この度、八話目の公開となります。ここまでやれたのは、皆さんのご愛読のおかげです。
今回もお楽しみください。
寮の中に入り、自分に割り振れられた部屋へ向かう。
切子はそこまで驚いていなかったが、私からすればこれほど大きな寮は初めてだ。
廊下を見廻しながら歩いていると目的地である部屋についた。
これからは私の部屋だというのに妙に緊張してしまう。深呼吸をして息を整える、そして扉に手をかけて一気に開けると学生には広すぎるのではと思ってしまうような部屋が視界に入る。
その内慣れるよねと思いながら部屋に足を踏み入れると、なぜか化移が先に私に割り振られた部屋にいた。
「…化移は個別の部屋じゃないんだね?」
荷物を一度ベッドの上に置いて、先にいた彼女に聞くと嬉しそうに答える。
「下手に一人にしたら狙われる可能性があるからって、緑谷先生が部屋割の時にかけあってくれたの。それで、一番慣れてる龍子の部屋を共同で使うことになったんだ」
彼女の話を聞いて、疑問に思っていた部分が全て腑に落ちた。
二人でいたことが原因とは断定して言えない以上は、誰かがそばに居ることが当然だ。
そして、彼女が最も信頼している相手となれば選ばれるのが私であっても決して違和感はない。
聞いたことに納得してから、猫のような様子で窓から見える校舎を眺めている化移に声を掛けた。
「とりあえず、まずは荷物の整理しようか。バッグのままだと大変だから」
そして、お互いに準備しておいた私服に着替えて、部屋のクローゼットに脱いだ制服をかけてから荷物を整理し始めた。
その結果、広すぎると思っていた部屋は二人で過ごすのにちょうど良いくらいの広さになった。
整理を終えて、何をするか悩んでいたところで扉をノックする音が聞こえる。
すぐに扉の方へ向かい開けると、私服に着替えている切子が様子を見にきてくれた。彼女曰く、こうした寮生活が私は初めてなのは知っているので心配だったらしい。
化移の様子を見にくるのも兼ねてそのまま私の部屋の中に入ると、しばらく彼女の様子を見てくれた。
その間、久しぶりに切子が気を緩める姿を見ることが出来た気がした。
「…こうして二人でいるのも久しぶりだな、姉さん。お互い、長い間離れていたから」
「そうだね、本当に長い間離れてた…」
少し間を空けて彼女の隣に座る。こうして姉妹水入らずの時間を過ごすのは、養子に出されたあの日からずっと出来なかったから。
そうしていると、いつの間にか入ってきた時よりも気を緩めていたのか…切子が私の肩に寄りかかるようにしている。
彼女の肩に手を回して、もう少し寄せるようにする。切子は少し驚いていたが離れようとはせずにそのまま休んでいた。
しばらくそうしていると、いつの間にか化移が私の膝の上に座っていた。
突然の行動に頭の上に疑問符がつきそうになったが、彼女の満足気な表情を見る限り、こうして近い距離に居たいのだろう。
だが…どうしてだろうか。その表情を見ていると晶山に連れ去られかけたあの時の、怯えながらもこちらに助けを求めるような表情を思い出してしまう。
不意に頭痛に襲われて空いている手で頭を抑えると、二人が心配そうな表情を浮かべてこちらを見ていた。
「大丈夫、なんでもない」
私の言葉に安心したのか、二人の表情は元に戻るが私の中には一つの決心が出来ていた。
(必ず強くなる。もう、あんな表情にはさせない為に)
少しの間目を閉じて、心の中でそう呟いた後に目を開けると微笑ましい光景を邪魔してはいけないと言うように笑顔でこちらを見ている華奈の姿が見えた。
その後、私と切子は慌てて体勢を戻すと部屋に来ていた華奈へ必死に説明をしていた。
その間、化移はなぜ説明する必要があるのか分からないというような表情を浮かべて私の横に静かに座っていた。
--ハイツアライアンス 凍歌の部屋--
荷物の整理を終えて、ベッドに横になる。
普段ならこの時点である程度気が休まるのだが、今日はどうにも落ち着かない。
記憶から原因を探ろうと目を閉じると、すぐにその原因は特定出来た。
-襲撃の起きた日 水難ゾーン-
