私、ジル・バレンタインはレベッカがマービンの処置を施すのを見ながら、彼女が帰還した時のことを振り返っていた。車が戻って来る音が聞こえ、その数分後にレベッカが戻ってきた。その後ろにはレベッカが無線で話していたU.B.C.Sの隊員、カルロスとタイレルが共にS.T.A.R.S.オフィスに入って来た。事前に知らされていたとは言え、やはりあのロゴマークが付いた服を着ている人間には反射的に身構えてしまう。しかし、彼らは挨拶と出会った経緯をレベッカと共に話してくれ、彼らが信用に値する人間だと納得できた。アンブレラのこれまでの事に怒りを示し、街の惨状に心を痛め救うために奔走してくれた。人間的にも彼らは自分達よりの感性を持っている事も、信用できる要素になっていた。ふとジョンが居ないことに気が付きレベッカに尋ねた。レベッカが少し暗い顔をしながら口を開いた。ジョンは病院から警察署に戻る時に現れたネメシスの足止めをするため殿になり、先程その病院の方からきのこ雲が出現するほどの爆発が起こり、ジョンと連絡が取れなくなってしまったと。私はジョンの身を案じつつも、彼は必ず戻ると確信に近い思いを持っていた。彼の目はクリスと同じ様に強い信念を感じさせる力強い光が宿っていた。あの時必ず戻ると約束したのなら彼は必ず戻る。
(ジョン、心配してるけど貴方は必ず戻ると信じているわ。だけど仲間に心配掛けた分はきっちりお説教よ。だから・・・どうか無事で・・・)
私は心の中でジョンの無事を祈りつつ、今後の動きを考えながら再び処置に目を移した。
アメリカのあるアンブレラU.B.C.Sの基地の司令室にその男は居た。2m弱の長身は紺色のトレンチコートに包まれ、顔の右側は切り傷により目が潰れてしまっていた。銀色の頭髪を持ち、コート越しでも男の身体が引き締まっており、熊でも投げ飛ばせそうだった。男はラクーンシティとアンブレラの監視カメラの記録映像を観ながら、ブーメラン状のナイフを出血するほど握りしめながら震える程の興奮を感じていた。記録映像には一体のT-103型タイラントが映っていた。
(素晴らしい!!そしてなんて美しい!!あれこそタイラントの完成形の一つだ!!状況に応じた武器の使用に作戦立案!人語を理解し軽口を飛ばすユーモア!士気が落ちかけていたチームの鼓舞にネメシスの足止めの為の自己犠牲精神!!素晴らしい!あれこそ兵士として求められていたタイラントだ!!)
男は当初、件のT-103型タイラントが暴走し独りでに動いた時は然程興味は湧かなかった。しかし、同志であり古い友人の一人である監視員からある報告が来た。人間のような自我と知能を持ったタイラントがS.T.A.R.S.隊員と行動を共にしている。最初に聞いた時、男はらしくもなく一瞬硬直してしまった。あり得ないことだった。通常は此方側から行動・任務プログラムを入力し、起動シーケンスを行わなければタイラントは指一本動かすことはない筈だ。もし動いているのならばそれは単なる暴走状態にほかならない。しかし、件のタイラントは暴走どころか明らかに自我と理性を持って行動しているではないか!手は一般的なT-103型に比べても小さく、試験型タイラントやこの男がカスタマイズしたタイラントに比べても僅かに小さい。しかし耐久性は通常のT-103型と変わらず、寧ろ通常の人間が使用する銃火器が使用できる分、この特殊個体の方が戦闘能力は高いだろう。そして知能は人間と変わりなく、ある程度の電子機器と乗り物を使用できる程だ。味方にも弾薬配分や能力に応じた任務を振分けるなど、指揮官としても優秀だと分かる。
(彼が欲しい!!間違いなく彼の力はアンブレラのさらなる発展と栄光、何よりもスペンサー卿のお力に必要になる!!テイロスと共に運用すれば間違いなく最強のB.O.W部隊を運用できる!!)
今はネメシスの放ったロケット弾とガス管の爆発でカメラが破壊され、消息不明になってしまったが、生きているだろうという確信があった。己に流れるウイルスの力が、そう囁いている。
(タイラントは私のクローンを素体にしている。いわばタイラントは息子であり兄弟!!彼もまた息子であり兄弟!!私はとても誇らしい!!死んでくれるなよ?)
口元に薄い笑みを浮かべながら、男はその唇をナイフで切り裂き、部下たちに件のタイラントの捜索を指示した。