6度も処刑されて破滅した悪徳貴族、7度目の人生は流刑地で最強の王を目指す 作:わんた
朝日が昇ると宿を出た。少しひんやりとした空気を吸い込み、体を伸ばして意識を完全に覚醒させる。
所持品を確認すると食料と水がなかったので、店で昼飯用の干し肉と水袋を買って村を出ることにした。
俺みたいに朝早くから動く冒険者は多いようだ。村の外には複数パーティの姿が見える。
遠巻きに見ているが、こちらに近づいてくる気配はない。冒険者ギルドの騒動を知って警戒しているのかもしれない。取り入ろうとしてくるヤツがいない分、気が楽で良いが、宿で感じた鋭い視線は続いている。
襲ってくれば返り討ちにしてやろう。
村を出て少し歩くと森があった。こういった場所に魔物が多くいるんだよな。
獲物を求めて中へ入っていくと、すぐに緑肌の小鬼――を見つけたので、相手が気づく前に近づいて大剣で叩き潰した。
頭にある小さな角が薬の素材になるのだが、俺の攻撃によって砕け散っている。回収は不可能だ。
「倒すのは簡単だが、素材を剥ぎ取れるよう残しておくのは大変だな」
俺がこの体に入る前は、傭兵として各国の戦争に参加していた。
敵の武具は壊れても売れたし、人を殺して勝てば金がもらえたので、殺し方なんて意識したことはなかったな。
大将を殺した証明が必要になったら首から上を持っていけばいいので、殺し方に気をつかう必要はなかった。多少、頭が欠けていても人相が分かれば金はもらえたからな。
だが魔物は、殺しただけじゃ金にならない。
必要な素材を持ち帰らなければ働き損になる。
あぁ。そういえば素材を入れる袋も持ってこなかった。戦って殺すだけで金がもらえる傭兵とは勝手が違って戸惑う。
一度村に戻って背負い袋を買うべきだろうか?
金貨を持っているので、資金は足りるだろう。まだ森の入り口付近だし、たいした手間じゃない。よし戻ろう。
振り返ると男が二人立っていた。槍を持っていて穂先を俺に向けている。
随分と前から鋭い気配を感じていたので驚きはない。
「何者だ? と、一応は聞いておこう」
大剣を地面に突き刺して敵意がないことを示す。
冒険者はなるべく殺してはいけないとわかったので、最初から攻撃するのは避けたのだ。
「ボスの敵討ちだよ!」
「たった二人でか? 思いのほか慕われていたんだな」
冒険者ギルドでの噂を聞いていれば、たった二人で敵討ちをしようなんて思わないはず。それなのに俺の前にいるのだから、俺が殺した男と目の前にいる二人は親密な関係だったんだろう。
死を覚悟して戦いを挑むぐらいには。
「ボスはなぁ。村に来たときから一緒に戦ってきたんだ! 他のパーティに虐められていたときも助けてくれた。優しい人だったんだ! それなのにお前は、あんな殺し方をしやがって……」
涙目になりながら、俺が殺した男について語り出したが、戦場では色んな戦士を殺してきたので、この程度じゃ心には響かない。
それにだな……。
「あの男は戦士として俺の前に立ったんだ。戦って死んだことを文句言うなんて、お前のボスを愚弄しているようなものだぞ」
「ふざけるな! あんなの戦いじゃねえ!」
「手打ちを拒否したんだから戦いだ」
「ゲイル、もういいだろ! こいつに話は通じない。もう殺そう」
二人とも覚悟を決めたのか口を閉じた。
腰を落としてじわりと近づいてくる。
これを俺は戦闘開始の合図とした。大剣は地面に突き刺したまま、手を前に出す。
『エネルギージャベリン』
シエンは属性魔法の才能は無かった。その代わりに無属性が使える。
青白い魔力の塊を槍の形にすると周囲に浮かべる。合計で10本だ。
これだけ魔法を使っても最大魔力量から考えれば、ほとんど減っていないのだから驚きだ。シエンの体は才能の塊だったんだな。
ただ、使い方と敵が悪かった。それだけで何度も処刑されたのである。
「魔法だと? 剣士じゃなかったのか?」
槍を持った二人は怯えているが、かまわずエネルギーの槍を放つ。
速度は矢を超える。なんとか槍で一本打ち払ったようだが、残りは全身に突き刺さった。
「こんなの……きいて…………ねぇ」
二人とも仲良く倒れた。
傭兵時代なら武具を回収するのだが、俺が殺したと思われたくないので放置する。近くにいる魔物が食い荒らしてくれることだろう。
地面から大剣を引き抜いて村に戻る。
雑貨屋はすぐに見つかった。寝袋や薪、調味料などが売っていて、俺は銀貨3枚も出して大きめの背負い袋を購入する。
店の外へ出て再び森に向かおうとすると、目の前に子供が飛び出し、足を地面につけて頭を下げた。
「お願いします! 狩りを手伝わせてください!」
年齢は10を少し越えたぐらいだろうか。髪を後ろに縛った、中性的に見える少年だ。
体の線は細く鍛えていないように見える。武器を振るうのも難しいだろう。
大陸で出会っていたら、考える余地もなく断っていた。
だが今は手伝いが欲しい。一考の余地はあると思っている。
「体力に自信はあるか?」
質問されたことで可能性があると感じたようだ。少年が顔を上げた。
美男子だ。貴族令嬢が見たら手に入れたいと思うほどである。
「はい! 何時間でも歩けます! こう見えても力はあるので、重い荷物だって持てます! ですから同行させてください! それで狩りが上手くいったら、銅貨でもかまいません。ほんの少しでも報酬をいただけると嬉しいです!」
俺を見る目、そして顔は覚悟を決めた人特有の力強さがあった。
目の前にいるのは無力な少年ではない。戦士である。
であれば、相応の扱いをするべきだ。
「剥ぎ取りの知識はあるか?」
「冒険者の方に何度も同行したことがあるので自信があります!」
ゴブリン程度なら素材の知識はあるが、この島特有の魔物だったらお手上げだ。
この少年は俺の足りないところを補ってくれそうである。
「お前が持つ知識と荷物持ちに期待して、報酬の半分をやる。役に立ったら明日以降も雇おう。それでいいか?」
「兄貴! そんなにもらっていいんですか!?」
「なんだ? 兄貴って……」
「子分になったんで兄貴と呼ばせてください!」
キラキラと目を輝かせて言われてしまった。
俺は悪意のない純粋な好意に弱い。断るのも気が引けるので好きにさせるか。
「俺の名前はシエン。呼び方は好きにしろ。お前の名前は?」
「ジュリアンです!」
「良い名前だ。すぐに行くぞ」
「はい!」
立ち上がったジュリアンに買ったばかりの背負い袋を渡す。
村から出て再び森の中へ入っていった。