光のベアトリーチェ、アリウスに立つ   作:吾妻西紀

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巨大化は負けフラグなので

 「はぁ…」

 

 相も変わらず曇天の空を見上げ、私は溜め息を溢す。どういうわけかは知らないが、アリウス自治区の空は彼女達がトリニティから追放された当時から変わらず曇り空が続いているという。お陰様で洗濯物は乾きにくいし、植物の生育にもよろしくない。

 

 そして何より…

 

 「明日は生徒達の進級式、なんですけどねぇ…」

 

 可愛い生徒達の晴れの門出が曇り空というのは、少しばかり悲しいものだった。せめて当日だけでも晴れ間の一つや二つ差しこんでほしいものだが、そうは上手く行かないだろう。

 

 そんなことを考えていると一つの疑問が湧いてきた。

 

 「というか、万年曇り空というのは一体どういう仕組みなんですかねぇ…?自治区の場所が知られていないのもそうですし…何だかオカルトチックではありませんか」

 

 追放当時ならともかく、十分に科学の発達した現代になってなお見つかることなく閉鎖空間を維持しているというのはどう考えてもおかしい。ミレニアムで言うところの"特異現象"が関わっているのは間違いないだろう。何なら、そういう類いの異空間に存在していると言われても納得しかない。

 

 「…実質、今のアリウスの支配者は私みたいなものですし、自治区を解放することが出来たりとか…しませんよね…」

 

 仮に成功したとしても突然現れた自治区ということで土地の問題やら何やら、色々と面倒な話が出てくるに違いない。これが仮に前世で、突然他国の領土に別の国が現れたなんてことになったら連日ニュースになること請け合いなのだから。もうね、普通に外交問題。

 

 「やはり聖園ミカがこの地に辿り着くまでは待たねばなりませんか…」

 

 そういえばミカは一体どうやってアリウス自治区まで辿り着いたのだろう?このカタコンベは出るのは簡単だが入ると正しいルートでなければ自治区には辿り着けないようになっているのだが…。多分フィーリングなんだろうなぁ…。

 

 …と、そんなことを考えている場合ではない。明日の式典に向けて全員分の進級証書を書き上げなくては。まだ半分しか書き終えていないからな。一生残るものだから、出来れば一番綺麗な字で書いてあげたいと思う。

 

 もう一度だけ、外に目をやる。そこにはやはり何時もと変わらない曇り空が広がっている。

 

 「………ふふ」

 

 何となく思い付いたように悪戯に笑うと、私は曇り空に手を翳した。

 

 「"光あれ"…なんて」

 

 どうか彼女達の道行きを暗示させるような透き通る青い空を見せてほしいと、そんなことを願いつつ私は翳した手を閉じた。

 

 「さて、仕事仕事」

 

 そう呟きながら手元の証書にペンを滑らせる。

 

 瞬間、ぼんやりとした白い光が執務室に差し込んだ。少しずつ光量を増していくその光は、やがてほの暗かった執務室全体を薄く照らしていく。私が再度外に向けて目をやると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 

 「晴れ間が差してる…?」

 

 万年曇り空だったアリウスの空が割れて光が差し込んでいる。百年以上前からこの曇りが続いているという話だったから、およそ百年振りの太陽が地上を照らしている。あれ、もしかしてこれ私か?私が変なこと言ったからマジで晴れたのか?

 

 「いやいやいや、私は適当に"光あれ"と」

 

 差し込んでくる光の量が増した。冷や汗をかきながら恐る恐る空を見ると、そこには澄んだ青空が広がっていた。

 

 「えぇ…」

 

 …私の言った言葉とこの現象の因果関係は分からないけれど、とりあえずこれからは下手なことは口にしない方が良いだろう。サオリとミサキが血相を変えて執務室に飛び込んでくるのを眺めつつ、私は3人分のお茶の用意をするのだった。

 

 

 


 

 

 進級式はつつがなく終わった。

 

 昨日からアリウス自治区を照らしていた日の光は今日も変わりなく私達の頭上を照らしている。何でも生徒達の間では私が奇跡を起こしてアリウスの曇天を晴らしたと噂になってるらしい。アハハ、そんなまさかー(棒読み)。

 

 …No!と言えないのが非常に辛いところである。実際、私は表向き神様になろうとしている結構ヤバいタイプの大人ですし。

 

 総勢500人以上の生徒という名の信徒と、自治区の生徒会長よりも上の役職である校長という肩書き、アリウス自治区を治めたという実績。確かに、あの時のパンク寸前の頭ででっちあげたにしては整合性の取れた理論である。もしかして、本当に何らかの上位者に近付いているのでは?

