【書籍化決定】男女比バグっているのに悪役転生だと思い込んでいる奴   作:陽波ゆうい

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side二条恭子①

 私、二条恭子は大学に通いながらメイドとして働いている。

 

 仕えているのは、数々の人気企業を統括する資産家、羽澄(はずみ)家だ。

 

 とはいえ、初対面というわけではない。

 

 羽澄家と二条家は昔からの付き合いがあった。

 

 羽澄家の奥様、美香(みか)さんと私の母は大学時代の同級生だという。

 

 その縁で、私は幼い頃から羽澄家に出入りしていたが……。

 

 正直に言えば、あの頃から坊ちゃま――羽澄玲人という男性とはどうにもそりが合わなかった。

 

「ふんっ、僕がこのおもちゃで遊びたいと言っているんだ。さっさとよこせ!」

 

 彼は、典型的な『坊っちゃま』気質だった。

 

 自分の思い通りにならないと命令口調になり、さらには人を見下すような態度をよく取っていた。

 

 彼の振る舞いに、私は幼いながらもイラッときたこともあったし、嫌な思いもした。

 

 彼への苦手意識はすぐに出た。

 

 しかしながら、周囲の大人たちは彼を叱ることはなかった。

 

 それどころか……。

 

「私がすぐに同じおもちゃを買いに行きます!」

「それだったら、もっといいおもちゃを買ってきた方がいいんじゃない?」

 

 甘やかし気味だった。

 

 それが幼い私には、不思議で仕方なかったが……小学校に上がる頃には、その理由を理解し始めた。

 

 社会の授業で習い、また、先生や周りの人たちもあからさまな対応だったから。

 

 この世界は男性が少なく、それ故に優遇されているのだ。

 

 政府が「男性は優遇せよ」といったような特別な方針を打ち出しているわけでもなければ、そういった条例が存在しているわけでもない。

 

 ただ、社会全体が年々数が少なくなっていく男性に対して、「大切にしなければならない」という空気に包まれて……。

 

 結果として、男性を優遇するということになっていた。

 

 100年前ぐらいは、男女比は半々。

 むしろ、女性の方が少し贔屓されていた部分もあったとか。

 

『女の子なんだから無理しないで』

『女の子だからここは奢るよ』

『レディーファースト』

 

 などという認識もあったらしい。

 

 それも今となっては、ありえない話。

 見ることがあるとすれば、創作物の中だけ。

 

 現在はといえば、少子高齢化が進む中で男児の出産率は特に低迷し、男女比は大きく偏っていた。

 

 もはや、()()()()()()()()()()()()と言っていいほどの偏りだ。

 

 女性は男性に対して過保護になり、はたまた貴重な男性を手に入れようと肉食的な行動を取り、酷い場合は犯罪まがいなことも……。

 

 一方で、男性側はというと……。

 

「俺に指図するなんて生意気だなっ」

「ひえっ……! ぼぼぼ、僕に近づかないでくれ!」

 

 甘やかされた環境で育ってきたため、ワガママで横暴であるか。 

 肉食的に行動する女性に対して、臆病になり、常に警戒しているか。

 

 そのどちらかだが、いずれにしろ……『男の立場は上』といった認識がある。

 

 そして、私は……そんな男性という存在に対してすっかり苦手意識を抱くようになっていた。

 

 思えば、昔から……彼と出会った時からである。

 

 私と彼は一応、幼馴染とも呼べる関係だが……私はそれを、他人に言うことはなかった。

 いや、言いたくなかった。

 

 だって、私は彼が苦手なのだから。

 

 

 

 時は流れて、私は大学に進学。

 

 そんなある日……久しぶりに美香さんが我が家を訪れた。

 

 母に用事があるのかと思いきや……訪問の目的は私だったようで。

 

 ソファへ腰掛けるなり、美香さんは身を乗り出して……。

 

「お願い、恭子ちゃん。いえ……二条恭子さん。私の息子のれーくんのお世話をお願いできないかしら? つまり、うちでメイドとして働いてほしいの」

「……え?」

 

 美香さんの言葉に、思わずそんな声が漏れてしまった。

 

 美香さんの『息子』と言えば……彼のことに他ならない。

 

 美香さんはいい人だ。

 

 だけど、あの頃とは変わってしまった部分もある。

 

 美香さんは、数年前にご主人を亡くしてからは1人で家業を守り抜くために、必死にやりくりしていたと聞いた。

 

 美香さんの頑張りもあり、事業は右肩上がり。

 

 しかしながら、息子である彼のお世話や一緒に過ごすことがままならないほどの多忙だという。

 

 そのため、数十人のメイドを雇い、世話を任せているらしいのだが……。

 

