モンスターハンター カシワの書   作:77493

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♪毎日毎日ボクらは音爆弾 音波で喚ばれて ヤになっちゃうよ
……
さておき、ガレオスネコワンピ(めちゃかわなので復活して欲しい)ともども砂竜装備にはお世話になりました。腕脚マッカォで下位イベクエ主任に殴り込みに行ってはロードローラーされていたイイ思い出があります。もんはんは おもいでがいっぱい



12話 砂の中を泳ぐ竜

 

 

デデ砂漠は、大陸の赤道直下付近に位置する広大な砂漠だ。

ハンターや付近の住民、ハンターズギルドからは「旧砂漠」の名で親しまれる狩り場である。

ところどころに埋もれる旧時代の遺跡の跡、無数のサボテン、真っ赤に熟れたイチゴ、緩急ある高低差が広く目に付く。

当然、日中は灼熱の陽が砂地に降り注ぎ、空気は熱に揺れ、乾いた風は砂を巻き上げ、狩りをするには過酷な環境だった。余談だが、逆に夜間は漆黒の闇と満天の星に囲まれ、耐寒装備でなければ保たないほど冷え込むフィールドでもある。

とはいえベースキャンプ周辺は岩場が多く、熱と日差しがさえぎられ、通年そこそこ過ごしやすい温度を維持していた。多くの狩人は通気性のいいインナー、装備に整え、この場所から狩りに赴く。

中にはキャンプ周辺の豊かな植物などから、火薬草や落陽草の根といった素材を採取するのに夢中になる者もあった。

 

……狩り場とキャンプの境にある石造りの天然の柱の横で、クリノスは簡素な椅子に腰かけ、膝下ほどの大きさの機材を用意した。

事前に草食モンスターから剥ぎ取っておいた肉の塊を機材の中央にセットし、下方のコンロに手早く火をつける。狩人なら誰でも一度は世話になるであろう機材、携帯用肉焼き器だ。

いかんせんたいがいの狩りは長丁場になりがちで、村に帰還するまでの間体力もスタミナもともに激しく消耗させられる。

そんなとき、狩り場でも用意できる非常食――こんがり肉は、こまめに作り置きする必要があった。

取っ手をぐりぐり回し、均一に火が通るよう、丁寧にじっくりと肉を焼く。そのうち、あたりには香ばしい匂いが立ち込め始めた。

そろそろかな、そう思うより早く、彼女の手は魅惑的に肉をまとう、いかにもなけしからん骨をがしっと掴んでいた。

 

「やああっ!」

 

思わず気合いのかけ声。天高く掲げたこんがり肉は、これ以上ないほど良いあんばいに仕上がっている。我ながら上出来だと、彼女は誰に向けるでもなくほくほくした顔で頷いた。

ふと、頭上からぱちぱちと軽快な拍手が振る。見上げた先、柱の上に二足立ちしていたリンクが尻尾を振っていた。

 

「さすが、旦那さんニャ。鮮やかニャ」

「ありがとー、リンク。あとで分けて食べよっか」

「ニャ! 嬉しいニャ、楽しみが増えたニャ!」

「ふふーん……で、どう? 『あいつ』の様子は。うまくやってる?」

 

焼きたての肉を保存用の大ぶりの葉で包むクリノスに、リンクは一度まばたきを返した。

彼の手には双眼鏡が握られていて、柱の上という立ち位置からして、さしずめ見張り要員である。

 

「ニャ……今は、ガレオスが三匹、親玉が一頭ニャ。ぶっちゃけ囲まれちゃってるニャ」

「あー。あいつら、群れで狩りするからね」

「旦那さん。本当に、助けに行かなくていいのニャ?」

 

リンクの眼には、キャンプの外、エリア二で狩りをしているとあるハンターの姿が見えている。念のため向こうの様子を見ておいてくれ、と事前に彼に頼んでいた女狩人は、しかし報告を聞いたうえでその場から動かない。

先に焼いた分に手持ちの「塩」を振って試食するか一瞬逡巡して、何もせずに黙々と二本目の肉を焼き始めた。

 

「あいつが手出し無用って言ったんだから、わたしたちが出ることないよ」

「でも……そこはカシワさんニャ」

「リンクー。男って、プライド高い生き物なんだよ?」

「そういうものニャ?」

 

エリア二と主人を交互に見るリンクをよそに、クリノスは涼しい表情で困惑を受け流した。

 

「そうそう。それに、ここで助けに行ったら修行にならないでしょ」

 

二本目も順調に焼けている。岩場の影とはいえ、さすがに火を使っているだけあり額に汗がにじんだ。手の甲で乱雑に汗をぬぐい、クリノスは空を仰ぐ。日差しは弱まることを知らず、暑さは強まるばかりに思えた。

