氷と龍が目指す場所   作:仮想人格さん

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こんばんは、作者です
ようやくこちらでの投稿に慣れてきました
文字数や拘りもあり投稿頻度が鬼門ですが、どうにか改善したいと思う所存です
では、チャプター2をお楽しみください


チャプター2.連なる戦場

 試験会場 受付

 

雄英高校の門を通ると、多くの受験生が受付をしていた。

凍歌と共に長い列へ並んで受付が完了するまで待っていると、一瞬だけ視線を感じて周りを見たがこちらを見ている者はおらず手元の資料に視線を落としている。

彼女が私の行動に気付き声を掛けてきた。

「どうした?何か感じたか」

資料から視線を上げた彼女にはなんでもないと言って杞憂だったと切り替えたが、胸に何かが引っかかる感覚が残った。

そうしている内に自身の順番が回ってきたので手続きをして、一旦彼女と別れて試験会場に向かった。

 

筆記試験は事前対策をしておいた内容と基本的には同じだったが、ある一点は分かりやすく変わっていた。

「ヴィランの犯罪率が下がっている今、ヒーローとは何のために在るのか」--目指すきっかけとなった日を思い出して…時に力で、時に心で人を導く存在であると書いた。

 

 

 筆記試験も終わり、雄英高校の体操服に着替えて集合場所に移動する。

この日のために訓練を積んできた、それを全て発揮すればと己を奮い立たせながら移動していると彼女の姿が見えてきた。

緊張と覚悟が同居している背中に見えた。少しでも気を楽にしたいと思い、側まで移動して肩を叩く。

驚いたように振り向いたが、私だと分かると胸を撫で下ろしてこちらを見た。

「随分かかっていたな。やはり緊張が取れないか」

「まさか、そういうのじゃないよ。どちらかというよりーー」

彼女の言葉に普段通り返そうとした直後、受付で感じた視線がもう一度現れた。

今度こそ視線の正体を見逃さないようにその方向を向いた。

そこにいたのは、白髪の少年であった。同じ受験生でありながら何処か不気味さも感じる雰囲気を漂わせる少年は私と目が合うと納得した様子で視線をスタートの門へと戻す。

彼女も今回は気が付いたのか、背筋に寒気を感じた様子になっていた。

「…気にしない方がいい、そろそろだぞ」

その声と同時に、高いところに立っていたプレゼントマイクの声がその場に響く。

「今年も多いね、結構だ!その方が実技試験は盛り上がるからな!」

プレゼントマイクの響いた声は緊張を吹き飛ばし、空気が一変していく。

商店街の事件の時の視線に似たものを感じたが、声と空気に押されて思考の外に置いやられていく。

 

実技試験--開始

 

 

 

 雄英高校 モニタールーム

 

「あの黒髪の女子生徒、いい動きですね」

「銀髪の氷の個性持ち…見覚えがあるような…」

 

試験官に選ばれた教師達は、モニターに表示された映像を見ながら各々の感想を口にしている。

ヴィランの犯罪率は減少傾向にあるとはいえ、脱獄や無差別事件が無くなった訳ではない。

そのため、試験内容は八年前から変わらず今も同じ形式を取っている。

ただ強いだけではなく、導く力も持ったヒーローを選ぶために 

 

そんな中、僕の視線は一人の受験生に向いていた。

筆記試験の時も手袋をしていた白髪の少年ーー志解透。

彼の持つ雰囲気は、どこか覚えがあった。

忘れられない、忘れることなど出来ない…かつての存在と酷似している。

 

意識がモニターに集中していたので、声をかけられてようやく隣にいる事に気が付いた。

「彼のことが気に掛かっているようだね、緑谷少年」

オールマイトの穏やかな声で、ようやく緊張の糸が解けた。

「…はい、知っているんです。彼はヒーローを志望した少年であって、違うと頭ではわかっていても」

僕の気持ちがよく分かるのか、彼は少し考えた後に言葉を続けた。

「君の懸念もよく分かる。だが、透少年はヒーローを選んでいる…きっと思っているようにはならないはずだ」

オールマイトの言葉によりようやく落ち着いたが、その直後に視界に入ったのは息が詰まりそうになる光景だった。

 

