ありふれた職業の短編   作:僕の名前は✕✕です。

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ハジメの性格が原作とは異なり、ハジメハーレムは破壊します。香織のことを悪く言う表現があります。
レイプ表現が出てくるため、トラウマ注意です。



もしもハジメにあるトラウマがあったら

 月曜日。ほとんどの者たちにとって、休日の終わりを告げる憂鬱な言葉。

 

 そしてそれは、この男――南雲ハジメにとっても例外ではなかった。しかし、ハジメの場合、外に出ることによって決して避けることが出来ないある事が憂鬱で仕方がなかった。いや、憂鬱なんて可愛らしいものではない。ハジメにとってあれらと出会うことは、恐怖である。

 

 ハジメは玄関の前で一息吐く。内にある恐怖心を一切表に出さず、いつも通り心配そうに見つめてくる両親に向って、行ってきますと告げた。

 

 そして、家から歩いていける距離にある自身が在籍する学校に、いつものように始業チャイムがなるギリギリに登校したハジメは、またもや一息吐き、教室の扉を開けた。

 その瞬間、教室の男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらを頂戴する。女子生徒も友好的な表情をする者はいない。無関心ならまだいい方で、あからさまに侮蔑の表情を向ける者もいる。

 極力意識しないように自席へ向かうハジメ。しかし、毎度のことながらちょっかいを出してくる者がいる。

 

「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

 声をかけてきたのは檜山大介とその取り巻きたち三人。彼らは一体何が面白いのかゲラゲラと笑いながらハジメに対する偏見は止まらない。それにハジメがエロゲをするなんて、決してあり得ないだろう。

 

 言ってしまえば、これはイジメだ。しかし、不幸中の幸いと言って良いのか、暴力や金銭トラブルにまでは発展していない。大勢の前で有りもしない噂のみが流され、大半のクラスメイトたちから無視される程度のイジメ。ハジメにとってこれはまだ耐えられるものである。

 それにハジメに対し主に意地悪をしている檜山たちよりも、苦手――いや、最悪と言ってもいいほどの人物がこの学校にはいる。

 

「南雲くんおはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

 ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒がハジメのもとに歩み寄った。このクラス、いや学校でもハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない例外である。そして彼女は学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍とてつもない美少女だ。いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さ。まさに聖女そのもの。

 

 そんは彼女――白崎香織こそが最悪な人物だ。

 

 ハジメの中で一気にこみ上げてくる恐怖心と吐き気。もう1年以上の付き合いがあるにも関わらず止まらないそれらを必死に抑えつける。そして口角を上げ、内に渦巻く感情を噯にも出さず、香織に向け挨拶する。

 

「おはよう、白崎さん」

 

 その言葉に香織はとても嬉しそうな表情をする。それによりハジメに向けるクラスメイトたちの目が、より険しくなる。

 

 そう。彼女こそがハジメがイジメられる原因。

 香織はなぜかよくハジメを構うのだ。徹夜のせいで居眠りの多いハジメは不真面目な生徒と思われており、生来の面倒見のよさから香織が気に掛けているとクラスメイトたちから思われている。しかし授業態度は改善される訳もなく、イケメンでもないハジメ。そんな彼が香織と親しくできることが、同じく平凡な男子生徒達には我慢ならないのだ。「なぜ、あいつだけ!」と。女子生徒は単純に、香織に面倒を掛けていることと、なお改善しようとしないことに不快さを感じているようだ。

 

 これこそ、ハジメが彼女のことを最悪と呼ぶ理由か?

