今回で四話目となります、今回もお楽しみください
今回から生徒が沢山出てきます
-雄英高校 教室-
私を姉さんと呼ぶ青い髪の同級生-斬波切子-の発言の意図が言われた直後は全く分からなかった。
私に妹がいること…それ自体は電話で聞いただけであり本当だと思えたことはなかった。
だが彼女の声を聞いた時、何かが頭の中で弾けるような感覚が起きた。
そして、知らない間に忘れていたことが記憶の底から吹き出してくる。
個性が発現する年齢になった日、双子の妹が養子先の家族と家を出た。
それ以来会うことがなく忘れてしまっていたのだ。
思い出すと共に脳裏に浮かんだ彼女の名前を呼ぶと、彼女の目に再開を喜ぶ嬉しさと抑えていた笑顔が浮かんだ。
「……家族、か」
突然同級生が歩み寄ってきたので少し離れてから二人の様子を見ているとそう呟いていた。
俺には兄弟はいないが、いたとしたらどんな風になっていたのだろうと思ってしまう時はある。
気にするのをやめて、自分の席に向かおうとしたが灰色の髪をした男子生徒に声を掛けられた。
「…よぉ、士解透だったか」
声の方に向くと手首の辺りに火傷のような痕がある男子生徒だ。彼の纏っている雰囲気には夢で見た蒼い炎を使う男に似た物を感じた。
だが、どこか違う。似ているようで違うものではあったが言葉にはせずに心の奥にしまった。
「…推薦入学してたのはあんたらしい。入試の日には見なかった」
あの日にいなかったことを言うと、彼もそこを見抜かれると思っていなかったのか予想外というような反応を見せた。
「以外と見てるんだな。…火流晴天、よろしくな」
そのまま自分から名を名乗る。
名前を聞いた後は彼に感じていた気配が蒼い炎を使う男とは違うと思えていた。
言葉を返そうとしたが、その前に掴みようがないという言葉が似合う男子生徒が俺たちの間に割って入ってくる。
「初日から積極的だな〜。そう焦らないでさ、今日から同級生なんだし仲良くしようぜ」
目元を黒い線が覆っている男子生徒は先程の空気を的確に言葉にしながら肩を組んできた。
今だけは考えていることが合致したように力を抜きながら晴天と目を合わせる。
彼もこの男子に翻弄されているのか、お互いに困惑している様子になっていた。
まず名前を聞こうと思ったがその前に男子生徒から名乗ってきた。
「俺は鳥黒絡墨、よろしく!二人共」
絡墨の行動で出来た空気、そして龍子の方で出来ていた人集りが騒がしくなりかけたその時、金属が擦れるような音と共に全てが静けさへと変わった。
その音の方に視線を動かすと白と黒の二色が混ざった特徴的な長髪の女子が呆れるかのように全員を見ていた。
静かになったのを確認して、そのまま言葉を続ける。
「もうすぐホームルームです、気持ちは分からないとは言いませんが一旦後にしましょう」
その一言で全員が自分の席に座って担任の先生が来るのを静かに待っていた。
「みんな来てるみたいだね、担任の緑谷出久です。これからよろしくね」
教卓に立っている緑谷さんはヒーローとして動いている時とは違い、全員を見守りながらも時には厳しくするというような雰囲気を感じた。
私が雰囲気の違いに気を向けていると、ついさっき全員を静かにさせた女子生徒が手を上げた。
彼が頷いてから立ち上がると、これからについて聞こうとしているようだ。
「緑谷先生、これから何をするのでしょうか。必要があれば私が-」
彼女が言い終える前に彼は優しい笑顔を見せながら手で制止した。
「そう気張らないで大丈夫、鎖状さん。全員体操服に着替えてグラウンドに集まってくれるかな」
ホームルームかと思っていた生徒が大半だったのか、ほとんどの人が困惑をしつつ更衣室へ向かった。
-雄英高校 グラウンド-
「個性把握把握テスト…!?」
グラウンドに集合するや否や、鳥黒絡墨という男子生徒が驚いたような声を上げた。
その声をきっかけに他の生徒の困惑する声が広がり始めたところで緑谷先生は詳しい説明をし始める。
「まず、どんな個性を持っているかどうか、限界がどこまでかを認識しておかないといけないからね」
その説明の後はみんな納得したように静かになった。
クラスメイトがどんな個性を持っているのか、一部の関係がある生徒以外は誰も知らないことをよく分かっていたからだろう。
