【書籍化決定】男女比バグっているのに悪役転生だと思い込んでいる奴   作:陽波ゆうい

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第5話 悪役転生だから、好感度が下がるの⁉︎(違う)

 『悪役転生』といえば、身体を鍛えるのが定番である。

 

 というのも、破滅フラグを全てへし折るためには、自己強化は必須。

 

 『筋肉こそ正義!』って言葉はネタにされがちだけど、あながち間違いじゃないかも。

 

 ファンタジー世界であれば、身体を鍛え、それが基盤となり、剣術や魔法を極めようとする。

 

 その中で、悪役転生した主人公は才能を知らしめ、それを目の当たりにした周りが見直し、評価がバゴーン‼︎と上がっていく……というのが王道の流れ。

 

 しかし、これはファンタジー世界の場合だ。

 

 ここは、現代ラブコメを舞台とした世界。

 

 剣や魔法もなければ、主人公の好感度上げのために序盤でやられがちなドラゴンすらいない。

 

 てか、ファンタジー世界のドラゴンって、序盤でやられがちなのかわいそうじゃない? 

 ドラゴン、カッコいいのに。

 

 ああ、話が逸れたね。

 

 そして……僕は、嫌われ者の悪役だ。

 

 だから、僕がやる身体の鍛え方は……。

 

 ………………。

 ……………………。

 …………………………。

 

 

「僕は、今日から身体を鍛えようと思う。その1つとして――この屋敷の()()()()を始める!」

 

 翌朝。

 僕は朝食を運んできてくれた恭子さんにそう宣言した。

 

 昨日じっくりと考えて、ぐっすり眠り寝て……迎えた今日。

 

 頭と身体もなんだがしっくりしてきたし……僕の作戦も纏まったのだった。

 

 前提として、ただ身体を鍛えるだけではダメな気がする。

 

 元の玲人は、セクハラやその嫌味な態度で周りに迷惑を掛けていただろう。

 

 それを改善せずに、いきなり身体から鍛えようとするのは……なんか違う気がした。

 

 これからは迷惑を掛けないことはもちろん、散々迷惑を掛けたのだから……今度はみんなのためになることをやりたい!

 

 身体を鍛える。 

 みんなの役に立つ。

 

 そう考えた時……思いついたのが、『掃除』だった。

 

 前世のテレビニュースでは、ヤンキーがゴミ拾いしているのが取り上げられ、それが多くの反響を呼んでいたので、それを参考にした。

 

 それも、屋敷内でできることと考えた時……雑巾掛けをしようと決めたのだ。

 

「……雑巾掛け?」

 

 恭子さんがゆっくり聞き返した。

 

「ああ、雑巾掛けだ。雑巾掛けは地味に全身の運動になるんだぞ? それに、屋敷を綺麗にできて一石二鳥だからな」

 

 メイドさんたちの仕事の負担も減らせるし、いいよね!

 

 僕が力強くそう言うも、恭子さんは眉を顰めた。

 

「坊ちゃまが雑巾掛けって……本気なのですか?」

「本気だ」

「……いきなりどうしたのですか? 頭でも打たれました? ああ、打ちましたね」

 

 恭子さんって、クールなイメージあったけど……ツッコミの才能ありそう?

 

 だが、ここで鋭いツッコミをされれば、僕は何も行動できない。

 

 ここは、ゴリ押しで実行させてもらう!

 

「とにかく、僕はやると決めたんだ。一応、恭子にも伝えておこうと思って。あと、他のメイドたちにも伝えておいてくれ。いいな?」

「かしこまりした」

 

◆◆

 

 朝食を平らげた後。

 僕は雑巾を手に廊下へ出た。

  

「よし、やるぞ!」

 

 気合を入れて四つん這いになる。

 

 文字列だけ見たらやばい奴だね。

 

 廊下の端から端まで……雑巾掛けスタート!

