氷と龍が目指す場所   作:仮想人格さん

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こんにちは こんばんは、作者の仮装人格さんです。
今回で第七話となりました、いつも読んでいただきありがとうございます。
この話数で一章の物語が一区切りとなります、ぜひお楽しみください。


チャプター7.立ちはだかる壁

-USJ 天井-

 

「まったく…あの人も人使いが荒いことだ。私は前線に出したら駄目になるって分かってるでしょうに…」

イレイザーヘッドの追撃を凌いで、USJの天井へワープしたマジシャンの男はため息をつくように呟く。リングを囮にして捕縛布を防いだ代わりに、手袋が破れてリングを生み出した部分が少し出血していた。

上限ギリギリまで使ったからだろう、そう判断して気を休めるために天井で寝ようとした時に通信機が鳴って慌てて起き上がる。

通信機をつけると、若くはあるがどこか曇った声が聞こえる。

「輪転、私の娘は見つかったか?」

「見つかりはしましたけど、あの子は一人の生徒に想像以上に懐いています」

通信機越しに答えると、しばらく沈黙が続いてから久しぶりに楽しみが見つかったような声色の声が響く。

「ほぅ…あの子が。場所を教えてくれ、手ずから会いに行こう」

 

-USJ-

「どこから入り込んだ…⁉︎」

切子に知っていることを聞かれる前に結晶が変質していく。

咄嗟に顔を上げると、天井に見覚えのない穴…いや、リングが穴を開けていた。

糸巻もそれに気付いたのか俺に糸を巻きつけてリングの方へ飛ばそうとする。それよりも早く、変異した人型が飛び上がり進路を遮る。

手甲につけられたカバーを解除して、結晶の人型に個性を使おうとする。

だが、その行動は許されていない行動だったのか鎌状になった人型の腕が砕けて地面に落下した。

「……流石、試験で-」

「…違う。俺は個性を使ってない」

俺が個性で壊したと思った糸巻の言葉を遮ると、彼の目にも疑念が浮かんだように結晶の人型へ視線を移す。

互いに着地して距離を取った。落下した腕部はすでに修復されているが、どうしてかこちらを攻撃しようとしない。

後方で切子が剣を構えるが、拭えない違和感の正体に気付いた彼女が声を上げた。

「…目的はなんだ。襲撃しに来た訳ではないだろう」

彼女の声にしばらく人型が静止していたが、ゲートの役割を果たしている結晶に一筋の亀裂が走り新たな人影が現れる。

黒いスーツに身を包んだ、三十代くらいの赤黒い髪の男だった。

男は俺達を一瞥した後、ある一言を残してその場を去っていった。

「…ここにはいないようだね。彼らに訓練でもつけてあげておいてくれ」

逃さないと言わんばかりに飛び出した切子の剣は、結晶の中に消える彼には届かず人型の結晶に阻まれる。

そして、攻撃性を抑えていた蓋が取れたようにこちらへ複数の人型が駆け出してきた。

「僕達の中で一番指揮が出来るの、透でしょ。任せるよ」

全員が警戒心を戻して構える中で糸巻が俺を見ながら言った。

普段なら指揮は取ることもしないが、この状況ではなにも言えなかったので間を開けて全員に聞こえるように言う。

「結晶が入り口を塞ぐ直前に、一瞬だけ通信が復活して警備していたプロヒーローが救援に来てくれているって聞こえた。それまで、倒れるなよ」

伝え終わると同時に、結晶と俺達の初めてのヴィランとの対決が始まった。

 

-土砂ゾーン-

 