「それじゃあ、最初は50m走から行くよ」
全員が納得したのを確認して、彼は計測のために敷かれていた白線の後方へ向かう。
こういう物は最初の方にしておいた方が良いと思い行こうとすると、ホームルームの時も手を上げていた鎖状浪縛という生徒が真っ先に向かっていた。
その後について行ったのは、教室に入る前に話しかけられた麟角という女子だ。
「…行かなくていいのか?昔から先に済ませていただろう」
二人が準備しているのを見ていると隣まで来た凍歌に声を掛けられた。
私が早めに終わらせているのを同級生として見ていたからだとすぐに分かったのですぐに答える。
「全員やることにはなるからね」
少し間を空けて、一旦視線を戻す。
「それに…あの金属音の正体も気になるし」
視線を戻すと、麟角は手足に電気を流していたが彼女は片手を前に向けた状態だった。
待機していた生徒が興味を持つように見ている内にスタートの合図が響く。
それと同時に彼女の手から鎖が伸びて10m辺りの地面に刺さり引っ張られるように飛び出した。
それには電気で筋肉の動きを増強させた彼女も驚く様子を見せた。
鎖状さんはその後も鎖での跳躍をして、隣を走った麟角さんより先にゴールする。
僅かに遅れて彼女もゴールした。
「6.5秒、6.9秒。鎖状さんは鎖を作る個性、麒雷さんは角で回収した電気を用いる個性みたいだね」
二人がゴールした後に、結果を記録した緑谷先生は二人に声を掛けた。
声をかけられた方に二人が視線を向ける。
「はい、私はそういう個性です」
「あれで分かったんですね…はい、そうです」
余裕がある表情を見せながら二人が答える。
鎖状浪縛という名の通り、鎖を作る個性だった。
名前、性格に合った個性だと思えた。
「よし、じゃあ俺とやろうぜ。龍子…だったっけ」
最初の二人が戻ってきたところで、初めに声を上げた絡墨に声を掛けられる。
彼がいつの間にか私の隣まで来ていた。
透から聞いていた通り、掴みどころのない性格だと思えたがそれを断る意味もない。
「もちろんいいよ、私でいいなら」
答えてから彼とスタートラインの方へ移動する。
どう話すべきか悩んでいると向こうから話しかけてきた。
「苗字から思ったんだけどさ、両親…プロヒーローだったりする?」
合図を待っていると彼はそう聞いてきた。
苗字から判定してきたので、洞察力があると思いながら返す。
「…まぁね、私の両親はプロヒーローだよ」
「やっぱりな。その苗字聞き覚えが…っと、そろそろか」
向こうの準備が終わりピストルが掲げられたので、お互いに会話を切る。
少し間を空けてピストルの音が響く。そのタイミングで足を変化させ走り出す。
墨のような物を出して滑る姿は、海を自在に泳いでいるように見えた。
私と同じような生物系の個性かと思いながらそのまま速度を緩めずに走り抜けた。
僅差で私の方が早くゴールする。
深呼吸をしながら両足を元に戻して顔を上げると、彼も黒くなっていた口周りを拭いていた。
私達が終わらせたクラスメイトの方へ移動してから、次々と他の生徒も走っていく。
足に回路のような物を張り巡らせる生徒、手から炎を放つ推進力で加速している生徒などそれぞれの個性で走り切っていた。
個性を使うたびに待っている生徒からは驚きや歓声が続き、このクラスに集まったのは幅広い個性を持つ人達なのだと感じた。
それから中学の頃とほとんど同じテストをこなして行った。
違うのは、個性を使用できるという一点くらいだ。
そのおかげか、一部で高い記録を出す生徒が現れていた。
凍歌や透も例に漏れず好成績を残していた。
※
「……上々、かな」
全てのテストが終わり、集まったところで結果が発表される。
自身の順位はクラス内で五位と決して悪くない結果だ。
順位の発表が終わり、各々に他の生徒と話しながら更衣室に戻っていく。
それなりに個性を使ったため肌が粟立つような感覚に耐えながら歩いていると、今度は鎖状さんに声を掛けられた。
「朝はすいません。もっと早く指示を出せていたら良かったのですが…」
彼女の表情からは、ホームルーム前の切子の言葉が要因で出来た人集りに私が困っていたのに気付いていたのに気付いていながら早く対応出来なかったことを悔いているようだった。
「大丈夫、私は気にしてないから」
