魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
アリナからの連絡はすぐだった。
ほむらのスマホに、LINEの通知が入る。
「やるじゃん。あんた、ただのファンじゃないね」
「瀬奈みことに会いたい。あの絵で話をつけられる?」
「みことはそう簡単には会わないヨ。でも、面白いから取引してアゲル。あの絵、自由港にあるあたしの本物の作品と交換して。それでみことに近づけるカモ」
「自由港?」
「空港にある。みことが集めたアリナの作品は全部そこ。もったいないし、描き直したいから救ってきて?」
アリナが送ったURLは、神浜国際空港に隣接する保税倉庫のウェブサイトだった。
数日後、ほむらといろはは神浜市立大附属の屋上で落ち合う。
「自由港って何?」
「空港に隣接する倉庫みたいなもの。入国前だから課税されない。美術品を置くにはうってつけの場所なんでしょう」
「そこにみことが?」
「まだ分からない。でも、アリナの話だと、月に10回は行くらしい」
「絵を見るにしては多いね」
「そうね…目的は絵じゃなく、自由港そのものかも」
ほむらが鞄から紙の束を取り出す。自由港の設計図だ。
「調べた限り、内部は複数の通路と倉庫が重層的になってる。能力的にも、正面からの侵入は難しいわ」
「魔女の結界なら簡単なのに…どうやって入る?」
「セキュリティを調べたけど、火災時にはハロゲン消火設備が作動する。ガスを使うときは人が退避し、セキュリティキーも初期化されるから、侵入しやすくなるかも」
「だったら、私の知識でなんとかなるかな…」
「問題はどうやって火を起こすか」
「火属性の魔法少女を呼ぶとか?」
「関わる人を増やしたくないわ」
ほむらがタブレットで空港周辺のマップを表示する。
「建物の構造だと、正面の警備は厳重だけど、裏手は飛行機から直接荷物を積み込む設計」
「つまり?」
「裏手に大穴を開ければ、侵入が容易になる」
「どうやって?」
「飛行機をぶつけるわ」
ほむらの提案に、いろはが息を吞む。
「飛行機って…乗ってる人は?」
「ぶつける前に、私の能力で下ろす」
「全員を?」
「貨物機だから数人しか乗ってない。数日に一度、自由港近くに駐機される貨物機がある。それを狙うわ」
「目立ちすぎる気がする」
「問題ないわ。その貨物機の積荷は金塊だから」
「金塊? それも狙う気?」
いろはが鼻で笑う。
「いいえ。滑走中に地面に落とす。集まった人は金塊に気を取られて、倉庫なんて誰も気にしない」
「考えたね。ところで、この部屋は?」
いろはが設計図の中心、自由港の真ん中の部屋を指す。
「設計図には何も書かれてない。建設段階の情報もゼロ。もしかしたら、グリーフシードや魔女が…?」
「本当に?それは嫌だなぁ」
「時間がないわ。早速始めましょう」
ほむらといろはは行動を開始した。
小雨の夜、ほむらといろはは神浜国際空港に潜入する。グランドハンドリングの作業員に変装し、貨物機に近づく。
ほむらは目当ての貨物機――ボーイング747フレイターの無骨な機体を見上げ、ドアにかけられた梯子を登る。
いろはは地面のトラクターのスタッフを昏倒させ、貨物機の前輪部の固定を解除。
ほむらが機内に侵入し、時間停止を発動。乗務員二人を機外に放り出し、機体後部に小型爆弾を仕掛ける。コックピットに座り、時間停止を解除。気付かれる前にスロットルを上げ、貨物機を前進させる。
時間停止解除後、いろはは地面に転がる乗務員を確認し、前輪部によじ登って機内に入る。
ほむらがラダーを操作し、貨物機を自由港へ向ける。コックピットからは、突然動き出した機体に混乱する空港の様子が窺える。
スロットルを固定し、ほむらはコックピットから貨物デッキへ降りる。前輪からよじ登ってきたいろはと合流。
「どうするの?」
「こうする」
ほむらがリモコンを押すと、機体後部の爆弾が爆発。貨物デッキの底に穴が開く。
「手伝って!」
ほむらといろはは、金塊が積まれたパレットを押し、穴から落とす。
「すごい…一つ持って帰りたいな」
「集中して」
金塊を全て落とし、ほむらが時計を確認。
「あと8秒…5、4、3、2、1」
轟音と衝撃音が響き、貨物機が揺れた。
貨物機は自由港の後部に突き刺さる。主翼は折れ曲がったが、機体はなんとか止まった。エンジンの一つが壁に当たり、爆発して燃えている。
