今回はターニングポイントとなるのでそこそこ長いです。
今回もお楽しみください。
連絡をした後も、複数の追手が私達を追ってきたが連絡を受けた緑谷先生が合流すると瞬く間に追手を全員気絶させていった。
その時、彼の顔には小さな不安がよぎってる表情が見えたがそれを聞く前に保健室へ急いだ。
-雄英高校 保健室前-
雄英高校に着くと同時に、相澤先生が白髪の少女を背負い保健室へと向かった。
私から見ても分かるほどの重症に心配になってしまい、私も保険室前まで行くと一緒に来ていた凍歌に声を掛けられる。
「…気持ちは分かる。だが、リカバリーガールがいるならどうにか-」
彼女の言葉も理解出来たが、それ以上にある不安があったので彼女が言い切る前に小さな声で伝えた。
「……彼女の個性、もし制御出来ていなかったら?保健室で暴発なんて起きたらどうなるかと思うとさ」
私の言葉の意味を理解したのか、彼女も言おうとするのをやめると保険室の方を見る。
部屋からは騒音は聞こえず、何人かの話し声が聞こえてくる。
声を押し殺して聞いていると静止しようとしていた透が、諦めたように肩を竦めているのが視界に入った。
私達の行動はすでに勘づかれていたのか、保健室から緑谷先生が出てくるとすぐに私達の方へ歩いてきた。
私の前に来ると安心させるように穏やかな声で続ける。
「重症ではあったけど、龍子さんのおかげで治療が間に合ったよ。今はオールマイトが彼女と話してるところ」
緑谷先生の言葉に胸を撫で下ろしたが、その直後に隣に来ていた相澤先生の厳しい言葉が和みかけた空気を引き締めた。
「生徒は巻き込むわけにはいかないだろ、緑谷。本格的な捜索はプロの仕事だ、すぐに手を引かせておけ」
緑谷先生の顔にどうするべきかという表情が浮かび上がる。
断片といえど知ってしまったことで透と凍歌の二人にすでに話してしまったこと、二人から私にも情報が伝わっていることを悟っているからこそだ。
だけど、相澤先生の言葉も正しい。どんな危険があるかも分からない事件に、まだ学ぶ立場である生徒を巻き込むことは命の危険だけではなく…利用される危険性もある。
それでも、彼女をあの時に助けたこと。情報を二人を通して知ったことでもう私達は無関係ではないんだ。
同じ気持ちだったのか、私だけでなく透と凍歌も顔を上げて相澤先生を見ていた。
自身を見る私達の目で何かを察したように、彼は肩を竦めながら口を開く。
「……この事は、君達だけの秘密にするように。本来ならプロヒーローの仕事なんだからな」
その言葉に、緑谷先生も安堵するようにため息を吐く。
それから緑谷先生が私達を見て言葉を続けた。
「あの子のことは、相談してA組のみんなと行動してもらうように出来ないか聞いてみるよ。手が空いているプロヒーローに任せるのも難しいから」
その言葉に、自分達の行動が決して無意味ではなかったと分かって安心感を覚えてから私達はもう一度帰路につく。
数日後、まさかの形で関与することになるとはこの時は思いもしていなかった。
数日後
-1-A教室前 廊下-
あまり良い睡眠が取れず、欠伸をしながら教室へ向かっていた。
安心こそしたが、それ以上に三人だけの秘密を背負う重荷は想像より重かったから。
気持ちを切り替えて教室に近づいた時、教室内が朝にしては賑わっていることに気づいた。
なんだろうと思いながら中へ入ると、無意識に足が止まってしまった。
あの日に助けた女の子が雄英の制服を着て教室にいたのだ。
つい職員室へ行きそうになったが、その前に私に気付いた鎖状さんがこちらに駆け寄って聞いてきた。
「あの子はどうしたのでしょうか?転校生の話も聞いていないのですが…」
事件のことは秘密だと相澤先生に口止めされていたので、真相を伝えるわけにはいかず言葉に悩んでいると白髪の少女は私の方へ駆け寄って私にくっ付くようにしてきた。
その行動に鎖状さんも私も驚きのあまり言葉を失くしていたが、私の上着の袖を持っている彼女から私に話しかけてくる。