 

 いや違う。断じて違う。理由はもっと別のものだ。

 

 そんな最悪な人物が目の前にいることと、クラスメイトたちからの殺気を孕んだ眼光に晒されるという事態になったハジメの精神はどんどんすり減らされていく。このままではマズイとハジメが会話を切り上げるタイミングを図っていると、三人の男女が近寄って来た。

 

「南雲君。おはよう。毎日大変ね」

「香織、また彼の世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどな」

 

 上から順に八重樫雫、天之河光輝、坂上龍太郎。三人共香織と小学校から付き合いがあり、俗に言う幼馴染の関係だ。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

 雫達に挨拶を返し、苦笑いするハジメ。すると周りから、言葉より明瞭な険しい視線がグサグサ刺さる。雫も香織に負けないくらい人気が高い。

 ハジメが放った言葉に対し、思い込みが激しい光輝が的外れなことを言ってくる。言い返したからより面倒な事になることを知っているハジメは、それを笑って受け流そうとする。が、今日も変わらず最悪は無自覚に爆弾を落とす。

 

「? 光輝くん、何言ってるの?私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

 ざわっと教室が騒がしくなる。男子達はギリッと歯を鳴らし、呪い殺さんばかりにハジメを睨む。

 

「え?……ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

 どうやら光輝の中で香織の発言はハジメに気を遣ったと解釈されたようだ。完璧超人なのだが、そのせいか少々自分の正しさを疑わなさ過ぎるという欠点があり、そこが厄介なんだよなぁ~とハジメは現実逃避気味に教室の窓から青空を眺めた。

 そして、この場で最も人間関係や各人の心情を把握している雫が、こっそりハジメに謝罪する。

 

 そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。何事もないように朝の連絡事項を伝える教師は、いつものように寝始めるハジメを無視し、授業を始めた。

 

 そして、ハジメは今日も夢の中で、思い出したくもないあの悪夢のような出来事を再体験する。

 

 体育館倉庫の中で、小学校中学年であるハジメの上に跨る若い女教師。女教師の手がハジメの服の中に入って来るが、怯え何も出来ず、ただ涙を流し震えるハジメ。それに反し女教師は、頬を赤らめ、欲情した目をハジメに向ける。

 そしてハジメの耳元に口を近づけ、

 

『愛してる』

 

 その言葉と同時にハジメは、ハッと夢から覚めた。 

 

 寝ている間に汗をかいたのか、顔から水滴が零れ落ちる。顔色も少し悪い。

 

「………また、あの夢」

 

 先程ハジメが見たあの夢だが、はっきり言ってしまうと、小学校中学年のハジメが女教師にレイプされた、現実に起こった出来事である。

 女教師は本気でハジメに恋し、あの時途中で助けが来なければ、ハジメを誘拐し監禁するほどに愛していた。

 その出来事はまだ幼いハジメに多大な衝撃を与え、それ以来女性全体が恐怖対象となってしまった。今では大丈夫だが、最初の頃は恐怖対象に母親も含まれるほどであった。そして、中学2年生までは家の中で両親の仕事を手伝ったりし、勉強は通信教育を受け、外には出ない生活を送っていた。

 両親の仕事は一時的であるがあのトラウマを忘れさせてくれるため、自分から積極的に手伝っていた。そしてそれは今も変わらず、主な寝不足の原因となってしまっている。

 

 では何故今ハジメは外に出て、学校に通っているのか?

 その理由は、ハジメの両親だ。表面上では明るく気にしない様子を見せているが、トラウマにより外に出ないハジメを心配していた。その事を知ってしまったハジメは、あんな事があったとしても善良な心は変わらず、両親に対し申し訳なさが芽生えてしまった。

 それをきっかけに高校では通信ではなく、普通の学校に行くことを決めた。勿論母親以外の女性を見ても吐かないよう、何度も特訓を行い、結果表面上は普通の高校生へとなり、数回の会話なら出来るようになった。

 そして両親にはこれ以上心配かけないよう、問題を起こさず、物静かな目立たない一生徒で終えようと考えていた。

 

 しかし、そこで誤算が起きてしまったのだ。そう。白崎香織である。

 

 何も接点は無かったはずなのに、入学当初から香織はあの女教師と同じ目をハジメに向けてきた。あの目――ハジメのことが大好きだと言うあの目だ。

 それを見るたびあの恐怖を思い出し、ハジメとって白崎香織と言う人物は、トラウマを実体化させたような最悪な人物となってしまった。

 

 初めて見た時は、あまりの恐怖に特訓の成果が無意味となり、急いでトイレに駆け込み人知れず吐いたほど。

 

