「はやぁい…」
巨額を投じたバシリカの改修工事と学生寮の建設は、まさかの一週間で終わりを迎えた。しかも、私がやったのは資材の用意と設計図の都合(黒服に用意して貰った。高く付いた)、そしてミレニアム製の建設用機材の搬入だけである。
私は機械に疎いので黒服に頼んでカイザーからエンジニアを数人ほど招集し、設計図の読みこみやらボーリング調査?やら何やらは全て委託した。その結果がこれである。あまりにもスピーディーに仕事が進むので本当に大丈夫なのか何度か尋ねてしまったほどだ。
エンジニアの方々曰く…
「機械が良いから大体の作業はオートメーション化されてるよ」
「俺達も手持ち無沙汰なくれぇだからな」
「そうそう」
とのことだった。実際、彼らは機材のメンテナンスや時折状態をチェックする程度で後は見物しているだけだったので、それは確かなのだろう。それはそれとして色々と助けて貰っているのでおもてなしはちゃんとしたが。
「美人の姉さんにお酌されながらうまい飯食って、楽な仕事をするのも今日が最後かぁ…くー!世知辛ぇなぁ!」
「ヤダ…オデ…カエリタクナイ…」
「また何かあったら呼んでくださいね!」
カイザーとは思えないほど紳士的な人達であった。やっぱりピンキリなんだよなぁ…。
「さて、まずは何から手掛けるとしましょうかね…」
既に衣と食については彼女達に提供している。そして、学生寮の完成に伴って住もクリア。となると、やはり彼女達に足りないのは学と娯楽だ。勉強に関してはBDやら参考書を用意すれば良いだろうが、娯楽かぁ…。
「うーん…公園の配置…バシリカの空き部屋に談話室を作るのと…後は誰でも利用できる自治区の図書館も作りたい…。とにかく子供達が不自由無く過ごせる環境作りが第一目標ですねぇ…」
アリウススクワッドの子達もまだ初等部ほどの年齢である。遊びたい盛りに間違いはないだろう。かつて原作の夏イベではしゃいでいた彼女達の青春はもっと早くに享受されるものだったはずなのだ。そして、それは他のアリウス生徒達も同じのはず。
「カイザーの方々…帰してしまいましたが、また来てもらうことになりそうですね…」
少なくとも、大規模な自治区の立て直しが終わるまではお世話になるだろう。また彼らに目隠しをしてカタコンベを通ってきてもらうことになるのは申し訳ないが、餅は餅屋とも言うし仕方なし。そんなことを考えながら、私は他の自治区の施設配置図やら電子化された教育論の書籍やらとにらめっこを続けるのだった。
「どうです?不自由してませんか?」
「「「「あ、マダム」」」」
取り敢えず家族は同じ部屋ということで寮の大部屋に詰め込んだアリウススクワッドの様子を見に来た私。一応、動きやすい格好で来た。流石にあのドレス引きずってあちこち歩き回るのは骨だからね。実際、炊き出しの時もYシャツにスーツパンツというラフな格好だったし。
「…何故ツナギで…?」
「先ほどまで土いじりをしていましたので」
「お庭?」
「えぇ、アツコも興味があるのなら是非中庭に。整備した花壇があります。花の種は…陽の光が当たりにくい場所でも育つものが揃っていますよ」
そう言うと花が咲いたようにアツコの顔が明るくなった。うーん、可愛い…カチカチになった地面と格闘して花壇を作った甲斐があったというものである。まぁ、私は見た目よりずっと力が強いので苦労はしなかったのだが。これでも怪物に変身できる唯一のゲマトリア構成員である。やろうと思えばアリスとも腕相撲が成立するレベルだ。
「意外と生徒達に人気がありましてね、思った以上に花壇を作る羽目になりましたよフフフ…」
「なにやってるのさ…」
「花壇か…野菜の種とかはあるのか?」
「野菜…!良いですね…!美味しそうですね…!」
