モンスターハンター カシワの書   作:77493

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ワイルズで専用片手剣が新登場したのでびっくりしました。新登場…新登場で合ってるよね…??



17話 雪山で待ち受けるもの

 

 

「戻ったか。待ちくたびれたぞ」

 

牧歌の村に着くなり、カシワとクリノスを出迎えたのはユカだった。

一瞬言葉を忘れて固まる新米狩人とは裏腹に、先輩狩人はあからさまに嫌そうな表情を浮かべて騎士を見る。

 

「なんで、ここにいんの」

「チャイロを預けただろう。二度と会わないと言った覚えもないが」

 

何か言いたげに唸るクリノスに、ユカは初対面のときと同じように感情の変化に乏しい表情を返した。

聞きたいことがある、短く言うや否や踵を返す赤髪を見て、二人の狩人は顔を見合わせてひそひそと声を潜ませた。

 

「(なんの用なんだ、俺たちに)」

「(え、わたしに聞かないでよ)」

「クリノス、お前何かやったのか」

「何かって? てか、声でかいよ」

 

じっと、それこそ睨むかのような鋭い視線が二人を射抜く。致し方なし、とカシワたちは大人しくマイハウスへ足を向けた。

 

「ニャ! 旦ニャ様がた、お帰りなさいませニャ」

「ああ、ただいま」

「ルームサービスちゃん、ただいま~。余計なのがくっついてきてるけど、気にしないでね!」

「余計なの? ですニャ?」

「さあて、ねえ」

 

クリノスの言には若干悪意が滲んでいる。それもそのはず、先ほどから赤髪は敵意を隠そうともしていないのだ。

クリノスのような反発はしないでおれたものの、カシワも居心地の悪さにたじろぐしかなかった。

ユカがテーブルの前で茶かコーヒーかを淹れている間、ルームサービス担当のアイルーは嬉しそうににこにこ笑っている。もう一度顔を見合わせ、狩人二人は彼に向き直った。ほうきを持つ手がうきうき、そわそわと浮き足立っている。

 

「ニャ、ユカの旦ニャ様がこちらにいらっしゃるのは久しぶりですニャ! ワタクシ、嬉しいですニャ」

「なあ、お前はユカのこと知ってるのか」

「知っているも何も、数年ほど前からユカの旦ニャ様はこのお部屋の常連様なのですニャ」

 

意外にも、ルームサービスはユカの経歴を知っているようだった。

 

「常連って。じゃ、あいつずっとこの村に?」

「こちらに長く滞在されることはマレですニャ。けど、ベルナ村に貢献されていることは確かですニャ。旦ニャ様方のように」

「いや……俺たちは、そんな村の役に立ててるわけじゃ」

「ニャ? ここ最近めまぐるしい活躍ですし、お二人ともこの村では名前がよく聞かれるようになっておりますニャ」

「名前?」

「先日の砂竜討伐の件もあって、みニャ様が期待していますのニャ。旦ニャ様方の活躍、ワタクシめも嬉しく思いますニャ……!」

 

いつの間にそんなことになっていたんだ、言葉を呑んだカシワはふと、わき腹をクリノスに突っつかれる。

目は口ほどに物を言うよね、ルームサービスの絶賛を後押しするような悪戯っぽい笑みで囁かれ、顔に出ていたのか、と新米は照れくささに咳払いした。

横に淹れたてのコーヒーが差し出されたのは、その直後のことだ。目を向けると、ユカが空いている方の手で椅子を引いている。

 

「立ち話もなんだろう、座れ」

「それ、命令か」

「好きに解釈すればいいだろう。そう時間は取らせないつもりだ」

 

カシワはコーヒー、クリノスはミルクティーを受け取って、勧められるがままにそれぞれ席に着いた。

 

(もしかしてこいつ、不器用なだけなんじゃ)

 