ベースキャンプ外、直射日光にさらされる砂地のエリアでは体感温度を内側から下げる飲料、クーラードリンクが必須になる。

カシワのやつ、切らしてなきゃいいんだけど――したたる肉汁と熱気に喉を鳴らして、クリノスは小さくうなった。

 

「ここでくたばるようならそれまで、なんてね。ユカちゃんだったっけ、あいつならそう言うかもね」

「ニャー。あの人、オトモなしで大丈夫なのかニャァ……」

「さあねえ。アルくんも茶色いのと修行中だし、どうしようもないよ」

「あのメラルー、信用できるのかニャ」

「どうだろうねー。カシワが自分で決めたことだから、わたしたちには関係ないしね」

 

二本目が焼き上がった。

どうしても回らなくなったらサインを出す――エリア二、孤軍奮闘の新米狩人はそう告げてキャンプを出て行った。

ここは気長に待つのみ、クリノスは自身にそう言い聞かせる。三本目の生肉は、汗ばむ手にずしりとことさら重く感じられた。

 

 

 

 

 

 

眼下に広がる砂地は高温に焼け、その上で両足を滑らせ、靴底を絡め取ろうとする。灼熱の日差しは絶え間なく降り注ぎ、容赦なく体力を奪っていった。たたらを踏み、カシワは剣を強く握り直す。

砂の中、にわかに褐色のヒレを地表に現しながら、まるで水を得た魚のように自由自在に泳ぐ影があった。

砂の中を泳ぐ竜――ドスガレオス。

現地の住民から砂竜と呼ばれ、手下を多数引き連れ獲物を追うその姿は、新米にとって脅威以外の何ものでもなかった。

足下にわずかな振動、次いで、微かに盛り上がる砂地。咄嗟に飛び退き、カシワは身を屈めてその巨体を仰ぎ見る。

地中より飛び出したそれは、独特の体つきをしていた。

褐色の体表、ひし形の頭部、左右に広がる口に、鋭い牙。砂を掻き分け、受け流しながら潜行するために進化したしなやかなヒレ。一見、竜というよりは海洋生物に近いものがある。実際に、彼らの生物学上の分類は魚竜種が該当していた。

砂中に潜むガレオスらは視力に乏しく、獲物の追跡を聴覚頼りにしていることは、事前に龍歴院から送られた情報で把握している。

巨体と一瞬目が合ったが、果たして向こうにこちらの姿が見えているのか、カシワには判断がつかなかった。代わりに、彼らはこちらの足音はおろか、わずかな呼吸、足さばきの微小な振動ですら、狩りの目印にするという。

 

(なら、俺の立ち位置は丸見えってわけだ)

 

剣の柄を強く握る。きょろきょろと忙しなくあたりを見渡していた白い眼球が、ふとカシワを見下ろした。

明確に目が合う。彼に、獲物として認識された瞬間だった。

ドスガレオスが一瞬、前身を低くする。カシワは懐に飛び込むようにして、彼の足の下にぱっと潜り込んだ。

出会い頭、カシワはそうして痛い目に遭わされていた――リオレイアにも見られた、長い尻尾による打撃攻撃だ。

足を軸に体を旋回させ、尻尾で敵をなぎ払う基本の動き。分厚い尾ビレと凶悪な筋肉に叩かれれば、たった一撃でも激痛が走る。

事実、ドスガレオスの足をハンターナイフで斬りつけながらも、カシワはしきりに背中に走る痛みに顔をしかめていた。

 

(回復薬はまだある、けど、アルはいない……もう喰らってられないな)

 

砂竜の全身は、長年に渡って彼らの体にまとわりついた砂と泥により、表層を強固に保護されている。さしずめそれは天然の鎧で、狩られる側からすれば身を削る荒い目のヤスリにも匹敵した。

打ちつける尻尾はその分、より固く、胴装備を強化していなければ最悪危うかったかもしれない。カシワは歯噛みする。

 

「ッ、この、」

 

飛び上がり、砂に潜るドスガレオス。その背ビレを追おうとして、カシワは不意に足を取られた。

前のめりに転ぶ直前、視界の端、ガレオスのうち一頭が砂に引っ込んでいく様が見える。鋭利な牙が砂の上で鈍く光っていた。

噛まれ、つまづかされたのだと知る。顔を上げ、カシワは目の前に迫りくる砂竜の突進を辛うじて横に転がり回避した。

 

「……厄介だな」

 

