魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
神浜の雑踏を歩くほむらに、キュゥべえが声をかける。
「やあ、ほむら」
「何?」
「まだ神浜にいたとはね」
「あなたには関係ないわ」
「そうもいかないさ。この街は特殊だからね。色々警告もしておくべきだと思ったからさ」
「必要ない」
「そうかい。それより、君が調べている時間逆行、僕たちにとっても興味深いよ」
キュゥべえが続ける。
「もしエントロピーの減少が魔法少女を介さずに実現できるなら、大きな進歩だ。僕らの技術でも時間の矢は逆回転できなかった。君にも思うところがあるはずだ」
「…そうね」
「否定しないんだね。考えてみれば、魔女はネゲントロピーの塊とも言える。この性質を利用したのがあの回転ドアなら、僕らは魔法少女に頼る必要が少なくなる。ソウルジェムの浄化が必要な魔法少女のあり方も、一変するだろうね」
ほむらは人通りの少ない路地に誘導し、キュゥべえを射殺しようかと考える。だが、キュゥべえの言葉で思いとどまる。
「ところで、君はグリーフシードを持ってるかい?」
「それが何?」
「君が劇場のテロで入手しようとしたグリーフシード。あれは近々移送されるらしい。マギウスという組織が動いているんだろう」
「なぜ分かるの?」
「僕たちにはグリーフシードの位置を特定する能力があるからね」
ほむらは一考する。あの謎のグリーフシードを入手できれば、状況を打開できるかもしれない。
「君にとっても悪い話じゃないと思うよ」
「そうね…」
「よい返事を期待してるよ」
ほむらはキュゥべえに背を向け、神浜の雑踏に消える。キュゥべえの赤い目が、ほむらの背中を刺すように光る。
ミレナ座に立ち寄ったほむらに、みたまが新聞を差し出す。
「これ、あなたがやったんでしょ?」
見出しにはこう書かれている。
「神浜空港で貨物機ハイジャック/犯人の目的は金塊奪取と警察/貨物機が倉庫に激突し炎上」
ソウルジェムの「調整」を終えた後、みたまが会話を切り出す。
「空港で何があったの?」
「分からない」
「話してみて?」
ほむらが記憶をたどり、自由港での奇妙な遭遇を語る。
「自由港に回転ドアのような装置があって、そこから二人…おそらく魔法少女が出てきた。両方逃げられたけど」
「それは時間逆行によるものね」
「逆行? 逆行技術はまだ完成してないんじゃなかった?」
「みこと――瀬奈みことがその回転ドアを置いた。未来人から贈られた、逆行を生むマシンよ」
「やっぱり、瀬奈みことを調べるしかないわね」
「彼女に会った?」
「まだ会えてない」
「『まだ』ね…」
みたまの含みのある言葉に、ほむらが疑問を抱く。
「彼女の手下に命を狙われてる。アリナを介しても難しいわ」
「でも、もっと彼女に近づかないと。彼女の望むものをぶら下げて、未来人との関わりを探って」
「なぜそこまでしないといけないの?」
「みんなのためよ。魔法少女や人類全体のためにも、ほむらちゃんに『主役』を張ってもらわないと」
ほむらはみたまの言葉に短くため息をつく。
「ところで、ここに来る前にキュゥべえが妙なことを言ってたんだけど」
「キュゥべえね。何か言ってた?」
「例の立方体のグリーフシードが移動されるって」
「私の情報と同じね」
みたまがタブレットを寄せ、画面を見せる。遠距離から撮影された画像には、コンテナに何かを積み込む白羽根の姿が映っている。
「グリーフシードは5日後、神浜港の貨物ターミナルから貨物列車で移送される。手を出すなら移送中がいいわ」
「それも私の仕事?」
「元々、ほむらちゃんたち見滝原の子が回収しようとしたものだからね」
ほむらは数日前の市立劇場のテロを思い出す。おそらく、あの場で奪取しようとしたグリーフシードだ。
「グリーフシードをエサに瀬奈みことに接近して。でも、グリーフシードは奪われちゃダメ。状況を有利に活用しないと」
「危険すぎるわ」
「彼女があのグリーフシードを手に入れたら、もっと悲惨なことになる」
「何が起こるの?」
「絶望よ」
みたまが立ち上がる。
「私たちは、時間を行き来する希望と絶望の戦いに巻き込まれているの。未来人の時間は尽きかけている。だから、過去を使って時間を奪い、絶望から希望を生み出そうとしてる。瀬奈みことがその道標。ほむらには彼女を見つけて、その秘密を探ってほしい」
その瞬間、ほむらのスマートフォンが振動する。画面にはアリナからの通知。
「どうやら来たみたいね」
ほむらは立ち上がり、アリナのもとへ向かう。