「…なんだ?」

救助訓練を終えて戻ろうとした時、突然上から赤い結晶が降り注いできた。

即座に晴天を敵対対象として見たのかそのまま攻撃してくる。だが、すでにこういった事を経験していたのですぐに戦闘体勢へ入る。

人を模しただけだからだろう、動きはワンパターンで対応できる範囲だった。

「……いや、あいつらを疑うのは良くねえか。まずはここから戻らねえとな」

迫ってきた複数の人型の攻撃を回避して、手から放った炎で溶かした後にバスの中で化移のことに触れられて反応した三人を思い出す。

あの時の引き攣った表情の反応を見るに何かを知っているのか、入り口に戻ってから聞こうと思ったがそれは疑っているのと同じなので一旦やめることにした。

入口の方へ向かっている中、何度も結晶の人型が襲ってくる。全ての個体を迎撃し終えた後、俺と同じ土砂ゾーンにいたと思われる龍炎華奈と合流した。

「さっき、通信が少しだけ戻ったんですが…プロヒーローのみなさんがそれぞれのエリアへ救援に向かっているそうです」

人型の視界に入らないように移動している最中、彼女が渡されていた通信機を手に伝えてくれた。

それが確かなことは表情を見ればわかる。だが-それ以上にある違和感を感じていた。

「……本当に襲撃しに来たのか?」

俺の言葉が聞こえていたのか、すぐに顔を上げてこちらへ視線を送る。聞かせてほしいと言わんばかりに見ていたので人型にバレないよう小さな声で話す。

「俺を攻撃してきた奴らは、邪魔をする存在だからと敵意を向けてきた。お前はそうじゃないだろ」

突然の敵襲に等しいのに、ほとんど無傷でここまで来ていた華奈に対して抱いていた違和感を口に出す。

本人もそう感じていたのか俺の言葉に続いた。

「はい。確かにこちらを見て近づいてはきたんですが、攻撃はされずそのまま無視されて…まるで、人を探しているようでした」

華奈の言葉を聞いて、闊歩している結晶の目的がなんとなく分かった。同時に、これからどう動くべきかも。

少し間を空けて彼女に顔を合わせる。これから言わんとしていることはリスクを背負う行動だからだ。

「俺は凍歌…もしくは龍子の方へ向かう。お前はプロヒーローと入り口まで行け」

彼女も戦えないわけではないことは分かっている、だが、この行動を取れば邪魔をする障害として攻撃対象になりかねない。そうなってはならないのでそう言ったが、帰ってきたのは想定していない言葉った。

「私も行きます。目的がわかったのに、引くことなんて出来ません」

返答には強い意志が籠っており、その提案を拒否することは俺には出来なかった。

軽くため息をついてから小声でこれからの行動を伝える。

「…ここを抜けたら、どちらかの近い方へ向かう。無理はするなよ」

「晴天君こそ、無理はしないでください。その個性の反動は言わずとも分かりますから」

「分かってるよ、じゃあ…行くぞ」

その言葉を最後に、建物の影から飛び出す。

襲ってくる人型を無視して、目の前に見えていた入り口を塞ぐ結晶を炎で溶かして、土砂ゾーンを脱出して他のエリアに向かい走り出す。

同じタイミングで、救援に向かっていたテイルマンとすれ違う。彼が何か言おうとしたがその前に状況を出来る限り伝えようとする。

「この襲撃の目的はヒーローの殲滅ではありません、誰かを連れ戻そうとする…」

言い終える前に、テイルマンが俺達に追いつく。そして改めて言おうとしたことの続きを聞いてきた。

「つまり、襲撃者は誰かを連れ戻しに来た…ってことか?」

「はい、そうでないと彼女が無傷である説明がつきません」

俺がそこまで悟っている事については、すでに誰かで経験しているのかそれには何も言わずに言葉を続けた。

「君達は無理をしすぎないで。危なくなったらすぐに退いてくれ」

「…はい!」

こうして、俺達は本来なら早すぎるプロヒーローとの行動が始まった。

 

 