 

 綺麗になるよう、力強く拭いていく。

 

 それにしても、雑巾掛けとか久しぶりにやるなー。

 

 中学まではやっていたけど、高校からは担任の先生がクイックルワイパーを教室に置いてくれたので、楽々掃除できていた。

 

 思い返せば、前世もそれなりに楽しかった。

 

 男子特有の馬鹿馬鹿しい話題で盛り上がり、放課後はファストフード店やゲームセンターに寄り、家に帰れば、家族と話しながらのんびりテレビを見たものだ。

 

 でも、その頃の僕にはもう戻れない。

 

 今いる世界を、僕は生きなければいけない。

 

 悪役転生したとはいえ、僕の人生なのだ。

 

 楽しく生きたい。

 

 だから、破滅フラグは全力で折っていかないとね!

 

 そんなことを考えながら、まずは廊下を1往復した。

 

「どんどんやるぞ〜」

 

 腕まくりして、気合いを入れる。

 

 しかし、5往復したところで……ちょっと疲れが出てきた。

 

「これ……意外ときついなぁ……」

 

 腕と背中と足と……全身にじわじわと負荷が掛かってくる感じがする。

 

 一旦、起き上がってひと息つく。

 身体もなんだか温まってきた。

 

「あっ、本当に坊ちゃまが雑巾掛けしてる……」

「ほんとだ。これ……夢じゃないよね? ねぇ、アンタのほっぺたつねらせてよ」

「そこは自分のじゃ……いてててっ!?」

 

 ふと、僕の背後から人の気配がした。

 

 チラッと見れば、メイドさん3人が物陰から顔を出してこちらを見ていた。

 

 と……僕が見ていることに気づく。

 僕と目が合うなり、慌てたように顔を引っ込めた。

 

 きっと、恭子さんが他のメイドさんたちにも伝えてくれたのだろう。

 

 普段はセクハラなどで迷惑掛けている坊ちゃまがある日突然、雑巾掛けしていたらそりゃ気になるよね。

 

 それからからも視線を感じつつも、黙々と雑巾掛けを続ける。

 

 1階フロアの廊下を制覇した頃には、顔に汗が滲んでいた。

 

 僕は汗を拭おうと長袖のTシャツの裾をめくり、顔を拭く。

 

「きゃっ!」

「坊ちゃまの裸っ!」

  

 視線の先にいたメイドたちから声が上がったのでそちらを向く。

 

 彼女たちは……慌てて両手で目を覆ったり、身体ごと逸らしていた。

 

 その仕草をするってことは、僕のことを見ないようにしているということで……。

 

 あ、あれっ? 

 これ……好感度下がってる!?

 

 なんでだ? 僕はただ雑巾掛けをしているだけなのに……。

 

 やはり、雑巾掛けをしたぐらいじゃ、簡単には許してもらえないってことか?

 

「――坊ちゃま。昨日目覚められたばかりなのですから、無理は禁物ですよ」

 

 後ろから声を掛けられた。

 

 見れば、恭子さんで……その手にはタオルを持っていた。

 

「それと、坊ちゃま。汗を拭く際はタオルで拭いてください」

「あ、ああ、うん。ありがとう、恭子」

「いえ」

 

 僕は恭子さんからタオルを受け取り、顔の汗を拭く。

 まあ、その汗は今は冷や汗気味だけど。

 

「そうだよね……。服で拭いたらその服が汚れて逆に仕事増やしちゃうよね……」

「? 確かにそうでもありますが、それよりも――」

「うん、すまん! 次からは気をつける!」

 

 一瞬、マイナス思考になりかけたものの……このままじゃだめだ!

 

 それに僕はやるって決めたことはやり遂げる主義なんだ!

 

 悪役だから好感度が下がろうと、それでも僕は諦めない!

 

 絶対、好感度上げてやるんだ!!

 

 僕は首にタオルを巻き、雑巾掛けを再開するのだった。

 

 

 

 

「男性が肌を見せるのはあまり良くないとお伝えしようとしたのですが……」

 

 恭子のそんな重要な呟きを、玲人は聞くことはできなかったのであった。

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