「龍子の側にいると、安心する…」
起きている状況を整理できずに立ち尽くしていると、凍歌が揶揄うように言ってきた。
「随分懐かれたな?」
「その言い方はやめて、凍歌…とりあえず、席に行こうか」
扉の前に立っているままでは邪魔になるので一旦自分の席に向かう。
普段なら席につけば落ち着けるが、今日はそういうわけにはいかずもどかしい感じがする。
私の側にい続ける彼女を一瞥してから周りを見ると、どうしてか微笑ましいものを見ている空気になっていた。
その空気感に困惑していると、浅黒い肌の女子生徒が牙を見せるように微笑みながら私の気持ちを見抜いているように声を掛けてきた。
「何かあるみたいだね、せっかくだし…聞いてもいいのかな?」
「そういうわけじゃないよ、なんだろ……」
事件について触れないようにしながら言うにはどう言うべきか考えていると、その間も彼女は私の
側から離れない少女を見ている。
しばらく静かにしていると、場を和ませるように笑顔を見せながら言った。
「それにしても…意外と子供に好かれるんだね?堅物な人が動物に好かれるみたい」
その言い方に心が跳ねそうになり、頭の中でまとまりかけた言葉が解けていく。
同時に、その場をなんとかしようとする言葉が無意識に出てしまった。
「堅……いや、そういうのじゃないって…!」
私が慌てふためきながら出した言葉に、教室内にいた全員の表情が緩み余計に空気が緩んだ方へ寄っていく。
気恥ずかしさに負けて、机に顔を伏せると切子が私の後ろに来て慣れているように続ける。
「昔からそこは変わっていないな、姉さん」
切子の言葉に顔が余計に赤くなるが、緑谷先生が入ってきたことで一旦は場が納まった。
その後、先生から正式にどういう経緯があったのか説明された。
元々住んでいた場所も分からず、両親のことも調べられなかったためにA組の寮で生活することになったそうだ。
その際に、改めて彼女から自己紹介があった。
「変容化移…よろしく」
彼女の名前の異質さに、皆は不思議そうな表情をしていたが事件について知らされていた私達はその名前が彼女の出自に関与しているものであるとすぐに分かった。
※
その後、授業にも参加することになったが教師陣を揃って驚かせていた。
中学生くらいに見える外見でありながら特に分からないこともなく授業についていき、自分から手を挙げて答えていたからだ。
その様子に、朝に声を掛けてきた女子生徒-夜隠暗斗-も自分以上に頭がいいことに口が開いたままになっていた。
午前中の授業が終わり、昼休憩の時間になると朝には私の側にずっといた化移はクラスメイトと打ち解けて話すようになっている。
「朝はごめんね。和ませようとして、つい…」
彼女に謝る様子を見て、私はあのことを気にしていないことに気付いていたのだと思うと彼女にも違う形で優れているところがあるのだと感じた。
そうして二人の様子を見ていると、昼食に向かう凍歌に声を掛けられた。
彼女の声は、不安を押し殺している声色だ。
「今はいいが、実践訓練の時はどうするんだ。ずっと側にいてられる訳ではないだろう」
彼女の不安は的確だ。
午後からの訓練が始まれば、私達や透は側にはいてあげられない。
どうすべきか聞くために職員室に行こうとするが、その前に教室を出る相澤先生が手でこちらに合図を送っていた。
先生の合図に従って、私と凍歌は教室を後にする。
「…今日はUSJでの救助訓練だが、彼女にも参加してもらう形になった」
食堂から離れた場所で相澤先生は淡々とそのことを口にした。
その判断には気になるところがあり私から聞こうとするが、その前に彼が説明を始める。
「彼女の個性も、まだ制御出来ていない。それに、戦う意志もある以上、参加させてあげる方がいい」
思うところがなかった訳ではないが、私にも合理的な判断だと分かったので相澤先生の提案に無言で頷いてから二人でその場を後にする。
凍歌の方を見ると、彼女も意味を理解しているようで己を納得させるような表情で食堂に戻っていた。