白髪の少年がいたのは、他のエリアよりも仮想敵が多く配置されていた場所だ。

ほとんどの受験生が行かない場所にただ一人、仮想敵などいなかったかのように立っていた。

その光景にモニタールームがざわつき始めたけど、僕の中には確実に違うという確信があった。

「崩壊の個性なら、周囲に伝播して周りにも被害が生じているはず…今のところ消えているのは仮想敵だけだ」

僕の言葉を聞いた八百万さんが、すぐにカメラ映像を端末に表示してチェックしていた。違う点に気付いた彼女は全員を落ち着かせるように言った。

「緑谷さんの言う通りですわ。崩壊している箇所が見られないこと、映像から見るに個性の発動条件はただ触れるだけではないこと…崩壊とは考えにくいかと」

全員が少しずつ落ち着きを取り戻し始めてはいた。それでも、彼の個性が人に作用する危険性を考慮してモニターの操作をしていた試験官の教員に伝える。

「彼の映っている映像を共有してください。何かあっても対応出来るように」

それからのモニタールーム内の空気は、先程の空気から一変して緊張感が漂っていた。

 

 

 

 試験場

「……脆いな」

最後の仮想敵が消滅して、彼がいる場所に静寂が漂い始めた後にそう呟いた。

掴んでいた残骸を乱雑に投げ捨てる。投げ捨てられた残骸は地面に落ちる前に塵となって音もなく消えた。

自身の個性を実践で使う度に、頭の片隅で覚えのない記憶が頭痛を伴って何度もフラッシュバックしていた。

それが己の記憶ではない、直感的に分かっていたので何度もこれは自分ではないと否定して無理矢理にでも忘れる。

頭痛が晴れない不快感に顔をしかめ吐き出しようない感情が行き場をなくしかけた時、カメラではない何かが己を見ている感覚がした。

地面に触れて塵を巻き上げ煙幕を張り、その間にその場から離れる。

「……目立ちたくはないんだがな。まぁ…無理があるか」

新しいターゲットを探す為に移動しながら独り言のように言った。

 

 

「…撒かれたか。まぁ良い、本命は…こちらだからな」

煙幕が晴れ無音になった場所を見て肩を竦めたが、すぐに映像を切り替えて二人の少女を映した。

そこには、黒髪と銀髪の少女が映っている。ちょうど交戦中のようだ。

「見せてもらうとしよう、私が脱獄させた奴を足止めした実力を…」

映っている映像を見ながら、それを見ていた人物には笑みが浮かんでいた。

 

 

両腕を変化させて一気に距離を詰める。攻撃しようと腕を振り上げる二体の仮想敵のコアを振り上げた隙に一突きで貫く。

機能停止した個体の一体を掴んでこちらを撃とうとした仮想敵にぶつけて怯ませる。

その隙に両足に変化を移して跳躍、もう一度攻撃しようとした仮想敵を飛び蹴りでぶつけた残骸ごと粉砕した。

三か月に及ぶ訓練によって、変化させた部位を意識的に変えられるようになった。神経過敏が起こる前に切り替える必要があるので完全な制御とはいかないが、ある程度欠点を補えるようになったのは良い変化だと思えた。

 

個性を解いて次のターゲットを探していると、凍りついてる場所が見えてきたので足音を抑えて近づくと凍歌が交戦している様子が見えた。

彼女も訓練を積んでいたのだろう。現れている棘の数は前より多くなり氷塊を生み出すことも可能にしていた。

彼女の前にいた仮想敵は近づく前に放たれた棘に貫かれて凍りつき、背後を狙った敵は上空に浮いていた氷塊に押し潰された。

戦闘が終わり喉の様子を確認していたタイミングで声を掛けると、好調なようで緊張は見えなかった。

「そちらも調子が良さそうだな」

「そっちも、調子良くいけてるようで何よりだよ」

実践で互いに強くなれていると分かり、自分のことではないのに嬉しさが込み上げてきた。

彼女も同じ気持ちなのか、私の表情に応えながらも棘を刺してきた。

「試験中は、ライバルのような状態であることは忘れるなよ。一応言っておくが」

つい忘れかかっていたので、肝に銘じますと苦笑しながら言うと彼女は肩を竦めていた。

 

