魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
神浜の雑踏を歩きながら、ほむらは伝手の魔法少女に通話する。見滝原の魔法少女が全て死に、頼れる人物は限られていた。
逆行するペンの調査を進めたほむらは、その出処が神浜市に根を張る「マギウスの翼」だと知る。
人口数百万の大都市・神浜市には、膨大な数の魔法少女が存在し、それを統率するのがマギウスの秘密結社だ。
ほむらの調査で、マギウスの最高幹部が里見メディカルセンターにいることが判明。伝手を頼り、侵入方法を具体化することにした。
「黄昏に生きる」
「宵に友なし。死んだんじゃなかった?」
「死人にも仲間が必要よ。急ぎで里見メディカルセンターのマギウスのトップに会いたい」
「分かった。新西区の第一公園へ行きな。手配する」
約束の時間、新西区の第一公園のベンチにほむらは腰掛ける。
「あの…マギウスの翼の幹部に会いたいって聞いてきたんだけど」
隣に少女が座る。神浜市立大附属の白と赤のセーラー服、まどかを思わせるピンクの長髪をハーフアップにしている。
「あっ、私、いろは。環いろは」
少女がほむらに名乗る。
「そう…マギウスの幹部と話がしたい」
ほむらの言葉に、いろはは顔をこわばらせる。
「それは無理だよ」
「10分でいい」
「問題は時間じゃない。生きて戻れないのが一番の問題」
いろはが缶コーヒーを手渡す。
「微糖でいいよね?」
「よく調べてるわね」
「こういう魔法少女なら、調べるのが当然だから」
「私はいつも炭酸水だけど」
ほむらの言葉に、いろはは鼻で笑う。
「それ、嘘だね」
「ところで、穏便に済ませたいんだけど」
「センター内は黒羽根の警護や『ウワサ』の迎撃がいて、簡単じゃない。結界もある。ほむらちゃんの能力でも、行きはともかく帰りは突破が難しいよ」
「何かいい方法は? あなたなら知ってるって聞いた」
いろはが軽く答える。
「私なら『バンジー飛び』かな」
「バンジージャンプじゃなくて?」
「『バンジー飛び』。唯一の侵入方法であり、脱出方法。あの里見メディカルセンターのことは詳しいから、私に任せて」
いろはの提案に、ほむらは渋々付き合うことにした。
神浜の夜は、見滝原より煌々としている。無数の摩天楼が夜でも光を放つからだろう。
ほむらはそんなことを考えながら、いろはの提案通り『バンジー飛び』の準備を進める。
スリングショットでワイヤーをバルコニーに引っ掛け、ハーネスに結ぶ。いろはが巻取機を地面に設置。スリングショットを限界まで引き絞り、ゴムの力で跳躍。魔法少女の強化された肉体でビルの外壁を登り、幹部のいる部屋のバルコニーへ侵入する――これが『バンジー飛び』作戦だ。
「こっちは準備完了。始めようか」
いろはが声をかけ、ほむらと共にスリングショットの跳躍部分を背中に敷き、仰向けで待機する。
いろはが巻取機のスイッチを押す。ゴムが限界まで引き絞られ、カチリと音がした瞬間、ほむらといろはの体は宙を舞った。
宵闇の中、重力に抗うように、ほむらといろははビルの外壁を登る。数階ずつ跳躍する姿は、まるで月の住人(ムーンレイカー)のようだ。
いろはは幹部の部屋とは別の階に侵入し、警護の黒羽根を無力化する手筈を進める。
ほむらはバルコニーにたどり着き、スマートフォンを眺める白羽根を昏倒させる。
グロックにサプレッサーを装着し、バルコニーから窓の内側を覗く。車椅子の少女が現れる。
ほむらは忍び寄り、少女の頭にグロックを突き付ける。背後にいるパジャマ姿の少女が息を吞む。
「危うく殺されかけたわ。見たこともない逆行攻撃。あなたたちの仕業?」
「ぼくは柊ねむ。君は誰だい?」
車椅子の少女――柊ねむが答える。ほむらは無言で銃を構える。
パジャマ姿の少女が手元のボタンを押すのが見える。
「呼んでも無駄。誰も来ないわ」
「どうしてぼくに聞くんだい?」
「逆行する物品をいくつか見た。出処を辿るとここにたどり着く」
「いい推理だね」
「推論よ」
「演繹法かな。ところで、その銃は有効な説得手段(Persuader)じゃないと思うけど」
「説得しに来たんじゃない。取引もしない。話してもらうだけ」
「無理だね」
「この引き金を引いても?」
パジャマ姿の少女が小さく笑う。
「くふっ。もうその辺でいいんじゃないかにゃー?取引の内幕は語るのはねむの信念(TENET)に反するしー」
「じゃあ、あなたが話して」
「その前に銃を下ろして。ねむ、後は私が話すから」
パジャマ姿の少女はほむらを病室に招き入れる。
「私は、マギウスの里見灯花」
ほむらは病室の椅子に腰掛け、ベッドに座る灯花を眺める。ダークブラウンの長髪に黒いリボンが揺れ、幼い容貌は最高幹部に似合わない。白い肌と細い手足は、かつてのほむらと同じ病室の住人を思わせる。
「逆行する物品はあなたたちが?」
「ううん、私たちはグリーフシードの対価として受け取っただけ。出処は瀬奈みことだよ」
「瀬奈みこと?」
「私たち以外にもグリーフシードの取引に関わる子。最近、頭角を現してる」
「ペンは?」
「もらった時からああだったよ。多分、彼女は現在と未来の仲介役なんじゃないかにゃー?」
「未来からのホットライン(Thrice Upon A Time)…ということかしら」
ほむらは自身の時間遡行を思い浮かべる。彼女の「未来」はまどかとの出会いのやり直しに限られるが、広範な世界や未来と繋がる魔法少女がいるかもしれない。
「くふっ。よく分かってるねー。未来との交信は珍しくないよ」
灯花が続ける。
「Eメールやクレジットカード、あらゆる記録(Record)は未来に繋がってる。この世界もそのレコードの1つと言えるんじゃないかにゃー」
「問題は、未来が返事をするかどうかね」
「その通り」
灯花がほむらの瞳を見据える。
「瀬奈みことに近づくには新しい『主役』が必要、かな?」
「私に探れと?」
「あなたにしかできないと思うにゃー」
バルコニーから下界を見下ろすと、パトカーがセンターに近づく。侵入が察知され、時間切れだ。
「くふっ。無事に脱出できるかにゃー?」
「気は進まないけど、やってみるわ」
「瀬奈みことを知る子を手配するから、会ってみて」
灯花の言葉を聞き、ほむらはバルコニーを乗り越え、ビルから降下する。いろはも降下し、地面でほむらを手招きする。
謎と疑問が渦巻く中、ほむらは神浜の宵闇に消えた。