「それなら良いのです。ところで…腕や足は平気ですか。見たところ個性の副作用みたいですが…」
安心したようにため息を吐いてから、先程から手足を気にしていることについて聞かれた。
握力やボール投げ、持久走と使用する頻度が高いとどうしても神経が過敏になる時間が伸びてしまうので気を使う必要がある。
「大丈夫とは言い切れないけど、これくらいなら問題ないかな。受験の時はこれよりひどかったし」
巨大仮想敵の前で一歩も動けなかった時のことを思い出しながら言うと、その時の話を誰かから聞いていたのか納得したように続けた。
「試験の時に、仮想敵が迫る中で救助をしていた二人とは貴女のことだったんですね。麟角さんから聞いた時から一体誰なのかと思っていたのですが」
本当なら、凍歌の氷で足場を作る方が楽だった。
そこを滑っていけば自然に安全地帯まで行けたから。だけど、彼女一人では全員を助けられないのも分かっていたので私も動くしかなかった。
その話をしていると、私もまた透に助けられたことを思い返して付け加えようとした。
その前に他のクラスメイトに鎖状さんが呼ばれてそのまま更衣室を出た。
ようやく神経も静まってきたので私も手早く着替えて教室に戻ることにした。
その後、改めてホームルームが開かれ緑谷先生から置かれていたカリキュラムを使いながら明日からのことについて伝えられた。
明日からは一般的な授業、そしてヒーロー科としての授業が始まる。
希望があれば学生寮で暮らすことも出来るそうだ。
各々で話したり考えていたが、すぐにではないということもありこの日はみんな保留にしていた。
それから、ホームルームが終わり帰宅することになった。
「初日から妙に疲れた…」
朝には人だかり、その後に個性把握テストによる個性の使用が重なったからか強い疲労感に襲われていた。
気を取り直して、駅まで行こうと歩き出す。その時、門の下で待機していた切子と凍歌が私に気付くとこちらを見る。
私が来るのを待っていたのだろう、そのまま二人のところまで行くと三人で駅まで向かった。
駅に向かい歩いている途中、切子にあることを聞かれた。
「…私が引き取られた後、どんな生活だったんだ?」
彼女が知りたいと思うのは何もおかしいことではない。元々は私の妹で、家にいた身なのだから。
「ヒーローとは何か、どんな振る舞いをすべきなのか…基本は変わらなかったけど、両親から色んなことを教えられてたよ」
「…そうか」
私の言葉を聞いた彼女の目には、読み取れない感情が渦巻いていたが言葉にはしなかった。
彼女の思いを考えれば迂闊に言うべきではないから。
その後、彼女は電車には乗らずに駅の東方向の自宅に帰っていた。
「……龍子」
電車から降りて、自宅が見え始めた時に凍歌に呼び止められた。
立ち止まった後に振り返ると、彼女の目にはこれから起こることへの不安が滲んでいた。
「彼女のことは本人から聞いた。…無理はするな」
「…大丈夫。私のやり方で向き合うよ」
不安がないと言えば嘘にはなるが、私に唯一出来るやり方も理解していたので笑みを見せながら返すとそれ以上は何も言わずにまた明日と言って自宅へ帰った。
その日の夜、どうにも眠れずただベッドで横になっていた。
私に気付いた時の再開を喜ぶ表情も、帰りに見せた焦りや嫉妬が混じったような感情も全て彼女の本心だ。
思い出せたことでどう向き合うべきか分かったものの、それをするということは生半可な覚悟ではむしろ彼女を焚き付けてしまうことも分かっていた。
「……やるしかない、よね」
手のひらに出ている鈍い銀色の鱗を見て呟いたあと、そのまま意識が沈んでいった。
-雄英高校-
翌日、教室に入ると透から心配された。
あまり眠れなかった影響で僅かにクマが見えたのだろう、その時は楽しみにして眠れなかったと言った。
何か言いたげではあったが、私の気持ちを汲んだのか無理すんなよとだけ言って席に戻る。
凍歌から話しでも聞いたのだろうと思いながら席に向かう、タイミングよくチャイムもなりホームルームが始まった。
事前に説明があった通り、午前中は必修科目の授業が行われた。
普通の高校のような授業だったからか一部の生徒は退屈そうな表情をしていた。
それを見た相澤先生は慣れているように言う。
「こういう積み重ねも大事なことは忘れんな、ヒーロー科と言ってもここは高校だ。君達は学ぶ立場なんだからな」
