魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
ほむらのスマホに、アリナからのLINEが届く。
「絵の件、サンキュー。みことに会えるよ。まやかし町。今日の夕方ね」
ほむらは神浜市大東区、西町――通称まやかし町の入り口に立つ。神浜市内でも治安の悪い地区だ。シャッター街を歩き、指定された廃墟のレストランへ向かう。
2階に上がると、長いテーブルの一席にアリナが座っている。他の席には人形が置かれ、テーブルには皿とグラスに砂が盛られている。
壁に寄りかかる更紗帆奈が、ほむらの動きを監視する。
部屋の奥、窓辺に少女が立つ。逆光で顔は見えないが、大東学院の黒い制服を着ている。
帆奈が近づき、ほむらをテーブルの椅子に座らせる。
「なぜ私に近づく?」
少女が重い声で問う。目の光だけが暗闇で輝く。
「取引よ」
「取引もしない。説得もしない。死んでもらうだけ。どんな風に死にたい?」
「そうね…できれば歳をとって死にたいわ」
「なら魔法少女になるべきではなかったわね」
少女が歩み寄り、テーブルに近づく。光が顔を照らし、銀色のウルフカット、蒼いが、深く昏い瞳が現れる。瀬奈みことだ。
「これから喉を掻き切って穴にソウルジェムを詰める。さぞ見物でしょうね。自分のソウルジェムを喉から掻き出そうとして死ぬなんて」
みことの言葉と同時に、帆奈がほむらの肩を押さえつける。
「オペラは好き?」
ほむらが呟き、帆奈の手が止まる。瀬奈が目を細め、アリナがクスクス笑う。
「オペラ? 何、急に?」
帆奈が困惑するが、瀬奈が手を上げる。
「面白い子ね。オペラの話、聞かせて。帆奈、離してやりなさい」
帆奈が渋々ほむらを解放。
「明日の18時、大東団地E棟の屋上。魔女は狩れる?」
「それなりには」
みことがほむらを一瞥し、立ち去る。帆奈とアリナが続く。
「じゃあねぇ〜」
アリナが笑いながら手を振り、廃墟の闇に消える。
「取引? いいわ。明日の魔女狩りで成果を上げたら、話してあげる」
帆奈が舌打ちするが、みことの視線で黙る。ほむらは内心で安堵しつつ、警戒を解かない。
翌日、大東団地E棟の屋上。ほむら、アリナ、帆奈、みことが集まる。屋上のドアに魔女の結界の入口が現れている。四人は魔法少女に変身し、結界に踏み込む。
障子が開くような演出を抜け、出来の悪いモンタージュのような歪んだ結界を走り抜ける。
「オペラの何を知ってるの?」
みことが問う。
「10日前、神浜市立劇場で魔女が絡んだテロがあった。あのグリーフシードを狙ってる」
「残念だけど、私とあなたは組めない」
上から使い魔が襲いかかる。
「特に足跡のない人間とはね」
みことが鏡――彼女の魔法少女としての武器だ――で使い魔の攻撃を防ぐ。
ほむらが盾からHK416アサルトライフルを取り出し、単射で使い魔を仕留める。
「痕跡を残さないのは、取引に関わる人間なら当然よ」
薬莢がほむらの足元に散らばる。
「アハッ! やっぱりアンタ強いじゃん!」
アリナが楽しげにほむらを抜き、使い魔の攻撃を踊るようにかき分け、手にしたキューブから緑のレーザーで結界と使い魔を薙ぎ払う。
「帆奈! ブラストよ!」
みことが帆奈の手に触れる。帆奈がマンキャッチャー型の杖を振り上げ、紫の電撃が使い魔を直撃。
四人は各々の攻撃で使い魔を一掃し、結界の奥へ進む。
「あれが魔女ね」
ほむらが指差す先に、大穴が空く。底は水面のように波立ち、脚の生えた二隻のヨット型の魔女が徘徊する。
「じゃ、アリナが先ね」
アリナが穴に飛び込み、落下しながらビームを乱射。帆奈、みこと、ほむらが続く。
アリナと帆奈が状態異常の魔法で魔女を攻撃し、注意を逸らす。ほむらとみことが二隻の魔女に仕掛ける。
落下中、みことが鏡を魔女に向ける。突然、魔女のマストが伸び、みことに直撃。結界の壁に叩きつけられ、底の水面に落ちる。
「みこと!」
「ヤッバ!」
アリナと帆奈が叫ぶ。ほむらが時間停止を発動。世界がモノクロームに変わる。宙に浮かぶみことを抱き、盾からワイヤーガンを撃ち、結界の縁にワイヤーを固定。時間停止を解除し、世界に色と時間が戻る。
「あなた…なぜ?」
みことを抱き、ワイヤーに掴まるほむらが答える。
「説明は後。二隻同時にやる」
ほむらが一方の魔女を指す。みことが意図を理解し、鏡を構える。
「合図したら降りるわ」
合図と共にワイヤーを離し、魔女へ降下。みことが鏡から光線を照射。ほむらは盾から対戦車ミサイルを取り出し、時間停止を準備。
