光のベアトリーチェ、アリウスに立つ   作:吾妻西紀

5 / 9
アビドス砂漠の珍生物

 アリウスの出入り口は色々な自治区に通じている。

 

 あると思わなければ分からないような一種の認識阻害のようなものが掛かっているのかは知らないが、とにかく外部から侵入者がいたという話はない。しかし、こちらは行こうと思えば好きな自治区に足を運ぶことが出来る。

 

 なので、私は時折他の自治区の視察と称してカタコンベの通路を使い様々な場所に足を運んでいた。まぁ、目立つ外見なのでなるべく目立たないようにしてはいますが。主に外見に違和感を持たれにくくなる"テクスト"を貼り付けた服をゴルコンダとデカルコマニーに都合してもらって。

 

 「ここがアビドス砂漠ですか…」

 

 そして、私は今日念願のアビドスへとやって来た。砂の山に埋もれるようにして建っていた遺跡の中に通じていたようである。一応、迷った時に道が分かるように出入り口にGPSをセットしてと…

 

 「見渡す限り砂が広がっていますね。それも地平線が見えるレベルで…どれだけ広い自治区なんでしょう…」

 

 これは確かに一度自分の位置を見失えば元の場所に帰ることは難しいことだろう。ケチらずに最新式の端末を用意したことだし元の場所には戻ってこれるとは思うが、出来ることなら砂嵐には遭いたくないものである。

 

 「暫く歩いてみますか…」

 

 考えてみれば、暫くアリウス自治区の運営に手を入れていたために自分の時間をとるのは久し振りのことだった。たまにはそう言ったことを忘れてのんびり風景を楽しみながら散歩するのも良いかもしれない。

 

 「おや、あれは…!」

 

 遠くに此方を窺うようにして鋭い眼光を向ける動物がいる。体長は小さくネコ科動物特有の顔をしたそれは、私もよく知る砂漠の固有種とも呼べる存在であった。

 

 「スナネコですね。驚きました、アビドスにも生息していたんですねぇ…」

 

 「ナウ…」

 

 「見た目にそぐわず野生の本能が強い動物らしいですから…遠目で観察するだけにしておきましょうか」

 

 そうして暫くスナネコを遠くから観察していると、向こうは警戒を解いたらしくその場で爪研ぎを始めた。ふむ、こういうところはやはり普通のネコ科動物と同じ…ん?爪研ぎ?一体何で爪を研いでいるんだ?

 

 目を凝らしてスナネコの手元に目をやると、不意に砂に埋もれていた何かが悲鳴と共に飛び上がった。

 

 「あだだだだ!やめて猫ちゃん!私まだ生きてるから!」

 

 「フシャー!!」

 

 「あいたー!?噛まないでぇ!ひぃん!」

 

 「………」

 

 スナネコよりも珍しい動物を見つけてしまった。

 

 取り敢えず、えーと…保護?した方が良いか。バックパックには水と食料も入れてきているし、多分彼女も飲まず食わずだっただろう。そんなわけで、彼女…『梔子ユメ』との初コンタクトはなんとも言えない空気の中行われたのであった。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 「助かったぁ…!」

 

 私が一応用意していた3日分の飲食物が凄い勢いで飲み込まれていく。うーん、空きっ腹はむしろ少しずつ吸収していく方が身体に負担が掛からないと思うのだが…まぁ、元気なら良いか。そういうことにしとこう。

 

 「いや、それなら良かったです。…あの、何日ほど彷徨ってたんですか?」

 

 「えっとねぇ…5日くらい?」

 

 「それは…何というか御愁傷様です」

 

 「もう道も分からなくって!本当に助かりました~」

 

 ポヤポヤとした雰囲気に、新緑のような緑の髪。間違いなく、私が知るユメ先輩こと梔子ユメである。まさか、彼女が遭難しているところに出くわすとは…。あれ、もしかしてこれ彼女の死亡フラグへし折ったのでは?

