キヴォトスの亡霊   作:枝那

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こっちの方も気が向いたら更新します。


バリアフリー①

「銀行を襲う」

 

そう物騒な宣言をしたのはアビドス高等学校2年生の砂狼シロコ。

 

ここはブラックマーケット。学園都市キヴォトスにおける無法地帯である。

 

アビドス高等学校は巨額の借金を背負っている。

 

彼女らと敵対する組織がブラックマーケットでしか取引されていない武器を使用していたため、その謎を探るためにここまでやって来たのだ。

 

そして、ちょうど今朝アビドスが利息を支払った銀行員が闇銀行に入るのを目撃した。

 

彼女らの支払った金が犯罪に使われている可能性があり、それを確認する証拠を手に入れるには銀行強盗しかないと彼女は思い至った。

 

他のアビドス生が乗り気で目出し帽を被る中で、トリニティ総合学園の生徒、阿慈谷ヒフミだけは頑なに反対していた。

 

「ぜ、絶対にダメです!こんなところで銀行強盗なんてしたら、『亡霊』に目をつけられちゃいます!特にここはガラ区と隣接していますから、すぐやって来ちゃいますよ!」

 

“『亡霊』?それってムクロのことだよね?”

 

「は、はい。『亡霊』は基本敵意を向けた相手にしか攻撃しませんが、他にもブラックマーケットの治安維持も担っているんです」

 

「…そんなにヤバいの?その『亡霊』って」

 

ムクロのことをよく知らないホシノは疑問を抱く。

 

「ヤバいなんて言葉じゃ済みません!彼は一人でこのブラックマーケットの治安維持を担っているんです!犯罪者は容赦なく叩きのめしますし……ティーパーティーからも、彼とは接触しないよう直々にお触れが出てるくらいなんですよ!」

 

「で、でも、事情を話せば…」

 

「あの『亡霊』が素直に話を聞いてくれるとは思いません……」

 

アビドス生たちは言葉が詰まる。このヒフミの慌てよう。彼女の言う『亡霊』がいかに危険な存在かひしひしと伝わってくる。

 

“…みんな、私は反対だ。生徒に犯罪をさせるわけにはいかないし、ムクロの強さは私も知っている。みんなを危険に晒してしまうことになる”

 

「先生…」

 

いよいよ彼女たちは押し黙る。先生にもここまで強く反対されては、もはや諦めるしかない。だが、

 

「それでも、私たちはやる」

 

”シロコ”

 

「私たちの学校を守るために、私一人でもやる」

 

「シロコちゃん…」

 

シロコは強く宣言する。彼女の顔から覚悟が伝わる。決意は固く、梃子でも動かせないだろう。

 

シャーレの先生は思案する。彼女たちの学校への強い想いはよく知っている。銀行強盗は彼女たちの学校を守るための大きな手掛かりに繋がるだろうということも。だが、相手がいくら悪人とはいえ犯罪をさせるわけにはいかないし、その結果あの最恐と戦う可能性もある。

 

しばらく悩んだ末に、先生は口を開く。

 

”…分かった。やろう、銀行強盗”

 

「ありがとう、先生」”ただし”

 

”銀行のお金には手を出さないこと。人を傷つけないこと。目的の物を手に入れたらすぐ逃げること。これが条件だよ”

 

「わかった。みんなも、それでいい?」

 

「はい☆では、悪い銀行をやっつけましょう!」

 

「うんうん。シロコちゃんが成長しておじさん嬉しいなぁ~」

 

「ああもう、結局こうなるのね!」

 

『私も、陰ながらサポートします!』

 

彼女たちは改めて決意を固める。

 

”ヒフミはどうする?危険だと思うからやる必要はないよ”

 

「…いいえ!皆さんにはご恩がありますから!ここまで来て引き下がれません!」

 

”そっか。ありがとう”

 

「じゃあ、先生。例の号令を」

 

”そうだね。…それじゃあ、覆面水着団、出撃!!”

 

◇◇◇◇◇

 

「ここまで来れば大丈夫かな」

 

闇銀行を襲撃し、追手を躱しながら封鎖地点を突破したアビドス生たち。それまで張り詰めていた緊張の糸が切れ、ほっと一息つく。

 

「シロコちゃん、例の書類は?」

 

「う、うん…バッグの中に」

 

シロコは何故か戸惑いながら、皆にバッグの中身を開いて見せる。

 

「って、なんじゃこりゃ!大量の札束…!?」

 

「ええええっ!?シロコ先輩、お金盗んじゃったの!?」

 

「違う、ちゃんと書類はある。お金は銀行員が勘違いして入れた」

 

「どれどれ…うへ、軽く1億はあるね。5分で1億稼いじゃった」

 

『どうしましょう…返しに行くわけにもいきませんし、かといってこんな場所に置いておくのも…』

 

”とりあえず、一旦ブラックマーケットを抜けよう。安全地帯に入ったとはいえ、まだ追手が……”

