光のベアトリーチェ、アリウスに立つ   作:吾妻西紀

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マダム・イン・ワンダーランド

 ある日、ある場所。"組織"に所属する彼らしか辿り着くことの叶わない秘密の空間において、一人の大人が手を挙げた。黒いビジネススーツを纏う異形の男『黒服』はその場に居る全員の注目を集めると、音頭を取って話を始めた。

 

 「本日は定例会議に参加していただき、まことにありがとうございます」

 

 「構わない」

 

 「えぇ、貴重な機会を作っていただき此方も感謝していますよ黒服」

 

 「そういうこった!」

 

 「………えぇ、そうですね」

 

 彼らの組織の名は【ゲマトリア】。構成員それぞれが独自のアプローチで"崇高"という概念を追求し、探究し続ける研究者達。今回の集まりも、各々の研究のアプローチや結果などを報告するためのものである。

 

 「此方はキヴォトス最高の神秘の持ち主とコンタクトを取ることが出来ました」

 

 「…暁のホルス」

 

 「さる神話体系における最も偉大な神と称される彼の神の神秘の持ち主ですか」

 

 「えぇ。…アプローチとしては件の神秘に複製した恐怖(テラー)を張り付けることで一時的にでも崇高を観測する、といったところでしょうか」

 

 「「「………」」」

 

 理論に穴がないか、矛盾が存在しないかを吟味し、一つのアプローチとして認められれば次の議題へと話が進行する。双頭のマネキンの姿をした男『マエストロ』が提唱する人工天使の話、人物画を持つ首無し男『ゴルコンダ、デカルコマニー』の観測する崇高化した物語の話と、次へ次へと議題が移り…

 

 最後に赤い肌をした白いドレスの女に手番がやって来た。

 

 「では最後に『ベアトリーチェ』。貴方のアプローチをお聞かせ願えますか」

 

 ベアトリーチェと呼ばれた女は妖艶な所作で口元に扇子を当てると、己が崇高に至るための道筋を順序立てて語り始めた。他の構成員はその言葉に耳を傾ける。

 

 「トリニティにより迫害され追放されたアリウスの自治区…紛争の続く彼の地を治めました。全てはアリウス分校を我が手中とするため」

 

 「ふむ…」

 

 「私のアプローチはアリウス分校の校長として自治区を再興し、我が威光を示すことです」

 

 「……それが崇高と何の関わりがある?」

 

 マエストロが彼女の言葉の真意を探るために疑問の言葉を投げ掛ける。それに対してベアトリーチェは淀み無く、予め用意していたであろう答えを提示した。

 

 「この学園都市キヴォトスにおいて自治区とは国、生徒とは国民です。故に生徒会長は王と表現できるでしょう。ですが、校長はどの学園にも存在しません。このことから校長を"神"のメタファーとすることが出来るのではないかと仮定しました」

 

 「…!なるほど、つまり己を神の座に置くことで」

 

 「崇高に至るための正当なる立ち位置を確立するのが目的です。入学を洗礼に、信頼を信仰に、私は神の位に立ち…この世界の真理へと至る」

 

 盲点を突かれたように立ち尽くす他の構成員を一瞥しながらベアトリーチェは妖しく嗤う。それはまるで、己の理論の正しさを確信するが如く堂々とした振る舞いであった。

 

 

 


 

 

 

 崇高ってなーに?

 

 崇高ってなんだろー?

 

 ベアトリーチェの頭は既にパンク寸前であった。当然である。彼女の中身はこのキヴォトスにやって来た段階で別人のものへとすげ代わっているのだから。

 

 ある日、不幸な事故で命を落とした彼もとい彼女は目を覚ますと【ブルーアーカイブ】の登場人物であるベアトリーチェに成り代わっていた。最初こそ混乱・錯乱状態にあった彼女も時間が経過する内に落ち着きを取り戻し、やがて原作のままのルートで行くと自分が破滅することに思い至った。

 

 これはいかん。何がいかんって、私のやらかしがそのまま最終編に関わってくる=私がやらかさないとその時点で世界がヤバイというところがである。そして私がやらかしたらその時点でボッシュート。クソゲーじゃねぇか!

 

 まぁ、そうは言っても諦める理由にはならないってアズサちゃんも言ってたし…出来る限り足掻いてみるかぁ…と前向きになったのがこの前、原作通りにアリウス自治区の紛争を止めて実質的な支配者になったのが最近、そして近況報告として黒服に招集されたのが今日である。

 

 黒服達には適当に崇高に至るための道筋とか言いながらでっち上げの理論を吹き込んだが、この理論は良い隠れ蓑になると思う。少なくとも、私が悠々自適かつやりたい放題してもお咎めが無いのが凄く良い。何せ一つの王国の神様になろうとしてるわけだからね!