 

 「貴方を心配している人がいるでしょう。直ぐに連絡することをお勧めしますが…端末はお持ちですか?」

 

 「あっ…えっと、砂嵐で荷物は全部飛んでいっちゃって…」

 

 思わず額に手を当てて溜め息をついてしまう。何というか、もう…何だこれはどこから突っ込めば良いのだ。十分な装備をしていて、それが砂嵐で飛ばされたのなら仕方ない…か?うーん…何か釈然としない…。

 

 「………知人の電話番号は覚えていますか」

 

 「はい!ホシノちゃんの番号は覚えてます!」

 

 「では、そのホシノさんに連絡してあげなさい。私の端末をお貸ししますから」

 

 私の端末は最新式だし、今日は晴れているから電波はしっかり繋がるだろう。ユメは私から端末を受け取ると番号を打ち込み始めた。

 

 「えっと…あれ、6だっけ9だっけ…」

 

 「何度間違えても良いので、焦らずかけなさい」

 

 「ありがとうございます!…よし!これで」

 

 電話の呼び出し音が鳴り響く。3回ほどのコール音の後に無事電話が繋がった。

 

 『──、─?』

 

 「もしもしホシノちゃん!?私だよ!ユメだよ!」

 

 『─!?──、─!───!?』

 

 「いや~、親切な人に助けてもらっちゃった!これからアビドス高校に…」

 

 『……──』

 

 「ぴっ!?いや、それは」

 

 「──、───!!!!」ガチャッ!!

 

 「………き、切れちゃった。どうしよう、凄い怒ってたよ~…」

 

 「残念ですが、当然です」

 

 まぁ、実際にこんなことになったら感動の再会より先に説教があるわな。顔を真っ青にして震えるユメ先輩に心の中で合掌しつつ、私はアビドスの校舎がある方角を調べるのだった

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 「では、私はこれで…」

 

 「えっ!ビーチェさん行っちゃうんですか!?折角ならゆっくりしていけば良いのに!」

 

 校舎が遠目に見え始めてきた頃、私はここでユメと別れようと思った。というのも、ゲマトリアである私がホシノと顔を会わせるのはどうかと思ったためである。それでなくともこの頃のホシノは大人に良い印象を持っていないのに、私が近付くことでそれが拗れたら今後やって来る先生との関係に亀裂が出来かねない。

 

 ちなみにビーチェとは私がユメに名乗った偽名である。ベアトリーチェの名前が黒服に伝わったら何と言われるか分からないので一応保険を掛けたのだ。

 

 「まぁ、電話番号だけは渡しておきますから。困ったことがあれば何時でも電話しなさい。それと、砂漠に出るときは相応の準備をしっかりなさい。また誰かに心配をさせたくなければ」

 

 「うぅ~、分かりました…」

 

 「ではまた、何処かで会いましょう」

 

 そう言い、私は来た道を戻っていく。何気に片道2時間ほど歩くことになったので早いところ戻らなくては日が暮れてしまう。夜までには戻るというサオリとの約束を反故にしないためにも私は急いで出入り口の遺跡へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 「…ということがありましてね」

 

 「それは、何とも…」

 

 サオリが苦笑いしながら私の淹れた紅茶に口を付ける。私は今日あった出来事を何となく彼女と共有したくてこっそり私用の執務室に彼女を呼んでお茶をしていた。初等部の頃は緊張した様子でここに来ていた彼女も、今では大分リラックス出来ている。

 

 「サオリ。もし砂漠に足を運ぶことになったら事前準備を怠ってはいけませんよ。彼処はちょっとした油断が死に直結する世界です」

 

 「わ、分かった。胸に刻んでおく」

 

 まぁ、その辺りサオリはあまり心配していない。ミサキとアツコも何だかんだその辺りはしっかりしているから大丈夫だろう。問題は…まぁ、ヒヨリとか。

 

 「ヒヨリは心配ですね…」

 

 「それは…確かに…」

 

 何となく、今日助けたユメとヒヨリが頭の中でダブる。うーん、似ているような似ていないような。何処か放っておけない雰囲気と髪の色はそっくりである。

 

 ふぅと一息つき、紅茶で喉を湿らせる。こういった嗜好品も外界から取り寄せるようになったことで、アリウス生徒達も年相応の少女らしい一面を見せるようになった。そして、もうじき中等部から高等部へと進級する時だ。

 

 「楽しみですね…」

 

 「何がだ?」

 

 「貴方達の成長がですよ。私からすれば、それに勝る喜びはありません」

 

 アリウス自治区の立て直しを掲げてからもう数年。生徒達は健やかに不自由なく過ごすことが出来ている。その事実が私の日々の活力となる。それはきっとサオリも同じなのではないだろうか。

 

 「年長者は下の子達の成長が嬉しくて堪らないものです。ね?」

 

 「確かに、私も分かるような気がするよ」

 

 そういって微笑む彼女が考えているのは何時もの3人のことか、それとも学園の生徒達全員のことか。どちらにせよ、その笑顔がとても優しいものだったから…私は彼女が生徒会長で良かったと心から思うのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。