-倒壊ゾーン-

「なんなんだ、コイツら…!壊してもキリがねぇ!」

「あれこれ言ってないで、今はプロヒーローが来るまで耐えてください。兄さん」

突然上空から現れた結晶の人型を砕きながらそう言う壊刃へ、帳が即座に返す。

動きを止めずに、私も腕を変化させて人型を壊していく。だが、壊した矢先に新たな人型が現れて攻撃を仕掛けてくる。

化移も鉄塊で流れるように破壊していくが、数が多いからか捌ききれずに回避している時があった。

変化を足に流していき回し蹴りで正面にいた個体を破壊して化移と合流する。

彼女の表情に僅かに安堵の色が戻るが、すぐに警戒した表情に戻り口を開く。

「…この個性、私は知ってるよ」

その言葉に全員の視線が彼女に移る前に、結晶が激しい音を放ちながら巨大な壁となってエリア内を分断していく。

咄嗟に化移を抱えて回避出来たが、私はそのまま他の生徒と分断されてしまった。

 

 

どうにか壁を壊せないか試そうとする。だが、結晶が分厚すぎるのかいくら壊そうが元の場所には戻れそうにない。

破壊するのを諦めて、しばらく通信が戻っていたのを確認していたので通信機で連絡できないか試す。こちらも今はノイズが響くばかりで一向に繋がらない。

「……私の父さんだよ。きっと…連れ戻したいんだ」

通信機をしまい彼女に視線を戻すと、今は言うべきだと思ったのか素直に言った。

そのまま何も言わずにいると、彼女は結晶の破片を拾うと悲しげな表情を浮かべている。そんな彼女に声をかけようとした瞬間、私の後ろで声が響く。

「どうやら、娘が懐いているのは君らしい。はじめまして、と言うべきかな?」

聞こえてきた穏やかな声とは相反して背筋を貫く寒気は見えない敵意を感じさせる。

振り向きざまに蹴りを叩き込もうとする。三十代くらいの男は平然とそれを防ぐとヴィランとは思えない穏やかな笑みを浮かべていた。

私の足を掴んだまま、左腕に結晶を纏わせるとそのまま左腕を私の腹部に向けて振り抜く。

男の雰囲気とは裏腹にその一撃は異常に重く、一発で意識が薄れそうになった。そのまま大きく吹き飛ばされて結晶の壁へ叩きつけられる。

「…なるほど。これは確かに、私が脱獄させた男が足を止めたのも頷ける」

立ちあがろうとすると殴られた箇所が痛み、その傷から出た血は地面に落ちる前に結晶化して小さな落下音を立てる。

軽く血を吐きながらもどうにか立ち上がろうとした時、男は私の蹴りを受け止めた右腕を軽く撫でていた。

男の着ていたスーツが破れて、受け止めた箇所には赤い擦り傷が出来ていた。

決して効いていない訳ではない、それは小さな希望に思えたがそれもすぐに新たな結晶により儚く散ってしまう。

足元に落ちた結晶が伸びて槍のように私の眼前に迫ってくる。どうにか体を捩って回避するが、後ろの壁から突き出てきた結晶に背後から突き飛ばされる。

立て続けに現れる結晶の攻撃に翻弄され、そのまま地に伏せられてしまう。

それでも、恐怖で足が竦んでいる化移のところへ行くために立ちあがろうとすると男から思わぬ発言が飛び出した。

「…君は良いな。せっかくだ、話でもしよう」

「これだけ、しておいて、話…?」

敵意さえも消え去った状態で言ったせいか、全身を襲う痛みの中でも真っ先に呆れというべき感情が顔を出してくる。

なんとか声を絞り出すと、男は肩を竦めながら言う。

「私を追ってくるヒーローは皆、殺される前にも諦めずにいたが…君は、そうだな。まだ強さこそ途中経過の中にあってもその意思はプロにも劣らないようだ」

「先生に褒められる方が、良いんだけど…」

男の言葉には嘘偽りを感じれず、緊迫した状況でありながらもついそんな言葉が出てしまう。

私の言葉を気にも止めず、自らの言葉を続けた。

「それに、君は化移が懐いているからね。知る権利がある」

そこまで言うと、彼は私の近くまで来るとわざと結晶を椅子のようにして真横に座る。

まるで、この距離でも私の攻撃は捌けるというように。それが見え透いていたので素直に化移を守るように立ち位置を整えると満足したように話し始めた。

「化移は元々無個性でね、それでもヒーローへの憧れをずっと持っていた…。だから、どうにか出来ないかと難儀したんだ」

男の口からその話を聞くと、確かに違和感を感じていたことを思いだす。

元からこの個性があるのなら、わざわざサポートアイテムを使わずとも制御出来ているはずだ。

だが、彼女はサポートアイテムで可視化しなければならないほど個性を扱いきれていない…正確には慣れていないようだった。

その理由は言うまでもなく、一つしか思いつかない。

「……どうやら気付いていたようだね。そう、与えたんだ。個性を生み出して」

「それが何を意味するか、貴方は分かって-」

私の答えを予見していたように男は再び話を続ける。

「そうだね、君の言わんとする通り…これはかつての巨悪。君達の世代にも語り継がれている、あのAFOを思い出すだろう、だが勘違いはしないでほしいな。私は娘のために-」