常備してある豆もミルクの類も、一級品というよりは手頃な価格帯の品だ。それでもいい香りがする。

案外、聞きたい話とやらとは別に普通にもてなされているだけなのかもしれない――カシワはちびちびとコーヒーに口をつけた。

 

「それで、俺たちに聞きたいことってなんなんだ?」

「わたしたち、ここ最近はずっと旧砂漠に狩りに出てただけなんだけど」

「……その旧砂漠の狩りでの話だ。お前はクリノスといったな。お前がそいつを、いいように使っているという噂を聞いた」

「噂?」

「『自分は剥ぎ取りのときのみターゲットに近寄り、それ以外のときは一切狩りに参加せず、黒髪の仲間に全てを任せきりにしている』とな」

「なっ!?」

「いわゆる『寄生』行為の疑いだ。どうなんだ、実際は」

「……そーだよー」

「クリノス!?」

 

騎士が話した内容は、あまりに不躾なものだった。先輩狩人が新米狩人を道具扱いしている真偽を確かめにきた、と彼は言う。

思わず固まるカシワの隣で、しかしクリノスは茶を堪能しつつ、あっけらかんと手をひらひら振ってみせた。

 

「寄生、って言われても仕方ないことだよねー。カシワに任せてたのは本当のことだし」

 

双剣使いの態度は余裕に溢れてさえいた。呆気にとられた黒髪黒瞳は、思わずといった風にユカを見る。赤髪は両腕を前で組み、口を堅く結んでいた。

我に返る。クリノスが採集をし続けていたのは、自分の特訓のせいではなかったか……知らずカシワはテーブルに拳を叩きつけていた。

 

「違う! 俺がクリノスに『俺が危なくなるまでは手を出すな』って、そう頼んだんだ!」

「えっ? カシワ? ちょっと、落ち着きなよ」

「落ち着けるわけないだろ! 誤解にもほどがあるぞ、ユカ!」

「ちょっと、ね、カシワ。そんな大声出さなくっても」

「お前もなんでそんなに冷静でいられるんだよ、クリノス! とんでもない誤解をされてるんだぞ!?」

 

はあ、と誰かの大きな溜め息が聞こえた。その主が当の本人であることに気付き、新米狩人は声を詰まらせる。

 

「言わせたい奴には言わせておけばいいの、わたしは気にしてないしね。言ったって無駄な相手に怒ったって、消耗するだけだよ」

「けど、お前……」

「おーちーつーいーて! 最終的に判断するのはユカちゃんでしょ。言い訳なんて無駄なこと、したくないの」

「……クリノスといったか。お前、案外気丈だな」

「あれ、褒めてる? まさか。わたしは単に、嘘は吐かないし取りつくろいもしないってだけ」

 

肩を竦めたクリノスに、ユカは何ごとかを考え始めた。顎に手を当て押し黙る赤髪を前に、カシワはのろのろと席に座り直す。

その間に、先輩狩人がそっと身を寄せてきた。新米狩人は面食らう。自分の訓練のために迷惑を被っているにも関わらず、彼女の態度はいつものようにさっぱりとしていたからだ。

 

「(それにね、カシワ。ユカちゃんなら公平な判断してくれそーだと思うよ、わたしは)」

「(どうして、そう思うんだよ)」

「(ええ? だって……『あの装備』だし。村の噂なんかに振り回されないで、客観的に考えてくれるでしょ)」

 

クリノスが何を言わんとしているか、カシワには判断がつかなかった。

しばらくそうして黙りを貫いていたユカだったが、ルームサービスがテーブルに茶菓子を置いたところで顔を上げる。

 

「お前……多忙のところを、わざわざすまんな」

「ユカの旦ニャ様、おかまいなくですニャ。ニャ……ワタクシめは難しい話はよく分からないのですが」

「ルームサービスちゃん?」

「ベルナ村で名の知られた方々が、こうして一同会することは……とっても嬉しいことですニャ」

 