 顔色は戻り汗も引いた頃、周りの様子を見るとどうやら昼休憩に入ったようだ。

 ハジメは寝ぼけた頭では直ぐに頭を働かすことは出来ず、少しの間ぼおっとしながらクラスを眺める。

 

 それがいけなかった。いつも通り香織達と関わる前に、すぐに教室を出ていくべきだった。

 

「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当?よかったら一緒にどうかな?」

 

 香織がハジメに話しかけ、再び不穏な空気が教室を満たし始める。そして折角戻ったハジメの顔色は逆戻りしてしまった。

 ハジメは一瞬停止してしまった思考を必死に動かし、どうにかこの状況を切り抜ける方法を考える。

 

「あ〜、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、僕これから購買で買うつもりだから時間がかかると思うよ?白崎さんを待たせるのは申し訳ないから、天之河君達と食べたらどうかな?」

 

 勿論、購買に行くなんて真っ赤な嘘である。

 性別関係なく密集する場所に行くなんて、自分から死に場所に向かうのと同義。それにハジメにとってそれは比喩ではなく、もし女の子と肌が触れ合ってしまえばどうなるのか見当もつかない。そのためバスや電車なども言語道断である。

 

 嘘を言ってしまったことには少し申し訳ないが、誰も傷つくことがなく、相手のことを配慮した理由からやんわりと断ると言う、完璧な解答だとハジメは考えた。

 

 しかし、その程度の理由では無意味とでも言うように、女神(最悪)は追撃をかける。

 

「それなら私のお弁当分けてあげるよ!……実はこれ私の手作りなんだけど、上手に出来たと思うから、南雲君にも是非食べてもらいたいな?」

 

 香織は頬を染め、恥ずかしそうにお弁当をハジメの前に差し出す。

 

(……え?白崎さんのお弁当?それも手作り?…………無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い)

 

 またもや香織はハジメの地雷踏む。

 まだハジメが女教師の異常さに気がついていなかった頃、女教師はよく皆には内緒にと言い、ハジメに手作りお菓子をあげていた。それはとても美味しく、ハジメも喜んで食べていた。

 

 そして後に発覚したのは、なんとその中には女教師の様々な体液が混ぜられていたという事実。

 

 しばらくの間ハジメは何も口に付けることはなく、もう胃液でさえ出ない状況だと言うのに吐き気に襲われ続け、どんどん痩せ細っていった。

 

 そのようなトラウマを呼び起こし、冷静に判断が出来なくなったハジメの頭では、この絶体絶命の状況を切り抜ける言葉を言うのは不可能となってしまった。

 

 しかし、その時救世主が現れた。光輝達だ。

 

「そうだよ香織。こっちで一緒に食べよう。それにせっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

 爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く光輝にキョトンとする香織。少々鈍感というか天然が入っている彼女には、光輝のイケメンスマイルやセリフも効果がないようだ。

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

 

 素で聞き返す香織に思わず雫が「ブフッ」と吹き出した。光輝は困ったように笑いながらあれこれ話しているが、結局、ハジメの席に学校一有名な四人組が集まっている事実に変わりはなく視線の圧力は弱まらない。

 しかし、少なくとも香織と二人っきりの状況を抜け出すことは出来たため、ホッするハジメ。だがそれも一瞬であり、目の前の状況を見ると頭が痛くなる。

 

(もういっそ、こいつら異世界召喚とかされないかな?)

 

 そんな現実逃避にも似た愚痴を内心で考えていると――

 

 凍りついた。

 

 ハジメの目の前、光輝の足元に純白に光り輝く、俗に言う魔法陣らしきものが現れたからである。それは徐々に教室全体を包む輝きが広がり、生徒たちの悲鳴とまだ教室の近くにいた先生の叫び声が響く。

 だが、輝きが爆発し、教室は真っ白に塗り潰される。色が戻った時、そこにいた人間は全て消えていた。

 この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして、大いに世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。

 

 これは、トラウマを抱えた少年が異世界に行き、トラウマを乗り越える物語である。

 




 ハジメの件はニュースになり世間を騒がせましたが、未成年と言うこともあり実名は報道されていません。なのでそんな事件があったなぐらいにしかクラスメイトたちは知りません。
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