相澤先生の言葉によって生徒の顔色も戻り、そのまま午前中は終了した。
その後は、食堂へと移動して昼食を取りにいく。
八年経った今も、クックヒーローランチラッシュが一流の料理を提供している。
みんな賑やかに振る舞われる料理を楽しんでいた。
思い詰めていたこともあり一人で食べていると、隣に麟角さんが座った。
「朝から妙に張り詰めてるけど、何かあったのかな?」
表情に出ていたことは自覚していなかったからか、指摘され顔を逸らそうとしたが彼女はすぐに言葉を続けた。
「言えないならそれでも大丈夫、でも、せっかく皆楽しそうだからさ。一旦落ち着くくらいは良いんじゃないかな?」
「…それもそうだね、ありがとう」
お礼を言うと彼女も笑顔に戻った。確かに張り詰めすぎてたなと反省しながら残りの時間を過ごした。
「緑谷先生が担当…確か、ヒーロー史でしたよね」
ヒーロー基礎学の授業が始まる時間となり、緑谷先生が入ってきたことに驚いた凍歌が珍しく手を上げた。
その質問が来るのは分かっていたのか、彼は落ち着いた様子で答えた。
「個性把握テストだけじゃなくて、訓練の様子も見る方がみんなの個性の伸ばし方を正確に伝えられるからね」
緑谷先生の言葉に、質問をした凍歌を含めて教室にいた全員が意味を理解していた。
個性把握テストでどのような個性か知ったとしても、実践を見なければ何が課題になるかまでは分からないのは確かだ。
「それじゃあ、今日は戦闘訓練をするよ。その前に…」
言葉を切ると、教室の一角が動いてそれぞれのコスチュームが入ったスーツケースが出てくる。
生徒の歓声が上がっている中で緑谷先生は言葉を続けた。
「コスチュームに着替え終わった人から、グラウンドβに集まってね」
各々にケースを受け取り着替えに向かっていく、私もケースを受け取って着替えに向かう。
部屋を出る前、彼の表情に何か思うところがある表情をしているように見えたがゆっくり考える暇はなかった。
-グラウンドβ-
「コスチュームで、形から入るのは大事なことだよ。自分はヒーローであるという気持ちを固めるためにもね」
少しずつ集まってくる生徒のコスチュームを見ながら僕は生徒に伝えるように言った。
僕が初めて戦闘訓練をした日にオールマイトもそう言っていたから。
そんな中、移動前に相澤先生に言われた一言が脳裏に響いていた。
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「緑谷、ちょっと待て」
必要な書類をまとめて立ちあがろうとした時、相澤先生に声を掛けられた。
何を言われるのか考えていたけど、言われたのは確かにある不安と警戒を忘れないようにする言葉だった。
「あの黒い結晶がグラウンドβの何箇所かで見つかってる、移動の時も気にかけておけよ」
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あの結晶がここに落ちていたということは、上空から侵入している可能性もある…そうして考えていると手足の各所に穴の空いた灰色のコスチュームに身を包んだ鎖状さんから質問が出たので考えるのを中断して質問に答えた。
「グラウンドβということは、受験の時のような訓練なのでしょうか?」
「今回は受験とは違うよ。少し飛ばして、屋内での対人戦…兵器を使った制圧訓練かな」
対人戦という言葉にざわつく空気を見ていると自分達も似た状態だったのを思い出す。
あの時と違うのは、みんな意味を理解した上で聞いてきてるところだ。
「組み分けはどうするんすか?」
手を上げた絡墨君が、どこか面白がるような声色で聞いてくる。
「勝利条件はなんなんですか?」
絡墨君が聞いたからか、質問を切り替えた鎖状さんが落ち着いている様子で口を開く。
あの時のオールマイトはこういう気持ちだったんだな…と思いながら一つずつ答えていく。
「今見えている仮想ビルの最上階に、核兵器が置かれているんだ。敵側は核兵器の防衛とヒーローの拘束、ヒーロー側は核兵器の奪取と敵側の拘束。それが勝利条件」
勝利条件を話したことで落ち着いたのを確認した後に、続けて組みわけにも言及した。
「組み分けはくじ引きの方で決めていくよ」
近くに置いておいた箱を手元に持ってくると絡墨君が続ける。