AFOの名前が出た瞬間、抑えていた感情が溢れ出し激情を含んだ言葉として出てしまう。

下手に反抗すれば殺される、無事では済まないと分かっていながら我慢することが出来なかった。

「それが、どれだけ彼女を苦しめてるのかわからないの⁉︎無条件に人を傷つけ、他者を寄せ付けない障害になって…っ…」

腹部の痛みに耐えきれず、言い終える前に膝をついてしまう。

化移が心配するように私に寄り添ってくれる。同時に、男の眼前に鉄塊を突きつけていた。

彼は目の前の鉄塊の鋭く尖った先端部に怯むこともなく、彼女の言葉を待っている。

娘の意思も聞くべきだと態度で示すように。

「…これ以上、みんなを傷つけないで。私を恐れないでいてくれた、大切な友達なんだ」

痛みによって、彼が彼女の返答に何かを垣間見たのかまでは分からなかった。

だが、続いた言葉を聞く限り何かを悟ったような声色ではあったようだ。

「…娘の成長が見えるのは、嬉しいものだ。それを見れたのがこんな状況でなければ、もっと嬉しかったのだろうね」

言葉が終わると、突きつけられていた鉄塊が背後から湧き出した結晶に動きを封じられる。

そして、男は化移を連れて帰ろうと彼女へ腕を伸ばす。力を振り絞り、なんとか割り込もうとするが足が動かない。

そのまま連れ戻されるのを黙って見ているしかないように思ったが、それは予想外の乱入者により食い止められた。

炎が結晶を溶かして、彼女に伸ばされた手を直撃したのだ。

目に入りかけた血を、溶けた結晶の隙間から入ってきた華奈のハンカチで拭われながら私を見ていた晴天が思うところがあるかのように言う。

「……後で知ってること、全員にじゃなくても話してくれよ。独断で動くのは構わねえが…それで死なれちゃ目覚めが悪いんだ。龍女さん」

「……助けられたし、それくらいは良いけど…まずは相澤先生を通すから」

華奈に支えられて立ち上がりながら、そう簡単に話せることではない事を相澤先生の名前で悟らせると、それを感じ取ったように軽く肩を竦めていた。

緊迫した空気が僅かに和らぐが、それは妨害された男の静かだが初めて怒りの混じった声色の言葉によって再び空気が冷たくなっていく。

「…今日は随分と妨害が多いことだ。仕方ない、多少強引に連れ戻させてもらおうか」

鉄塊を取り戻した事でまだ戦える化移と晴天、合流したテイルマンが身構えると同時に結晶の壁から複数の棘が植物の蔓のように蠢きながら生え始める。

そして、一息おくこともなく放たれて三人へ襲い掛かろうとする。

「お前は今すぐ退け!狙われてるのはお前なんだろ…!」

撤退する時間を稼ごうと二人が奮戦する中で、化移も自ら結晶の棘が飛び交う場所から離れようとせず戦っていた。

晴天が捌きながら声を上げるが、彼女にも退けない理由があるのだろう。彼女の表情を見て説得し諦めた晴天がその時に見たのは背後から迫る結晶だった。

迎撃のために炎を放てば彼女を巻き込んでしまう。だが無視をすれば、相手の思う通りになる。

彼の思考が止まりかけた途端、聞き馴染みのある。それでいて最も頼りになる人の声が戦場を切り裂いた。

「良かった、間に合った…!」

ニュース、そしてあの日に間近で見たアーマーを見に纏い、個性がなくてもヒーローとして戦う緑谷先生…デクが化移を背後から狙う結晶を破壊して彼女を救い出した。

デクを見た彼女の目に明るさが戻り、男にも嫌悪が垣間見えるような表情が宿る。

そして、動きが止まった男を見据えながらデクはテイルマンに視線で指示を出す。言いたいことが分かったかのようにテイルマンは即座に男に向かい飛びかかり拘束しようとする。

