魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
ほむらが目覚めると、身体がアルミブランケットに包まれている。
「起きた? あの後、本当に大変だったよ」
いろはが声をかける。
「まさか燃やされて凍死しかけるなんて」
「逆行中だからね。熱も冷たい状態から暖かい状態に逆戻りする。エントロピーの逆転ってところかな?」
ほむらが周囲を見回す。寝ていたベッドのほか、いろはが腰掛けるベッド、アリナが横たわるベッドがある。窓のない壁に、生活必需品の棚が並ぶだけだ。
「ここ、どこ?」
「今は逆行中。あの日の自由港に戻るまで、この結界で過ごすよ。時間が来たらドアが開くようになってる」
「アリナは?」
ほむらの問いに、アリナが答える。
「超バッドなんですケド」
「そんな言葉が出るなら、だいぶ回復したみたいね」
ほむらがしばし俯く。
「結局…グリーフシードは渡したも同然ね」
「起きたことは仕方ないよ」
ほむらがいろはの顔を見る。
「隠し事のある子の言い分は、素直に受け止められないわ」
「情報は慎重に扱わないと。知らないことが武器になることもあるよ」
「まだ、私はいろはのこと何も知らないわ」
「これから知ればいいよ。私も、ほむらちゃんがここまで他人を助けられるって初めて知ったし」
「誰にでもするわけじゃない」
「でも、誰かはいるんでしょ?」
いろはの問いに、ほむらが黙り込む。
「魔法少女って二種類しかいないよね。誰かのために魔法少女になったか、自分のために魔法少女になったか」
「そうね…確かに私は誰かのためでもあるけど、自分のためでもある。いろははどう?」
「私は…もう忘れちゃったかな」
「それ、嘘ね」
ほむらといろはが顔を見合わせて笑う。
「アリナは全然笑えないんですケド?」
アリナがぼやく。
「どうして人質になってたの?」
「ちょっと言い争いしちゃって…アリナは滅びの先が見たかっただけなのに、みことは『絶望の先には何もない』って譲らなくて…わけわかんない。それで、気づいたら拘束されて電車の中」
「滅びとか絶望とか、一体何?」
「みことは自殺したがってる。アリナがみことに近づいたのも、それが理由。みことは自分の命と世界の行く末が一致してると思ってるみたい。あり得ないんですケド〜」
「絶望、ね…」
「あー、いちごミルク飲みたい! フールガールの…」
「ねえ、ちょっと静かにして? お姉ちゃん、今やってるんだから」
いろはが子供をたしなめる口調でアリナに言う。
「お姉ちゃん?」
ほむらが驚いて繰り返す。
「あー、なんか癖なんだよね…私に妹なんていないのに…」
いろはが照れた顔をする。
「これが一段落したら、お互いの人生をもう少し語るのもいいわね」
ほむらが呟く。
「ところで、『アルゴリズム』って何? あの時、みことが言ってたけど」
「『アルゴリズム』は時間逆行の核心技術。あの立方体のグリーフシードがその一つで、全部で8個」
「それが揃うとどうなる?」
「世界全体の逆行が起きる。時間の矢が反転して、未来が消え、同時に過去も消える」
「世界の終わりってことね」
「フールガールも…」
「さっきから言ってるフールガールって誰?」
ほむらの問いに、アリナが寝返りを打ち、顔を背ける。
「…友達。アリナの」
ほむらがベッドに寝転がり、天井を見上げる。
「ねえ、いろは」
「何?」
別のベッドで横になるいろはが答える。
「私たち、今、未来人よね。過去の私たちを殺したらどうなるの?」
「答えはないよ」
「答えがない?」
「パラドックスだよ。みことたちも同じ。過去に戻って自分や先祖を殺しても影響はないって信じてる」
「まだあるわ。今、私たちがこうして生きてるってことは、未来では何も起こらなかったってこと?」
「楽観的に見れば、そうだね」
「でも、みことたちもそれは分かってるんでしょう?」
「自分たちの行動で結末が変わると信じてるんだと思う。それが悲観的シナリオかも。パラレルワールドの理論なら、人の意識は多元軸の世界を認識できないからね」
「そうね…」
ほむらが自分の時間遡行能力を考える。確かに、時間遡行で過去を変えたことはある。だが、記憶するのは常にほむら一人。遡行は特定の時間のほむらの精神に憑依するようなもので、別のほむらが出現するわけではない。そして、結末はまだ変えられていない。
考えがまとまらない。
「世界は、あらかじめ決まってるのかしら…」
「それ、決定論?」
いろはが反応する。
「確かに、運命に決められてるかもしれないけど…私たちは魔法少女。奇跡も魔法もあるんだから、自由に未来を決めてもいいよね。その方が私は好きかな」
「そうね…」
「到着まで寝よっか? おやすみ」
数日『前』の自由港まで、ほむらは身体と心を休めた。