魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
ほむらが周囲を見回すと、目の前に車と、そこから伸びるロープ、そして嬉しそうな顔のいろはがいる。
「作戦、成功したみたいね」
いろはが近づき、ガスマスクを外す。瞳は穏やかだが、どこか遠い光を宿している。
「逆行したままかと思った」
「途中で順行に戻ったの。ほむらちゃん、ここで助けが必要だったから」
「地下でも助けが必要だったわ」
やちよが起き上がり、ほむらに問う。
「どうやってあのロックを開けたの?」
「私じゃない」
「そう…いろはのチームは大丈夫だった?」
「次の通過で合流するよ。ね、やちよさん?」
やちよは息を整え、頷く。
「そうね…少し休めば」
ほむらが「アルゴリズム」に手を伸ばすと、やちよが素早く引き寄せる。
「生きては戻れない任務、ね」
ほむらが呟く。
ほむらといろはが見つめる中、やちよは立ち上がり、「アルゴリズム」を手に平原を見渡す。
「誰も見てない。ちょうどいい」
やちよは「アルゴリズム」を三つのパーツに分解し、ほむらといろはに一つずつ投げる。
「これを見た者は、普通の世界には戻れない。隠して、私たちの命が終わるまで守る。それが確実な方法よ」
やちよが静かに続ける。
「でも、いつかは…自分で決めなさい」
「私たちを殺さないの?」
いろはの問いに、やちよが真剣に答える。
「見つけたら殺すわ」
「でも、あんまり熱心には探さないよね?」
「いや、絶対に探す」
いろはは小さく笑い、首を振る。やちよは平原の向こう、遠くに現れた転移魔法の窓へ歩き始める。ほむらといろはは彼女の背中を見送る。
いろはがふと思い出したように呼び止める。
「やちよさん、待って!」
いろはは自分の「アルゴリズム」のパーツを取り出し、ほむらのパーツに取り付ける。
「本当に戻るつもり?」
「あの扉を時間通りに開けられたのは私だけ、そうだよね?」
やちよがいろはを振り返り、測るように見つめる。
「あの扉は、いろはじゃないと開けられないわ」
いろはがほむらに向き直る。
「ほらね、やっぱり私の役目。だから戻って、また過去を作るの」
いろはがはにかむ。風にピンク色の髪が揺れ、ほむらの記憶が一本の線で繋がる。
「いろは、待って」
「私たち、世界を救ったよ。これは偶然じゃない」
ほむらは葛藤する。いろはに起きる出来事を思い出し、胸が締め付けられる。
「でも、変えられるんじゃない? 違うやり方で…?」
いろははほむらの苦しみを見て、優しく答える。
「起きたことは仕方ない。この世界の理でも、何もしないことの理由にはならない」
「それは…運命なの?」
「ほむらちゃんには」
「いろはにとっては?」
「現実だよ。もう行かなきゃ」
いろはが歩き出す。ほむらは涙を堪える。叫ぶ。
「ねえ!」
いろはが振り返る。
「どうしていろはが魔法少女になったのか、教えてくれなかったよね」
いろはが微笑む。
「もう分かったんじゃない? ほむらちゃんだよ。もっと先の話だけど、ほむらちゃんの未来は過去にある。私にとっては何年も前、ほむらちゃんには何年も後」
「ずっと…私を知ってた?」
ほむらが嗚咽する。
いろはが頷く。
「ほむらちゃん、ありがとう。あなたはわたしの、最高の友達だったよ」
「私にはまだ、いろはと出会ったばかり…」
「これは時空を超えた壮大な挟撃作戦なの。絶対に気に入るよ」
「誰の作戦?」
「ほむらちゃんだよ。今はその中間点。始まりの時にまた会おうね。それじゃ」
いろはは振り返り、やちよの後を追う。ほむらは彼女を見送る。
ほむらは手元の「アルゴリズム」を握りしめる。いろはの声が心に響く。
「世界を破滅から救う…でも、誰も気づかない…」
「例え気付いても、誰も気にしない」
神浜の雑踏の中で、ほむらはそう呟く。
ほむらの頭には赤いリボンが揺れ、耳の蜥蜴型のイヤーカフが鈍く光っている。
街頭ビジョンが見滝原市の豪雨災害を伝えている。
ほむらの視線が、雑踏の中の少女に注がれる。
ピンク色の髪をツインテールにした少女。黄色いリボンが揺れ、3歳くらいの男の子――まどかの弟――と手をつなぎ、楽しそうに歩いている。ほむらが求めていた少女――鹿目まどか。
「やあ、ほむら」
まどかを見つめるほむらの横に、キュゥべえが現れる。
「君が見つめるあの少女、時間逆行やエントロピーの減少と何か関係があるのかい?」
ほむらは答えず、懐からサプレッサー付きのグロックを取り出す。
「だとしたら、彼女も魔法少女にしなきゃいけないかもしれないね」
「いいえ」
くぐもった銃声が響き、キュゥべえの頭に穴が開く。
動かなくなったキュゥべえの体を踏み、ほむらが呟く。
「全ては私自身だったのよ。この作戦も、時間逆行も、この話全て。私が『主役』。これが私の『TENET』」
涙に溢れるほむらの瞳に、弟と手をつなぎ帰るまどかの背中が映る。
「――
ほむらの頬に一筋の涙が流れた。