 

 そんなこんなで支配者になって数ヶ月。私はボロボロのバシリカを一先ずの校舎としてアリウス分校の立ち上げを行い入学希望者を募った。三食付きというお触れを出したところ…引くほど集まった。これ、自治区の子供全員集まったんじゃないの?

 

 「これ設備が届くまでただの保育所になりそうですね…」

 

 先に食料品の発注をしておいて正解だったわ。日持ちするレーションと炊き出し用の肉類と野菜類は既に届いてるから、今日はバシリカ前の広場で芋煮会よろしくでっかく鍋でも並べて…

 

 そんなことを考えながら食料庫の扉を開ける。

 

 「ガツガツ…美味しいですね…ムシャムシャ…」

 

 「………」

 

 そっと閉じた。

 

 ん?何だろう今の。青緑の小動物が食料を食べ漁ってる姿が見えた気がしたんだけど。何、新種のネズミか何か?怖~…

 

 「ではありません!何をしてるんです!?」

 

 「もがが!?ケヒュッ!?──、─!?」

 

 「あぁ!喉に詰まらせてるではないですか!水!水!」

 

 すぐに食料庫の中に貯蔵してあったペットボトルの水を持ってきて彼女に飲ませる。すると彼女は一切の躊躇無くそれを受け取り、一息に飲み干した。

 

 「~~~ぷはぁっ!生き返りましたぁ~」

 

 「死人が出なくて良かったですよホント…」

 

 「いやぁ…お騒がせしました。それでは…」

 

 「待ちなさい。失礼するんじゃありません」

 

 そそくさと食料庫から離れようとする緑っ子の首根っこを掴んで引き寄せる。そして軽く体を揺すると、服の中から野菜やらレーションやらがボロボロと落ちてきた。道理で膨れてると思った。

 

 「盗みとは良い度胸ですね…」

 

 「うわぁん…!サオリ姉さん~!ヒヨリは捕まっちゃいましたぁ~!今日のご飯は期待しないで下さい~!」

 

 「ん?ヒヨリ?」

 

 そう言われてみれば…あの食い意地にカラーリング…確かにヒヨリを想起させる。ということは…

 

 「もしかしてサオリやミサキ、アツコも居るんですか?」

 

 「ひぃっ!?皆の名前まで知られちゃってますぅ!もうおしまいですぅ!!」

 

 やっぱり、未来のアリウススクワッドのメンバーは既に合流していたんだ。そして、恐らく食料調達役にヒヨリを任せたのだろう。まぁ、得体の知れない炊き出しを待つより食料庫から盗んだ方が確実と言われたら…そういう環境で生きてきたんだから仕方がないか…

 

 「別に、取って食いやしませんよ。ほら」

 

 「?、叩いたりしないんですか?」

 

 「しません。それより、美味しいものが食べたいなら後で外の広場に来なさい。炊き出しを行います」

 

 「えぇ!?本当にやるんですか!?」

 

 「やりますよ、私が宣伝して回ったでしょう」

 

 そう言うと、ヒヨリの目がキラキラと輝き出す。それと同時にぐぅという腹の虫が食料庫に鳴り響いた。あれ?今、確かに複数音聞こえたような気が…

 

 「おい…腹を鳴らすなミサキ!」

 

 「サオリ姉さんだって鳴ってた!」

 

 「えへへ、3人お揃いだね」

 

 「「姫!」」

 

 「あ、皆がいます~!おーい!」

 

 ヒヨリが大声でそう知らせると2人の顔がぎょっと強ばった(アツコは変わらなかった。大した胆力である)そして、ヒヨリの方まで走ってくると彼女を引ったくり、同時に私に向けてそれぞれナイフを向けてきた。おおう。

 

 「…別に、何もするつもりはありませんよ」

 

 「「信用できない」」

 

 「えー?でもサッちゃん。この人ヒヨリを助けてくれたよ?」

 

 「それは…、とにかく!大人は碌な奴らじゃないんだ!」

 

 うーん、この世界においては強ち間違いでもないのがなんとも。柴大将とかエーギルのオーナーとか、例外も居るには居るんだけどねぇ…。

 

 「とにかく帰るぞ!」

 

 「あっ…サオリ姉さん」

 

 そう言うと、サオリはヒヨリ達の手を引いて食料庫の外へと出ていってしまった。私は急いで後を追うと、後ろ姿だけの彼女達に向かって声をかける。

 

 「…待っていますよ。貴方達の分も炊き出し作ってますから」

 

 「………」

 

 結局、その日の炊き出しにサオリ達は現れなかった。

 

 「えへへ…美味しいですね」

 

 「いやお前はくんのかい」

 

 「サオリ姉さん達へのお土産も貰えると嬉しいですね…」

 

 少なくとも、約一名の胃袋は掴んだようだ。私は簡単な焼き物料理をパックに詰めると、お腹が丸くなるまで炊き出しを堪能したヒヨリに渡して彼女を送り出すのだった。

 

 翌日から皆来るようになった。

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