 

 「儀式とは大袈裟なごっこ遊びとも言いますしね…」

 

 つまるところ、"神様"と呼ばれる条件自体は揃っているのだ。本当に知らず知らずのうちに現人神のような存在になっていてもおかしくはない。黒服辺りに聞けば何か教えてくれるだろうか?…やだなぁ、絶対何か要求してくんじゃんアイツ~。

 

 「…とにかく私の身に何か変化が起こっているのなら、私自身で解明しなくては」

 

 ゲマトリアの実験動物になるつもりは毛頭無い。あくまでも教育者ファースト。モルモットなんて糞食らえ。

 

 「…あ、そういえば。最近"アレ"してませんね」

 

 最近はずっと生徒達の前に居たり、執務室で下から上がってきた書類と格闘してばかりだったので自分自身の変化を確かめる上で一番手っ取り早そうな手段をすっかり忘れていた。

 

 「いや、でも見た目に出るとは限らないですからねぇ…」

 

 それはそうと他に手段が無いのも事実である。私は深夜、皆が寝静まった頃を見計らってカタコンベの通路からアビドス砂漠へと足を運んだ。

 

 

 

 ビュウと吹く冷たい風が頬を撫でる。本当はこんな時間に夜の砂漠になど足を運びたくなかったが、まぁ生徒達の目につくところで行うリスクと天秤に掛ければ当然此方に傾く。仕方ないことである。

 

 「では、変身しますか…」

 

 変身。

 

 私、ベアトリーチェは怪物の姿に変身することが出来る。長く鋭い爪を持つ手、根のような触腕と足、花のように開いた頭部と、人智を超えた怪物に文字通り変身するのだ。ぶっちゃけ私自身この姿を気に入っていないのと、生徒達に怖がられるのが嫌なので暫く変身していなかった。だが、検証には丁度良い能力でもある。

 

 「さて、神と銘打っておきながら…あの悍ましい姿になるのか否か」

 

 身体の奥底に眠る強い力を引っ張り上げるイメージ。そして、強い力を少しずつ全身に行き渡らせれば変化が徐々に現れる。手は鋭く、触腕は伸び、頭部は花のように開…うん?

 

 「…大きさ、変わりませんね」

 

 いや、変化自体は出ている。赤い肌は白く変色しているし、背中からは触腕が伸びているような感覚が…。

 

 「ってこれ、良く見たら翼じゃないですか」

 

 正確には何本も伸びた触腕が重なりあって翼を形成しているというのが正しい。大きさ比的に考えて飛べるのかどうかは怪しいが、確かに翼と呼べるものが背中から生えてきている。

 

 「頭部は…開いてないですね。いや、頭の上に何か…」

 

 頭頂部に違和感を感じ、用意してきた手鏡で頭部を確認する。すると頭部の蕾のように折り重なっていた器官が開き、花が咲いたようになっていた。まるで、花を模した帽子を被っているような姿に思わず面食らってしまった。

 

 「うーん、バッチリ出てますね…変化。それも若干神々しいタイプの…」

 

 こんな姿、生徒達に見られたら何と言われるか。やっぱりマダムは女神様だったんだ!と集られて揉みくちゃにされる未来しか見えない。いや、怯えられるよりは全然良いけども!

 

 「取り敢えずこの姿は封印しときましょう、ええ。要らない混乱を生むものでは…」

 

 そう呟きながら手鏡をしまうためにバックパックの置いてある遺跡に戻ろうと後ろを振り向く。

 

 「………」

 

 「………」

 

 遺跡の出入り口から半身を出して此方を伺う、口元に手を当てて目を真ん丸にしたアツコと目があった。

 

 「やっぱりマダムは女神様だったんだ!」

 

 「待って待って待ちなさい」

 

 「サッちゃん達に伝えないと!」

 

 「ステイ!アツコ!カムバック!!」

 

 このあと滅茶苦茶口止めした。

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