彼も逃がさないと言わんばかりに腕部のアーマーからワイヤーを射出して男を狙う。

だが、動きを止めていた結晶の棘が男を守るように取り囲み、尻尾による打撃とワイヤーを防ぐ。

棘に守られながら撤退する男が撤退する間際に残した言葉には、深い恨み…そして私に向いた微かな親としての情が垣間見えた。

「ちっ…次は必ず連れて帰る、それまで元気でいて下さい。化移、そして…私が認めた娘の友人さん」

男の姿が消えると共に、結晶の人型と各ゾーンを覆っていた結晶は消えて小さな破片となった後に砕けた。

欠片となって砕けていく破砕音と、最後の言葉によって残された不気味な余韻と共に初めてのヴィランとの戦闘は幕を閉じた。

 

 

その後、USJ内に残された結晶は居合わせたプロヒーローが回収、後で緑谷先生や尾白さんが教えてくれた男、血染晶山-ヴィラン名ブラッドクリス-を追うための手がかりとして使われるそうだ。

負傷者は重症者の私を除けば、数人で済んでいたようで、その日のホームルームではヴィランの襲撃に遭いながらも全員がいるという奇跡と言いたくなるような光景が見えていた。

ホームルームも終わり、帰ろうとした矢先に緑谷先生から呼ばれ職員室へ向かう事になった。

そこにいたのは、化移本人、そして事前に事情を知らされていた透と凍歌。

最後の戦闘の時に一緒にいた華奈と晴天が待機していた。

私が合流すると、相澤先生が教頭先生と目を合わせて頷いてから話し始めた。

「今回の襲撃は、勿論だが…事前に想定がされていなかった。よく各々で団結して耐えられた、合理的な判断が下せるのは悪くない。だが…」

当然というべきか、私に向いたのは非合理的だと言わんばかりの相澤先生の視線だ。

それを改めて自覚して小さくなりそうになったが、出てきたのは想定外の言葉だった。

「君が守る選択を取らなければ、あのまま連れ去られて緑谷も救出が間に合わなかった。自分の負傷を顧みなかったのは非合理的だが、その判断は良かった」

彼の言葉に安堵感を覚えたのは私だけではないようで、緑谷先生も安心しているようだった。

だがその安堵も見抜いていたように、きちんと釘も刺されてしまう。

「だが、今回は状況が状況だったから見過ごしてもらえた事は忘れないように。君はどこか、昔緑谷と似た危うさがあるからな」

「…忘れないようにしておきます」

私の返答に頷いた後に、後ろにいた緑谷先生が思い出したかのように聞いた。

「今回の襲撃が起きた以上、この事件を隠しておくことは難しいと思います。どうするんですか?相澤先生、オールマイト」

二人もそこは頭を悩ませているのか、しばらく無言の時間が続いた。

その静寂を破ったのは、教頭先生でも相澤先生でもなく、その事件の話で雄英を訪れていた公安に勤めている元ヒーローのホークスさんだった。

「緑谷君の心配も最もです。ですが、これに関しては…一部の生徒に知らせることになりました。実際に直面してしまった以上は隠し通せませんからね」

ホークスさんの言う通り、事情を知っていた私達以外も今回の襲撃であの結晶を己の目で見てしまった。そうである以上、すでに隠し通せないのも事実だ。

「というわけで…二人はこっちに来てもらえるかな?知ってる三人と本人は他に話し合わないといけない事があるから」

そんなわけで、晴天と華奈さんはホークスから話を聞くために別室へと移動した。

二人が行くのを見届けてから、今度は教頭先生が口を開いた。

「それで、化移ちゃんの預け先だが…やはり一般家庭では狙われるリスクがあると判断が下り雄英の寮で過ごすことになったんだ。そこならプロヒーローや教師がすぐに駆けつけられるからね」