二人が何か言いたげではあったのには顔を見れば分かった。
だが、同時に二人なら意味を理解して受け入れるのも知っていたので引き留めるのもする気はなかった。
相澤先生は救助訓練の準備のために職員室に戻っていると、ちょうどいいタイミングでスーツを起動していた緑谷と視線が合う。
足を止めて、今回の救助訓練と彼女を向かわせる選択をしたことについて話しておいた。
その時、緑谷の目には三人が彼女を連れて来た日のような目をしていた。
「ありがとうございます、相澤先生。壊里ちゃんのことがあるので、承諾してもらえるか不安だったんです」
緑谷の言う通り、壊里のことがある以上は昨日の会議は難航していた。
だが、今年のA組もまたこれまでの生徒と引けを取らない実力があるのも確かだったのもあり、彼らと同行する選択が選ばれた。
「これからのヒーローは、戦うだけじゃないからな…守りながらの救助も学ばせておくほうがいい」
俺の言葉に納得したように頷いてから緑谷は外に出て、スーツケースがアーマーへと変わった後に市街地にパトロールに向かった。
その際に言われたのはあいつらしい言葉だった。
「みんなのことはお願いします、イレイザーヘッド」
最後にヒーロー名で言った意味はすぐに分かった、今回の救助訓練がただの救助訓練とはならないと分かっているからだ。
久しぶりに感じる肩へのしかかった重さに息を吐いてから、俺は改めて職員室へ戻った。
※
昼休憩が終わり、生徒と同行する相澤先生でバスに乗ってUSJへと向かっていた。
コスチュームを直している生徒以外は、スーツケースを持ってバスに乗っている。
私のコスチュームは大きな損傷もなかったのでそのまま持って来たが、隣に座っている凍歌のコスチュームの損傷は大きかったのでどうかと思っていた。
だが、それは杞憂だったようで数日で無事に直っていたようだ。
「……そういや、そいつはどうするんだ?常に一緒には居れないだろ」
私の前に座っていた青い肌をした男子生徒-海泡海月-が、私の膝に座っている化移へと視線を向けながら聞いて来た。
答えようとする前に、相澤先生からの視線を感じたが機密には悟られないように答える。
「彼女も、この訓練で個性の訓練をするからそこは問題ないよ」
私の答えに納得したように、小さく頷いてから外を見て静かにしていた。
彼なりに気を使っているのだろうと思うようにして視線を膝に乗る少女へ戻す。
彼女もコスチュームに当たる物は準備されているのか、私の足元に一回り小さなスーツケースが置かれていた。
小さなスーツケースに目を落としている間、思い思いにクラスメイトと話す生徒やバスの外を眺める生徒で別れていたが海月の隣にいた目元に赤い隈取がある白い肌の男子-紡糸巻-の一言が空気を変えた。
「……その子の個性くらいは教えてくれませんか。何も知らされずに訓練に参加すれば、お互いに危険だと思います」
その言葉で、騒々しさは一息に消えて全員の視線が化移へと移る。
彼女の表情が不安に包まれたものに変わるが、すぐに相澤先生が口を開いた。
「そうだな、お互いの安全のためにそれは言っておいた方がいい。因果変容…自身の周囲に見えないエネルギーを発生させるものだ。制御に関しても、まだ君たちと同じ程度か」
「それなら、一番彼女が懐いてる人に任せた方が良さそうですね。その方が安全そうです」
彼がそう言うと全員の視線は自然に私の方に移ってくる。
何か言おうとしたが、相澤先生の視線もお前に任せると伝えるような物だった。
課された責任は重大なもので息が詰まりそうだが、糸巻の言葉は正しい。
彼女の気持ちを思うと、一番安心出来る人に任せるのは安全性でも確かだ。
そのまま何も言わずにただ頷いてから肩を竦めると、隣にいた凍歌が私も担うと言うかわりに肩に手を置いてくれた。
透も、同じ思いなのか遠くから視線で伝えてくれる。
二人の気遣いに詰まりそうになった息も少し楽になった。
その後は元の空気に戻り、しばらくすると大きなドーム状の施設が見えてバス内で声が上がる。