海の上に落ちていた赤黒い結晶は急速に水面を覆い尽くし、そこから人型の結晶が次々と湧いて出てくる。
突然発生した光景に、私達は呆気に取られていたが驚く隙もなく起きた次の場面は想像もしていなかった。
三十代くらいの男が、私の背後に立つとそのまま私を観察していた。
咄嗟に攻撃しようとする絡墨と海月を押し留めてそのまま男と向き合う。一言も発していないというのに、彼からは足が動かないほどの圧を感じていた。
どうにか怯まないようにしていると、男はようやく言葉を発した。
「…なるほど。確かに、私が興味を示すと判断するのも頷ける。だが…この子でもないな」
「……何が言いたい」
男の発した言葉への疑念に、つい質問をしてしまう。攻撃対象になると思い構えそうになるが、なぜか攻撃しようとはせず素直に質問へ答えてきた。
「私の娘に会いに来たんだ。どうやら、君達の中の誰かに懐いているようでね」
男の言葉に、化移を連れて行動している龍子の姿が脳裏をよぎる。
言ってはいけないと本能的に感じて、特定されないようにぼやかして彼を見て答えた。
「…誰だろうな。勘違いではないか?」
私の言葉を聞くと、彼の表情が微かに変化する。思い違いだったのだろうかと思案する表情にこちらからは見えた。
その間に通信機を作動させようとする念波へ、視線でもう少し耐えるように伝える。
考えるのを終えた彼は、娘を見つけたのか結晶をゲートへと変えてそこへ向かおうとした。
行かせまいと氷の棘を放つが、それはゲートの端から飛び出した結晶に阻まれる。
そして、入る直前に意味のわからない言葉を残してその場から消えた。
「君とは、また会うことになりそうだ。しっかり鍛錬を積んでおくと良い」
その後、結晶の人型に襲われることはなく、しばらく経ってからそのまま救援に来たプロヒーローと水難ゾーンを後にした-。
一連の出来事が昨日のことのように再生され、ベッドから飛び起きる。
息を荒くしたまま首元に触れる。冷や汗をかいていたのか、汗が指先を伝い湿らせていく。
寒気に襲われて上着を羽織ると、ちょうど部屋の扉をノックする音が聞こえた。
扉を開けると同じくあの場にいた念波と、その話を聞いたであろう透が扉の前で待っていた。
「…入っても問題ない、どうした」
私の言葉を聞いてから部屋に入った二人の顔は、気を遣うような、それでいて私の不安を見抜いているようだ。
しばらくして、念波が慎重に口を開く。
「…あの日のことは私も覚えています。まるで、元から私達ではないと分かった上で凍歌さんに話しかけていたので」
彼女のいう通り、あの男-血染晶山-は最初から私にのみ話しかけているように思えた。
絡墨、海月、念波をいることも気にしていないようにも取れたあの行動には、不気味ささえ覚えていた。
そして、目的である化移と龍子を見つけた途端にすぐに移動する手慣れているようなやり方。
それが何を意味するのか、嫌な憶測が脳裏に浮かび上がると共有でもされているかのように透が答える。
「元から目的は化移。龍子に関しては品定め…あの日はそう思う方がいいのかもな」
透の言葉は間違いない事実だ。聞いた限りでは、化移を捉える直前に複数の生徒による妨害、そしてプロヒーローの集結を見て撤退しているとなれば。
だが、だからこそ分からない。
私達が妨害をするとわかっていれば殺害しようとするはず、決してそれは行わずに、二人を探して品定めさえする余裕もあった。
二人が言葉にする前に、小さな声でその憶測を呟く。
「…彼は、純粋なヴィランと言うには何かが違う気がする」
私の呟いた言葉に透が何か言おうとしたが、流石にプロヒーローを通すべきだと判断して言葉を飲み込む。そして、それは念波も気付いていたのか同意するように言った。
「あの人からは純粋な悪意ではなく…親の情にも近い感情が流れて来ました。それ以上は、探ろうとする前にあの場所を去ってしまいわかりませんでした」
彼女の推測には納得がいく。あの日の重症者は直接相対した龍子のみ、後はかすり傷程度の軽傷ばかり。
不要な殺害を好ましく思わないのもそれなら道理が通る。
そこに関して透が何か言おうとしたが、その前に扉がノックされた。