魔法少女に変身したほむらといろはは、自由港の外側の扉に近づく。いろはが左手のクロスボウから細いナイフを取り出し、セキュリティロックに差し込む。
いろはが開錠する間、ほむらが周囲を確認。空港の消防車やパトロールカーが集まってくる。扉横のシャッターは爆発の衝撃で底が開き、ジェットエンジンの吸気でガタガタ揺れている。
「うん…これなら…よし、開いた!」
扉が開き、ほむらといろはは通路に滑り込む。扉が閉まると、混乱が嘘のように静寂が戻る。
「誰か…いる?」
「いや…」
ほむらといろはは通路を進み、中心部の部屋にたどり着く。部屋の入り口には、なぜか二つの扉がある。
「手伝うわ」
「大丈夫。こういうのは得意だから」
いろはが呟き、二つの扉を開く。
部屋の一方は長いガラス窓で仕切られ、その向こうにいろはが立っている。二つの部屋は鏡像のように同一だが、ガラスには弾痕が刻まれている。各部屋の端には、回転ドアのような円筒形の装置が密閉された出入り口として設置されている。ほむらの足元で、割れたガラスがカランと音を立てる。
いろははガラス窓の反対側の壁の弾痕を調べる。煙の細い筋が弾痕に集まり、彼女が手を伸ばす。
「触らないで」
「ここで何が起きたの?」
ほむらが床に落ちた分解されたグロックを見つける。拾い上げ、思考を巡らせる。
「まだ起こってない」
いろはが怪訝な顔でほむらを見る中、床下から低い唸り音が響く。
「回転ドア」が回転し、開く――ほむらの側では、ガスマスクを被った黒装束の人物が逆方向に飛び出し、ほむらの手からグロックを奪おうとする。同時に、いろはの側では、同じ黒装束の人物が順方向に飛び出し、いろはを突き倒して通路を走り出す。いろはが追いかける。
黒装束の手元でスライドが跳び、グロックが組み上がる。床のマガジンが装填され、バン!と銃声が響く。弾丸はほむらの頭をかすめるが、ガラスではなく銃に『逆行』し、煙も銃に吸い込まれる。
ほむらは逆行する人物と格闘する。相手はほむらと同じ体格、魔法少女の力を持つ――それ以上の強さかもしれない。黒装束はほむらを次の弾痕に合わせようと引きずり、マスクの奥から奇妙な逆再生のようなうめき声が響く。ほむらが懐からカッターナイフを取り出し、黒装束の腕を刺す。グロックを叩き落とし、武器がドアの外へ跳ねる。
黒装束はほむらの腕に絡みつき、引きずる――あるいはほむらが引っ張っているのか――後退しながらドアを通過する。
通路を進む黒装束は、ほむらを押す/引く形で動く。ほむらは抵抗しつつ、相手の動きを観察。突然、黒装束が逆再生のように地面に寝転がり、通路のグロックに手を伸ばす。ほむらが密着していないことを確認し、時間停止を発動。片がつく――そう思った瞬間、黒装束が逆再生のように立ち上がり、ほむらに殴りかかる。
ほむらが拳を抑えるが、黒装束が盾――時間停止の根幹――に手を伸ばす。時間停止が効かないと判断し、能力を解除。世界が静止から動き出す。
ほむらが黒装束の顔や腹に拳を突くが、黒装束は全ての動きを読んで掴む。
ほむらはタックルで黒装束を保管庫に押し込み、背負い投げする。黒装束が逆再生のように起き上がり、背中に回ってほむらを棚に押し付ける。黒装束が足でグロックを引き寄せるのを見て、ほむらは揉み合い、棚や木箱に激突しながら突き飛ばし、黒装束を床に転がす。
ほむらがグロックを掴み、黒装束の頭に突きつける。背後のシャッターがガタガタ揺れている。
いろはが後ろから駆け込む。「だめ! 殺さないで!」
いろはの声は切迫している。
「何か知ってるかもしれないから!」
ほむらが黒装束を床に叩きつけ、怒りを込めて問う。
「なぜここにいる!」
ガスマスクを剥がそうとするが、ストラップが固く、黒装束の奇妙な叫び声が大きくなる。ほむらが傷ついた腕を踏みつける。
「お前は誰だ!」
「どうやってここを知った!」
シャッターの音が激しくなり、ジェットエンジンの轟音が響く。空気が流れ始め、黒装束が床を滑り、割れたシャッターの下に吸い込まれる。爆発音が響く。
ほむらは、黒装束が貨物機のエンジンに吸い込まれたと判断するしかなかった。
シャッターが閉まり、静寂が戻る。
ほむらといろはは互いを見合う。
「早く行かなきゃ」
「そうね…絵も探さないと。もう一人の方は?」
「逃げられちゃった」
ほむらといろはは通路を駆け、アリナの絵の場所へ向かった。