USJへ到着し、気を引き締め直して化移の手を取ってバスを降りた。
-USJ 入口-
コスチュームに着替えて集まった場所に待っていたのは、災害救助で活躍しているプロヒーローである13号だ。
全員が集まったのを確認すると、ヘルメット越しでも分かる優しい声で説明が始まった。
「皆さん集まりましたね。早速、中へ行きましょう」
彼女の言葉をきっかけに、USJの中へ入っていく。皆が意気揚々と入る中で化移だけは何かに怯えるような表情を見せていた。
私が安心させるように手を握ると、不安な気持ちが和らいだように表情が落ち着いていく。
その様子を見ていた凍歌が移動をしている時に声をかけてきた。
「…ただの訓練であるといいな。八年前のような襲撃はないはずだが」
彼女の言う通り、今のUSJでは襲撃が起きた話は聞いていない。
とはいえ…今回は彼女を追っていた組織のことがある。侵入をしてこないリスクがないわけではない。
そう考えれば、外周で何人か警備しているヒーローが見られたのも納得が出来る。
それでも、やるべきことはこの子を助けたあの日から変わらない。
「いざとなれば、あの時のように戦うだけだよ」
意を決して出した言葉の意図を察したように彼女に微笑みが浮かんだ。
「お前らしいな、とりあえず…入るぞ。まずはそこからだ」
私達を待っていた透と共に中に入ると、そこに広がっていたのは水難や火災などと言ったそれぞれの災害を模したエリアがある場所だった。
私達が最後だったのか、入って来たのを確認して13号からここからの説明を始める。
「今日は、各々の個性に合わせた災害エリアで救助訓練をしてもらいます。皆さんの個性がどのように救助で役に立つのか、把握していきましょう」
13号の説明を聞いて皆納得していたけど、鎖状さんだけは疑問を持っている様子だった。
気になったことがあったのか彼女は手を挙げて13号に質問をする。
「最近、ヒーローたちが忙しなく動いているのを見ています。ここが対象になる可能性はないのでしょうか?」
その質問に私と化移の背に背筋が凍るような寒気を感じた。
透と凍歌も似た感覚を持ったのか、自然と鎖状さんへ視線を向ける。不安から来るざわめきが広がり始めるが、13号は予見していたように答えた。
「だからこそ、こうして救助訓練をするのです。予想外のことが起こった時も冷静に動けないといけませんから」
彼女はその言葉に納得したような表情になり、ありがとうございますと13号に言ってからすぐに普段通りの様子に戻った。
その後、各々の個性に合わせたエリアへ全員が移動を始める。
荒れかけた気持ちを落ち着けて、私も化移を連れて倒壊ゾーンへ向かうことにした。
「…13号、ここに例の結晶はありましたか」
全員がエリアに行ったのを確認して、イレイザーヘッドは待機している13号の側に移動して声を掛けた。
言葉の意味を知っているのか彼女はすぐに答える。
「結晶は確認されていません、イレイザーヘッド。それよりも…化移さんを狙っている組織のことは大丈夫でしょうか」
彼女もそこは懸念しているのか、普段通りの様子ではあるが不安を滲ませる声色で俺に聞いてきた。
俺もそこは気にしている。死柄木の一件がある以上は完全な安全を保証はできない。
それでも、あの時とは違う気をしていたのですぐに纏めるように言う。
「今の警備は八年前よりも格段に強化されています。死柄木の時にようにはいかないでしょう」
-USJ 倒壊ゾーン-
両腕を変化させて、乗っていた瓦礫をどかした後に救助者役の人を背負って避難エリアに向かう。
そこへ向かっている最中、私の隣であの小さなスーツケースに入っていたとは思えない程の大きさになっている鉄塊に人を乗せて移動する化移を見た。
見えないエネルギーを可視化するためのサポートアイテムである鉄塊は、ぱっと見は刃のない大剣が浮いているような状態だった。
正確には、エネルギーで鉄塊を持っているというのが正解なのだろうが。