「…流石にここからは、緑谷先生や相澤先生がいる時だな」
透の言葉に頷いて、私達は部屋から出て鎖状さんを中心に作られた夕食を食べに行った。
その日の夕食は大きく盛り上がり、各々に初日の夜を楽しんでから部屋に戻りその日は終わった。
-翌日 ホームルーム-
今日は何か大事な報告があるようで、教卓についた緑谷先生の手元には連絡簿の中に追加で紙が挟まっていた。
その紙に全員が気付いているようで、皆がざわついている。
隣の華奈さんも興味があるようで小さな声で私の方を見て聞いてきた。
「何かあったんでしょうか…?USJのことで」
「さぁ…あったとしてもわざわざ話すかな?」
仮に説明があったとしても、そういう情報は機密事項である以上ここでは話さないと分かっていたのでそのまま静かに待っていると騒ぐ要因になるのも無理がない事だった。
「USJの事件のことがあって会議はあったけど、今年も例年通り雄英体育祭は行われることになったんだ」
緑谷先生のその一言で、ホームルームの中の空気が一気に明るい方へ変わっていく。
一部の生徒が声を上げそうになる中で、冷静さを保っていた剣聖が手を上げる。
緑谷先生が頷いたのを見てから、立ち上がって質問をした。彼の中でもあの日の事件が記憶に残っているのだろう。
「USJのような密閉された建物の中でもあの事態が起きたのなら、外でやるのは危険すぎると思うんです」
当然の質問であり、ホームルームが静まると先生の言葉を待つように静寂が続く。
そのまま切迫した空気が続くと思われたが、その質問を想定していたようで明るい声色で先生が空気を戻すように伝える。
「もちろん、そこは会議の中でも言われていたよ。だけど、生徒がプロヒーローのスカウトを受けるチャンスを無くす訳にはいかないという事になったから」
質問をした剣聖、そして疑問を持っていた生徒の表情から浮かんでいた不安は消えていく。
教室の中が落ち着いたのを確認して、緑谷先生が連絡簿を閉じて説明を続ける。
「今年の雄英体育祭の開催は二週間後、それまでは各各で準備を忘れないようにね。じゃあ、今日のホームルームはここまで」
言い終えた後、緑谷先生は教室を出ていく。その際、私と凍歌、透にだけ分かるように話があると目線で伝えられた。
二人に目線を合わせて頷いてから教室を出ると、華奈と切子、晴天に後で伝えてくれと言うように見られる。手でオーケーと合図をして指定された職員室の隣の部屋に向かう。
緑谷先生が来るのを待つ間に、透からあの日のことについて言われた。
「…それにしても。お前、よく独断で動いたのにこれで済んだよな」
透の言う通りだ。あの時、本来ならまずプロヒーローへ連絡すべきだったのが事実。
だけど、状況が状況だったのもありそのまま彼女を守らざるを得なくなってしまった。
そこを緑谷先生や相澤先生が考慮してくれたのだろう、だからこそ、この程度で済んだと私は思っている。
しかし、凍歌は別の心配があるのか間を空けて透に続く。
「だが、問題は別にあるだろう。奴の狙いが化移だけではなくなった。…言いたいことはわかるだろう」
「…分かってるよ。だから-」
凍歌の問いに答えようとする直前で、部屋に入ってきた緑谷先生が代わりに答えてくれた。
「そこはあの日の襲撃で僕らも把握しているよ。だから、化移ちゃんは観戦してもらうことになったんだ。参加出来なくても、見るだけで学べることもあるからね」
私の言おうとしたことを言ってくれた後に、机を挟んで私達の前に座る。
先生の言葉に、ようやく安堵出来たからか大きな溜息が出てしまった。
私の気持ちを案じているのか、しばらくは何も言わない時間が出来た。しばらくして、私の方を見てこれからのことについて話してくれた。
「龍子さんに関してなんだけど、体育祭に関してはそのまま参加してくれて大丈夫。あの日、プロヒーローが来るまで守ってくれた事実と素質に僕らも助けられたから」
凍歌もそこが気になっていたのか、私の処遇について知ると安堵していた。
そんな空気の中で、透だけは俯瞰視点を崩さずにいたのかすぐに先生に聞いた。
