魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
常盤ななかは、神浜市でどの勢力とも中立を保ち、情報屋として活動する魔法少女だ。
瀬奈みことの情報を求めて紹介されたほむらは、ななかが待つカラオケボックスに向かった。
ドアを開けると、えんじ色のショートヘアに銀色のアンダーリム眼鏡、参京院教育学園の制服を着た少女が座り、フライドポテトをつまんでいる。常盤ななかだった。
「失礼、先に始めていました」
ほむらがななかの正面のソファに腰掛ける。
「ある魔法少女のことを知りたいと伺いました」
「今、神浜市にいるって聞いたわ」
「彼女は食わせ者です。何度か警告しましたが、聞き入れられませんでしたね」
「彼女の情報は?」
「福浜市をご存知ですか?」
ななかの質問に、ほむらが知識を反芻する。
「福浜市…神浜市から北に160キロほど。数年前の事故で立ち入り禁止区域になり、無人の街になったと聞くわ」
「瀬奈みこと。福浜市の出身です。5日前、神浜市立劇場テロと同じ時刻、無人のはずの福浜市で大規模な爆発が確認されました」
「爆発?」
「原因は調査中ですが、恐らく魔法少女か魔女が絡んでいます。あの街が無人になった事故も、同様の原因だと聞いています」
ななかがグラスを傾ける。
「彼女は事故の影響で福浜市から神浜市に移住。おそらくその前後で魔法少女になり、福浜市で得たグリーフシードを元手に神浜の取引に参画するようになりました」
「肉親や家族は?」
「ほぼ関係は破綻しているようです。使えませんね」
「どうすれば彼女に近づける?」
「アリナ・グレイ。彼女が窓口です」
アリナ・グレイ――前衛芸術家としてそれなりに知られた存在だ。
「どうするの? まさか魅力で迫れと?」
ほむらの問いに、ななかが紙袋を差し出す。中には絵画が収められている。
「この絵をどうするの?」
「贋作ですが、アリナの作品には管理が不十分で散逸したものがあります。瀬奈みことはそうしたアリナの絵を集めているそうです」
「なぜ?」
「共闘関係か、共犯関係か、あるいはデキているか…いずれにせよ、執着があると見ています。使えるかと」
ほむらが紙袋を受け取る。
ななかがほむらの服装を一瞥する。
「気を悪くしないでほしいのですが…水名の制服ですか?」
ほむらの制服――淡い紫の上着に、白いロング丈のブラウス、ボタン周りにフリル――を指差し、
「水名の子に混ざるなら、吊るしではなく仕立て(オートクチュール)では?」
「これは予算が…」
「仕立て屋を紹介しましょうか?」
「結構よ。神浜は面倒な街ね」
「色々ありますから」
ほむらはそう言い残し、カラオケボックスの部屋を出た。
ほむらは神浜市中央区のアリナのアトリエに足を踏み入れる。薄暗い部屋には、アリナ・グレイの絵画が蛍光塗料で輝き、ほむらの足音が反響する。ほむらは水名女学院の制服に三つ編みと眼鏡、手に持つ贋作の絵画――アリナの初期作品を模した抽象画――を握り、緊張した顔を演じつつアトリエの奥へ向かう。
アリナ・グレイは作りかけの絵画に囲まれていた。緑髪を無造作に束ね、白いエプロンに絵の具の汚れがついた姿は、芸術家の風格を漂わせる。ほむらの姿を一瞥し、
「ハァ、またファンの子?」
「そうです! アリナさんに会いたくて…この絵、初期の『ナイン・フェーズ』ですよね?」
ほむらが贋作を掲げ、控えめな声で話しかける。アリナが絵に目をやる。
「へえ、よく知ってるじゃん。アリナの初期作品、なかなか見つからないのに」
アリナが興味を示し、ほむらに近づく。
「これ、どこで手に入れた? 散逸したはずだケド」
「オークションで…偶然見つけて」
ほむらが言葉を濁すと、アリナの目が鋭くなる。
「ふーん。偶然ね。で、何? アリナに売る気?」
「いえ、ただ…瀬奈みことさんが集めてるって聞いて、持ってきました」
みことの名前を出すと、アリナの表情が一瞬凍る。
「みことの名前、どこで知った? アンタ何者?」
アリナがほむらの腕を掴む。中指の魔法少女の指輪を見て、意図を察する。
「ふーん、やっぱりその筋ってわけネ」
「いや、私はそんなつもりじゃ…」
「あいにく、みことには会えないよ」
「私、弱くて…グリーフシードもあまりなくて…瀬奈みことさんが助けてくれるって聞いて…」
「ふーん。それで贋作で気を引こうってワケ?」
その瞬間、背後に気配を感じ、ほむらが振り返る。水名女学院の制服を着た魔法少女――更紗帆奈とその手下たちがほむらを囲む。
「あんた誰?」
「私はアリナさんの絵が好きで…」
「嘘だね。その制服、偽物。あたしも水名だから分かる」
帆奈がほむらの顔を見据える。
「アリナ、この子、怪しいよ。連れてくね」
手下がほむらの腕を掴む。
「ちょっと、やめて」
ほむらが抵抗するが、帆奈とアリナが言葉を交わすのを尻目に、ほむらはアトリエから連れ出される。
連れ出されたほむらを見て、アリナが言う。
「アイツ、殺すの?」
「殺しはない。身の程を分からせるだけ」
帆奈がアトリエの窓を指す。窓からは人通りの少ない裏路地と、ほむらを連行する手下の姿が見える。
「見ないとダメ?」
「見届けろ、と」
アトリエから連れ出された先は、ビルの谷間のような裏路地だった。ほむらを取り囲む手下以外、人影はない。
「こんな場所に連れてきて、どうするつもり?」
手下の拳がほむらの腹に突き刺さろうとした瞬間、ほむらが時間停止を発動。体勢を変え、インパクトを最小限に抑える。時間停止を解除し、ボディブローを受けたように崩れ落ち、嗚咽を演じる。眼鏡が顔から落ち、地面に転がる。手下の人数を確認――8人。帆奈はここにいない。
時間停止は必要ないと判断。
もう一人の手下が眼鏡を踏み潰し、ほむらの顔に蹴りを入れようとした瞬間、ほむらが顔を避け、足を掴む。重心を失った手下が転倒し、立ち上がったほむらの膝が腹に突き刺さる。
止めようとする手下二人に、近くのガラス瓶を投げつける。防いだ隙に拳を叩き込み、無力化。
背後からバットで殴りかかる手下の腕を掴み、ボディブローを二発。崩れ落ちる。
別の手下がバタフライナイフで切りかかる。ほむらが腕を捻り上げ、背中に回して頭を打ちつけ、気絶させる。
残りの手下は形勢の不利を悟り、裏路地から逃げ出す。
ほむらは肩の埃を払い、襟を整え、飄々と裏路地を去る。
アトリエの窓からその光景を見ていた二人の表情は対照的だった。
帆奈は余裕の笑みから一変、逃げ出す手下を見て「何やってんだ、馬鹿!」と魔法少女に変身し、窓から飛び降りる。
アリナはほむらの活躍に目を細め、「身の程を分からせるだけ、ネ」と呟き、興味を惹かれた表情を浮かべる。