「くじ…誰かを指定するとかじゃないんすね」
「それはそうだろ。プロヒーローは特定の誰かとしか組んでるわけじゃないんだ」
僕が説明するよりも早く、透君が彼に説明してくれたからすぐに静まった。
それから、一人ずつくじを引いていった。
「まず形から…か。改善案出すの考えようかな」
頼んでおいたコスチュームに着替えて集合場所に着いたあと、緑谷先生の言葉を聞いた後にそんな独り言が出てしまった。
個性の関係から仕方ないとはいえ、こうしてコスチュームで集まっているとどこからか視線を感じてしまう。
個性を使いたい衝動を抑えていると、同じくと言いたげな表情で凍歌も合流した。
「私のコートでも羽織っておくか?まだ時間もある」
「ありがとう、本当…こういうとこは困り物だよ。私服も袖があるのは着れないし」
受け取ったコートを羽織った後に苦笑しながら言った。
商店街の事件に巻き込まれた日もそうだったが、私の個性の特性の影響で大きい上着くらいしか使っても破れない物がなく私服も限られている。
彼女も経験があるのか、笑いながら返してくれた。
「私も同じようなものだ、ズボンだと凍りついた時に面倒だからな…」
その言葉を聞いて、コスチュームでも私服や制服と同じくらいの丈のスカートであることに納得がいった。
気分も落ち着いてきたのでコートを一旦返すと、タイミングよく透も合流した。
「お前らも苦労してんだな、俺が言えた事でもないが」
そう言う透のコスチュームも、手を包んでいる装甲には何らかの機構が仕込まれているのか厳つい見た目をしており個性が暴発しないようになっている。
まだ始まるまで時間もあるので、前から気になっていることを聞いた。
「もしかして…普段付けてる手袋も特殊な物なのかな」
正解だったのか、珍しく小さな笑みを見せながら答えた。
「父さんが付けてた物らしい。個性が暴発しない特殊繊維…だったか、それが使われてる」
詳しく聞きたかったけれど、絡墨が前に向かったので彼もついていくように前に行った。
彼の性格を思えば絡墨のことを気にかけるのは自然に感じたので、また機会がある時に聞こうと今は諦めた。
その後、喧騒が落ち着いた後にくじ引きでメンバーが決められる。
その結果、私は透。凍歌は切子と組むことになった。
それぞれにペアになって待機していると、彼から朝には聞こうとしなかったことを聞いてきた。
「切子のことだろ。朝から気を張ってた理由」
「……まぁね。もし彼女と当たったら何があるか-」
思うところがある理由を言おうとしたが、それは言葉に出来なかった。
最初にやる組が、私達と凍歌と切子のペアだったからだ。
-最上階-
「…なるほど。核兵器という設定のハリボテか」
最上階に移動して、ロケットの形をしたハリボテに触れながら呟いていると剣士と武士が混ざったような印象を思わせるコスチュームの切子が私の方へ来た。
そして、昨日の様子とは明らかに違う、らしくないと言える目をした状態のままで戦略の相談を始めた。
「…姉さんと彼の個性を考えれば、姉さんの方が奪取に来るはずだ。貴女の個性で止める方がいいかもしれないが…ここに来られた時点で負けていると考えた方がいい」
姉妹ということもあり、彼女の個性についてよく分かっていた。
あの機動力では私の個性で補足する前に核兵器の確保の方が早い。
そうなれば、必然的に-
「…切子、下層で彼女を抑えられるか。透は私の個性で抑えられる」
「…やはりそうなるか。分かった、私が下層に向かう」
提案を飲み込んで下層へ向かった彼女の目が気に掛かったが、連携に影響はしないだろうと思い言及するのは控えた。
言及すると、彼女の思いに割り込んでしまう気もした。
階段を一段ずつ降りるたびに、昔の記憶が脳内に溢れ出す。忘れたくても忘れられないあの日。
あの日、お互いに4歳になり個性が発現した。
姉さんの皮膚が鱗へと変わり、落ちてきた鋏やカッターナイフが当たっても切れる事はなく刃を弾いていた。
私は、姉さんのような派手な物ではなく身体能力、そして手にした刀剣上の物の切れ味と強度が上がるという個性だった。
両親は私に、大丈夫、どんな個性でもヒーローになれると言ってくれたが…それは叶わないと言うように警察官の娘のいない家族へ預けられた。