「何もないって訳じゃないでしょう。本来は、プロヒーローの解決すべき事案に首を突っ込んだのと同じなんですから」
彼の言い分が正しいからか、緑谷先生は苦い顔をしていたけどすぐに答える。
「そうだね…本来ならそうなんだけど。あの日は特例で、その上で尾白くんも評価してたから僕らの判断だけではなくなったんだ」
先生の説明に、彼もこれ以上は言うこともないのか前のめりになっていた姿勢を元に戻す。
そのまま変わってしまった空気に終始無言が続いていたが、これは先生に言わせるべきではないと思い私から口を開く。
「…次は、必ずプロヒーローや相澤先生に連絡します。今の私では、守りきれないですから」
私がそこをわかっていると知ると、彼の表情に優しい雰囲気が戻る。
「でも、あの日の経験は忘れないで。襲撃にあった一年生は、本当に久しぶりだから」
「それって…」
私達はよく知っている。その言葉が指す一年生は他の誰でもない、私達の目の前にいる-。
名前を言いそうになる直前、職員室の前でざわめきが聞こえる。
全員がそれに気付いて、話を切り上げて部屋を出ると廊下が生徒で覆われていたのだ。
呆気に取られていると後ろから来た相澤先生が廊下の生徒へ伝え始める。
「なに集まってんだ、お前ら。そろそろ帰る時間だぞ」
そう言われて集まっていた生徒達が散っていく中で、相澤先生が私を見ていた。
そして、緑谷先生に言われたことへ追加で伝えておくように伝える。
「君は、どこか昔の緑谷を思わせるところがある。その素質は、良い方向に使うようにな」
相澤先生の静かな激励を受けて、言葉ではなく彼の方を見て一度頷いてから職員室を後にする。
透と凍歌も言いたいことはありそうだったが、二人とも何も言わずにそのまま体育館に向かっての移動を再開した。
※
それからは、USJの時以上に大変な日々になった。
1日の授業が終わった後には放課後の自主トレーニング、休校の日には寮の周辺での訓練に各々が取り組む日々が続いていた。
そんな日が続き、雄英体育祭前日の夕方になったある日、偶然か必然か…異様な出会いに見舞われることになった。
-ハイツアライアンスへの帰路に着いている途中-
「普通、こういうのって終わってからしない…?」
壊刃が体育祭前日という事で英気を養うべきと言い出して、一部の生徒がそれに賛成したことでその日の夕食は初日のように集まって食べることになったのだが…偶然にも、私と剣聖が料理担当の日であった。
全員分の量ということもあり、両腕が痺れそうになりながら呟くと剣聖も同じことを思っていたのか苦笑しながら答える。
「あいつの言いたいことは分かるんだけどな…。これだけ盛り上がるの普通は終わったあとなんだよ、本当は」
同意するように頷いていると、代わりに荷物を持ってくれた化移だけは楽しみそうにしていた。
このような明るい時間が少なかったのだろうか…などと思っていると、前からくる男性に気付かずぶつかってしまった。
すぐに謝ろうと男性の顔を見上げると、出そうとした言葉が喉に引っかかり息が詰まりそうになってしまう。
それもそうだ。髪色は黒で染められてぱっと見は別人だが、醸し出していた雰囲気は、USJで対面したあの男と全く同じものだったからだ。
「こちらこそすいません。私も考え事をしていたせいで、気付けませんでした」
向こうから謝罪してくれたものの、お互いに相手が誰か気付いているのか、静かながらも一歩も引かない状態が続いていた。
そのまま無言の時間が続いたが、しばらくして男性の方から口を開く。
「すいません、少し彼女とお話しをしたいのですが良いでしょうか?」
その言葉に剣聖も違和感を持ったのか、少し黙ったが争うわけではないと分かると静かに頷いた。
「分かりました、みんなには少し遅れると話しておきます」
私の分の荷物を受け取って、彼はそのまま見えていた学生寮の方へ向かう。
その際に一度振り向いた時の彼の目には、何かあればすぐに連絡しろという目による指示が浮かんでいた。
剣聖の姿が見えなくなったのを見てから、晶山は近くにあったカフェを指した。
