03
加筆修正・差し替え日:2023/01/29

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