結界の底では、アリナと帆奈が拘束と毒の魔法を魔女に放つ。
ほむらが再び時間停止。降下しながらミサイルを一発ずつ発射。最後に手榴弾のピンを抜き、魔女へ落とす。結界の壁を蹴り、底とは別の場所に降り立つよう調整。時間停止を解除。そして世界は動き出す。
ミサイル、手榴弾、みことの光線が二隻の魔女に直撃し、爆炎が結界を包む。魔女が倒れ、結界が透き通るように消える。
四人は大東団地E棟の屋上に立つ。空から落ちるグリーフシードを、みことが掴む。
「みんな、よくやった」
みことがアリナ、帆奈、ほむらを見る。
「少し彼女と話したい。外してくれる?」
アリナと帆奈は既に屋上を後にしていた。屋上には壊れたデッキチェアが転がっている。
みことがデッキチェアを一瞥すると屋上のフェンスに寄りかかり、グリーフシードをほむらに投げる。
「さっきは助かった」
「その必要はないわ」
「私は借りを作りたくない」
「なら、私の取引を進めてくれない? マギウスの翼がグリーフシードを移送する」
「それで?」
「移送中に手を出すしかない。あれは特殊なグリーフシードだから…」
みことが笑う。
「んふふっ。私にグリーフシードについて講釈を垂れる気?あなた、魔法少女になって何年目?」
「まだ数ヶ月かしら」
みことが驚いた表情を見せる。
「私は5年。10歳で初めて魔女の結界に踏み入れた。福浜市――廃墟になった故郷で。魔女だけでなく、キモチも見つけた」
「キモチ?」
「魔女のカケラ…グリーフシードみたいなものよ」
みことが遠くを見る。
「それまでは『理想的な家庭』だった。両親も仲が良くてね。私は普通の子だった。でも、爆発で街は住めない世界に。表向きは事故だけど…実際は魔女の仕業」
みことが続ける。
「家を失って、両親は仲違い。私は家族を失ってキュゥべえと契約した。街に散らばる魔女のカケラ――『キモチ』を集めるのが最初の仕事だった」
「仕事?」
「爆発で飛散した『キモチ』を集めるには人手が必要だった。福浜には私以外に7人の魔法少女がいたけど、誰も手を挙げなかった。命の危険しかない場所で、望んで死のうとする人間なんかいない」
みことの脳裏に過去が蘇る。
暗い雲が低く垂れ込める。街は時間が止まったように捨てられ、魔女の瘴気が漂う。使い魔が通りを闊歩する。
二人の魔法少女が瓦礫を漁る。地面から黒い箱が掘り出され、蓋が開き、中身が滑り落ちる。大量のグリーフシードと、スリーブに納められた書類。
一人が書類を拾う。土で汚れたスリーブには、断片的に文字が見える。
契約ショ
ワタシハ、魔ホウ少ジョヲ…
…
…
ナマエ: Puella Magi Mikoto Magica ドノ
「だけど…誰かが死ぬという事は、別の誰かが生き残る事に繋がる」
書類を見る魔法少女の背後で、もう一人が武器を振り上げる。スリーブが血に染まる。
「沢山の魔法少女の終わりを見たけど、今は私1人だけ。神浜に移った今も、あの街の魔女とグリーフシードの利権は私が独占している」
「グリーフシードは3日後、神浜港の貨物ターミナルから貨物列車で移送される。力を貸してほしい」
「考えておくわ。今日は帰って」
みことが腕の時計を見て呟く。ほむらは交渉の余地を考えつつ、屋上を後にする。
深夜、まやかし町。みことの手下たちが廃墟に集まる。監視を続けるほむらは、別の建物から様子を窺う。
手下たちがどこからか黒い箱を持ち込み、箱を開ける。
みことは箱の中身を改め、手をかざす。掌に吸い付くようにグリーフシードが引き寄せられる。
逆行物品だ。
ほむらが確認した瞬間、頭に衝撃が走る。気配を消した帆奈の攻撃だと気づくのに一瞬を要した。
「覗いてたよ、みこと」
帆奈に拘束され、ほむらはみことの前に引きずり出される。
「あなた何者?なぜ市立劇場のテロを知ってる?」
「取引に参加するなら知っておくべき情報よ。グリーフシードの取引はマギウスの翼が仕切ってる」
「違うわ。マギウスは買うだけ。売ることはない。でも私たちは『黄昏に生きる…』」
「何それ? ホイットマンの詩?」
「首と胴に永遠の別れを誓わせたい?」
「ソウルジェムを首の穴に嵌めるんじゃなくて?」
「あいにくだけど時間がないわ。マギウスのグリーフシードを取ってきなさい。帆奈を付けるわ」
帆奈がほむらの拘束を解く。
「その必要はないわ。グリーフシードは手に入れる。連絡手段は?」
「必要ない」
「前金は?」
ほむらの言葉に、みことがグリーフシードを投げる。
ほむらが掴むと、みことは黒い箱からスリーブの書類を確認し始める。その姿を見つつ、ほむらは廃墟から叩き出された。