「立ち話もあれだろう?あそこに行かないか」
「…そうですね。行きましょうか」
提案を呑んで指定したカフェの方へ向かう。その間、化移の表情は幸せそうな表情は一切なくなり、私の服の袖をしっかり掴んでいた。
カフェに入る際に店員の人から見れば親子に見えたのだろう。
親子で来られたんですね、と声を掛けられると晶山が明るく返していた。まるで、久しぶりに親子の時間を持てた父親のような声色であった。
そのまま奥側の席へ向かい、化移の隣へ座る。
対面するように座った彼からはあの日のような敵意は少しもなく、むしろこの時間を楽しんでいるようだ。
「……どうして、あの日に私を仕留めなかったの。貴方の個性なら、それも容易かったはず」
包み隠さずにあの日のことを私が問いかけると、彼は言い淀むこともなく流暢に返す。
「私から見れば、君は娘の大切な人というだけじゃないからね。彼女の新しい姉さんに相応しいか試したんだ」
「……姉さん…?一体どういう-」
私が答えるよりも早く、彼は身につけていたペンダントを取る。そしてペンダントを開けて中を見せてくれた。
そこには、幼い頃の化移と長い黒髪を結っている女の子が写った写真が収められている。
その写真を見て、先程の言葉の意味が遅れて理解出来た。同時に、問わずにはいられない気持ちも腹の底から湧き上がってきた。
「……私に、姉さん…?どういうこと…」
私が問いかける前に、化移が動揺を隠せず震えてながら呟いていた。
彼女の様子を見て、申し訳なさのあるような顔になりながらも間を空けて晶山が続ける。
「…君が小学生になる前に、事故に遭ってしまってね。そのまま…」
彼の言葉が終わるよりも早く、化移の顔にはこれまで見たことのない表情を浮かびあがる。
信じられないという代わりに、私の服を掴む手には汗が滲み力が籠っているのか不規則に震えていた。
彼女を宥めるように抱き寄せながら、晶山へ問いかける。
ただ問いかけるのでは足りない、奴が至った答えを聞き出さなければならない。
「……お前から見て、私はどうなんだ。試した結果は?」
私の低くなった声での問いかけに、さっきまで纏っていた親しげな雰囲気が消えて対面した時の空気へ変わっていく。
気圧されないようにしっかり震える化移を抱き寄せていると、予想だにしない答えが返ってきた。
「…合格だ、もし、僕が行き過ぎた行動に出た時には。…殺してでも止めてくれるかな?」
「……晶山、貴方の-」
貴方の罪は死んで拭える物じゃない-そう言おうとした。
だが言葉が出る直前、店員が頼んでいたコーヒーを置いた音に中断され、それを言葉にすることは出来なかった。
そのまま、重たい空気の漂う中で出されたコーヒーを飲み終えてカフェを後にした。
支払いはすでに彼が済ませていたようでそのまま寮へと戻っていく。その間、私が背負った物が増えてしまったことを化移の手を引きながら心の中で噛み締めていた。
-ハイツアライアンス 自室-
それからしばらく遅れて寮に帰り、料理を済ませたが、気分は晴れず盛り上がっている中には入らずにそのまま自室へと戻っていた。
それは化移も同じだったようで、私の側から離れようとは少しもしていない。
無理もない、自身に姉がいて物心作る前に亡くなっていたなど…幼い彼女が背負える大きさではないのだから。
そうして彼女を宥めていると、扉をノックする音が聞こえた。
凍歌だろうと思いすぐに入っていいと言うと、入ってきたのは凍歌ではなく方陣だった。
彼女からコンタクトを取ってくることは授業中くらいしかなかったのでしばらく呆然としていると、彼女から口を開く。
「剣聖から聞いたわ。帰る前、あの男に会ったんでしょ?」
あの後の会話を思い出し、無言で頷くと察したように間を空けてから続ける。
「…あなた、背負いすぎなのよ。機密情報っていうのは知ってる。けど、それ以外のことまで背負ってたら保たなくなるだけ」
「…そうだね」
彼女の言い分は正しい。学生の身で機密情報を背負うだけでも重たいのに、そこに家族の秘密とヴィランになってしまった人間の懺悔と悲願まで追加されれば…いつまで保てるかは私にも分からない。
