魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
昔から病院は嫌いだった。外で遊ぶ子どもたちを見るたびに、なぜ自分だけ閉じ込められ、苦しい思いをしなければならないのかと問い続けてきた。
朝目覚めるたびの清潔すぎる天井、消毒液の匂い――全てが嫌いだった。
だが今、それらを感じられることに、ほむらはかすかな安堵を覚えていた。
知らず知らずに時間遡行を発動し、始まりの病室に戻ったのか――辺りを見回すと、隣に見知らぬ少女がいた。
「来世にようこそ、ほむらちゃん」
驚くほむらに、少女は話を続ける。
「大変だったのよぉ。劇場から救出したけど、薬で昏睡状態だったから。ソウルジェムを『調整』しておいたから、他の子にやられた傷も回復してるはずよぉ」
「じゃあ、あの薬は…」
昏睡までの暗い現実が、遡行もなく続いていることに、ほむらは気づいた。
「あれは私が用意したもの。全ては調整屋さんのテストってところかしらねぇ」
「テスト? 信じられないことをされたのに…それで見滝原の他の子たちは?」
ほむらの問いに、少女は首を振る。
「残念だけど…ほむらちゃんが悪いわけじゃない。仲間のために死を選ぶほどなんだから」
「燃えるビルに飛び込んで人を助けようとしても、炎の熱さを知れば誰もが怖気づく。でも、ほむらちゃんならきっとできる」
病室を出て、少女――調整屋の八雲みたまが根城とする廃映画館「神浜ミレナ座」の屋上に立つ。みたまが話を切り出した。
「誰に対してもする訳じゃない。私はもう行くけど」
「まどかのため?」
みたまの発言に、ほむらは振り返る。
「なぜ知ってるの?」
「調整屋さんは何でも知ってるわ。知らないこともね。」
内面を覗かれたことにほむらは怒りを覚えたが、みたまは話を続けた。
「でも、まどかちゃんのためにも、生き残るための任務をこなさないとダメよぉ。ほむらちゃんは一度死んだようなものだから」
「生き残る?」
「ほむらちゃんだけじゃない。私たち、ひいては人類全体の話よ」
「意図が分からない」
「過去と未来、希望と絶望、神と悪魔――これまで経験したことのない戦いよ。ほむらちゃんが『主役』に名乗り出なきゃ」
みたまはそう語り、両手の指を組み合わせて見せた。
「このポーズと『TENET(信念)』。今教えられるのはこれだけ」
「それだけ?」
「そう。情報の取り扱いは慎重じゃないとね」
ほむらはみたまの言葉に沈黙し、黙考する。
「私以外に、テストをクリアした魔法少女は?」
「合格者はあなた一人よ」
みたまに連れられた先は、神浜市沿岸の風力発電所群だった。海上に並ぶ風車がゆっくりと回転している。その一角にボートが停まる。
みたまの指示通り、数日間、二木市の襲撃を避けるためここに滞在することになった。
ほむらを送り届けたみたまのボートはすぐに沿岸へ戻り、ほむらは一人風車に残された。
風車の部屋には、数日分の生活物資、スクールバッグ、ほむらのグロックが置かれていた。
スクールバッグを開けると、白いセーラー服、教科書、ノート、筆箱、スマートフォン、そしてメモが入っている。メモにはみたまの字で約束の日時とスマートフォンのパスコードが記されていた。
生徒手帳には「南凪自由学園」と書かれている。どうやら、このセーラー服に着替えて南凪自由学園へ向かう必要があるらしい。
ほむらは心身の回復と魔力・体力のトレーニングを行い、この奇妙な周回について考えを巡らせた。
思えば異常な周回だった。探すべきまどかは見滝原に不在で、杏子、マミ、さやかがすでにコンビを組み、魔女狩りを行っている世界。魔女化の真実が広まり、毒薬まで用意されていた事実。
極めつけは魔女の減少だった。
ある日、魔女の数が極端に減り、グリーフシードの予備が底をついた。
そんな中、キュゥべえが持ち込んだ話に、4人は飛びつくしかなかった。グリーフシードを回収できなければ、毒薬を飲んで死ぬしか道がなかったからだ。
キュゥべえ曰く、神浜市に魔女が集結し、グリーフシードが取引で入手できる可能性があるという。
見滝原のリーダーだったマミは、自身のルートでこの話に探りを入れ、市立劇場でのグリーフシード奪取の情報を得た。
結局、それは罠だった。ほむらだけが生き残る結末を迎えた。
幾度となく杏子、マミ、さやかの死を見てきたほむらにとっても、これほど異様な事態は初めてだった。
神浜市の魔法少女、「マギウスの翼」という組織、調整屋を名乗る八雲みたま――謎は積み重なるばかりで、解決の糸口はなく、疑問の堂々巡りが続いた。