気持ちを切り替えて次のターゲットを探そうとしたその時、市街地エリアの方から砂煙と爆発が上がり始める。

彼女も先程の言葉を撤回したのか、すぐに私と目線を合わせた後に二人で市街地エリアへ急いだ。

そこで起きていたのは、巨大な仮想敵が起動して破壊しながら迫ってきている光景だった。

仮想敵への恐怖に動けなくなる前に様子を把握する為に周りを見ると、悲鳴を上げながら逃げる受験生と迎撃しようとする受験生に真っ二つに別れていた。

迎撃を諦める者の方が多く安堵したのも束の間、逃げ遅れた受験生が何人か見えた。

まだ猶予があることを確認して私が彼女に目で合図を送ると、お前ならそれを取るよなという表情をしてから個性を使い逃げ遅れた受験生を助けにいく。

「落ち着いて、大丈夫。今すぐ走ればまだ間に合う」

パニックに陥り私の方に手から電気を出そうする女子生徒を落ち着かせて、すぐに避難している人達の方に向かわせた。

私の言葉でも落ち着かせられることに安心しつつ残っている逃げ遅れた人を探そうとした。ちょうど彼女も確認が済んだのだろう、こちらに向けて走ってきた。

「もう逃げ遅れた人はいない、私達も--」

彼女の言葉は最後まで言い切られることはなかった。すぐそこまで巨大仮想敵のキャタピラが迫っていたのだ。

焦る気持ちを抑え込み両足を変化させて、彼女を背負って避難場所まで走ろうとする。だが、足元の瓦礫に足を取られ躓いてしまった。

個性が解けたことで神経過敏に襲われ動こうとしても動けず、彼女も個性を酷使した反動で何度も咳き込んでいた。

 

 

「……なんでそこまで出来る」

巨大な仮想敵が迫る中で残された人を助ける為に飛び出す二人を見た時にそう呟いた。

二人からすればどうでも良い、他の受験生のことなど気にすることなどないだろう。心の中でそう感じていたからだ。

俺は協力するつもりもなく、逃げ惑う周囲の受験生に紛れて去ろうとしたが足は動こうとしない。

無理矢理にでも足を動かそうとして、経験した中で最も強い頭痛に襲われた。

同時に、己の記憶ではない誰かの記憶が次々に蘇ってくる。

 

血を吸う器具を持った女、メジャーを持った覆面の男、トカゲのような姿をした男、焼け爛れた皮膚の男、黒い靄に包まれた男、マジシャンのような男…。

…全員が俺の知らない相手のはずなのに名前が浮かび、後ろにいるような気がして振り返る。

 

そこに見えたのは、幻想ではなく現在の風景。二人の受験生が限界になりながらも立ちあがろうとする姿。

「……俺はあいつじゃない。だが…」

助けなければならない。

否定する為に、記憶で燻り続けるあいつではないのだと証明する為に。

巨大仮想敵はもう目の前だ。あの二人が撤退する猶予はない、そう判断するや否や仮想敵に向けて走り出す。

この個性で何かを壊すのではなく、守るために。

 

「危険だ…下がれ…!」

自分こそ立っているだけでもきつそうなのに、黒髪の受験生は構わず俺の心配をする。

少しは自分の心配をしろと言いそうになったが、一旦は言わずに堪えた。今対処すべきは目の前の巨大な仮想敵だ。

直接触れれば俺の手が先にやられる、そうなれば個性の対象は…こちらだ。

キャタピラが迫る中、足元のコンクリートに触れてキャタピラが嵌るくらいの陥没を引き起こす。

タイミングが間に合い仮想敵は穴に嵌って動けなくなった。

「……崩れろ」

その一言と共にキャタピラの側面に触れる、それをきっかけに足元から塵となって消えていく。

頭上の腕が降ってこないかを心配している様子の二人の受験生に、俺なりに声を掛けておいた。

「……無理のしすぎなんだよ、お前ら」

 

突然現れた白髪の少年があの大きさの仮想敵を消滅させていくことに呆気に取られていたが、声を掛けられてようやく意識が引き戻された。

彼の言う通り、逃げ遅れた人を助けようと個性を酷使した結果こうなったのが事実だからだ。凍歌の方に駆け寄って支えながら立ち上がると、再度手袋をつけていた。

個性を使う条件がなんとなく分かったが、それはどうでも良いことになった。

彼が目の前まで来ると名を言ったからだ。

「…志解透、お前らは」

私達は顔を見合わせてそれぞれ名乗ると、彼の表情は見えなかったが一言言って去っていった。

「…また会うことになるだろうな、違う形で」

その言葉の意味を問う前に、プレゼントマイクの声が試験終了を伝えた。

 

 

 

 モニタールーム

 

巨大仮想敵が塵となって消えていく光景に全員が言葉を失っていた。

そんな中、僕の口から出たのはただ一言。

「……オールマイト」

そこから先を言えなかったが、彼はそれを汲み取ったように言葉を続けた。

「彼は、これからのヒーロー社会に対する脅威ではない。ヒーローの卵だ、彼らと同じ」

その言葉に嘘偽りはなく、彼がヒーローになれるという確信であることをその場にいた全員が納得出来た。




それでは、今回の追加情報コーナーです
志解透(しかいとおる)
個性、分解 素手で触れた対象を分子レベルまで解体し消滅させる、生物には無効となる
物心ついた頃から誰かの記憶が宿っており、人格に作用しかけた影響が強く人とは積極的に関わろうとせずぶっきらぼうな性格
個性の影響で常に手袋をつけている
気に入った人に対しては何かと世話を焼いたりする

次もオリジナルキャラの情報を載せていきますので、次回もお楽しみに。
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