魔法少女ほむら☆マギカ Live in a Twilight World/No Friends at Dusk 作:トマスアレポ
「それで、グリーフシードは調べた?」
ほむらはみことから渡されたグリーフシードを日にかざす。神浜市立大附属の白と赤のセーラー服が風に揺れる。ほむらといろはは学校の屋上で再び会話していた。隣のベンチに座るいろはが答える。
「該当する魔女を一通り調べたけど、どれも当てはまらなかった」
「でしょうね」
「ところで、前に話してた探してる子の件だけど…」
「探してる子?」
いろはがスマートフォンの画面をほむらに向ける。ほむらが疑問を抱きつつ画面を見ると、心臓が跳ねた。
ピンク色の髪をツインテールにした少女。黄色いリボンが揺れ、3歳くらいの男の子と手をつなぎ、楽しそうに歩いている。ほむらが求めていた少女――鹿目まどか。
「この子…」
「数日前に海外から来た子みたい。そろそろ神浜の中学に転入するらしいけど…知り合い?」
「そうね…」
ほむらの感情が揺れる。
「昔…同じ小学校で」
「それ、嘘だね」
いろはがほむらの顔を見てはにかむ。
「友達なら、後で紹介して? 私も会ってみたい」
「そうね…でも、今は目の前の課題に集中しましょう」
ほむらが鞄からタブレットを取り出す。航空写真に6本の線路と歩道橋が映し出される。
「路線図と時刻表を調べた。このポイントで貨物列車に乗り込み、グリーフシードを奪う。並走する回送列車に飛び乗り、次の駅で離脱する」
「オッケー。グリーフシードはみたまさんが回収しに来るって」
「じゃあ、早く終わらせましょう」
指定の時刻、ほむらといろはは歩道橋のフェンスによじ登り、腰を掛ける。眼下に6本の線路が並び、時折列車が通過する。
視線の先に貨物列車のヘッドライト。ターゲットの列車だ。
「時間よ。手は絶対離さないで」
ほむらがいろはの手を強く握り、貨物列車の通過を待つ。
中間車両が歩道橋の下を通る瞬間、ほむらが時間停止を発動。世界から音と色が消える。
二人は歩道橋から飛び降り、貨物列車の貨車に着地。目標のコンテナを見つけ、ほむらが天井に爆薬を仕掛ける。いろはが貨車の天井にしがみつき、横の回送列車を見据える。
ほむらが時間停止を解除。世界が動き出す。轟音と突風に晒され、ほむらが起爆装置を押す。
小さな爆発音の後、ほむらが穴からコンテナに滑り込む。中にはオレンジのケースだけが格納されている。ほむらがケースを手にし、天井によじ登る。いろはと手を繋ぎ、時間停止を発動。二人は回送列車の窓を開け、車内に滑り込む。
回収列車の中は照明が付けられておらず、薄暗いままだった。
ほむらがケースをこじ開ける。中には市立劇場で見た銀色の立方体――グリーフシードが輝く。
「それが…」
「間違いないわ」
瞬間、異音が響く。いろはが外を見て叫ぶ。
「ほむらちゃん、あれ!」
一本の線路先に、並走する車両。窓が開き、猿轡をされたアリナ・グレイが拘束されている。彼女の首に包丁を当てる瀬奈みことと手下たち。
「何?」
ほむらの思考が混乱する。
みことが三本の指を立て、一本を折る。残り二本。
「渡せってこと?」
「渡しちゃダメ! 絶対!」
「でも、このままじゃ…」
「もっと酷いことになるよ!」
いろはが叫ぶ中、みことがもう一本折る。
ほむらが外を伺う。みことの列車と自分たちの間に、貨物列車の無蓋車が並走する。その一両を一瞥し、アイデアが閃く。
「ごめん」
ほむらの言葉と同時に、みことが最後の指を折る。
ほむらがグリーフシードが入っていたオレンジのケースをみことの車両に投げる。
みことがケースを掴み、手下と共に後ろ歩きで外側の車両に飛び移った。車両にアリナだけが残される。
「助けるわ」
いろはが何か言おうとするが、ほむらが時間停止を発動。みことの列車に飛び乗り、窓を破って突入。
アリナを抱え、いろはの車両に戻る。眼下に並走する無蓋車が見える。窓に滑り込み、時間停止を解除。
「アリナちゃん、大丈夫?」
いろはが声をかけると、列車がブレーキをかける。予定の停車駅が近い。
「いろは、前方を見てきて。私はアリナの拘束を解く」
いろはが頷き、先頭車両へ走る。
ほむらが拘束を解こうとするが、その努力は失敗に終わった。
瞬間、窓が破られ、紫の電撃が走る。帆奈と手下が車内に侵入。ほむらとアリナに拘束魔法をかけ、2人を連行した。
ほむらが連行されたのは、自由港に似た回転ドアの部屋だった。ガラスで仕切られた部屋に回転ドアが二つ。ほむらは椅子に縛られ、帆奈に監視される。ガラス越しに、逆行するみことがアリナを人質に現れる。逆向きに歩き、アリナを椅子に座らせて包丁を突き付ける。
「?いなてし隠に中の車列をれあ」
逆再生のようなみことの声。
一拍置いて、スピーカーからみことの声が響く。
『あれを列車の中に隠してない?』
「知らない」
ほむらがガラスにべっとりと付いた血に気づく。みことの持つ包丁にも同じように血が滴っていた。
「す刺といなわ言」
『言わないと刺す』
「アリナを離して」
みことがカウントダウン。ほむらの脳が凍りつく。
「。―チイ、イニ、ンサ」
「サン、ニイ、イチ――」
みことがアリナをガラス前に立たせ、血がアリナの腹部に逆再生のように集まる。
アリナの声にならない悲鳴がこだまする。
みことが包丁をアリナの腹部から引き抜く。包丁に血はついていない。
「わいなゃじし脅、ムェジルウソは次」
『次はソウルジェム、脅しじゃないわ』
「やめなさい!」
ほむらが叫ぶ。
「網棚よ…列車の網棚に隠した」
ほむらが咄嗟に嘘をつく。
「るめか確かうどか当本」
『本当かどうか確かめる』
突然、ドアが開く。順行のみことが現れ、ほむらを睨む。
「グリーフシード、どこにやった?」
ほむらの混乱が頂点に達する。
「たった今…話したわ」
みことがガラス越しの逆行みことを一瞥。
「なるほど…なら、アリナと仲良く魔女にでもなって…」
その瞬間、大量の水が足元に流れ込む。ドアが破られ、津波のような水がみこと、帆奈、ほむらを襲う。
みことと帆奈が回転ドアに逃げ込む。ガラス越しの逆行みことも後ろ向きで回転ドアに入る。低い唸り音が響き、回転ドアが回転。シリンダーの中は空になっていた。
いつの間にか水は跡形もなく消えていた。
数人の魔法少女が部屋に入る。先頭の少女――ダークブルーのストレートヘア、青いドレス、トライデントを手に持つ――にほむらが声をかける。
「助かったわ。でも、みことたちはどこに…」
先頭の少女、七海やちよが答える。
「過去よ」