それを承知しているのだろう、法陣が手に持っていたカップを盆の上に置いて真剣な眼差しで見つめてくる。
そして、宣戦布告でもあり私に必要な物を教えようとせんばかりに言い放った。
「…そんな貴女に勝っても、私のプライドが許さないの。明日は、背負ったもの全部捨て置くつもりで全力でやりなさい、龍子。私の全力であんたを打ち負かす」
その言葉に、私の中に出来かけていた硬化しかけていた精神が止まる。
そして、今やるべきことがなんなのか、多くの重積に埋もれていた中から一筋の光となって突き抜けてきて目の前で光だす。
「……当たり前だよ。誰が相手でも、全力で打ち負かしていく」
突き出されていた拳へ自分の拳をかち合わせる。その瞬間、彼女の表情も変わったように見えた。
しばらく拳を合わせて、拳を離した後に法陣が部屋を出る。去り際に彼女が残した言葉は私の重責を軽く跳ね除けていくように思えた。
「決勝前に負けたら、承知しないからね」
-翌日 雄英体育祭 会場-
観客席は全て人で覆われており、途轍もない熱狂が空気を包んでいる。
そんな熱をさらに盛り上げるように、実況役のプレゼントマイクの声が会場に響き渡る。
「さぁ!今年も始まったぜ、雄英体育祭!お前らが楽しみにしてんのはあいつらだろ!この数年間起きていなかった襲撃を受けながらも、一致団結して切り抜けたA組だろ⁉︎」
その声が正解だったかのように、白熱した空気がさらに熱くなり歓声がさらに大きくなる。
大きな歓声の中を歩いていると、異様なまでの緊張が全身を包む。
緊張で少し震えたが、大丈夫というように隣を歩いていた透が肩を軽く叩く。
そんな様子を見て、凍歌も譲るつもりはないと言うような笑顔をこちらに向ける。
そんな中、後方からも負けを許さないというような視線を感じた。
「話題性では負けてても、決してこっちも劣ってねえぞ!B組の奴らも入場だ!」
その声が終わると共に、B組の生徒も続々と入場してくる。続いて、普通科、サポート科、経営科も入場していく。
そうして、全員が集まり終えると熱狂している空気が爆発するかのように一気に歓声が上がる。
そんな空気の中、プレゼントマイクのいる実況席を見上げる。
プレゼントマイクと共に実況席にいたのは、今年は教頭先生がいた。
私が初めて見た体育祭では、相澤先生が共にいたが今年はあの人がやるそうだ。大きな盛り上がりの中で、今年の一年の主審であるイマジン・フェイカー先生が声を上げた。
「今年も無事開催出来て良かったよ。それじゃあ、選手宣誓をA組、志解透くん。お願いできるかな」
先生に指名されて、一瞬驚くがすぐに冷静になって登壇する。
その時、隣にいた凍歌に声を掛けられた。透がこうして登壇すると思わなかったのだろう。
「まさか透が選ばれるとはな…。こういうのは苦手そうだが」
「今年の入試一位、透だったらしいからね。それもあるんじゃない?」
普段の様子からは想像がつかないが、彼は両方で上位を取っていたそうだ。
無機物の相手をする入試においては部類の強さを誇る…だけではないのだろう。
そうして入試の時を振り返っている内に彼が登壇してマイクの前に立つ。
そして、少し間を空けてから彼の選手宣誓が聞こえた。
「それぞれが己の全力を持って、精一杯今日へ挑むことを誓います」
その一声と共に、波乱を越えた先に開催された雄英体育祭が開かれた。
こんにちは、こんばんは。
今回のコラムコーナーです。この回では、新しく書いた教師陣のプロヒーローについて触れていきます。
それではどうぞ、お楽しみください。
不死峰 解放(ふしみ かいほう)/具現ヒーロー:イマジン・フェイカー
個性:空想具現(イマジン・クラフト)
対象の思考を読み取って、相手の考えている物を現実に具現化させる。
想像力の薄い相手や何も考えていない相手に使った場合、具現化出来る可能性が低くなり何も呼び出されない場合がある。
ここからは体育祭となります。
B組もちょいちょい出るようになるので、そこもお楽しみに。
それでは今回はここで失礼します、また次の回でお会いしましょう。作者でした。