自然と緊張が解けたような気がした。真っ先にクリノスが焼き菓子に手を伸ばし、口に運ぶ。香り高いチーズの匂いと、サクサクという軽やかな音がした。

 

「んっ! 美味しー。これ」

「近くのムーファ飼いの方からの差し入れですニャ。ニャんでも、お父様がハンター様だとか」

「……なんか、悪いな。ルームサービス」

「とんでもニャい! その、ユカの旦ニャ様はお口は厳しいのですが、いい方ですニャ。みニャ様、ゆっくりお話を楽しんでほしいですニャ」

 

カシワの目には、向かい合う騎士の顔が心なしかほぐれているように見えた。ふと目が合う。ユカは小さく頭を振った。

 

「どうやら、俺の調査不足だったようだ。双方納得した上のことなら寄生行為とは言わないだろう」

「ユカ……」

「だが、まぎらわしいことに違いはない。村、龍歴院ともどもハンターの活動には敏感だ。以後、注意しておけ」

 

カシワにはユカが――たとえ自分たちより腕利きのハンターとはいえ――何故ここまで上から物を言うのか分からなかった。

クリノスに視線を走らせると、彼女は分かったと応える代わりに、片手をひらひら振っている。

 

(龍歴院では、腕利きのハンターっていうとそんなに貴重な存在なのか)

 

思わず声に漏れ出ていたらしい。気付けば、クリノスが信じられない物を見る目でこちらを凝視している。

 

「カシワ、あんたさ……『ギルドナイト』って知ってる?」

「ギルドナイト? ああ、あの『都市伝説』だろ」

 

尋ねてきた張本人は、目を見開き、次いで頭を抱えて悶絶し始めた。なんだよ、カシワは口を微かに尖らせる。

「ギルドナイト」。その名称は、幼少の頃からよく聞かされていた。

大陸の中心、大都市ドンドルマに本部を据えるハンターズギルド。その一組織として存在する、ハンターの中でも選りすぐりの者を集めた特殊部隊のことだ。

未開の土地の開拓、未知の動植物の調査、新種のモンスターの生態解明やその追跡など、その活動は極秘に閉ざされているという。

「極秘」と言われているのには理由がある。彼らは基本として自らの素性を明かすことがない。ある者は村人として、ある者はハンターとして、その多くが一般人の中に紛れ込んでいるという。

 

「ギルドナイトが怖いって言われてるのは……『ハンターを罰し、ときには殺害する』人間相手の連中だからって話だよな? おー、こわ」

「いや……あのね、カシワ」

「なんてな! そういう都市伝説だろ? まっさか、いくらユカが凄腕だからってさすがにそれは言い過ぎだろ。クリノス」

 

見上げた先、ユカの表情は普段と変わらない無表情じみたものだった。

確かに、ユカの装備はギルドナイトらが使用するものによく似ている。使われている布地も金属製のプレートも護身用の長剣も、どれもが一級品揃いだった。しかし、彼らの装備の一部が「レプリカ」として狩猟仕様にアレンジされ、腕利きのハンターにも愛用されていることをカシワは知っている。

うちの村にも、そういう格好をした人が来たこともあったし――可能性など微塵も考えず、新米は話に区切りをつけた。

一方で、クリノス自身はその「可能性」をユカに見いだしていた。しかし当の本人が肯定しないこともあり、彼女はひとり悶絶するしかない。

 

「……で、ユカ。話っていうのはそれだけか」

「ああ……いや、実は、お前たちには別の話もあって来たんだ」

 

ユカは懐から一枚の巻物を取り出した。テーブルに広げ、指で差し示す。龍歴院が公表する、集会所クエスト星一のリストが載っていた。

 

「旧砂漠での訓練、ひと月ほどが経過したな。その成果をこれから見せてもらう」

「うん!? いきなりか」

「そうだ。残る火急のクエストのうち、用があるのは『雪山』だ。これからお前たちには、ポッケ村に向かってもらう」

「ポッケ村か……」

 