私の視線に気付いたのか彼女もこちらを見る。その目には聞きたいことがあるという気持ちが篭っている視線だ。
ちょうど見えてきた避難エリアへ人を下ろしてから、崩れたビル群を再現したエリアに戻ってくる。
もう聞いていいと思ったのか、彼女が私に聞いて来た。
「…どうしてあの時、私を助けてくれたの?」
そう言われた時、どう言っていいか言葉に詰まってしまう。ヒーローの卵としてではない、あのまま見過ごすのは人として駄目だと思ったのも混じっていたから。
しばらく間を空けて、笑顔を見せながら答える。
「あの時、貴女を見捨てたらさ。私がヒーローを目指した意味も…私という人間の本心としても間違っている気がしたから」
私の返答に、予想した以上の思いがあったのか教室でも見せていなかった微笑みを見せながら言う。
「……優しいんだね、龍子は。あの人達とは違う」
あの人達、その言葉が意味するものにこちらから聞こうと口を開きかけるが…ちょうどそのタイミングで暗斗が翼に変えた腕を戻しながら合流した。
「ここだったんだね、でも、分かるかも。二人の個性を思うと」
合流した暗斗にそう言われて心の中で納得してしまう。
私の個性は純粋な身体強化、そして化移の個性は視覚で捉えられないエネルギーの展開。
そうなれば倒壊エリアになるのは当然のことだ。
「私も、暗斗がこのエリアだったのは納得してるよ。蝙蝠の個性…索敵に特化してるなら」
私の見解は正解だったのか、彼女はどこか不思議な雰囲気を纏う笑顔を見せながら答える。
「正解、私の個性はコウモリ。そのまんま、飛行とか超音波での探知だよ。…せっかくだし一緒に訓練しよっか?」
合同で救助するのも現場に出ればあり得ることなので、こういう時に訓練したいと思っていたのですぐに頷いて化移と暗斗の三人で救助訓練を再開した。
-水難ゾーン-
氷の棘で海面を凍らせて道を作る。
そして、溺れかけていた人の手を取り、作っておいた氷の足場で息を整える時間を作ってから足場がある場所へ移動させていく。
不要な氷が出ることはなく救助した人を凍らせることもないことに安堵していると、海月の個性と見られる触手で海面を浮いていた兎のような耳を持つ女子生徒-黒兎念波-が私に声をかける。
「凍歌さん、次はこっちです!方向は私が指します。」
そう言うと、彼女の手元に黒い波動が集まっていき黒い波動が次の救助者がいる場所へ飛んでいく。
その波動が示した方向に、作り出した氷の道を滑るように移動して向かう。
差し示した方向の救助者役の人を助けて少し時間が出来たので、濡れた外套を絞り水を出していると先程とは違う、柔らかい雰囲気で戻ってきた彼女に話しかけられた。
「凍歌さんは、どうしてヒーロー志望になったんですか?」
特に誤魔化す必要もないため、あの日のことを思い出しながら答える。
「元々は普通の高校に行くつもりだったが、あるヒーローに助けられてな。それでここを選んだ」
私の答えを知っていたのか、それとも予想以上だったのか…彼女の表情は憂いを含む微笑みになっていた。
そんな彼女を見ていると私の気持ちも落ち着いていくような気分になる。
しばらく肩の力を抜いて、再開しようと周囲に目を向けた時、水難ゾーンの建造物の影で一瞬人影が見えた。すぐにこの場にいた三人を集めて物陰から観察する。
遠巻きに見ていたので細かい行動は見えないが、何者かに連絡しているように見えた。
「海月、念波、先生に連絡を-」
二人が何かあれば知らせるようにと渡された無線機を起動するが、二人の表情が音もなく曇っていく。
その直後に二人の口から発せられた言葉は、大きな不安を発生させた。
「通信機が起動しません、何かに遮断されるような-」
「駄目だ、つかねえ。電波を妨害されてる」
この現象には覚えがある。あの日、化移を助けた時も携帯の電波が遮断されていた。
そこに考えが至った時、脳裏に浮いたのは最悪の構図。
八年前の事件、二度と起きてはならないことの再現-。