なるほど、野菜。そういうのもあるのか。学校で植物と言ったらチューリップやアサガオだろうと花の植物ばかり買ってきてしまったが、キュウリやトマトが採れても楽しいかもしれない。
「サオリ!その案、いただきです!」
「………」
「あれ?どうかしました?」
「マダムは…何というか、変な大人だな」
それは否定しない。というか、今のところ彼女達に危害を加えていないだけで【ゲマトリア】に属する私は十分悪い大人…というか碌でなしの類いである。真に正しい大人とは打算抜きに子供達を守る、"先生"のような人物のことをいうのだから。
「フフフ…いずれ貴方達もまともな大人に出会えますよ」
「?、マダムはまともな大人だろう?変だが」
「そうだね、マダムは良い大人だよ。変だけど」
変を強調しなくても良いのに…。まぁ、彼女達の信頼を勝ち取ることが出来ているのなら良かった。
実際、彼女達…アリウススクワッドはアリウス生徒の中でも特に警戒心が強い。だからこそ、他の生徒達の信頼度や不満度を測る上での指標として丁度良いのだ。何だか利用しているようで少しだけ心苦しいのは内緒だけどね。
「そういえば、調理室の設備が整いましたが見には行きましたか?」
「あ、まだ行ってないかも」
「調理実習などの授業も追々していくつもりですよ。自炊は出来て損しませんからね」
「そうなのか?」
「えぇ。貴方達が今後社会に出ていく上で非常に重要です。栄養バランスやら色々と考えることは多いですからね」
「美味しければ良いんじゃないんですか!?」
「ヒヨリは生の食材でも美味しいと言うではないですか」
「「「確かに」」」
あれから用途別に増設したり、設備を整えたりした部屋がバシリカにいくつか増えた。比較的早くに完成した談話室では生徒達が交流したり、用意した本を読んだり、知育用のパズルで遊んだりと憩いの場所になっている。
今後も理科室や音楽室など、実習に使う教室は増やしていくつもりだ。特に運動不足解消のための体育館を早いところ作りたいと思っている。その前にバシリカ近くの廃墟はいくつか潰す必要があるのだが。カイザーの人達が来たらまた一週間と掛からずに完成するんだろうなぁ…。
「後はアレですね」
「アレ?」
「アレって何?」
「寮に映像機材を運び込む話が進んでいます。やはり若い内は勉強が本分ですからね」
本格的に授業を行う準備を進めている。BDもノートや筆記用具も数が揃い始めているのでそろそろ生徒達に配り始める頃合いだ。
「正しい言葉遣いや漢字、英語、数の数え方、社会に歴史、科学など学ぶことは沢山あります。それらは決して貴方達を裏切ることはありません。特に知らないことを学ぶ感覚というのは新鮮で面白いかもしれませんね」
「ふーん…」
「あ、あの…」
「どうしましたヒヨリ?」
私の話を聞いていたヒヨリが何やら視線を彷徨わせながらモジモジとし始めたので、しゃがんで目線を合わせるするとパクパクと口を明け閉めした後…ぎゅっと目を瞑ってこう言った。
「そ、その勉強すれば、私もマダムみたいに成れますかね…」
「………」
これは、何というか青天の霹靂だった。
まさか私に憧れを抱く生徒が現れるとは。しかもその相手は、食べることと雑誌にしか興味が無いと思っていたあのヒヨリである。隣を見るとサオリとミサキ、アツコもまた目を丸くしてヒヨリを見ていた。
「あは、あはは…流石に無理です…かね?」
「…多分、私なんてすぐに追い越しちゃいますよ?」
「ええーっ!?」
彼女達には私なんかよりもずっと明るい未来が待っている。私が用意した数々の物達がその一助になってくれたならそれに勝る喜びはない。それでも、目指す未来の一つに私を選んでくれたことが嬉しくて。
私は何度も彼女達の頭を撫でるのだった。