あの日以来、私の中にはヒーローへの願望と姉さんへの嫉妬に近い感情が消えることなく燻っていた。
「……どうしてだ」
階段を降りた時に出たのは、燻り続ける感情から出てきた一言。
左腰に携えている剣の柄を強く握りしめる。見返すんだ、知らしめるんだ。
私だってヒーローになれると、姉さんと産んだ両親に。
足音のした方向へ走り出す、その時には頭の中から戦略で降りてきたことが抜け落ちてしまっていた。
上の階に登るたびに、再開した時に溢れ出した記憶が私の頭の中を駆け巡る。
私の個性を見た切子の憧れるような目、それ故に両親言い出せなかった…私が養子に行くという提案。
私には分かっていた。真に強くヒーローを渇望していたのは彼女であり私ではないことに。
最上階の階段を目指して移動していると、透から声を掛けられる。
私の考えが分かっているのかその記憶について。
「お前の妹だろ。本当にヒーローを望んでたのは」
「…そうだ、私は…本当はヒーローを目指すつもりはなかった」
私の言葉を読んでいたように、彼は言葉を続ける。
「…なら、どうして本気で目指すようになった。あの日がきっかけってだけなら-」
彼の言おうとしたことは言い切られることはなかった。
こちらの足音を聞き取った切子が視認距離になると同時に距離を縮めて、透に剣を振り下ろした。
彼を押し倒す勢いで割り込んで変化した腕で剣を受け止める。
拮抗状態の私をみて何か言おうとするが、すぐに叫んだ。
「お前は最上階を目指せ!私は…彼女を抑える!」
剣を払い、怯んだ隙に蹴りを打ち込んで彼と距離を取らせると、意図を理解したように階段の方へ走り出した。
「逃すか-」
「あなたの相手は、私だ…!」
彼を追おうとする彼女の前に割り込んで道を遮る。
構え直す彼女の目に見えたのは、戦いの熱によって引き出された抑え込んでいた感情。
そして、この訓練の中でヒーローを目指していたのは私だと証明しようとする意志。
「…ずっと、抱えてたんだ。その思いも…願いも」
私の言葉を聞いた彼女の手に込められた力は強くなり、握りしめる音が聞こえるほどになった。
「それを知りながら…姉さんは何も言わなかったのだな」
怒りと嫉妬の混じった言葉に私は何も言い返せなかった。
あの日、私が言いだせていれば運命が違ったかもしれないという後悔が生まれていたから。
「…証明するんだ。ヒーローになりたかった思い、願いが偽りではないことを!」
悲痛な叫びというべき言葉をきっかけに、私と切子の戦いが始まった。
-モニタールーム-
「……ありゃあ…完全に戦略として飛び出したの忘れてるな」
切子さんと龍子さんがぶつかり合う場面を見る晴天君がそう言った。
通信機越しに僕の耳にも届いていた彼女の言葉には、嘘偽りが何もない。
戦闘訓練という心を焚き付けるに相応しい場面で抑えられずに感情が爆発してしまったような言葉、諦めきれない夢への渇望とそこから生まれた嫉妬。
若いヒーローの卵であれば必ずぶつかる壁、今彼女達はそこに立っている。
ハラハラしながら見ている生徒が多い中、麟角さんが僕に言った。
「あの、止めなくていいんですか…?下手をしたら…」
「…大丈夫、今のところは止めないといけないほどじゃない」
安心させるようにそう言ってからモニターに目線を戻す。
分割された映像には見るからに切れ味と強度が上がった剣を腕で受け止める彼女の姿が映り続けている。
皆が落ち着かない気持ちで見ている中で、頭の中に浮かんでいたのは初めての戦闘訓練をした頃の僕とかっちゃんだった。
-仮想ビル-
個性で強化された剣が振り下ろされる。
咄嗟に腕を変化させて受け止めるが、込められた力は強く少しづつ後ろに押されてしまう。
歯を食いしばって押されまいとしていると彼女の中にある本音が戦いの中で溢れ出した。
「私は…預けられたあの日からもヒーローへの憧れを捨てられなかった。捨てられなかった…!」
彼女の思いを知るにはまだ足りない、そう思いながら沈黙を貫いていると彼女は力を強めながら叫び続ける。
「夢に近いようで遠い場所で生きていながら、どれだけ現実を受け入れようとしても無理だった!姉さんのように…夢を持っていたかった…!」
彼女の叫びを聞くたびに、胸を締め付られるようだった。
ヒーローへの想いが誰よりも強く、それ故に自身の境遇を受け入れられない。
