魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
転移魔法の窓が開く。ほむらたちは光をくぐり、世界を超える。開いた先は廃墟の街、福浜市だった。
魔法少女部隊が街を駆ける。横を見ると、転移魔法の窓から後ろ歩きで進む、青い腕章の魔法少女たち。だが、いろはの姿はない。
無数の攻撃がほむらたちを襲う。光弾、火炎、氷、風。ほむらたちも応戦する。
「前進!」
やちよの合図で、部隊が進む。
瓦礫が集まり、元の壁に戻る。逆行の攻撃が突き刺さり、壁が元に戻る。
ほむらが左右を見回す。青い腕章の逆行部隊と、赤い腕章の順行部隊が入り乱れる。
街中の鏡から、魔法少女らしき人影が飛び出したり、後ろ向きに入ったりする。
「ミラーズよ! 注意!」
敵の魔法少女は、ほむらたちと似ているが、ガスマスクも白いマントも腕章もつけていない。識別は容易だ。
ほむらたちは攻撃をいなし、爆心地へ進む。
いろはたちの逆行部隊も敵と交戦しながら前進する。
いろはは爆心地近くの結界の入り口を見据える。トンネルのような入り口だが、穴は埋まっている。周囲に鏡の破片が散らばる。
「あれが入り口…?」
「そうだ」
逆行部隊のリーダー、十七夜が答える。
「来るぞ!」
十七夜の言葉と同時に、無数の攻撃が襲う。
いろはは攻撃をかわし、結界の入り口を見続ける。鏡の破片が集まり、一枚の鏡になる。そこから後ろ歩きで紫色の魔法少女――順行の更紗帆奈が出てくる。
いろはが意図を察し、駆け出す。十七夜の静止を振り切り、敵の回転ドアへ向かう。
敵の施設に回転ドアがあり、みことの手下たちが後ろ向きで出て行く。
いろはは順行側のガラスを見る。回転ドアに入る順行のいろはが見えた。飛び込み、世界が順行に戻る。
回転ドアから出て、爆心地近くの結界の入り口へ駆ける。このままではほむらとやちよが閉じ込められる。止めなければ――。
アリナとさなが大東団地E棟を見上げる。日が傾き、団地は夕陽に照らされている。
「合図までは…何もしないでくださいね」
さながアリナに注意する。
アリナは頷き、団地の階段を登る。向かう先は屋上。さなは1階で待つ。
屋上では、喪服のような黒いドレスの少女がデッキチェアに腰かけている。変身した瀬奈みことだ。
「今日は…呼んだっけ?」
「アイに来た」
「なら、こっちにおいで」
みことが優しい声で応える。
デッキチェアに座るみことは、アリナを抱き寄せ、頬を触り、髪をかき上げる。
「なんか嬉しそう。いいことあった?」
「そうね」
みことが摘む銀色のカプセルをアリナが見る。
「何それ?」
「『――こんなふうに世界は終わる。爆発ではなくすすり泣きで』」
みことが呟く。
「もうすぐ始まるわ。全ての魔法少女が死に、そして始まる。もう二度と絶望なんかしない」
みことがスマートフォンで通話を始める。
ほむらとやちよは攻撃を掻い潜り、爆心地近くの結界の入り口――鏡に辿り着く。
「そこよ! 全員援護!」
やちよの指示で、魔法少女たちが反撃する。
ほむらとやちよは陽動を利用し、鏡へ一直線に走る。
鏡に飛び込み、結界トンネルに入る。
後ろから誰かの叫び声。
「待って! 待って!」
ほむらが振り返ると、鏡にヒビが入り、結界の入り口が崩れる。
「閉じ込められた!」
「進むしかないわ…」
ほむらとやちよは結界トンネルを走り抜ける。
いろははほむらとやちよを止めようと結界の入り口に飛び込むが、間に合わず、入り口が砕ける。
思考を巡らせる。この後起きる出来事は――。
爆心地の穴と、近くに停まる一台の車を見る。
ほむらとやちよを助けるため、いろはは再び爆心地へ駆ける。
ほむらとやちよが結界のトンネルを駆け下りる。薄暗い通路の先には鉄格子があり、その向こうに開けた円形の空間――「アルゴリズム」の核心が安置されている。
天井から差し込む光が、岩の床に置かれた黒い箱――未来へ送るタイムカプセル――を照らす。その奥には深く暗い穴が口を開ける。天井には爆薬が設置され、カウントダウンが始まっている。
ほむらが時計を確認――『4:06』、『4:05』。やちよが鉄格子の電子ロックを調べる。
鉄格子越しに、白いフード付きマントとガスマスクを着た青い腕章の魔法少女が倒れている。ほむらはその魔法少女に手を伸ばして調べるが、動きを止める――ピンク色の長い髪が伸びている。
「ほむら、ロックは開けられる?」
やちよの声が響く。
「そのロックは外せないよ」
雷が走り抜けた。やちよに命中し、崩れ落ちる。
更紗帆奈が鉄格子の向こうから電撃の走るマンキャッチャーをほむらに向け、通信機を差し出す。みことの声がトンネルに反響する。
「私の全てが始まり、君の全てが終わる場所。気に入った?」
帆奈はほむらの銃を奪い、やちよの槍を鉄格子越しに押し出させる。武器を穴に投げ捨て、通信機を鉄格子近くに置く。
ほむらの声が冷たく響く。
「あなたの過ちを世界に巻き込まないで」
