魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
「どういうつもり! みことにバレたのはあなたがバラしたからでしょ!」
ほむらが後から入ってきたいろはの襟元を掴み、問い詰める。
「記録(Record)されてるのよ。マギアレコード――時間も出来事も隠せない」
「何?」
やちよがほむらの肩を押さえる。
「挟み撃ちよ」
「挟み撃ち?」
「時間の前と後ろからの挟み撃ち。逆行みことは未来の情報を、順行みことは過去の情報を利用してる。誰かが話したわけじゃないわ」
「あなたたちは?」
「みたまさんが呼んだの」
いろはが答える。
「でも、グリーフシードの場所を話したのはマズいよ…」
「心配ない。あれは嘘よ」
ほむらの言葉に、いろはが安堵の息を吐く。
「嘘とはね」
「このくらい普通よ。みことなら、どの道アリナを刺してた」
ほむらが部屋の魔法少女たちを見回す。何人かが回転ドアや部屋を調べている。その中に、緑色の髪をツインテールにした少女がアリナを手当てしている。
「さな、アリナはどう?」
さなと呼ばれた少女が答える。
「もって数時間…です」
「いろは、治癒魔法で治せない?」
ほむらの問いに、いろはが首を振る。
「多分無理。逆行攻撃だから治癒しても逆に傷が広がっちゃう」
「このまま見捨てるしかないの…?」
ほむらの目に回転ドアが映る。
「逆行よ。逆行させれば、『数時間後』は永遠に来ない。命は助かるかも」
いろはの提案に、やちよが答える。
「それは無理ね。仮に逆行しても、順行に戻る方法がない。この回転ドアはさっきまで敵の支配下だった」
「自由港にも同じものがあった。そこなら戻れるわ」
「そこも無理よ」
「いや、先週は違った」
いろはがほむらの顔を見て、考えを察する。
「先週、私たちが貨物機で自由港に突入した。あのタイミングなら侵入して順行に戻れるかも」
やちよもほむらの意図を理解する。
「分かった。全員集合! これから逆行する。さな、アリナをこちらに」
さながアリナをストレッチャーに乗せ、ほむらたちの部屋に運ぶ。
ほむらがガラス越しの部屋を見ると、後ろ歩きで入ってくる集団――逆行のほむらたちだ。
順行のほむらたちは回転ドアに入り、世界が逆行を始める。回転ドアから出ると、ガラス越しに順行のほむらたちが離れていく。
「容態が安定してきました。ソウルジェムの濁りも逆行して透き通り始めてます」
さながやちよに報告する。
「私たちはこのまま過去に戻るわ」
「なら、私はグリーフシードをなんとかしてくる。いろは、過去の自由港までの移動手段を考えて」
「本気?逆行中に外に出たら命の保証はできないわよ」
やちよがほむらを心配する。
「起きたことは仕方ない。でも、やるしかない」
「そうね…ももこ、彼女に教えてあげて」
やちよがももこと呼ばれた金髪ポニーテールの魔法少女に指示する。大きな鉈を手に持つ彼女が答える。
「逆行中は全てが逆行する。変身してる間は大丈夫かもしれないけど、変身解除に備えて酸素マスクをつけて」
「なぜ?」
「逆行した空気じゃないと窒息する」
ももこがほむらに酸素マスクとボンベを手渡す。
「熱も風も全て逆行してる。摩擦もね。防護服を着た方がいい」
「必要ないわ」
「そうかい。一番大事なのは、過去の自分に絶対接触しないこと」
「なぜ?」
「同じ粒子同士が接触すると対消滅する」
ほむらがマスクを装着し、外の扉に向かう。ももこが酸素ボンベをほむらの腰に結ぶ。
「世界は順行してる。逆行は君だけだ。準備はいい?」
ももこが合図し、ほむらが頷く。
内側の扉が閉まり、ほむらが外側の扉を開ける。
世界の全てが逆行していた。風が土埃を地面に落とし、鳥は尾を先にして飛ぶ。
ほむらが周りを見回す。扉の先は駅に隣接する貨物倉庫のプラットフォームだ。
着発線に、バックするように走る貨物列車が見える。
ほむらが線路を走り、貨物列車に飛び乗る。逆行の風が顔を叩く。無蓋車を一両ずつ越え、最後尾――逆行では先頭車両――に近づく。
瞬間、世界から色と音が消える。ほむらが見上げると、順行のほむらがアリナを抱え、逆行する回送列車から別の列車に飛び乗っている。順行のほむらと無蓋車の逆行ほむらの目が合う。順行のほむらが窓ガラスを破り、アリナの列車から回送列車に戻る。世界が動き出す。
ほむらが寸刻前の出来事を反芻する。この先に起こるのは――。
アリナの列車の外側に別の列車が並走。天井にみことと手下が現れ、アリナの列車に飛び乗る。
ほむらが無蓋車を確認。鉄屑の中に銀色の立方体――グリーフシードが輝く。
取り出そうとすると、グリーフシードが急に動き出す。落とした瞬間、車内で激しく飛び跳ねる。やっと掴むが、グリーフシードがほむらの頭上へ持ち上がる。目の前に回送列車。ほむらの思考が繋がる。この後は――。
オレンジのケースが頭上を飛び越し、回送列車に入る。
順行のほむらと目が合う。グリーフシードが手を離れ、順行のほむらの手に舞い戻る。順行のほむらがケースに収める。
逆行のほむらが振り向くと、みことが凝視していた。
瞬間、紫の光が視界を染める。
身体が宙を舞い、上下左右が曖昧になる。気づけば、ほむらは線路に倒れていた。視界の端に離れていく貨物列車と回送列車。
「ずいぶんやってくれたわね」
みことがしゃがみ、ほむらの顔を見る。逆光で表情は見えない。ほむらの体は衝撃で動かない。
「でも、これで『アルゴリズム』が揃ったわ。帆奈?」
みことが帆奈に指示。ほむらの頭と体に液体がかけられる。刺激臭――ガソリンだ。
みことが立ち上がり、線路を離れる。ガソリンの染みに火のついたライターを落とす。
炎が走り、ほむらの体を包む。もがくが、次第にほむらの全ては凍りついていった。