ヒーローには近いようで遠い場所は彼女にとって最も辛いこと。
それが分かっているからこそ…否定をしてはならない。
その思いが浮かぶと同時に、自身の内にある本音が抑えられなくなっていく。
「…っ…私だって、好きでこの道は選んでない!」
叫びながら腕を払って剣を弾いた。構え直す際に、彼女の目に驚愕の感情が浮かんでいたが構わず近づいて拳を振り抜く。
剣で受け止められ拮抗状態になったところで湧き出した本音を叫んだ。
「皆、私にヒーローを継ぐ期待ばかり向けていた!ヒーローにならない道を望んだことを、誰も知ろうとしてくれなかった!」
叫ぶ度に変化させた爪が食い込み血が流れていたが、気にも止めずに言い続ける。
彼女の思いを受け止めるだけで私が言わないのは不公平だと思えたから。
「…なら、どうしてまたヒーローを選んだ。姉さんなら他の道だって-」
私の言葉で秘めていた想いを知ったのか、彼女の目からは嫉妬が消えさり知りたいという感情へ変わっている。
拳に込めた力は緩めずに答えた。
「あの日、商店街でヒーローに助けられたことで…変わったんだ。私もヒーローになれるって」
返答を聞いてから剣を振るい距離を取った後に構え直した彼女の目には、同じヒーローを志す者に向ける目になっていた。
「…姉さんも同じなのだな。きっかけが、気持ちを変えた」
「そう、私も貴女と同じようなもの。だからこそ-」
言い終わる前に再度個性を使う。変化した腕の鱗は以前の鈍い銀色の輝きではなく金属のように光を反射し光っていて硬度が違うものになっていると見て分かった。
「…全力でやるよ、切子。お互いが目指すヒーローになるために」
その言葉に彼女も呼応するように笑みを浮かべる。纏う気迫も先程とは明確に違った。
少しの油断でこちらが負けると直感で分かるほどに。
「後悔はするなよ、姉さん!」
その一言を皮切りに、突き出された拳と剣がぶつかり合い仮想ビルの暗闇を飛び散った火花が照らした。
下の階から何度も聞こえる金属音を聞きながら最上階へ続く最後の階段を登る。
彼女がどうして自分が引き受けたのかは、龍子の目を見た時にわかったからそのまま彼女に足止めを任せた。
「あとは、俺次第…か」
あと少しで終わる階段を登りながらコスチュームに付けられた右手の装甲の解除装置に手をかけるが、すぐに手を離した。
その理由を考えかけたが、すぐに考えるのをやめざるを得なかった。
核のハリボテが置いてある最上階の一部がすでに凍りついていたのだ。
「……迷いがあるみたいだな」
すでに個性を発動しコスチュームの短剣を抜いて準備を済ませている凍歌にそう言うと彼女も即座に言い返す。
「お前こそ、使うのを躊躇っているようだが」
彼女もまた俺がコスチュームの装甲を外していないのを見て、俺が個性の使用を躊躇っているのを見抜いてきた。相変わらずの鋭さだと内心で誉めながら返す。
「…お前の両親、確か八年前に-」
核から離すために挑発気味に言うと、相変わらず怒りはないが感情が混ざりあったような言葉が続く。
「……それがどうした」
「…言葉はもういらないって言いたげだな」
右手の装甲を解除したのをきっかけに、彼女は躊躇いなく棘を射出してきた。
前転で飛んできた棘を回避して掴める物は分解して対応する。
足元が凍っているため上手く動けず、頬を数発の棘が掠めていく。
足元の氷を分解してなんとか柱の影に入りこむ。
触れなければ発動出来ない個性では彼女の遠距離攻撃を捌くのは相当難しい。
「…やるしかなさそうだな」
覚悟を決めて柱の影から飛び出す。
その時、彼女の顔にいつもは見せない表情を浮かべているのに気がついた。
彼の個性が使われる度、私の中で抑えきれない恐怖心が浮かび上がっていた。
分かっている、彼の個性は死柄木弔とは違うものであると。
それでも、分解される場面を見ると恐怖に捕らわれ彼を拒絶してしまう。
自身の体温が冷えて、己が凍りついている感覚に襲われた。
歪みそうになる視界をなんとか戻すが、その時にはすでに彼の右手が上着を掴みかけていた。
短剣を振るいどうにか距離を取ったが、彼がすでに対処しつつあると分かり氷塊を生み出して移動範囲を奪おうとした。
その焦りを見抜いた彼は待っていたと言うように周囲の氷を分解して一気に距離を詰めてくる。