せめて音爆弾――高周波の爆音を閉じ込めた手投げ玉――を持って来るんだった、カシワの顔に焦りがにじむ。

音に敏感な彼らに音爆弾を当てることができれば、爆音で驚かせ、砂の中から引きずり出すことができたはずだった。

足を滑らせながら、その場になんとか踏み留まる。ドスガレオスの周囲に、彼のものより色の白い背ビレが複数、連なっていた。

ドスガレオス率いる、ガレオスの群れだ。ボスほど強力な攻撃力は持たないが、彼らの習性はとてもよく似ている。

ドスガレオスの統率力は高く、追撃をかけようとする新米狩人は、ひたすら小型砂竜の妨害に見まわれることとなった。そもそも、小型といってもガレオスは大人一人をゆうに超す巨大な体長を誇っている。

体力も多くスタミナも豊富で、地の利もある。砂中から的確に獲物を狙う彼らを振り切ることは、容易ではない。

 

「!」

 

砂から飛び出すガレオス。その奥で、褐色の巨大な背ビレが獲物が弱る瞬間を今か今かと待ち侘びていた。

地べたを這いずり、ガレオスたちはしきりに狩人に隙を作らせ地中に引きずり込もうとする。

 

(で、引きずり込まれたら最後、骨にされるわけだ)

 

想像してぞっとする。いつしかカシワは周囲を囲まれていた。覚悟を決めろ、自分に強く言い聞かせる。

アイテムポーチを手早く開け、赤色のビンを取り出す。ガレオスを避けながら、ハンターナイフの刃に中身を滴らせた。

刃を振り抜けば、真紅の液体が気化して燃え盛る炎を生む。「会心の刃薬」と呼ばれるそれは、片手剣使いの秘密兵器だった。

刀身がちりちりと赤く明滅する。剣の柄を握る手に、より力が加わったような感覚があった。

駆け出す、飛び出したガレオスのうち一頭に刃を走らせる。刃薬を塗布した剣は、予想以上に柔らかく肉に食い込んだ。

 

(いける!!)

 

踏み出した足で砂を強く踏む。勢いに負けないよう、一歩前に踏み出して、カシワは立て続けに剣を振るった。

刃のキレがいい――刃薬の効果はてきめんだった。あれほど固かったガレオスの体に、驚くほどすんなりと刃が入っていく。

数ある刃薬のうち、相手の肉のもろい部分に刃が通りやすくなるのがこの会心の刃薬だった。

その分、弱点を的確に裂けるようになり一撃の威力が飛躍的に向上する。思い切って買ってよかった、無意識に口端がつり上がる。

カシワの猛攻はとどまることがなかった。あれだけいた砂竜は、今やドスガレオスのみが残されるだけになっている。

子分が倒され、ドスガレオスはいよいよ砂地から飛び出した。その顔に怒りがにじんでいるように見えて、カシワは息を潜める。

途端、肺に溜めた砂を口から弾丸のように吐き出し、砂竜の親玉は新米狩人めがけて乱射した。粘着性のある液状のそれに当たると、全身に水分が纏わりついて動きが取りにくくなり、息継ぎが思うようにいかなくなるのだ。

気がつけば走ることもままならなくなり、次第には……やはり、カシワはそれを身を以って知っていた。

 

「当たらなければ、いいんだろう!」

 

一度ハンターナイフを納刀し、突進の姿勢を取ったドスガレオスの向かって右に跳ぶ。巨体を避け、振り向きざますぐに剣を抜く。

抜刀時には、どうしても動きが制限される――それもガレオスらに囲まれた際、強制的に学ばされたことだった。

ユカの言葉を思い出す。「強くなりたいか」、そう問う銀朱色には、余裕、気品すら溢れていた。

 

(そうだ……俺は、)

 

砂をより強く踏み込む。ドスガレオスの白い眼と目が合う。赤く濡れた刀身が、褐色をまとう鱗に意固地に食らいついた。

アルフォートの小さな背中が脳裏をよぎる。次の瞬間、カシワの剣は砂竜の頭部に深々とめり込んでいた。

 

「こんなところで、立ち止まれるか!!」

 

刃が陽光に煌めく。陽炎が新米狩人と砂竜の攻防を見守っている。

日没が迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「……――ニャ。旦那さん」

「うん?」

 

旧砂漠、エリア一。植物がまばらに生えるこの場所は、旧砂漠の中でも草食種に好まれやすい、それなりに平穏な位置にあった。夕焼けで景色がほんのりと赤く色づいている。アイテム採集に没頭するあまり、時間を忘れてしまっていた。

リンクに呼ばれ、クリノスは熱帯イチゴを拾う手を一旦止める。

彼が指差す先、ベースキャンプへと続く天然の岩場の穴に、何者かの影が見えた。

ポーチにイチゴを詰め込み、腰を上げる。穴を屈みがちに潜り、顔を見せたのは、全身を砂まみれにしたカシワだった。

 