「…ところで、寮には何人入ることになるんですか?そこが重要だと思われるのですが」

今まで静かに聞いていた凍歌が、そこが気に掛かっていたようでようやく口を開く。

すると、どうしてか教頭先生と緑谷先生、相澤先生までも苦笑に近い表情になり始めた。

どういうことなのか全く分からなかったが、緑谷先生の言葉でその意味がわかった。

「それが…寮希望を出してなかった人も、襲撃のせいなのか夕方のホームルームで出したから全員寮入りになったんだよ」

 

一週間後

-ハイツアライアンス前-

 

「久しぶりにこんなに大きい荷物持ったな…」

普段なら夕方のホームルームが終わったらそのまま駅に向かっていたが、今日はそうも行かなかった。学生寮の準備が整ったので、今日からは寮入りということになったからだ。

雄英に通い始めてからは体操服を含めてもそこまで鞄が大きくなかったこと、襲撃から一週間が経った今も完治とはいかないのかまだ痛みが残っているため、持っているだけでもそれなりに負荷がかかっていた。

流石に抜け駆けは良くないかと思い、荷物を横に置いて玄関の側で待っていると私の荷物とと同じくらいの大きさのスーツケースを持っていた凍歌と彼女の半分くらいの大きさの鞄を持っている透がやってきた。

