内容につきまして、6,7話を加筆修正しました。簡単に修正内容を以下に示します。
「顔出し配信している」→「顔を隠して配信している」表現に変更
「みなさん、こんばんは!今日も少しだけ踊りますね!」
初配信から数週間。
ことねはいつものようにスマホをセットし、ライブ配信を始めた。部屋の中は相変わらず狭く、背景には簡素なカーテンと小さな棚が映り込んでいる。視聴者数は配信を始めてすぐに増え、コメント欄には「待ってた!」「今日も楽しみ!」といったメッセージが次々と流れていく。
「今日はこの曲でいきまーす!」
軽快な音楽が流れ始めると、ことねはリズムに合わせてステップを踏み始めた。体は自然と動き、視聴者たちを魅了するような滑らかな動きを見せる。しかし、どこかぎこちなさが混じっているのは、本人も気づいていた。
(ちょっと身体が重いな……でも、これくらい平気平気)
そう自分に言い聞かせながら、ことねは笑顔を作り続けた。
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配信が始まって数分後、ことねの動きがふと止まった。足元がふらつき、バランスを崩してその場に膝をついてしまう。
「……あれ?」
ことねは驚いたように呟き、すぐに立ち上がろうとしたが、視界が少しぼやけている。コメント欄にはすぐに心配の声が溢れた。
「大丈夫!?」
「無理しないで!」
「休んでください!」
ことねはスマホの画面を見て、慌てて笑顔を作った。
「ごめんなさい、ちょっと足が滑っちゃったみたいです。でも大丈夫ですよ!」
そう言って立ち上がり、軽くストレッチをしてみせる。けれど、視聴者たちの心配は収まらない。
「本当に無理しないで」
「疲れてるんじゃない?」
「今日はもう休んだほうがいいよ」
ことねはコメントを見ながら、少しだけ申し訳なさそうに笑った。
「みなさん、ありがとうございます。でも、ほんとに大丈夫ですから!今日はこれで終わりにしますね。また明日お会いしましょう!」
そう言って配信を切ると、ことねは深く息を吐いた。
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配信を終えた後、ことねはすぐにバイトの準備を始めた。制服を手に取り、鏡の前で髪を整える。ふと鏡に映る自分の顔を見ると、目の下にうっすらとクマができているのがわかった。
(ちょっと寝不足か……?いやでも、お金のためにバイトしないと)
ことねはそう思いながら、バッグに必要なものを詰め込んだ。配信は短時間で終わらせているが、その後すぐにバイトに向かう生活が続いていた。昼間のコンビニ、夕方のファミレス、そして夜の居酒屋。どれも生活のために欠かせない仕事だ。
(配信は楽しいし、バイトも大事。どっちも頑張らなきゃ)
そう自分に言い聞かせながら、ことねは自転車にまたがった。夜風が肌に冷たく触れるが、彼女の頭の中は次の仕事のことでいっぱいだった。
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その頃、ことねの配信を見ていた視聴者たちは掲示板で話し合っていた。
「今日の配信、ことねちゃん倒れたよね?」
「絶対疲れてるよ……バイト掛け持ちしてるって言ってたし」
「誰か止めてあげられないのかな」
「本人は気にしてないみたいだったよね」
「気にしてない」――その言葉が、視聴者たちの間で議論を呼んでいた。ことねの頑張りを応援したい気持ちと、無理をしてほしくない気持ち。その両方が交錯し、誰もが彼女の体調を心配していた。
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居酒屋に到着したことねは、いつも通りの笑顔で店長に挨拶をした。
「お疲れさまです!今日もよろしくお願いします!」
店長はちらりとことねの顔を見て、少しだけ眉をひそめた。
「藤田さん、最近ちょっと疲れてないか?無理しないでくれよ」
「大丈夫ですよぉ!全然平気ですから!」
ことねは笑顔で答えたが、その声には少しだけ力がなかった。
(迷惑は掛けられない、大丈夫今日もいつも通りのあたしだ)
そう自分に言い聞かせながら、ことねはホールへと向かった。けれど、その背中には、どこか不安げな影が揺れていた。