指先が冷えて、感覚がなくなりそうになる。冷たくなる感覚を抑えながら不安げな表情を見せる三人に声を掛ける。
「…見つからないように合流する。急げ」
絶対にあの子の手を離すな、龍子…思考の片隅でそんな言葉が浮いていた。
-山岳ゾーン-
「麟角、安全地帯はどの辺りか分かるか?」
救助者を背負って、抜いておいた剣で障害となる岩を斬りさいて道を作りながら電気を飛ばしている麟角に声を掛ける。
山場にも発生する磁気も再現されているからか、彼女の個性でも安置を探せるようになっていた。
「…あっちなら大丈夫、透君と糸巻君が救助した人の電気反応が感じれる」
電気が示した方向へ二人で向かう。
近くまで行くと、救助者の周りを分解して整地している透と糸で簡易的な橋を組み上げている糸巻の姿が見えた。
糸の橋を直に見ると不安を覚えたが、糸巻は軽く肩を竦めながら言う。
「人が乗っても落ちない強度にしてある。問題ない」
その言葉を信じて、二人で糸の橋を渡る。彼の言う通り、少し揺れはしたが橋は解けることなく渡り切れた。
背負った人を整地されていた場所へゆっくりと下ろす。
気休めのために岩場に背を預けると、透に声を掛けられる。その聞き方には、よく戻ってこれたなという意図が込められていた。
「だいぶ離れてただろ。よく戻ってこれたな」
「麟角のおかげだ。彼女の個性のおかげで、ここまで迷うことなく来れた」
私の返答を聞いていた彼女の表情は、褒められることに慣れていないのかどこか照れているような表情になっていた。
私と透もその表情に気付いたものの、聞いていいのか迷ってしまったが彼女自身が口を開いた。
「昔から、私に触れたり近づいたら痺れるって言われて邪魔者扱いされることの方が多かったので…。誰かの役に立てるというのが嬉しくて」
麟角の言葉に感じたものがあるのか、透は同意するような様子で頷く。
二人の様子を見て険悪にならないようで良かったと思っていたところで、糸巻が私たちに近づいてくる。
手元に何かを持っていたのでそれを見ると、あと少しで終わる時間になっていた。
「よし、そろそろ戻るか」
透がそう言ったのをきっかけにセントラルエリアに戻っていた時、山岳ゾーンの入り口の近くで見慣れないものが落下している。
血に見える赤い液体、一部は結晶化しているように見える。それが何か調べようと糸巻が糸を指先から出そうとするが、それを透が制止する。
彼の表情は、何かを知っているような顔をしていた。
「…いくぞ、あれには触れるなよ」
「透、お前は何を-」
それの横を距離を取って通り過ぎるときに私は彼に知っていることを聞こうとしたが、その前に結晶が赤く発光し始める。
それを見た時、その場にいた全員の背筋を悪寒が通り過ぎた。
「…走れ!」
普段は冷静で叫ぶことのない透が、私達ではどうしようもない危険を感じたように叫ぶのと同時に入口に向かおうとするが、結晶の成長速度は意思を持っているかのように入り口を封鎖するように成長する。
切り裂いて出口を作ろうと抜刀するが、その前に後方で現れたものに視線を奪われた。
一箇所に集まっていた赤い結晶が、ギシギシと軋む音を立てながら人型へと変貌していった。
-セントラル広場-
「先輩、外の警備の方はどうなっていますか!」
訓練が終わる間際、USJの各所で結晶が発生したのを見て、セントラル広場で発生した結晶から生まれた赤い結晶の人型に13号が対処をしながら俺に聞く。
通信機で生徒に連絡を取ろうとするが、通信が妨害されているのか通信が繋がらない。
「13号、入口を守りながら対処を続けてくれ!」
湧き出した結晶の人型を砕きながら、それぞれのゾーンへ向かおうとする。
その時、俺の背後にいた人型が砕かれていく。後ろを見ると外の警備をしていた列怒頼雄戸とテイルマン、シュガーマンの三人が中で合流していた。
「生徒は俺とテイルマンが助けに行きます!イレイザーヘッドは雄英に連絡を!」
「済まない、頼んだぞ。シュガーマン、13号、ここは頼む!」