二人に気付いて手を振ると、あちらもこちらに気付いて軽く手を振り返してくれた。

「やっぱり、多くなる物なんだな。俺はそんなになかったが」

透が私達の荷物を見てそう言うと、若干呆れながらも凍歌がすぐに返す。

「私と龍子に関しては、個性の影響もあるからな…。必然的に多くなるんだ」

そうだろう?と言うように視線を向けてきたので、同調するように頷く。彼も納得したように‘なるほど,と呟いてから、これから入る寮を見上げる。

これほど大きな寮は経験したことがなく揃って驚いていたが、後から合流した切子は慣れているような目で見上げながら言った。

「警察寮を見たことはあるが、基本的にはこれくらいだ。まぁ…学生寮でこの大きさというのは初めて見たがな」

彼女なら寮に関しては知っているだろうからそこまで驚かないだろうと予想はしていたので、落ち着いて切子を見ていると慎重に彼女が口を開いた。

それはそうだろう、あの襲撃後のことだったから。

「…あれから、晴天や華奈と話したか?普段通りのようには見えたが、そうではないだろう」

切子の言う通り、あれ以来二人の様子は普段通りではあったが何処か考えているように見えたからだ。

透も思い当たることがあるのか、間を空けて答える。

「晴天は、理解はしてるが考える時間が欲しいんだろうな。華奈は…お前らの方が分かるだろ」

「…彼女も分かってはくれたのだろう。だが、やはり背負っていた物がプロヒーローが絡む物だとは思ってはいなかった。もう少し時間が必要だ」

凍歌の言葉を聞いてから、私も口を開く。

自分だけ聞かされていないというのに、妙に落ち着きすぎているような気がしたから。

「切子は気にしてないんだね。一番、話されていないことを気にするかと思ってた」

私の言葉を聞いて、言い出すべきか悩むように時間が空くが、わだかまりが悪いものしか生まないことをよく知っているのか素直に話してくれた。

「…調べたんだ、赤い結晶について。先生達には秘密裏にな。それで理解したんだ、姉さん達が話さないでいることに」

彼女が気にしない理由を語るのに、ただそれだけで十分だった。

ヒーローの家から離れて警察官と共に育ったことで、秘密を背負うことがどれだけ重く苦しいことかよく知っているから何も言わずに受け入れてくれた。

そう思うと、すごく嬉しく思えた。つい流れかけた涙を拭った後に顔を上げると、化移と一緒に来る華奈と少し離れたところで歩いている晴天がいた。

化移が近くまで来ると、怪我の後遺症を心配していたのかすぐに私の腹部に触れる。

落ち着かせるために彼女の頭を撫でると、最近はちゃんと話していなかった華奈から話しかけられた。

「聞いた日から、ずっと考えていたんです。どう受け止めればいいか…正直に言えば、今も分かっていません。それでも…私に出来ることがあれば私もやります!」

華奈が言ってくれた言葉には、事実から目を逸らさない決意と覚悟に満ちていた。

言いたいことを言われてしまったからか、晴天はしばらく頭を悩ませていたが間を空けて言葉を続ける。

「…疑ってて悪かったな。お前らだけがあそこまで知ってた上で連れているように思ってた。今はそう思ってねえよ」

あの時の晴天は、どこか疑念を持っているような視線を向けていた。

だけど、今は私達を信じて認めてくれている。隣にいた透と凍歌へ視線を向ける。

気持ちは同じなようでしっかりと頷いて、理解してくれた切子、華奈、晴天へと視線を戻す。

「ありがとう、皆。これからも--」

こういう時には、しっかりした一言で締めた方がいいと思い最後の言葉を言おうとしたところで待っていたというように寮の玄関に向かう暗斗に通りすがりに肩を叩かれた。

きちんと締めようとしたタイミングで叩かれたので視線をそちらに持っていくと、普段の彼女らしい笑顔を見せていた。

「湿っぽいのは、龍子らしくないって。いつも通り、その猫ちゃんと一緒に明るくいた方がいいよ!」

「猫--ちょっと待って、暗-」

私が引き止めるよりも早く、彼女は扉を開けるとスーツケース片手に割り当てられた自分の部屋へ向かう。

猫と呼ばれたことを気にしないか視線を向けると、化移は気に留めていないようでむしろ前よりもくっついているように思えた。

そんな風景に全員が穏やかな笑みを浮かべてから、それぞれの荷物を取りにいく。

全員が各々の荷物を持ったところで、寮内へ入っていく他のクラスメイトの後ろに向かいながら六人へ聞こえるように言う。

 

「それじゃあ、行こう。新しい生活の始まりだ」




作者の仮想人格さんです。
今回は新規キャラは少なめですがその人についてや今後について触れていきます。

血染 晶山(ちぞめしょうせん)/ブラッドクリス
元々は名の知れた名医であり、多くの人の命を救ってきた。
妻が出来て、娘も生まれたことでより幸せな生活になると思っていた。
娘が無個性で生まれたことを知ったが、最初はそこまで気にしていなかった。
だが、娘が成長して小学生、中学生と成長していく度に個性を持った子供と比べられる現実を知り愛娘に個性を与えられないかと思うようになっていった。
そんな中、とある資料を見てしまい個性を複製、生み出す技術があると知ったその時から優しかった父親は個性の研究に没頭してしまい、医者としての仕事さえ疎かになっていった。
その姿を見ていられず、妻はどうにか晶山を止めようとしたが妻の気持ちも届かず、娘を連れて何処かへ姿を消していた。

個性:血晶
血を媒介に赤黒い結晶を生み出す。
自身の血液だけではなく相手の血を結晶に変化、己の武器として使うこともできる。
使用できる血の量が多ければ多いほど、広範囲展開や広域殲滅が可能になる。



こんばんは、この物語で入学、USJ編は終わりです。
次からはついに体育祭編へと入ります。ここまで積み上げたもので次からも面白い物が書けるように楽しみながらやっていきますので、これからもご愛読して頂けると嬉しいです。
では、今回はここで失礼します。また次回の後書きでお会いしましょう。
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