 

「…先生?」

 

先生が途中で言葉を止める。彼はまるで幽霊でも見たような表情で一点を見つめている。疑問に思った皆が、先生の視線の先を向く。そこには、学生服を身にまとった白髪の男子生徒…篁ムクロが佇んでいた。

 

”ヤバ……”

 

先生の頬に冷たい汗が流れる。その尋常ではない様子にホシノは視線の先にいる彼を危険な存在だと判断した。もしや、彼がさっき言っていた『亡霊』なのか?彼が誰であろうと、向かってくるのであれば容赦はしない。いつ攻撃されても反撃できるように銃に手をかけたその瞬間だった。

 

「!」

 

まばたきの間。視界を閉じたその刹那の間に、彼は距離を詰めて居合の態勢のまま先生とアビドスたちの間に割り込んだ。

 

鞘から白銀の光がキラリと覗き込む。今まさに抜かれようとしている刀を止めるべく、ホシノは即座に銃口を向け、引き金に指をかける。

 

しかし、

 

「…ッ!!」

 

彼は刀を空に向かって突き立て、ホシノの銃口の向きを逸らした。そして…

 

「ッ、シロコちゃん!先生を!!」

 

「ん!」

 

今最優先で守らなければならないのはこの中で一番肉体が脆いシャーレの先生。シロコに合図を送り、庇ってもらう。他の生徒も、なんとか彼の斬撃から逃れることに成功した。カチン、と音を鳴らして彼は刀を鞘に納める。

 

「ホシノ先ぱ…「来ないでノノミちゃん!」…っ!」

 

「この人…滅茶苦茶ヤバいかも」

 

恐ろしい反射速度。一瞬で距離を詰めた瞬間移動のようなスピード。間違いない。コイツが先生やヒフミの言っていた『亡霊』だ。

 

その確信とは別に、彼女にはもう一つ他に確信がある。

 

(コイツを倒さない限り、みんなが逃げることはできない)

 

この男はここで倒さなければならない。少なくとも、みんなが無事に逃げられる時間稼ぎをすること。それが自分の役割であるとホシノは悟る。

 

脳みそをフル回転させる。彼がどんな手を繰り出してきても対応できるように、髪の毛一本の動きすら見逃さない。

 

バン!!

 

最初に動き出したのはホシノだった。彼女はまず威嚇代わりに弾丸を放った後、建物の壁を伝って立体的に動きながらかく乱し、ムクロの背後に回り込む。

 

彼女が引き金を引くより先に、ムクロは振り向きざまに刀を振るう。だが、その刃が彼女に当たることはなく、桜色の髪の毛が数本、はらりと散るのみだった。

 

空中で体を捻り、彼の顔面に向けて、思いっきり蹴りを放つ。

その渾身の一撃を食らったムクロは遠くに吹き飛ばされる。

 

もう脅威は過ぎ去ったと安心したセリカがホシノに話しかける。

 

「ホシノ先輩!早く逃げるわよ!!」

 

「シッ。まだ終わってない」

 

心臓が早鐘を打つ。ホシノは、彼がこの程度で倒されるとは思ってない。風を切る音が彼女の耳をつんざく。

 

刀を鞘に収めたまま目にも止まらぬ速度で突っ込んで来る。さっきの意趣返しと言わんばかりに今度はホシノの背後をとり、刀を勢い良く引き抜く!

 

後ろに近づかれてようやく彼の存在を捉えることができたホシノは、高く跳ぶことで斬撃を躱す。斬る対象を失った刃は、その延長線上にあるビルを端から端まで削り取る。

 

空中にいるホシノは落下の勢いを利用して彼にかかと落としを食らわせようとする。しかし、

 

「クッ……!」

 

しゃがみこみ、持ち手を替えた鞘によって防がれてしまった。剥き出しになった白刃を、今度は空に向かって振り上げる。

 

「ガハッ………!」

 

足を鞘に置いたままの状態で避けきることができず、モロに食らってしまった。

 

 

「…ッ、ホシノ先ぱ「ダメ」!!」

 

耐えられなくなったセリカが飛び出そうとするが、シロコに阻まれる。

 

「離して、シロコ先輩!」

 

「ダメ、今行ったら無事じゃすまない。それに私たちでは足手まといになる」

 

「でも、ホシノ先輩あんなに追い詰められて…」

 

”気持ちは分かるよ。でも、ホシノは自分じゃなきゃ無理だと判断したからみんなを遠ざけたんだ。その想いを無下にしちゃだめだ”

 

「先生…」

 

『でも、どうすればいいんでしょう。このままではホシノ先輩は負けてしまいます』

 

”そうだね。一瞬でも隙を作ることができれば…”

 

先生は考える。この状況を打開する一手を。今のホシノに必要なのは盤外からの変数。

彼ら自身も予想だにしていない、イレギュラーの存在。




一旦ここで区切らせていただきます。
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