ユカは二本目の巻物を取り出した。広げてみると、それはドンドルマを中央に据えた世界地図になっていることが分かる。

 

「北はフラヒヤ山脈、そのほど近くに位置する村だ。雪山と呼ばれる狩り場は、この村のすぐ近くにある」

「……その雪山で、なんのモンスターを狩ればいいわけ?」

 

クリノスの問いにユカは一瞬押し黙った。見上げた先、彼の顔には僅かに苦悶が浮かんでいるように見える。

 

「行けば分かる。俺はあまり相手にしたくないモンスターだ」

 

 

 

 

 

 

その後、ユカに言われ、カシワとクリノスは一度別行動を取ることになった。

指名した他のモンスターの討伐を進めている間にポッケ村側に狩猟準備の話を通しておく、と彼は言う。

リンク、チャイロを引き連れたクリノスは森丘へと向かい、カシワはベルナ村近辺のクエストをこなすことにした。大怪鳥イャンクック。鳥竜種ドスランポスに、大猪ドスファンゴ。小型の雌を引き連れた水獣ロアルドロスと……めまぐるしい狩りが続く。

その最中、ベルナ村でアルフォートと再会したカシワは彼がチャイロに受けさせられたという訓練の内容を聞き、ひたすら驚いた。

お疲れ、そう労うと、当たり前ですニャ、頼もしい返事が返される。互いに無事であり、また実力も確実に磨かれていた。それはとても喜ばしい変化だった。

 

「――クリノス!」

「やっほー、カシワ! お疲れー」

 

カシワとクリノスが再会したのは、別れてから半月ほどが経過した頃だった。

 

「それで、ユカは」

「先にポッケ村行ってるってー。一言言っとけよ、ってね」

「ニャァ……あいつはそういう奴なんだ。オミャーらには迷惑かけるな」

 

チャイロに言われるまま飛行船に乗り込み、一行は北上を続けた。景色に白雪がちらつき始めた頃、目的地が眼下に広がる。

ポッケ村。村の奥に祀られる巨大なマカライト結晶が目印の、真白の雪に抱かれた小さな村だ。

 

「その昔、もんのすげー腕利きの居付きのハンターが活躍したってんで、ハンター連中にはよく知られた村だ」

「そうなのか」

「カシワ……有名な話だからね? あんた、知らないにもほどがあるよ」

 

着陸すると同時、身を引き締めるような寒さが全身を包んだ。それでも風は穏やかで日差しは暖かく、耐寒装備でなくとも村の中を気楽に歩くことができる。

行き交う村人たちに次々に勧められ、カシワたちは村の入り口すぐ近くに建つ、マイハウス代わりに共用されているという家屋に向かった。

 

「……遅かったな。待ちわびたぞ」

「そのセリフ、何度目だよ。ユカ」

 

入るや否やぎょっとする。建物の奥で、茶をすすりながらユカが床上でくつろいでいたからだ。

 

「『出た』ぞ。山奥に籠もっていたターゲットが二、三日前に再び目撃されたと報告が上がった。お前たちにはそれを狩ってもらう」

「ターゲット? 山奥って……食糧難とか、そういうことか」

「いわゆる縄張り意識の強い奴でな。従わせている小型との連係もあるだろう。だが、雪山は村人の生命線だ。居座られていては山頂に入られないんでな」

「元は村の人たちからの依頼ってわけだ。で、そのターゲットってなんなの? ユカちゃんが戦いたくないって言ってた奴って」

 

ユカは苦い顔で、茶を口に含み直した。彼の横に置かれた見慣れない鴇色の弓が、冷たい光を反射させている。

 

「雪山の主、ドドブランゴ。会えば分かるさ、俺がやり合いたくないと言った理由がな」

 

 





サイト掲載開始:2020/12/31
加筆修正・差し替え日:2024/10/28

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