「あれ、思ったより早かったね。大丈夫?」

「ああ……少し、手こずった」

 

カシワの返事は鈍い。大きく息を一つ吐き、彼は頭を振った。黒髪からぱらぱらと砂がこぼれ落ちる。

命が落ちなかっただけ全然マシだよ、そう言いかけてクリノスは口を閉ざした。

砂竜が群れで狩りを行うことを、彼女は知っている。

故に、苦戦したと見られる姿でもカシワがオトモ抜きの単独狩猟を達成させたことを、彼女は純粋に評価していた。

調子に乗るだろうから言わないけどね、誰にともなく彼女は口内でそう呟き、回復薬を飲み干す新米狩人に向けて苦笑する。

 

「お疲れー。あ、そうだ剥ぎ取り。まだ間に合うよね?」

「ん? ああ、たぶんまだ、ギルドには回収されてないんじゃないか……」

「あんたさ、討伐終わったりモンスター発見したりしたら、それこそサイン鳴らしなよ。なんのためのサインなの」

「うっ」

「わたしはいいけど、他のハンターと万が一組んだときに恥かくのはあんただからね」

 

腕にはめた、支給品のクエスト専用時計を指で小突き、クリノスはにやりと嫌みめかして笑った。

同じクエストに同行するハンター同士であれば、この時計の機能を使い、互いにサインを鳴らし合うことができる。意志疎通のみならず、非常事態時の連絡ツールとしても十分使える機能だった。

 

「あれー? 教えたはずなのにできないんだねー」

「できないニャー」

 

カシワは苦笑半分、苦い顔半分といったように顔を歪め、最後に分かった、とだけ頷いた。

そうそう素直が一番、そう言う代わりにクリノスはカシワの肩を軽く叩く。今度こそ新米狩人は破顔した。

 

「ま、いいや。別の依頼もあったはずだし、そのときでも」

「そうか。なんか、悪いな」

「いいよ別に。それより、アルくん大丈夫かなー。いじめられてなきゃいーけど」

 

クリノスとしては、軽く話を振ったつもりであった。カシワの返答がないことに、彼女は一瞬首を傾げる。振り向いた先、新米狩人は眉間に深いしわを刻んでいた。

アルフォートが心配なのだろう。しかし同時に、互いにがんばろうと言った手前、それを表立たせることもできない。

どうにも頑固か、真面目で厄介だ――それが彼の性分であることも、クリノスはすでに承知していた。

 

(ま、わたしは真似するつもりないけどね)

 

クリノスは小さく鼻を鳴らす……ユカとやらは、強くなるための修行の場として旧砂漠を推してきた。

その選択は自分から見ても間違っていないと感じる。現に、カシワはドスガレオスたちにさえ苦戦していた。

砂竜一頭ごときにまごついているようでは、話にならない。もう少し、実戦で狩りの基礎を覚えてもらわなければ……。

 

(? なんでわたしがユカちゃん目線になってるわけ。カシワのお世話とかゴメンなんだけど)

 

面倒ごとはお断りしたいクリノスだったが、しかし安定した狩りのため、カシワの成長にはまだ時間をかける必要がある。ドスガレオスの次はハプルボッカかな――追い回され、慌てふためき、逃げまどう新米狩人の姿を想像して思わず噴き出した。

ふと彼女は、アルフォートにもそれを見せてやれたらいいのに、と考える。無様な主人を見て彼のオトモはなんと言うだろう。

しかし、さすがの彼女もそこまでは言わないでおくことにした。

自分は気心の知れた相手をからかうのを楽しく感じる質だが、他はそうとは限らない。度の過ぎた冗談を、彼女は好まなかった。

 

「……お楽しみは最後まで取っておくものだしねー」

「クリノス? 何か言ったか」

「えー? ううんー、どっかの誰かさんはヘタレだなーと思って!」

「おっ、お前なあ……」

「ニャー、ヘタレ! カシワさんはヘタレニャ!」

「お前もか」

 

飛行船に乗り込みながら、クリノスは一度振り向き、広大な砂漠一帯を見渡した。

夜の帳が落ちる。新米狩人のこれからの道を色で例えてみるならば、おそらくはこんな寒色系の色だろう。

頭を振る。気球船が集会所への帰還を目指し、浮き始めた。即座にその場で居眠りを始めたカシワに、彼女は小さく苦笑する。

アルフォートと離れて、まだ三日しか経っていない。

 

 





サイト掲載開始:2020/07/13
加筆修正・差し替え日:2023/03/06

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