魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
ほむらは南凪自由学園の廊下を歩き、理科室のドアを開ける。セーラー服の襟が首に擦れ、違和感を覚えるが、みたまのメモに記された日時と場所を信じ、警戒心を抑える。理科室に入ると、机に腰掛けた少女が目に入る。
緑色のショートボブに、小学生のような幼い外見。制服にだぼだぼの白衣を羽織っている。
「その服なら、どこにでも紛れ込めるね」
少女――都ひなのが軽い口調で言う。
ほむらは両手の指を組み合わせてポーズを作り、
「主義は『TENET(信念)』、そのはずよ」
ひなのは頷き、理科室の奥へ案内する。
「おしゃべりはなし。正体も目的もね」
ひなのが軽い口調で言いながら、ビーカーで入れたコーヒーを手渡す。ほむらは無言で室内を見渡し、出口と窓を確認する。ひなのはその様子に微笑み、机の上に置かれていたペンを手に立ち上がる。
広げられたノートには、既に猫の絵が描かれている。ひなのがペンを走らせると、猫の絵が逆再生のようにスッと消え、ノートが白紙に戻る。ほむらの目が鋭くなる。
「それは…何?」
「逆行するペン。未来から来たものだよ。握って書こうとすると、既に書いてあった内容が『消える』。落とそうとすると手に『戻る』。面白いだろ?」
ひなのがペンをほむらに差し出す。ほむらは一瞬躊躇し、受け取ってノートの別のページを開く。そこには、ぐにゃぐにゃの試し書きの線が既に引かれている。ペンを走らせると、線が逆再生のようになぞられ、消えていき、ノートが白紙になる。ほむらの指が震える。
ひなのが机に2本のペンを置き、説明する。
「普通、ペンからインクが出て紙に染み込む。でも、これは逆。紙のインクがペンに戻るんだ」
ひなのがペンの上に手をかざす。触れていないのに、ペンが掌に逆再生のように引き寄せられる。
「やってみる?」
ほむらが同じように手をかざすと、ペンが掌に吸い寄せられる。
「触ってないのに…なぜ?」
ひなのがスマートフォンの再生画面を見せる。
「君から見ればペンを『引き寄せた』。でも、ペンからすれば手から『落ちた』だけ」
画面には、ペンが引き寄せられるシーンと、逆再生で「落ちる」瞬間が映し出される。
「原因と結果が逆転してるんだ。理屈じゃなく、感覚の話だよ」
「劇場で…同じ光景を見た」
ほむらが呟く。神浜市立劇場の混乱――白羽根を貫いたピンクの光、逆再生のように穴に戻る破片の光景が脳裏に蘇る。
「劇場? へえ、話してみてよ」
ひなのが興味を示す。ほむらは慎重に言葉を選びながら語る。
「壁に穴が開いた。破片が逆に戻り、魔法少女の攻撃が白羽根を貫いた」
ひなのが目を細める。
「運がいいな。逆行の攻撃が当たっていたら多分悲惨なことになっていた」
ひなのが机から降り、黒板に近づく。黒板にはエントロピーのグラフが描かれ、矢印が逆方向に伸びている。
「このペンや劇場の現象は、ネゲントロピー――エントロピーの減少を示してる。通常、宇宙は秩序から混沌へ進む。ソウルジェムも同じ。透き通った状態から濁って壊れる。でも、これは逆。時間が未来から過去へ動いてるんだ」
ほむらが黒板を見つめる。キュゥべえの言葉――エントロピーの減少への関心――が頭をよぎる。
「未来から送り込まれたって、どういうこと?」
「時間を逆行することによって過去も変えることができる。」
ほむらが眉を寄せる。自分の時間遡行能力に似ているが、それとは全く異なる現象だ。
「目的が分からないのに、なぜそんなものを?」
ひなのが肩をすくめる。
「あたしの推測だけど…核戦争級の危機じゃないかな。魔法少女が引き起こす、ソウルジェムや魔女の力を超えた何か。世界を終わらせるような力――たとえば、時間そのものを逆行させる技術とか」
ほむらの心臓が跳ねる。里見那由他のグリーフシード――立方体の機械部品――が脳裏に浮かぶ。