セントラル広場と入り口を彼らに任せて入り口に向かう。外に出ると、金色のフラフープのようなリングを持ったマジシャンの男が立っていた。
掴みどころがない男に警戒心を持ちながら問いかける。
「この侵入は、お前の仕業か?」
捕縛布に手をかけながら問うと、男は好きでこうしていないというように言い始める。
「まさか、私も荒事は避けたいんですよ。あくまで、探し物をしに来ただけです」
「探し物……もし、それを素直に渡すつもりはないとしたらどうするつもりだ?」
奴の言う探し物を察して、あえてそう言うと男は軽く肩を竦めながら言う。
「…そうですね、少々手荒な手段を使うほかないでしょうか」
そう言うと、少し歩いて手に持ったリングを壁に貼りつけるように置く。その輪が置かれたところから結晶の対処をしているUSJの様子が見える。
それを見て、今回の侵入でセンサーが起動しなかった理由も想像がついた。
捕縛布を伸ばして結晶を投げ込まれる前にリングを奪う。
奪われたリングが手元で消滅していく。男は囚われないように移動しながら、すぐに次のリングを生成して呟く。
「……まぁいいでしょう。すでに捜索に十分な数は入れましたし。私は回収の時を待つとします」
逃がさまいと捕縛布を放つが、リングで捕縛布を防がれる。
そのまま中が黒い空間になっているリングを通してUSJの天井へ移動しながら男が自分の名前を名乗った。
「移送輪転、ブラッドクリスの移動と補助をする者です。またお会いしましょう、ヒーロー」
こんにちは、こんばんは。後書きコーナーの時間です。
今回も書かせていただきます、ではどうぞ。
白髪の少女→変容化移(へんようかい)
個性:因果変容
目に見えないエネルギーを自身の周囲で展開する。
展開範囲を広げるほどに自身の脳へのダメージが大きくなる。
名のない地下の研究所から逃げ出して、雄英に保護された少女。
覚えているのは自身の個性と名前だけであり、それ以外のことはどれも思い出せずにいる。
最初に助けられた龍子に懐いており、猫のように側にいようとする。
夜隠暗斗(よがくれあんと)
個性:蝙蝠
自身の腕の皮膚を皮膜、足を蝙蝠の爪のように変化させることが出来る。
口からは超音波を放つこともできる。
浅黒い肌をして、小さな牙が生えている女子生徒。
気楽に考える性格をしており、誰とでも明るく接するタイプ。
観察能力も高く常に周囲を見て動いている。
海泡海月(かいほうみつき)
個性:クラゲ
麻痺毒を注入できる触手を展開する。
海中や水中でも呼吸が出来る。
水色の肌の男子生徒。
普段からだるそうにしてはいるが、実際には人のことを気にかけており何かあると助けようとする側面がある。
異形寄りなのもあり、暗斗や海月と仲が良い。
紡糸巻(つむぎいとまき)
個性:蜘蛛の糸
指から強度を調整できる糸を射出する。
長く伸ばすこともできるが、伸ばしすぎると強度が維持できなくなる。
目の周りに赤い隈取がある白い肌の男子生徒。
基本的には静かで取り乱すことはないが、家族と聞くと思うところがあるのか表情が変わる時がある。
常に人を警戒をしているため、仲良く出来る相手ではない限り必要な時しか話さない。
黒兎念波(くろうさねんは)
個性:黒い波動
手元から人の感情を察知出来る黒い波動を飛ばす。
凝縮、広域に展開することで攻撃や防御にも転用できるが、自身にかかる負荷も相応に増えていく。
兎のような耳がある女子生徒。
個性の影響で人の心が分かるためか、怒りや落胆といった感情は人に見せようとしない、相手に寄り添うことを優先する。
移送輪転(いそうてんりん)
個性:ワープリング
直径一メートルの金色のリングを手から生み出す。
壁や建物に貼り付けると、備え付けられた設備を透過して入れる入り口となる。
地面に置くと、リング同士で移動できるポータルの役割をする。
マジシャンの格好をした怪しい男。
ブラッドクリスという名前の人物と繋がりのある人物。
自身は荒事を好まず、命令であればこなすくらいの考えをしている。