「じ、実は……」

 

 美香さんは重々しい口を開いた。

 

 どうやら……彼のわがままに、メイドたちが困り始めているいうものだった。

 さらに言えば、お手上げ状態……。

 

 その時点で、察してしまった。

 

 ああ、彼はあの頃から何も変わっていないのだと。

 

 なら私は……今度は彼のことを嫌いになる。

 

 美香さんは明るくてお茶目でいい人だ。

 母とも良好な関係であるが……それとこれとは別というもの。

 

 引き受けるのは気は進まず……。

 

 しかし、私は口に出して断るということは……できなかった。

 

 何故なら私の家は、金銭的に苦境に立たされていたから。

 

 私の父はだらしない性格で、さらに男性という立場で好き放題していた。

 

 浮気にギャンブルにタバコに酒に……他人に暴行を振るったこともあった。

 

 いくら数少ない男性とはいえ、そんなことをやっていいわけがない。

 

 父は、家庭を顧みない行動を繰り返しては、私たち家族には謝罪などの負担を押し付けてきた。

 

 それが耐えきれなくなって……母は離婚し、私たちは家を出た。

   

 これだけで終わればよかったものの……父の浮気相手の1人が母の勤務先の大手取引先の重役だった。

 

 父がその人に何を吹き込んだかは知らないが……その重役の女性は会社に来ては、いきなり取引を打ち切ると言い出したのだ。

 

 理由も聞くも、『全ては二条のせい』とだけ。

 

 それが原因で……母は仕事を失った。

 

 そんな理不尽な出来事で、母はしばらく体調を崩しがちだったが、今は再就職している。

  

 とはいえ、金銭的には余裕はない。

 

 私もアルバイトを掛け持ちしているが、奨学金の返済で手一杯。

 

 妹も1年後には、高校受験を控えている。

 

 これからはよりお金が掛かってきて、生活がより厳しくなる。

 

 でも母は私たちにやりたいことをやりなさいと言う。 

 

 母は自分だけが無理をするつもりなのだろう。

 

 だからこそ、美香さんからの申し出は……私には魅力的だった。

 

「ねぇ、恭子……? 無理はしないで? ね?」

 

 隣に座る母は、心配した様子で私の顔を伺う。

 

 母は美香さんには一連の出来事は話しておらず、それは友人に迷惑を掛けたくないというもの。

 

 それに、私が彼のことを苦手としていることもお見通しなのだろう。

 

 父と違って、母はとても尊敬できる人だ。

 妹も可愛くて、姉としてはついつい甘やかしてしまう。

 

 だからこそ……。

 

「わ、分かりました。その話を引き受けます」

 

 私は、話を引き受けることにした。

 

◆◆

 

 私は大学進学と同時に羽澄家の専属メイドとして働き始めた。

 

 が……私は甘く考えすぎていた。

 

 両立できるかではない。

 

「この服、気に入らないんだけど。他のないの?」

「坊っちゃま。それは一昨日、坊ちゃまご自身で選んで注文されたものですが……」

「いいから変えろよっ。僕は気に入らなかったんだ」

 

 彼は、数年前と何も変わっていない。

 

 むしろ、年齢を重ねた分、厄介になっているような気もする。

 

 男性という立場から特別扱いされるのが当然だと思っている。

 

 周囲の誰もが彼のわがままに振り回されているというのに、彼自身は当然のことだと思っている。

 

 なんだがあの父と重なって……余計に、嫌な気分だ。

 

 直接、暴力を振るわれたり、性行為を求められたりなどはなかった。

 

 彼は根本的には、女性に対してどこか恐れを抱いているのだろう。

 

 だけど……。

 

「おい、早くしろよ! この僕の言うことがきけないのかよっ」

 

 心ない言葉とは、1番の暴力である。

 

 そして、私は彼が嫌いだ。

 

◆◆

 

 大学の講義を終え、帰路についている時。

 

 ふと、ポケットの中でスマートフォンが震えた。

 

 画面を確認すると、表示されていたのは羽澄家のメイドの1人からの着信。

 

 ……この時点で、嫌な予感がした。

 

 こういう連絡で良い知らせだった試しがない。

 

 というより、坊ちゃまに関する問題が起きた際、真っ先に私に連絡するようということになっていた。

 

 なので、嫌な予感がしないはずがない。

 

 通話を繋げると……耳元に飛び込んできたのは、慌てふためいた声だった。

 

 ……何か、いつもとは違う。

 

『あっ、繋がった! め、メイド長!』

「はい。落ち着いて話してください」

『は、はい……。その、坊っちゃまが……坊っちゃまが……頭を強く打ってしまい気を失ってしまいました……っ』

「……え」

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