「過ちじゃない。私は取引をした。あなたはどう? 理解できない使命のために戦ってる。信頼できない仲間には何も話さず、情報も与えない。私が死ねば世界も死ぬ。あなたも、あなたの情報も死ぬ。これまでの全ての魔法少女と同じように、理を守るために世界に埋葬される」
大東団地の屋上。みことがスマートフォンに語る。夕陽が世界を赤く染める。
「あなたはイかれた妄信者よ」
「世界を壊そうとする方がイカれてるわ」
「壊すんじゃない。新たな世界を創るの。ある日、どこかで、魔法少女が魔女に孵化して世界の破滅を引き起こし、同時に回避する。エントロピーが逆転するのよ。磁極が過去183回反転したように、時間そのものが方向を変える。二度と絶望は生まれない」
みことは夕陽を見つめる。
「今、私たちが生み出した絶望が、何世代も後の子孫の希望になるわ」
ほむらが時計を確認――『2:12』、『2:11』。
「どうして私たちの世界を壊す?」
「世界は絶望に染まってる。分からない? 私たち魔法少女に未来はない。だから戻るしかない。私たちがその原因よ。魔女も、ソウルジェムも、グリーフシードも。それを知っても、私を止めたい?」
「どんな時でも、私たちは運命に抗って生き延びようとしてるわ」
「それがまさに彼らのやってることよ」
「でも、あなたは違う。自分の人生を終わらせるために、すべてを巻き添えにしようとしてるだけ」
「私が終われば、命は続く」
ほむらは帆奈が「アルゴリズム」を組み立て、箱に封印するのを見る。
「あなたは神も新しい未来も信じてない。自分以外何も見ようとしない」
「くだらない。それが私の全て。それ以外の信念(TENET)は持ち合わせてないわ」
「信念がなければ人間じゃない。ただの狂人よ」
「それとも神? もしくは悪魔?」
「悪魔でしょうね」
ほむらは倒れたやちよを見る――彼女の手がわずかに動く。
帆奈が「アルゴリズム」を黒い箱に封印し終える。
「時間切れよ」
みことの声が冷たく響く。
「やめなさい! 待って! やめて!」
帆奈が黒い箱を持ち上げ、ウィンチに繋ぐ。ほむらは足元に光る砂のようなものが集まるのを見る。砂は破片へと逆行していた。
帆奈が箱を穴の上に吊り上げ、ウィンチのスイッチを手に取る。
「帆奈?」
帆奈が止めてほむらを見る。
「終わらせて」
言葉と同時にマンキャッチャーが電撃を放ち、帆奈が突進する。
ほむらが俯くと、光る宝石のような破片が白いフード付きマントの魔法少女へと集まる。
瞬間、倒れていた魔法少女が「蘇り」、ソウルジェムの割れる音が逆向きに響く。彼女はほむらを守るように立ち、帆奈の電撃を吸収して横に飛び、鉄格子を内側から開ける。
ほむらが空いた鉄格子から滑り込み、襲いかかる。帆奈は背を向け、ウィンチのレバーへ走る。
帆奈の背中に追いつき、レバーの手前でもみ合う。
昏倒していたやちよが立ち上がり、時計を確認――『1:07』、『1:06』。鉄格子が開いている。
ほむらは帆奈を殴り、レバーから引き剥がす。
レバーに手を伸ばそうとした瞬間、ほむらの蹴りが帆奈の体に突き刺さる。
帆奈はバランスを崩し、倒れ込む。帆奈の首を掴み、穴へ投げ込む。体は宙を舞い、奈落へ消えた。後には帆奈の悲鳴だけが残響する。
やちよがほむらの横に駆け寄る瞬間、ロック音が響く。逆行魔法少女がドアに鍵をかけ、後ろ向きに結界から去ってゆく。
「閉じ込められたわ」
「とにかく、アルゴリズムを…」
ほむらとやちよは吊られた黒い箱を下ろす。
屋上。
「もう終わり」
アリナがみことの手からスマートフォンを奪う。
「どうして?」
「アンタの計画」
アリナが立ち上がり、みことから距離を取る。
「何のつもり?」
「前に言ったヨネ? 未来には滅びしかない、絶望の先には何もないって。でも、アリナ、分かっちゃった」
みことの目がアリナを睨む。
アリナはシャツをたくし上げ、下腹部の傷を見せる。
「未来は、絶望だけじゃない」
みことが全てを悟り、叫ぶ。
アリナがみことへ駆け、みこともアリナへ駆ける。
光線が飛び交い、流れ弾でデッキチェアが壊れる。
二人がすれ違う。
アリナは背を反らし、みことを振り返る。
「アンタのその顔、最高の作品だよネ。サヨナラ」
ソウルジェムの割れる音が屋上に響く。
みことの黒いドレスが大東学園の制服に変わる。蒼く昏い瞳の瞳孔が開ききる。
体が崩れ、支えを失って屋上から転落。瀬奈みことは絶命した。
さなが1階からその様子を確認し、スマートフォンでやちよに連絡する。
「やちよさん! 大変です! アリナが…みことを…」
「まずいわね…」
やちよとほむらが顔を見合わせる。
アルゴリズムは確保したが、脱出手段がない。爆薬のカウントダウンがゼロに近づく。
突然、天井の穴からロープが垂れ下がる。
「これは…?」
「いろはよ」
ほむらはロープに自身とアルゴリズムを結びつける。やちよもロープに体を固定する。
ロープが引かれ、二人とアルゴリズムが地上へ引き上げられる。
カウントダウンがゼロに達し、爆炎と衝撃波が襲う。
ほむらはアルゴリズムを抱えながら、穴と衝撃波に揉まれ、そして虚空に放り出される。
地上だ。