間一髪で氷塊が行手を阻んだが、その時の彼の言葉は私の動揺を誘うには十分だった。
「…恐れてるんだろ、俺の個性」
その言葉で、私の精神の均衡は破られてしまった。
「……恐れてなど、いない!」
昂る感情が抑えられず、核の防衛も忘れ短剣を構えると彼に向けて走り出す。
それが狙いだろうが構わない、近接戦闘で抑えればどうにでもなると自分に言い聞かせていた。
まるで、行き場のない怒りに捉われたのを否定するように。
だが…それは必然な誤算だった。
装甲を戻した彼の右拳は的確に私の短剣を撃ち落とし、すぐに左腕の装甲を解除して私の腕を掴んで後方の壁に叩きつけた。
背中を打ちつけられた痛みよりも先に、彼が人に向けてこの個性を使うのを躊躇わなかった理由に疑念が浮かんだ。
「…どうして、人に使うのに躊躇わない」
足掻くのをやめて彼に問うと、僅かに震えが混じりながらも覚悟が決まっている声で彼は言った。
「…いつ人に作用するのか分からないのは怖いさ。それでも…向き合わないとな。向き合わないと越えられないのなら」
その言葉は私の中の氷を分解していくようにも、己に言い聞かせているようにも感じた。
※
「はは…流石だ…」
どれだけ戦ったのか、いつのまにか時間を忘れて戦っていた。
私の拳は空を切り、彼女の剣も虚空を裂いた。
お互いに個性を使いすぎた反動で倒れてしまい、一歩も動けずにいた。
私の体には剣により出来た切り傷が全身に出来ており、彼女にも何発もの打撃が入った後がコスチュームに残っている。
私の側に落ちた剣を見ながら、私は彼女へ伝えた。
「…そんなに強くなってるなんて、思いもしなかった…私より…」
こうして打ち合って分かった。彼女はもはや私以上にヒーローを目指せる、そう言おうとしたが彼女はそれを止めた。
「いや…姉さんも同じだ、私も姉さんもお互いに…目指す物が見つかってる」
そう言われると、言わない方がいいと思い言葉を飲み込む。
立ち上がる気力はないので、仰向けのまま彼女と視線を合わせるとお互いに小さな笑みが溢れた。
何年もの隔絶によって出来た壁が、この戦いで全て取り払われたような気がして。
-最上階-
掴んでいた彼女の左腕を離す。青いコートはほとんどが分解され左手の手袋も消滅している。
勝敗は決したと言わんばかりに凍歌は壁に背を預けていた。
「…核を回収しろ。勝利条件はそれだ」
彼女の言葉で勝利条件を思い出す、拘束でも勝利にはなるが下に残った二人に捕縛テープを巻いている膂力が残っていないのは想像がついたので装甲を戻して核に触れる。
「勝者、ヒーローチーム!みんなお疲れさま」
核に触れると同時に先生の声が聞こえて、終わったという確信を得る。
その時、抑えていた疲れに襲われてその場にへたり込む。
少し体力が戻ってから立ち上がると彼女が肩を貸してくれた。
普段は感情を見せない割に、さっきの戦いの時や、こういう時は感情が滲むな…と思っていると心を読んだように言った。
「…私でもこのくらいの優しさはある、それに…今回の戦略も同じだ」
俺がここに来ること、二人がぶつかることも彼女なりの思いやりと分かると、つい皮肉めいた答え方が出た。
「はっ…手の内だったってわけか…」
そう返した後、俺と凍歌も、個性によるトラウマという壁が少しずつ取れていることに気付いた。
追加情報コーナー
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火流晴天(かりゅうせいてん)
個性:太陽熱(フレア)
高温の炎を手から操る個性、温度調整を間違えると自分の皮膚が焼けてしまう
雄英高校に推薦で入った推薦組の男子生徒
彼の纏う雰囲気はどこか青い炎を使う男に似た物を持っている
普段はどこか軽いが高い洞察力のある性格
鎖状浪縛(さじょうろうばく)
個性:鎖
体内の鉄分を使い鎖を作り出す、作りすぎると貧血になる
雄英高校の推薦入学者の女子生徒
優しいところはあるが、真面目すぎる性格により堅物としてみられやすいのを少し気にしている
A組の委員長
鳥黒絡墨(ちょうこくからみ)
個性:イカ
イカ墨、触手、保護色などイカっぽいことは何でも出来る
掴みどころのない性格でクラスのムードメーカー
普段は抜けているところはあるが、常に周りを見ている以外と頼れるタイプ