6度も処刑されて破滅した悪徳貴族、7度目の人生は流刑地で最強の王を目指す 作:わんた
「騒がしいな。何が起こった?」
カウンターの奥から一人の男が出てきた。顔に切り傷がある。見た目だけじゃなく、実際に戦える戦士のようだ。腕試しをすれば、楽しい時間を過ごせるだろう。
内心では戦いたいと思いながらも、今は話し合いの時間だと自分に言い聞かせる。
「冒険者ギルドの登録に来た」
「あぁ? お前、それで人を殺したのか?」
気絶している受付の人を椅子に座らせながら、視線は俺が両断した死体に向かっている。
「喧嘩売られたのだから買って、尋常に戦った。それだけだ」
もし犯罪だと言われたら……と思ったが、ここは王国法の適用されない島だ。今回の殺人は問題ないはず。
「なるほどねぇ……俺はギルドマスターのハンク。お前は?」
「シエン・ド・エンフォール……いや、今はただのシエンだ」
裁判で貴族の地位は剥奪され、家名は無くなった。今の俺はただの平民である。
「国家反逆罪で送られてきた男か。聞いていた以上にヤバいやつだったんだな」
「誰から聞いたんだ?」
「食料や必需品を送ってくれる輸送便があるんだ。そいつらが言ってたんだよ。シエンという男は、犯罪者が裸足で逃げ出すほどの凶悪な人間だってな」
俺は何もしてなかったので、家臣たちが悪い噂を流したんだろう。それを信じた王家が国家反逆罪として捕まえ、流刑地にまで伝わると。
エンフォール家は最悪だな。お家取り潰しになって正解だ。
事情を把握して納得していると、ハンクが金属プレートを投げ渡してきた。
「お前のギルドカードだ。ランクは最下位のD。魔物の討伐数が一定数を超えるとC、B、Aと上がっていく」
「これで俺も冒険者ギルドの会員になったのか?」
手続きがあまりに簡単なので、不安になって聞いてみた。
「そうだ。村の中で人を殺したら会員の資格は剥奪するし、冒険者ギルド総出で捕まえる。二度とこんなことをするんじゃないぞ」
村の外は魔物がひしめく場所だ。追い出されたら生活できない。
今回の件は見逃してくれるらしいので、ハンクの顔を立てて従っておくか。
「わかった。村の中では殺さない」
「頼んだぞ? 魔物と戦う戦力がなくなったら、村なんて簡単に滅んでしまうんだからよ」
ああ、そうか。大陸とは違って人が少ないのだ。戦力が減れば全滅ってこともあり得る。
そうなれば無力な人たちも死ぬ訳か。よろしくないな。
「わかった。村の外でも襲われ無い限り、こちらからは手を出さない。これでいいか?」
「ああ、そうしてくれ」
前向きに回答したのが良かったのか、ハンクはようやく笑顔になった。
「死体の処理はこっちでするから、コレを読んでおいてくれ」
渡されたのは木の板だ。冒険者ギルドのルールが書かれている。
「シエンがいると他のヤツらが入りにくい。見ていないで外へ行け」
厄介者として追い払われてしまった。
建物の外に出ると遠くから人が見ている。ひそひそと話されていて、誰も近づこうとしない。俺が冒険者ギルドで人を殺した噂が広がっているのだろう。
復讐に来るなら歓迎してやる……と言いたいが、ギルドマスターと約束したので、村の中であれば行動不能で終わらせてやろう。
外に出たら容赦しないがな。
後をつけられてないか気にしながら歩き、宿の看板を見つけたので中に入る。
「いらっしゃい」
宿の受付をしている妙齢の女性は、営業スマイルを浮かべていた。
一階では食事が出来るようで、スープやサラダ、パン、肉を食べている人がいる。人類がほとんどいない島だというのに、大陸と変わらない食料が手に入るようだ。
ギルドマスターが言っていた輸送便のおかげで、食事は悪くないのだろう。見方を変えると、王家の考えが変わってしまえば、こんな島はすぐにでも終わってしまう。
俺たちは非常に危うい立場である。それを忘れてはいけない。
「一泊飯付きでお願いしたい」
「大部屋で銀貨5枚だね」
「高くないか? 大陸なら個室が借りれる値段だぞ」
「ここに個室なんてないよ。金額に納得いかないなら野宿でもしな」
大陸とは、宿事情は違うようだ。場所が限られていることもあって、個室は金を出しても手に入らないらしい。
犯罪者と同室なんてリスクはあるが、他に選択肢がないので諦めるしかないだろう。
「大部屋で頼む」
銀貨5枚を置くと、受付の女性は受け取った。
「飯はいつでも食べられるけど、パンとスープだけだからね。肉やサラダは銀貨1枚の追加料金だ」
初日から贅沢をする必要は無い。特に肉は魔物を狩ったついでに食べられるだろうから、ここは節約すると決める。
「追加料金なしで飯を用意してくれ」
「あいよ」
近くの席に座って待っていると料理が配られる。スープにはクズ野菜が入っていて、パンは硬い。ふやかしてから食べると、しっかりと塩味があった。
早めに食事を終わらせると二階に上がる。
大部屋が一つだけがあった。寝具なんて上等な物はない。床の上に寝転がっている冒険者が何名かいる。壁際は既に満杯だ。過ごしやすい場所は空いてないようなので、適当なところに腰を下ろし、外套を布団代わりにする。
横になりながら、冒険者ギルドでもらった木の板を見ることにした。
村で暴れるなといった基本的なことが少しと、主に魔物の素材について書かれている。
剥ぎ取った素材はギルドでしか売れないようで、金額も決まっている。質が悪ければ定価から値下げされるので、丁寧に扱うようにとのことだ。
魔物を討伐しただけじゃ金にはならないので、剥ぎ取りは重要だな。
また、たまに冒険者ギルドから依頼が出るらしく拒否権はないとのこと。もし断れば大陸から処刑人がやって来るらしい。戦ってみたいが、追われる身となってしまえば自由は失う。
今はギルドのルールを守るべきだろう。
読み終わったので木の板を床に置く。
思っていたより移動の疲れがあったようで、昼過ぎだというのに眠くなっていた。
金はあるんだから、魔物との戦いは明日からで良いか。無理せず眠ることにした。
……ん?
気配を感じて目を覚ます。
腰につけたポーチへ手を伸ばす姿が目に入る。若い男だ。体は痩せていて目がくぼんでいる。
「盗みか?」
「ゆ、許してくださいっ!」
起き上がろうとしたら、盗人の男は階段を降りて逃げてしまった。ポーチの中を確認すると中身は無事だ。追う必要は無いだろう。
薄暗い周囲を見ると20~30人ぐらいが横になっていた。村にある宿は一つしか無いため、恐らく8割ぐらいの冒険者が集まっているはず。残りの2割は、家を用意できたランクの高い冒険者だろう。
思っていたよりも数が少ない。確かに数人死んだだけでも戦力は大幅にダウンする。
ギルドマスターの懸念はもっともか。
冒険者に喧嘩を売られても決闘は我慢しよう。行動不能にするのも避けた方がいい。
圧倒的な力を見せつけて襲う気を失せさせるのが最善だ。
よし、早めに大型の魔物を倒して、周囲に実力を認めさせよう。そうすれば不要な争いは減るはず。
突き刺すような視線を送る二人さえいなければの話だが……。