「暁ちゃん…なの?」
この鎮守府にも暁は在籍していたのか。さてどう答えたものか、この身体は暁だが自意識は私だしな。完全に暁と言われたらそうではない、私は紛い物なのだ。返答に困っていると、夕立の後ろの廊下から誰かの足音が聞こえてきた。
「夕立ちゃん、どうしーッ!」
現れたのは吹雪だった。私の姿を認識するや否や腰から拳銃を取り出しこちらに銃口を向ける、引き金に指をかけずに。
「駆逐艦、暁。貴艦の所属を明らかにしてください、答えられない場合撃ちます。」
ど、どうしよう。所属なんてないし、正直に話しても信じてもらえるか…。いや、ここは正直に言おう。下手に誤魔化して事態が悪化してしまう。
「えっと、所属はないです。昨日気が付いたら海の上だったので…」
「そんな話を信じると思いますか?」
やっぱりそうですよね。この反応からしてこの世界にはドロップ艦はない感じなのか。だとすると艦娘はどのように生まれてるのだろうか。
「待つっぽい、吹雪ちゃん!この子嘘をついてるとは思えないっぽい、もし奴らの罠だったら艤装を置いてないっぽい!」
夕立の言葉で吹雪は私から目を離さず考え込む。静寂が少し流れ、その間私は気が気じゃなかった、いつ撃たれるかわからないから。考えが決まったのか吹雪は拳銃を下ろした。
「…ついてきてください。夕立ちゃん、あの子の艤装を持ってきて」
「わ、わかったっぽい!」
座り込んでいた夕立が立ち上がり、私の艤装のところまで歩いて行った。目線で夕立を追い、ほっと一息をついた。そして吹雪を見て、私は頭を下げる。
「ありがとう、信じてくれて」
「あなたのことは信じてません。あくまで夕立ちゃんの言葉だから信じただけなので」
素っ気ない返答が返ってくる。苦笑いが出るが、正体不明な艦娘が出てきたらそうもなるかと納得できる。気まずい空気が少しの間流れるが夕立が戻ってきて多少和らいだ。
「吹雪ちゃん、この艤装暁ちゃんのもので間違いないっぽい。奴らじゃここまで再現はできないっぽい」
「深海棲艦の仕業って線はなくなったわね」
深海棲艦だと思われてたのか。この鎮守府の状況を見ればそう考えていてもおかしくはないか、どうやって信用を得ようか、早急に信用を得なきゃ私の立場は危うくなる一方だ。
吹雪を先頭についていく、私の後ろには夕立がいて逃げることはできないけど、艤装を置いて逃げることはできないしする理由もない。寮から出て別の場所へと向かっていく、しばらく歩いていると別の建物が見えてくる。
「あれってなんの施設なんですか?」
「工廠っぽい。今みんないると思うっぽい」
「どんな人たちがいるのですか?」
んーとと、悩むような声色で夕立はもごる。言うかどうか迷っているようだ、まあ行けば分かるけど事前に知っておきたかった。
「着きましたよ、さあ入ってください」
吹雪に言われ中に入る、中は様々な機械が置かれて雑多な感じとなっている。奥へと進む途中、小さな人がいっぱい現れた。これは妖精さんだ、一部の妖精さんは私の足元まで近づいてきて不思議そうに顔を傾ける。
『暁なのね、別の場所の子?』
『でもなにか混ざってる感じがするの、嫌な感じじゃないけど』
妖精さんには分かるのか、一瞬で純粋な暁ではないことがバレた。混ざってる発言に吹雪は再び腰の拳銃に手を伸ばすも妖精さんが嫌がってないのを見て手を元に戻した。奥まで行くと誰かが妖精さんに指示をしていた、吹雪が声を掛けこちらに振り返る。その人は髪をまとめ、和服を着ていた。逆光で顔はよく見えないがおそらく鳳翔だと思う。
「戻りました、鳳翔さん。あと怪しいものを連れてきました」
「あら、おかえりなさい、吹雪さん。怪しいものってそこにいる暁のことですか?」
「はい、所属不明、自分は気がついたら海の上にいたと証言しておりますが、どうしましょうか?」
鳳翔さんは私をじっと見てうんと頷く。
「少なくとも敵の工作ではなさそうね、それなら開放してもいいと思うけど」
「許されたっぽい?」
「そうみたい?」
夕立と小声で話していると、鳳翔さんが私のすぐ目の前まで来ていた。そして私の手を握り少し興奮した様子で詰め寄る
「それより、気が付いたら海の上ってどういうことなの?詳しく教えてほしいわ!」
な、なんか鳳翔さんのイメージとは違うみたい。これは好機だ、私の話を話すかわりに情報を集めよう。それにこの世界の艦娘がどのように生まれてるかも気になるし。
「信じてもらえるかわかりませんけど、実は…」
そうして私はすべて話した、別の世界で生きていて気が付いたら海の上で暁として存在していたこと、海を走っていたらこの島を見つけてここにいることを。そんな話を鳳翔さんは表情一つ変えずに聞いていて、吹雪と夕立は驚いた表情をしていた。なるほどねと鳳翔さんは言う、そして夕立は一つ気になったのか頭をひねっていた。
「深海棲艦に見つからずここまでたどり着いたっぽい?」
「そういえばそうですね、運がよかったのかそれとも泳がされたのかはわかりませんが一刻も早くこの島から離れたほうがいいのではないですか?」
「前から気になっていたがどうしてこの鎮守府はこんな状況なんだ?」
その質問に吹雪はこぶしを握り締め答える。
「薄々気づいてるでしょう?一週間前に深海棲艦の襲撃があったからです」
やっぱりそうだったのか。他の子たちはどうしてるの?あの寮の大きさからしてそれなりに在籍していたのでは?
「その時うちの主力艦隊は他の鎮守府との合同作戦があり不在で、残存戦力で抵抗はしましたが…」
「あまりにも唐突であったため、最初の爆撃で大半は死にました、そして爆撃から生き延びた後、防衛するための艦隊戦で私たち4人以外は全員海に沈んでしまいました」
言葉に詰まった吹雪の代わりに鳳翔さんがそう言う。淡々と続けるが鳳翔さんの拳は強く握られていた。
「えっと…ごめんなさい。こんなことを聞いてしまって」
「いえ、そちらが謝ることはないんですよ」
そういってにこやかにしているがかなりきているだろう。しんと静まった工廠のドアが勢いよく開く、その音にびっくりして振り向くと小走りで近づいてくる人物がいた。
「どうしましたか、能代さん。そんなに慌てて」
「大変です!深海棲艦が2隻この鎮守府に近づいてきてます!」
その報告に騒然とする、もしかして私が連れてきてしまったのか?